パワーサプライの「アイソレート」って何?

[記事公開日]2024/8/1 [最終更新日]2024/8/23
[ライター]小林健悟 [編集者]神崎聡

アイソレート型パワーサプライ

エフェクトボードを組むのに絶対必要なもの、そのひとつが電源です。現代では特に「アイソレートされたパワーサプライがおすすめ」と言われる事が多くなってきましたが、この「アイソレート」とは何でしょうか。アイソレート型ではないパワーサプライに、存在意義は無いのでしょうか。今回はこの「アイソレート」をキーワードに、エフェクターの電源について考えていきましょう。

小林健悟

ライター
ギター教室「The Guitar Road」 主宰
小林 健悟

名古屋大学法学部政治学科卒業、YAMAHAポピュラーミュージックスクール「PROコース」修了。平成9年からギター講師を始め、現在では7会場に展開、在籍生は百名を超える。エレキギターとアコースティックギターを赤川力(BANANA、冬野ユミ)に、クラシックギターを山口莉奈に師事。児童文学作家、浅川かよ子の孫。

Trial

記事監修
TRIAL / 高早楽器技術 代表
高早 真憲

2004年に自身の工房”高早楽器技術”を設立。2012年に「ミュージシャンが求めている音」と「ビルダーが作りたい形」を突き詰めた機材ブランド”TRIAL”をスタート。エフェクターをリリースする他、フィンガースタイル・プレーヤーが使用するデュアル・ピックアップ・システム「RAPTOR SYSTEM by TRIAL」を開発するなど、エンジニアとして活躍。

エフェクターボードからノイズが!その原因は?

フットスイッチのON/OFFでノイズが出る、ペダルを入れ替えたらノイズが出るなど、エフェクターが原因のノイズに困った事はないでしょうか?その原因は、電源かもしれません。一部のデジタル・エフェクターやペダルチューナーは、電源にノイズを逆流させることがあるのです。このノイズが外に漏れないように伝達経路を遮断するのが、「アイソレート型パワーサプライ」です。

ACアダプター+分岐ケーブル

アイソレートの必要性を確認するため、まずはアイソレートされていない状態、1基のACアダプターに分岐ケーブルをつなげて、4台のエフェクターに給電するシステムを考えてみましょう。4台のエフェクターは電源を共有しており、シールドだけでなく電源ケーブルでも連結されています。このシステムではデジタルエフェクターの電源からノイズが放流された場合、ほかのエフェクターがその影響を受ける可能性があります。

こうすれば、「アイソレート」したことになる。

ACアダプターを1基ずつ手配

次に、エフェクター1台ごとにACアダプターを1基ずつ手配した、「1on1」のシステムを考えてみましょう。ACアダプターはノイズを抑制する回路を内蔵しているため、隣り合うACアダプターはお互いに影響を受けません。電源回路どうしが絶縁されており、アイソレートされていると言えます。これで万事解決、めでたしめでたし、と言いたいところですが、これでOKなのはエフェクターが少ない時だけでしょう。

このままエフェクターを5台、6台と増やしていくと、同じ数だけ増えていくACアダプターがボードを圧迫してしまいます。そこで、アイソレート型パワーサプライの出番となるわけです。

アイソレートすると、音質は良くなるのか?

アイソレートはあくまでノイズ対策の手法なのであって、音質そのものやダイナミックレンジには直接影響しません。アイソレートしているから音質が良い、非アイソレートだから音質が悪い、というわけではないのです。
電源に由来する音質は、適切な電圧や安定した電流、ロスなく伝達させる高い伝導性など、電気的性能の影響を受けます。「音が良くなる」と評されるパワーサプライは、アイソレート、非アイソレートに関わらず、こうした電気的性能の優れた設計が行われています。

エフェクターが増えるなら、アイソレート型パワーサプライがベストか。

アイソレート型パワーサプライ

アイソレート型パワーサプライは、DCアウト端子1基につき電源回路を1個割り当て、電源回路同士が分離/絶縁されます。必要な分だけACアダプターを並べているのと同じ効果が得られ、かつACアダプターよりはコンパクトです。何より、エフェクターを追加する時に「コレ、電源ノイズ出るかな?」などと心配する必要がありません。ノイズの出る出ないにかかわらず、すでにガッチリと予防されているのです。

注意点を挙げるなら、アイソレート型パワーサプライは部品が多くなるため、非アイソレート型と比べてやや大型化する、またアウトプット数が少なくなる傾向にあります。得られるメリットにふさわしい、高めの価格設定になっているところも注意点です。必要なだけACアダプターを並べるのとどっちが安いかは、考えてみる価値があります。

アイソレート型の使用例

strymon + デジタルディレイ + ファズ

ファズペダル & strymon &デジタル・ディレイ
アイソレートが推奨されます。消費電流が大きく電源への影響が大きいデジタル系のエフェクターは、アイソレート型パワーサプライとの組み合わせによって、より安定したベストなシステムとなります。

主なアイソレート型パワーサプライ

今や各社が参入しているアイソレート型パワーサプライですが、著名なモデルをチェックしてだいたいの傾向を掴んでおきましょう。総じて各出力端子ごとに大きめの電流量が設定されており、消費電力の大きなデジタルエフェクターにも問題なく給電できます。

VITAL AUDIO POWER BASE VA-15 AC

POWER BASE VA-15 AC

パワーサプライ大手「VITAL AUDIO」のフラッグシップモデル「VA-15 AC」は、9V固定出力に最大300mAを4基、最大500mAを5基、また9V/12V/18V 可変出力を2基という、合計11基のアイソレートされたDC出力を備え、さらに4基のAC出力も備える、充実の内容が持ち味です。DC出力は合計最大42.3W、AC出力は800Wとゆとりがあり、スタジオならPCやモニタースピーカに、ステージならギターアンプや扇風機まで給電できます。

Vital Audio POWER BASE VA-15 AC – Supernice!エフェクター

VITAL AUDIO POWER CARRIER VA-05 MkII

POWER CARRIER VA-05 MkII

VITAL AUDIO「VA-05 Mk II」は、ベストセラーモデルVA-08 Mk IIをベースに、ポートごとにトランスを配置する容赦ないアイソレート設計を採用、本体のコンパクト化と価格圧縮を果たしたモデルです。スリムな本体に3基の9V(最大300mA)出力ポート、 9V(最大500mA)/12V(最大375mA)/18V(最大250mA)の3段階に切り替えらる2基の可変出力ポートを搭載。同水準のACアダプターを5個揃えるよりもお買い得という、極めて高いコストパフォーマンスを達成しています。

コスパ最強のアイソレート型パワーサプライ Vital Audio POWER CARRIER VA-05 MkII レビュー

strymon Ojai R30

strymon Ojai R30

プロフェッショナル用エレクトロニクス大手ストライモン(strymon)の「Ojai R30」は、5系統の9VDC(最大500mA)のうち2系統に3種類の電圧(9V、12V、18V)を切り替える機能を持たせた、高出力型ののアイソレート型パワーサプライです。それぞれの出力端子には独立した安定化回路とカスタムトランスが備わっていて、超低ノイズの電源出力を提供します。バリエーションとして電圧切替機能を排した「Ojai」もあり、また同じOjaiシリーズを連結して使用することもでき、巨大システムの構築が可能です。

strymon Ojai R30 – Supernice!エフェクター

K.E.S. KIP-001

K.E.S KIP-001

「K.E.S」は、新たな技術と柔軟な発想が注目を集める、楽器の輸入代理店大手キクタニミュージックのオリジナルブランドです。「KIP-001」は専用設計のカスタムトランスを搭載、1基の可変ポートを含む5ポートを備えるアイソレート型パワーサプライです。

注目すべきは電圧の設定で、全ポートで新品の006P電池に近い「9.4v以上」に設定されています。

K.E.S KIP-001 – Supernice!エフェクター

「非アイソレート」のパワーサプライは、どうなのか

非アイソレート型パワーサプライ

こんどはアイソレートされていない、非アイソレート型パワーサプライについても考えていきましょう。こちらは部品点数を抑えられるので小型化軽量化しやすく、また出力端子を多く確保しやすいことが強みです。比較的安価でもあり、手堅く支持されています

ACアダプターに分岐ケーブルを接続するお手軽なスタイル「分岐型」も、非アイソレート型パワーサプライに属します。これに対し筺体から電源供給する従来型のパワーサプライは、最大電流量に余裕があって多くのエフェクターに給電できたり、電源の安定化やノイズ対策の回路が備わっていたりと、分岐型よりも高い基本性能が持ち味です。現在ではアナログエフェクターの接続を想定して、新品の電池に近い9.6Vなど高めの電圧に設定されているモデルも一般化しています。デジタルエフェクターの電源は別系統にしておいて、アナログエフェクターにはこちらのパワーサプライで給電する、というシステム構築にも面白見があるわけです。

FREE THE TONE社のPT-3Dに代表されるように、デジタルエフェクター用にアイソレート電源、アナログエフェクター用に非アイソレート電源を備えるパワーサプライもあります。ボードにデジタルエフェクターが何台入るのか、アイソレート型パワーサプライの検討はこういうところから始めてみてください。

非アイソレート型の使用例

歪みペダル + ファズ + BOSSチューナー

ドライブペダル2基 & ファズ & BOSSチューナー
アナログペダルをメインに組み合わせたボードは、多くの場合、非アイソレート型のパワーサプライでも問題なく使用する事が出来ます(アナログのコーラス・ペダルなども問題なく使用できます)。デジタルエフェクターであってもBOSS製品のように電源ノイズ対策が手厚いものは非アイソレート型でも問題なく動作が可能です。

主な非アイソレート型パワーサプライ

アイソレート型パワーサプライの登場で「じゃない方」呼ばわりされている感のある従来型パワーサプライは、コンパクト化&高電圧化の傾向にあります。万が一デジアナ混在ノイズが出るようならば、原因のエフェクターだけ電源を分けたり、ノイズフィルターをつなげたりすれば解決できます。

One Control Distro Minimal

Distro Minimal

ギター系エレクトロニクス大手ワン・コントロール(One Control)のパワーサプライ「Distro Minimal」は、同社の小型エフェクターと同等の寸法に、8基のセンターマイナスDC9.6V端子と2基のセンターマイナスDC18V端子を備えます。各端子ごとの出力を制限せず、DC9.6V端子は8基の合計が最大800mA、DC18V端子は2基の合計が最大200mAに設定されており、消費電流の多いデジタルエフェクターを含む小さなシステムや、多数のアナログエフェクターを使用するシステムなどフレキシブルな使い方が可能です。

One Control Distro Minimal – Supernice!エフェクター

Providence Provolt9 PV-9

Provolt9 PV-9

プロフェッショナル指向のコンセプトで知られるプロヴィデンス(Providence)のパワーサプライ「Provolt9 PV-9」は、シンプルな外観からは想像もつかない充実した機能が強みです。

6基のDC9V出力端子はそれぞれ最大電流量100mAに設定、ブースターやオーバードライブなどに対しては、新品の電池に近い約9.6Vを供給します(オート・ボルテージ・コントロー ラー機能)。非常にクリーンな電源供給ができる(ダブル・フィルタリング機能)ほか、DC出力のどれかが万が一ショートしても他に影響させず(ショートプロテクション機能)、自動的に復旧できます(オート・リカバリー機能)。アイソレートこそしておりませんが、各DC出力にスターグランド配線を採用し、グラウンドループによるハムノイズの発生を抑えています。

Providence PV-9 Provolt9 – Supernice!エフェクター

CAJ(CUSTOM AUDIO JAPAN)AC/DC Station VI

AC/DC Station VI

CAJ(カスタムオーディオ・ジャパン)は1990年代よりプロ用パワーサプライをリリースしているこの分野における老舗です。「AC/DC Station VI」はその最新モデルで、従来品からさらにコンパクト化し、また供給電圧を常時モニターするデジタルボルテージメーターを搭載しています。8基の出力端子は新品電池に近い約 9.65Vに設定されており、8基合計で最大450mAまで出力できます。

本機の強みは、基本性能の高さにあります。出力端子はアイソレートこそされていませんが、電源回路にはハイエンド・オーディオの世界では今なお主流のリニア方式を採用。近年一般化したスイッチング方式の泣き所であるパルスノイズに悩まされず、安定したクリーンな電源が得られます。

Custom Audio Japan AC/DC Station VI – Supernice!エフェクター


以上、「アイソレート」というキーワードを中心に、エフェクターの電源についていろいろチェックしていきました。いくつもペダルを操作するギタリストにとって、パワーサプライはボードの心臓、電源ケーブルは血管のようなものです。アイソレート型パワーサプライでキッチリと防御するにしても、非アイソレート型で柔軟に対処するにしても、電源にこだわることで、あなたのボードがより強化されることでしょう。

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