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ギターの音をラインで出力する際に欠かせないキャビネット・シミュレーター。アンプ・シミュレーターなどに比べてあまり目立たず、表立って語られることが少ない要素でありながら、最終的な出音に及ぼす影響度は絶大。今回はそんな縁の下の力持ちに迫ってみましょう。
ギターアンプは、音を作り増幅するアンプリファイヤー部と、それを発音するスピーカー部のふたつの機能がセットになっています。エレキギターの発音はアンプ部で増幅の上、スピーカーで出力、というふたつの過程を経る必要があり、さらにそれをオーディオ信号として記録するために、出音をマイクで拾うという最終工程が必要です。
キャビネット・シミュレーターは「スピーカーキャビネットから出力された音をマイクで拾う」という、エレキギターの発音に必要な最後の作業をバーチャルでシミュレートしたものです。アンプで増幅されただけの音は聴くに耐えない代物であり、それはキャビネットから発音した際に初めてエレキギターらしい音色となるのです。そのため、この部分は省略できない重要な要素です。
エレキギターの音色のほとんどはアンプで決まると言われます。アンプの及ぼす割合は7割とも8割とも言われますが、そのアンプの中でもスピーカーキャビネットの及ぼす影響は絶大です。
同じマーシャルのヘッドを4×12の大きなキャビネットにつなぐのと、1×10の小さなスピーカーに繋ぐのではまるで違う音に聞こえます。また、これはマイキングにも同じことが言え、マイクをスピーカーに密着させるのと10cm離すのでは、それだけでも全く違うサウンドになります。
ほとんどのアンプ・シミュレーターやマルチエフェクターにはキャビネット・シミュレーターが搭載されています。前述したように、基本的にアンプモデリング単体では到底ギターの音として聴けるものにならないため、どのような機材であっても必然的に付随することになります。
真っ先に思いつくものがレコーディングでしょう。相応の音量でアンプを鳴らし、マイクを立て、それを別室で聴ける環境。これはスタジオ以外ではなかなかに実現できません。キャビネット・シミュレーターを経由すれば、オーディオインターフェースやMTRにケーブル一本で接続するだけで、まるで本当のキャビネットからマイクで拾ったような音色でのレコーディングが可能になります。
昨今多くなっている手法です。ギターアンプからは音を出さないか、あるいは自分のためのモニター程度の音量だけ出しておき、メインはキャビネット・シミュレーターを経由して直接PAミキサーに送ります。特に大きな会場ほど効果的で、マイキングの手間やハウリングなどとも無縁です。作り込んだ音色をほぼそのまま再現できるところも魅力です。
ある空間においてインパルス音(パチっと一度だけ鳴ったような音)に対する響きをデータとして収録したもので、コンボリューションと呼ばれる演算を行うことで、その空間の響きが再現可能となります。これをインパルスレスポンス(Impluse Response)と呼称し、一般的に”IR”と略されます。
主にリバーブエフェクトに使用され、これを使ったリバーブは特に「コンボリューションリバーブ」「IRリバーブ」と呼ばれることがあります。エレキギターではキャビネットを通した際の空間的な共鳴をIRから再現することができ、そのリアルさから現在ではキャビネットシミュレーションについては、ほとんどがIR使用によるものとなっています。
有名なキャビネットを高品質なマイクで集音したIRデータは、様々なブランドが独自に販売しています。有名どころではスピーカーメーカーのCelestionが自社製品のIRを販売しており、マルチエフェクターなどに付属するIRデータに比べて極めて高い品質を備えているため、人気を誇ります。
有料のIRデータは手っ取り早く音を良くする手段ですが、狙った音が得られるかは試してみるまでわからないため、はじめは複数のキャビネットがセットになったものなどを探すとよいでしょう。
また有料のIRファイルは収録マイクごとに膨大な数のファイルがセットになっていることが多く、一つ一つを試すのには大変な時間と労力が必要で「何を使えばいいかわからない」となりがちです。ちなみに、Two notesのDynIRはこの点を克服した存在と公式に謳われています(後述)。
Two notes Torpedo C.A.B. M+
前述の通り、キャビネット・シミュレーターはわざわざ用意せずとも、様々な機材に内臓されています。そのため、通常その機能だけをもつ機材を単体で用意する必要はなさそうに感じます。では単体機の魅力はどこにあるのでしょうか。
アンプシミュレーター系製品におけるキャビネット・シミュレーターはあくまで”いち機能”であり、おまけの扱いであることがほとんど。対して単体機はそれを専用としているため、大抵の場合、音質で遥かに上回ります。アンプシミュレーターのキャビネット部をオフにして外部の専用機につなぐとサウンドが激変した、といったケースは往々にしてよくある話。それもキャビネット・シミュレーター部分の音質の差によるものです。
キャビネット・シミュレーター専用機はセッティングがかなり柔軟に行なえます。まずほとんどの機種に内蔵されるのがEQ。そしてパワーアンプの飽和感、箱鳴り感がシミュレートできるパワーアンプ・シミュレーション機能、さらにプリアンプやリバーブが内蔵されているモデルもあり、このような機種では音の出口部分としての作り込みが非常に細やかに行えます。
キャビネット・シミュレーターには大きく分けて、バーチャルにマイクをセッティングするもの、そしてIRデータをそのまま使うものの2タイプがありますが、前者では多いもので20~30のキャビネット、多数のマイクを収録しており、マイクの位置調整、複数マイクのブレンドなどを自由に試したりすることもできます。後者はそこまで自在な調整はできませんが、細やかなEQやパワーアンプの設定などで最終的な仕上げを緻密に追い込むことができます。前者のタイプであっても外部のIRファイルは読み込むことができ、ファイルを複数ミックスできるような機種も多く存在します。
その反面、一部のギタープロセッサーでできるようなダブルアンプ、ダブルキャビネットのような使い方には対応しません。あくまで一つのキャビネットやIRデータを軸としてサウンドを作り込むスタイルになります。
古くはKoch “Pedaltone”、Hughes & Kettner “Tubeman”など、ペダルタイプのプリアンプは歴史的にも多くのモデルが生み出されており、現在でも多数の製品が市場に出回っています。
これらのプリアンプはアンプ部がメインであり、内臓のキャビネットシミュレーターはあくまで補助機能の扱いです。上質なキャビネット・シミュレーター単体機に繋げば、その音質の良さに改めて気づくことができるでしょう。
昨今のコンパクト・エフェクターは非常にクオリティが高いものが多く、ギタリストによってはアンプではなく、エフェクターをメインに音作りしているケースも珍しくありません。
プリアンプ機能を持たない普通のコンパクト・エフェクターでも、キャビネット・シミュレーターを使うことでギターアンプで鳴らしたような自然な音でライン出力できるようになります。プリアンプ機能やパワーアンプシミュレーションが内蔵されていたりする機種だとさらに深く作り込むことができ、エフェクターひとつで作った音とは思えないほどの質感を得ることもできます。
昨今、家で練習できる小型の真空管アンプヘッドや、有名なアンプの小型バージョンなどが多くリリースされています。このようなアンプにはそのまま録音に使用できるようにラインアウトやヘッドフォンアウトなどが搭載されていることが多く、この部分からキャビネット・シミュレーターに送り込むことで、実機アンプの生々しさをそのままにハイクオリティなサウンドをラインレベルの信号として取り出すことができます。
録音のほか練習にも有用で、優れたモニタースピーカーを併用することで、キャビネットから出す以上の音質が得られることも。アンプにラインアウトがない機種はダミーロード、ロードボックスを併用する必要があります。
アコースティックギターのブリッジサドル下に仕込むピエゾピックアップは、大抵の場合不自然な音になりやすいものです。IRデータはその不自然な音色をマイクで拾ったような自然な音色に変えることもできます。
このようなIRデータはアコースティック用として販売もされており入手も容易。これをキャビネット・シミュレーターに入れておくことで、アコースティックギター用のDIとして機能します。TC Electronicの製品(後述)については、そのためのIRがはじめから内蔵されています。
キャビネット・シミュレーターは国内に流通していない製品も多く、アンプメーカーenglやドイツのギタリストThomas Blug氏の手掛けたBluguitarの製品など、世界的にはより多くの製品を目にすることができます。それだけ今ホットで注目に値する製品ということの裏返しでもあり、現在ではライブでの使い方なども含め随分と様変わりしてきています。
今まであまり深く考えてこなかった方も、色々な使い方を模索しつつ音作りのひとつの要素として改めて考えてみてはいかがでしょうか。
キャビシミュの売れ筋を…
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