フェンダー ムスタング(Fender Mustang)

フェンダー ムスタング

「Fender Mustang」は、小さめのボディにショートスケールネック、また独特のビブラート・ユニットを持った「スチューデントモデル(=これからエレキギターを始める人のためのギター)」の一つとして開発されたエレキギターです。しかしサウンドもチューニングも暴れるので、名の通り乗りこなすのが難しい「暴れ馬(=Mustang)」と称され、初心者向けどころかマニアックな魅力のある楽器と見られています。

また「日本人の体型に合っている」と言われ、日本国内での人気が高いギターです。女性が持つと可愛らしい印象になることから、アニメやPVなど映像作品に多く登場しました。

ムスタングの歴史

フェンダージャグスタング(fender jagtang) ジャグスタング

1956年、Musicmaster、Duo Sonicがスチューデントモデルとして発表されます。これに新たな配線と新開発のトレモロユニットを搭載し、1964年にムスタングはデビューします。

1976年、日本ではCharがデビューしてムスタングブームが起こりますが、1970年代はジミ・ヘンドリックスの影響もありストラトキャスターが売れ、ムスタングの人気は押されていき、1982年に一旦生産がストップします。

1986年にフェンダー・ジャパンで復刻され、1990年代のグランジブームを支える事となりました。

ベースバージョンの「ムスタングベース」、ニルバーナのボーカル/ギター、カート・コバーンがムスタングとジャガーを基にデザインしたギター「ジャグスタング」など、派生機種も存在します。

ムスタングの特徴

クルマ好きなレオ・フェンダーによるネーミング

フェンダーのジャガー、ムスタング、ブロンコはそれぞれ自動車のブランド名やモデル名を拝借したネーミングです。ムスタングは「マスタング」が本来の発音で、ムスタングの第一人者Char氏もマスタングと呼んでいます。しかしながら日本では自動車の「フォード・マスタング」と区別するためか、習慣的にムスタングと呼んでいます。Mustangには本来「じゃじゃ馬、暴れ馬」という意味があるので、ぴったりなネーミングだったと言えるでしょう。

専用ピックアップと独自の配線

ムスタングのピックアップ/スライド・スイッチ ピックアップとスライド・スイッチ

ムスタングにマウントされているピックアップは専用に設計されており、ポールピースがピックアップカバーに隠されています。

このふたつのシングルコイルそれぞれを操作する3ポジションのスライドスイッチは、ON/OFF/逆位相のON(=プラスとマイナスの入れ替え)に設定されています。それぞれを単体で使用する分には位相がどちらでも同じ音がしますが、【二つ同時に鳴らす時に片方が逆位相だと低音が薄くなり中域にクセが出て高域が立つ】印象的な「アウトオブ・フェイズサウンド」が得られます。

また二つのピックアップは磁極とコイルの巻き方が逆に作られており、直列でつながれています。両方を同じ位相でONにすると、疑似ハムバッカー的な太いサウンドになります。これはデュオ・ソニックの配線を継承したものですが、ギブソンがハムバッカーを発明する前であり、フェンダーがいかに先進的だったかが判ります。

ジャガー同様の22フレット

ギブソンをはじめとするいろいろなギターで22フレット仕様は当たり前ですが、ストラト、テレキャス、ジャズマスターでは共に21フレットが伝統的な仕様です。現在でもジャパンの伝統的なモデルは21フレットで、USAの現代仕様モデルやアーティストモデルでのみ22フレット仕様が生産されています。

そんな中、ムスタングはジャガーと共に22フレット仕様となっており、ちょっとお得になっています。盗難に遭ったストラトに代わってムスタングを手にした若かりし頃のChar氏は、これに対して「良いものに出会った」という感想を持っています。またナット幅は40〜41mmでフェンダーの他のモデルよりも細く、手が小さいプレイヤーに寄り添ってくれます。

じゃじゃ馬の象徴「ダイナミックトレモロ」

ムスタングのダイナミック・トレモロ

ジャズマスターやジャガーにマウントされていた「フローティングトレモロ」をアレンジした「ダイナミックトレモロ」は、可変域が大きく名前の通りダイナミックなアーミングが可能です。しかしチューニングもダイナミックに狂うので、セッティングやメンテナンス、操作法など使いこなすのには工夫を強いられます。

そういう不完全なトコロがイイ、というプレイヤーにとっては、むしろチャームポイントになっているようです。

ちいさめサイズと、低価格化の工夫

fender-mustang2 引用元:http://www.fender.com/guitars/mustang/

「スチューデントモデル」へのフェンダーの回答は「小さめ」と「低価格化」でした。ムスタングにはオリジナリティだけでなく、価格を下げるためのたくさんの工夫がなされています。
日本人にぴったりのサイズ感と言われる小振りなボディには、アルダーに近いサウンド特性を持つポプラが使用されています。ポプラはギターの材料としてはまだマイナーで、安く仕入れる事ができました。また初期のモデルにはコンター加工がなく、加工における手間と人件費を節約しています。
ピックアップを操作するスライドスイッチも、ピックアップの配線が通るボディの溝に納める事ができるという合理的なアイディアです。ダイナミックトレモロはフローティングトレモロよりもパーツ点数が少なく、また設置の際ボディへの加工が少なく済む設計です。

ムスタングのサウンド

トレブルが立ち、低域は薄い、というのが一般的な印象です。「チープ」とも言われる低域ですが、むしろこれによりベースなど低音楽器と干渉せず、バランスが良い/アンサンブルがしやすいと、長所に捉えることもできます。

ピックアップのパワーがそれほどでもなく、またブリッジの仕様からサスティンが伸びないので、歯切れの良い演奏に向いています。弾けるような高音域を鳴らし、小ぶりなボディーから想像も出来ない暴れまわるようなサウンドは、まさに「じゃじゃ馬」。
オーバードライブで伸びやかに演奏するのには熟練の技が必要です。

ムスタングのラインナップ

フェンダー社の最上位ブランドであるカスタムショップ、アメリカ工場で生産されるUSA、子会社であるスクワイヤ、そして日本のフェンダー・ジャパンから、ムスタングは豊富なラインナップを誇ります。

Fender Custom Shop

guitar Fender Custom Shop Char Signature Mustang:Free Spirits

現在カタログにムスタングはありませんが、Char氏のシグネイチャーモデル「Free Spirit」が200本限定で生産されました。日本の伝統的なカラーリングだと言う「御召茶(おめしちゃ)」がシブいギターです。
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Fender USA

Kurt Cobain Mustang

Kurt Cobain Mustang

ニルヴァーナの故カート・コバーン氏が使用したムスタングを再現したモデル。ボディはアルダーで、リアにはセイモア・ダンカンのJBがマウントされており、かなりパワフルなサウンドを出すことができるモデルです。
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fender-usa-mustang 左から:American Special Mustang Black / Sunburst、Classic Series ’65 Mustang DAKOTA Red / DAPHNE Blue / OLYMPIC White

そのほかアメリカ工場では、「American Special Mustang」、65年モデルを忠実に再現した「Classic Series ’65 Mustang」、ブリッジを固定式にしたりピックアップを変更したりナット幅を42mmにするなど現代的なアレンジを施した様々なムスタングがラインナップされています。
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Fender Japan

MG65シリーズ

Fender Japan MG65

1965年モデルのイメージで、コンターなし、ポプラボディ、ナット幅41mm、ヴォリューム/トーンのポットにCTSを採用、という仕様。MG65/VSPは高級仕様で、ボディトップの塗装がラッカーになっています。
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MG69シリーズ

Fender Japan MG69

1969年モデルのイメージで、コンターあり、バスウッドボディ、ナット幅40mmという仕様です。MG69/MHはマッチングヘッド(=ボディとヘッドが同じカラー)になっています。
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Squire

Squire のムスタング 左から:FSR Vintage Modified MUSTANG、FSR Mustang x3

伝統的な風合いに現代的な機能を組み込んだ「ヴィンテージ・モディファイ」シリーズとして、コンターなしバスウッドボディ、ナット幅42mm、丸みを緩やかにした指板にミディアムジャンボ・フレット、セイモア・ダンカンの設計によるピックアップ、という仕様のムスタングがリリースされています。
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ムスタングの愛用者

Char(竹中尚人、1955-)

「日本で初めてのロックギタリスト」と言われ、ムスタングを世界で最も格好良く演奏する大物プレイヤー。初期の頃からフェンダーのムスタングを使用しており、日本でムスタングを広めた第一人者です。当時アメリカで人気の低かったムスタングに日本からの注文が殺到し、フェンダー社を驚かせました。

しかし彼自身はそれほど機材にこだわっていないようです。ムスタングを手に入れたのは偶然で、憧れて手に入れたストラトキャスターを盗まれてしまい、同じフェンダーを買いなおしたかったが当時は高くて買えず、プレイヤーとして出入りしていた米軍基地のバザーで安くムスタングを見つけたのだそうです。ムスタングはストラトキャスターより弦長の短いショートスケールのため他のフェンダーギターより弾きやすく、代表曲「SMOKY」のマイナー9thのヴォイシングなどはムスタングでなければ思いつかなかったかもしれないと語っています。

新鋭のプレイヤーとセッションをしたり様々なコンセプトでアルバムを発表したりと、還暦を迎えながらも精力的な活動を続けています。

カート・コバーン(Kurt Donald Cobain、1967-1994、NIRVANA)

1990年代のグランジブームを牽引したニルヴァーナのリーダー。若くして自決したのが大変惜しまれる伝説的なミュージシャンでした。
カート・コバーン

その他

  • ノラ・ジョーンズ (Norah Jones)
  • 宮﨑あおい(映画「ソラニン」)
  • 高橋みなみ(AKB48)

小振りで可愛らしさのあるムスタングは、女性に似合う楽器とも目されています。

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  • [最終更新日]2015/01/29