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アンプシミュレーター界のパイオニア、Line 6から登場したアンプ/エフェクト・プロセッサー Pod Express。既存の製品にありそうでないスタンスを取る同製品の魅力はどこにあるのか、ここでは3機種が展開されるPOD Expressシリーズのうち、ノーマル仕様たるPOD Express Guitarを中心に、深堀りして迫ってみましょう。
今現在、エレキギターの機材としてメインストリームの一角を走る「モデリングアンプ」の存在ですが、その第一号を市場に送り出したのは他でもないLine 6でした。同社は1996年、世界初となるデジタルモデリングアンプAxSys 212を発売、2年後の1998年にアンプシミュレーターをメインとした製品として、PODをリリースします。その音質は世界に驚きを与え、”アンプシミュレーターがアンプの代わりとなり得る可能性”を世に問うこととなりました。PODは当時、多数のエフェクトを備えた卓上で使えるアンプシミュレーターとして、ハイエンドと言って良い存在でありながら、比較的リーズナブルな価格であったことから、大ヒットを記録。豆型と呼ばれる特徴的なフォルムを記憶している方も多いでしょう。PODはその後POD 2、XT、X3などバージョンアップを重ね、2015年、Line 6はその純粋な上位機種としてHelixを世に送り出します。
現在、PODはHelixを補完する形で、ミドルグレードモデルとしての立ち位置を築いています。部分的にHelixのエンジンを借り受けつつも、より価格を抑えた使いやすいモデルとしてPOD Goなどがラインナップされており、多くのギタリストに愛され続けています。
POD Expressを手に取ったときに真っ先に感じるのがその小ささと軽さ。92mm(W) x 130mm(D) x 56mm(H)というサイズはBOSSのコンパクトエフェクターと比べても幅が2cm大きいだけであとはほぼ同じサイズ。350gという重量は大抵のコンパクトエフェクターと比べてもむしろ軽い部類に入るほどで、凄まじい小型軽量を成し遂げたマルチエフェクター/マルチプロセッサーであることがわかります。POD Expressはこのサイズゆえに多岐にわたる運用法を考えることができ、その高音質と並んで最大の魅力と強みでしょう。
Line 6上位モデルのマルチプロセッサー「HX Stomp」と比べてさらにコンパクト。
公式の説明書には冒頭に「取扱説明書なんて読むのが面倒だ!」という文言が記されていますが、これは看板倒れではありません。どのように適当に回してもそれなりに使える音がする、という驚きのチューンナップが施されています。ノブを回す以外の操作が無いため、エフェクターをあまり触ったことがない初心者の方にとっては、各エフェクトの特徴などを掴むのに、これほどわかりやすいマルチエフェクターはありません。また、パッチの深層に潜り込む必要があるマルチエフェクターが好きではない中・上級者の方も、この製品ならば無理なく操作できるでしょう。
電池駆動は単三電池3本で対応しています。エフェクターに多い9Vではないのが嬉しいところで、さらに本体に電池残量チェックの機能が備わっています。この機能が付いているマルチエフェクターはPOD Expressだけではないでしょうか。
本体中央の「Altボタン」長押しで電池残量がチェックできるモードに。中央AMPノブ周囲のLEDの表示で電池残量がわかるようになっている。
小型軽量と並んでPOD Expressの最大の長所と言えるのが音質です。上位機種Helixシリーズの遺伝子をそのまま受け継いだアンプサウンドは、単純な音質だけで言えばHelixに引けをとりません。エフェクトは各種類に1種類のみであり、IRキャビネットを読み込むなどといったサウンドデザインの拡張は不可能ですが、内蔵のキャビネットやエフェクトでも十二分に勝負できる素晴らしい音質を持っています。
特にエフェクトはモデリング元の名称を見ても、相当のこだわりを感じさせ、またノブを回すだけで最適な設定が作れるのも、モデルが1種類であるがゆえで、数が少ないことの利点を最大限に活かしているとも言えます。
POD Express Guitarを例に、アンプモデルとエフェクトを見ていきましょう。
アンプタイプ | ベースとなるアンプ |
---|---|
CLEAN | Fender® Princeton Reverb® |
SPECIAL | Line 6 Litigator |
CHIME | Matchless® DC30 (チャンネル1、クリーン) |
DYNAMIC | Ben Adrian Cartographer |
CRUNCH | Friedman BE-100 (BE/HBEチャンネル) |
HEAVY | Line 6 Oblivion |
LEAD | Peavey® 5150® |
“Clean”にはじまり、”Lead”までの全7種類に及ぶアンプモデリングはPOD Express Guitarの要。モデリング元にはそれぞれ名前に見合う銘機が選定されており、”Special”、”Heavy”の2種についてはLine 6オリジナルモデルとなっています。全体としてアメリカン・ブランドのアンプに焦点が当たっており、驚いたことに英国製のMarshallやVOXのアンプモデルがありません。POD Express Guitarは全体的に明るいサウンドを特徴としていますが、ここにその理由の一端があると考えられます。
DISTモデル | |
---|---|
BOOST | Klon® Centaur |
OVERDRIVE | Ibanez® TS808 Tube Screamer® |
DISTORTION | BOSS® DS-1 Distortion (Keeley モディフィケーション) |
FUZZ | ‘73 Electro-Harmonix® Ram’s Head Big Muff Pi |
MODモデル | |
CHORUS | モディファイドArion SCH-Zコーラス |
FLANGER | MXR® 117 Flanger |
PHASER | MXR Phase 90 |
TREMOLO | Fenderオプティカル・トレモロ回路 |
DELAY/Looperモデル | |
ANALOG | AdrianモディフィケーションのBOSS DM-2 |
DIGITAL | Line 6オリジナル |
TAPE | Maestro® Echoplex® EP-3 |
PONG | Line 6オリジナルl (Ping Pongスタイル) |
LOOPER | Line 6オリジナル(1 スイッチルーパー) |
REVERBモデル | |
SPRING | Line 6オリジナル |
HALL | Line 6オリジナル |
PLATE | Line 6オリジナル |
SPACE | Line 6オリジナル |
エフェクトはモジュレーション、ディレイ、リバーブが4種ずつと、王道のものについては十二分にカバーしています。それぞれ1モデルずつしかありませんが、モデリング元などを見ても、相当にこだわって選定したであろうことを感じさせます。特に鮮やかでかつ透明感に優れるモジュレーションと、4種ともに個性を見せるディレイは素晴らしく、かつてDL4でディレイの新機軸を打ち出し、DL4 MkIIで時代をリードするLine 6の面目躍如といったところです。
使える音が揃っている反面、極端なセッティングは苦手で、ぶよぶよのコーラスやアナログディレイの発振など、飛び道具として使おうにも、どのように値を上げても”エグい”掛かりに至りません。このあたりは、つまみをどのように動かしてもそこそこ使える音が得られる、という製品の指向性ゆえの限界でもあります。
モジュレーション、ピンポンディレイについてはステレオで出力した際の広がりが非常に美しく、可能であるならば最大限に活かしたいところ。この際のレートやディレイタイムなどは足元のタップ部とのシンクロか、ミリ秒での設定どちらでも可能です(アプリとの連携が必要)。また、コンパクトサイズの機材でありながら、ディレイセクションにルーパーが付随しているのも見逃せません。
POD Expressはノブを回すだけでエフェクトの掛かりなどをワンタッチ調整できますが、これはゲイン+サチュレーション、デプス+レートなど、複数の項目を同時に変化させることで、最適な設定に素早くたどり着けるようになっているため。
無償エディターPOD Express Editを使ってモバイルデバイス、およびPCと連携することで、これを個別にセッティングできるようになり、ディスプレイ付きのマルチエフェクターに遜色ない柔軟性が確保できます。エフェクトのみならず、アンプ部ではサギングやバイアスなどある種マニアックな項目まで調整可能になり、本体のみでは煩雑なグローバルメニュー設定もグラフィカルに行えます。接続はUSB-Cケーブルを利用して行います。
専用無償アプリ「POD Express Edit」はiPhone/Android対応
セッティングをプリセットとして保存できます。保存は21種類まで可能となっており、通常使用であればほぼ問題のない数でしょう。お気に入りのセッティングを単純に保存しておくほか、うまく運用することで、小規模なライブであれば一台でも対応できます。プリセットモードではフットスイッチを利用し、プリセットを順番に送ることで、音色を切り替えて演奏できます。
「POD Express Edit」PC画面。8〜21がユーザープリセットとなっている。
USB-Cケーブルを利用してオーディオインターフェースとして使用できます。通常のインプットとしての使用はもちろん、DAWソフトからの信号を受けて、それを内部でエフェクトを掛けて送り返す(リアンプ処理)ことがケーブル一本で出来るのは、POD Expressを語るうえで重要となる機能です。このサイズの機材でリアンプをケーブル一本で実現しているものは多くありません。
アプリとの連携で柔軟性が飛躍的に高まるのは前述のとおりですが、Bluetooth機能がないため、モバイルデバイスともケーブル接続となります。昨今、同系統の機材でBluetoothがないものは稀であり、POD Express最大の弱点の一つでしょう。ディスプレイがないのも一般的には不安として捉えられるポイントです。
いずれの欠点もそれだけ本体のみで作れるサウンドに自信があるという現れでもあり、セッティングを大雑把にしか行えないのが、かえって簡便に行えるという意味で従来のアナログ機材を彷彿させ、特徴の一つとして好意的に捉えることもできます。ただし、プリセットはどこに何を保存したか自分で覚えるか書き留める他なく、さらにグローバルメニューは説明書なしでは設定不能です。この2点はディスプレイ排除の限界でしょう。
エフェクターを初めて購入する初心者の層には最大限におすすめできます。7種類の使えるアンプモデル、一種類のみの高品質なエフェクト、わかりやすい掛かり方、簡便なセッティングなど、エフェクターの何たるかを覚えるのにこれほど最適な機材はありません。一般的なマルチエフェクターは機能が多すぎる分、何をどうすれば良いかわからず、初心者ギタリストは結局プリセットを2、3切り替えて使うだけ、という運用になりがち。潔く機能を絞り、簡便なセッティングだけで使える点に特化したPOD Expressにはこのような欠点がありません。価格は初心者の一台目にしてはやや高価ですが、その価値は十分にあります。
卓上に置いて練習やレコーディング機材として使う、といった使用法ではあらゆる層におすすめできます。昨今劇的に増えた、ライブを行わないギタリストという立ち位置であれば、その省スペースの恩恵も享受でき、常時PCと接続することでセッティングもグラフィカルに行えます。本体にヘッドフォン端子があり、外部音源との同時演奏が出来る点も、練習には向いています。
1曲~数曲での演奏が要求されるシーンであれば、プリセットモードを活用することでうまくこなすことができます。POD Expressのプリセットモードは順送り、逆送りで一つずつの読み出ししかできないため(選択+ロード機能もあるがツータッチで操作が煩雑)、柔軟な運用には向きませんが、数曲までであれば、よほどエフェクトを多用しない限りやりくりできるでしょう。あるいはリードギターを別の人に任せ、自分は歌いながらリズムに徹する場合などは10曲規模のライブでも対応できるかもしれません。
お気に入りの歪みエフェクターやプリアンプなどと合わせ、POD Expressを空間系の専用機として使う方法は、ある程度の経験のある方であれば誰しも思いつくでしょう。Line 6が誇る充実した空間系エフェクトをこのコンパクトさで最大限活かせるのは魅力です。空間系エフェクトをメインとした音楽にはさすがに対応しきれませんが、補助として使用するだけであれば十二分にその真価を発揮できるはずです。
POD Expressにはノーマル仕様のExpress Guitar(以下Guitar)、ハイゲインに特化したExpress Black(以下Black)とベース用のExpress Bassが存在します。ここでは同じギター用としてGuitarとBlackとの差を取り上げてみましょう。
アンプタイプ | ベースとなるアンプ |
---|---|
PURE | Paul Reed Smith® Archon® (Clean チャンネル) |
DIRGE | Sunn® Model T (Brite チャンネル) |
CRUX | Orange® Rockerverb 100 MkIII (Dirty チャンネル) |
ANVIL | Line 6 Badonk |
SLAY | Paul Reed Smith Archon (Lead チャンネル) |
MEGA | Diezel® VH4 (Mega チャンネル) |
AVANT | Revv® Generator 120 (Red/High Gain チャンネル) |
POD Express Blackに搭載されるアンプモデル
Blackは暗めで冷たいサウンドのアンプモデリングが並び、その点は明るくカラッと乾いたGuitarとは逆の特性を持っていると言えます。さらにハイゲインであることは言うまでもなく、低域に締まりのあるサウンドのものが多いため、ドロップチューニングや多弦ギターを活かした低音リフを刻んだときに、低域が飽和しないようなサウンドが得やすいのも特記すべき点です。唯一のクリーンサウンドである”PURE”は研ぎ澄まされた切れ味の鋭いクリーンで、これもジャズで使えそうなほどの温かみを感じるGuitarの”Clean”モデルとは一線を画しています。
またディレイ、リバーブを減らし、その部分にBOOSTを入れるなど、エフェクト部にも変更が見られ、より多様な歪みに特化した印象を受けます。歪みを中心としたジャンルであれば、従来のヘヴィメタルから現代のジェント系まで、非常に多彩な用途に活躍するでしょう。
DISTモデル | |
---|---|
OPAMP | Fulltone® OCD |
LED | Earthquaker Devices® Plumes (Mode 1 – LED) |
DIST | Pro Co® RAT(LM308オペアンプ付) |
FUZZ | Electro-Harmonix® ロシアのBig Muff Pi |
BOOSTモデル | |
COMP | Ashly® CLX-52(B. Sheehanと組み合わせて) |
MIDS | Ibanez® TS808 Tube Screamer® |
DIRTY | Xotic® EP Booster |
CLEAN | Earthquaker Devices Life – Boost回路 |
MODモデル | |
CHORUS | Line 6オリジナル (4-Voice Chorus) |
FLANGER | MicMix DynaFlanger |
PHASER | MXR Phase 90 |
TREMOLO | BOSS PN-2 |
DELAY/REVERB/Looperモデル | |
AMBIENCE | Line 6オリジナル |
HALL | Line 6オリジナル |
LOOPER | Line 6オリジナル (1 Switch Looper) |
POD Express Blackに搭載されるエフェクト
Guitarと一見してわかる違いとして歪み系がBOOSTを加え、二種になっていることが挙げられます。これによってDISTセクションと、純粋なブースト用途としてのBOOSTで棲み分けが出来るようになっています。このBlackモデルでのDIST,BOOSTはGuitarモデル以上にクオリティが高く、DISTは単独の歪みエフェクターとして十分に通用するほど。そして、BOOSTセクションのCleanブーストやMidsブーストはかゆいところに手が届く良質な質感を備え、繊細な運用ができるようになっています。
ただ、そのために押しやられたのがディレイとリバーブで、ともにモデルは2種類のみとなり、両者の併用は不可。リバーブに至ってはAmbienceモデルがほとんどアンプの箱鳴りレベルの変化しかせず、実質のリバーブとしての役割を求めるならばHallの一択となってしまっています。
コンパクトなサイズでのマルチエフェクターとしては、ありそうでなかった設計思想を伴って登場したPOD Express。その大きさと簡便な操作性で、上位機種に遜色ない音質を備えた機材は多くなく、初心者の一台目としての導入を始め、使用者の経験やレベルを問わず相当に広い運用法が考えられます。特にコントロール周りはよく考えられた製品という印象で、一台あれば多様なシチュエーションで活躍できるでしょう。
新大阪に教室を設立し10年弱、小学生から70代まで、音楽経験皆無の初心者から歴20年のベテランまで、幅広い層に教える。2015年 著書「ロック・フュージョン アドリブ指南書: マイナー7th上で多彩なフレーズを生み出す方法」、2016年 著書「六弦理論塾〜ギタリストのためのよく分かる音楽理論」上梓。
webサイト「エレキギター博士」を2006年より運営。現役のミュージシャンやバンドマンを中心に、自社検証と専門家の声を取り入れながら、プレイヤーのための情報提供を念頭に日々コンテンツを制作中。
アンプ/エフェクト・プロセッサーPOD Express Guitar、POD Express Bass、POD Express Blackを購入し、応募した方の中から抽選で20名様に、楽器の音色を忠実に再現することを目指したナチュラルな音質と快適な装着感を追求したオープンエア型のヤマハ製ヘッドフォン「HPH-200」をプレゼントするキャンペーンを実施しています。さらに、当選されなかった方の中から抽選で50名様にLine 6 特製トートバッグ(コットン製)をプレゼント。
■対象商品
POD Express Guitar、POD Express Bass、POD Express Black
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2024年11月22日(金)~ 2025年1月15日(水)
■応募方法
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