《KarDiaN訪問取材》かつてない新しいアイディアを提案する、ハンドメイド・エフェクターブランド

[記事公開日]2023/9/4 [最終更新日]2023/9/21
[ライター]小林健悟 [編集者]神崎聡

「月産数百台」という工場の様子

6年目の現在では、多数のスタッフと一緒に作業をしている。

北田:ここは手作業を主とする工場で、ハンダ付けをしたり筐体にドリルで穴をあけたりと、いろいろな作業をしています。このほかワイヤーを指定した寸法に一万本切ったり抵抗の端子を何百と曲げたりするのには専用のマシンを使いますし、削り出しが必要な部品は外注するなど、いろいろ使い分けています。

「titania V2」のナットを締める作業をしているところ。

キレイなハンダ付けが確認できる、CBFの背面。

北田:スタッフの4人の手作業で、月産300~400台ほどです。検品は私の仕事ですが、月に何百とありますから検品専門のスタッフが欲しいと思うこともあります。9月にはスタッフも6人に増え、いよいよ手狭になってきたので、倉庫もかねて工場を買う予定です。

北田:毎日のように、どこかから荷物が届きます。部品は海外から取り寄せることが多いので、為替の動向を観察して安い時にまとめて1万個、みたいに大量に仕入れるようにしています。必ず使うものですし今は値段が上がる一方なので、ちょっと高いなと感じても仕入れることはあります。

工場の奥が、KarDiaNを統べる「社長室」

工場の奥が北田さんの作業場、いわゆる「社長室」。PCでの作業や試作など、ご自身の業務はここで行われる。

北田:「ゼロイチ(まだ世の中にない、新しい物や価値を生み出すこと)」が私の仕事です。ゼロイチができる人は私の下で働いてもらうより、外注先になってもらったりコラボしたりと、対等の付き合いがしたいですね。ゼロから回路設計できたり、デジタル領域で無敵のスキルを持っていたりというスーパーな人材ならば、独立して成功できるはずです。

私自身は製品企画から回路設計、ポイント・トゥー・ポイントからエッチングなど、エフェクターを作るための仕事は全部できます。師匠についたわけではなく、全て独学です。開発では二次元的な回路図を作成してから、CADで三次元的にもチェックします。デザインもやるので、Adobe「Illustrator」も使いますよ。CADやイラレは必要に迫られて、必死で覚えました。やらなくてもどうにかなったかもしれませんが、私の場合はやったことで現在があります。

PCはマルチ画面。中央でメインの作業をしつつ、サイドモニターにタスク表やカレンダーを常時表示している。

北田:私自身の休日は特になく、ずっと仕事しています。今は仕事をしている時が、ゲームをプレイしている時のように楽しく感じます。締め切りや納期に追われると生きているのを実感するし、開発した製品が認められる喜びもいただいています。二重三重に波及する感じが好きでいろいろなコラボを温めていて、またデジタルに手を出したいとも考えていて、やりたいことがたくさんあるんです。しかし、自分で何でもやるには時間が足りません。逆にふらっと食べに行くなど、休みたい時に休んでもいます。

試作用に待機しているパーツ類は、とにかく種類が多い。

北田:ここで試作も行います。可変抵抗は300kのAカーブなど、珍しいものも揃えています。こういうものを集めるのも好きです。

社長専用PCの脇に鎮座するのは、液晶付きボタンにいろいろな操作を割り当てられるElgato「Stream Deck」。例えばECサイトのボタンを押すと、あらかじめ設定した検索結果がすぐさま表示されるようになっている。

北田:研究資料の調達には、見つけ出す努力も必要です。各種ECサイトには常に張り付いていて、仕事中にもチェックします。今も欲しいものはあるんですが、探しても待ってもなかなか出てきません。

エフェクター専門工場として、製造委託も引き受ける。

楽器店の企画でidea sound productとコラボした「POLYTORTiON」では、本体の意匠デザインも担当。トップパネルは透明なアクリル板に対して表側にレーザー、裏側にUVプリントで二重のデザインを入れ、立体感を演出している。

北田:弊社は、エフェクター生産の最初から最後までが完了できる工場でもあります。いろいろなものが作れるノウハウと月産数百という生産体制を活かして、Limetone Audioさんの一部OEMやAltero Custom GuitarsさんらのODMを受託しています。コンセプトや設計などは基本的にすべてお任せしていて、こちらはいかにして効率的に生産するかを考えるポジションです。製造のどこまでを担当するかはフレキシブルで、梱包まで全てやる事もあれば完成品を送るだけの場合も、最終セットアップのみという場合もあります。

※OEMとODM:いずれも他ブランド製品を製造する委託生産。OEMは製造のみで、開発や設計はしない。製品開発を含む受託生産がODMと呼ばれる。

北田:OEMのほかに、エフェクターの企画や開発をコンサルすることもあります。弊社はあくまで工場のスタンスであり、コンサルは受注のためのツールとして行なっています。製造を受注する代わりに、コンサルタント料は頂いておりません。これまでコンサルした中には、KarDiaNより売れているブランドもあります。

優秀なスタッフを育て、共に成長する。

北田:前職ではアプリ制作、企画や営業、リーダー職などを通して、部下との付き合い方を学びました。その経験もあってスタッフに対しては、こっちも人間だしあなたも人間だから間違うこともあるけど、改善を重ねることでお互い成長できる、と思って接しています。これまでスタッフとは、いろんな問題や衝突を一緒に乗り越えてきました。しかしこれは、エフェクターを作るより遥かに難しいと感じています。

スタッフはもともと未経験者でしたが、技術的にも人間的にも成長を重ねていて、今では全幅の信頼を置いています。こちらはしっかり育てたんだから好きに辞めても良いと思っていて、その上で弊社を選んでもらえるように頑張っています。スタッフは他所に行ける力と自由を持ちながら弊社を選んでくれて、しっかり働いてくれています。

スタッフの業務は加工や組み込み、梱包など目と手を使う仕事です。その一方で音楽を聴くなど耳は好きにしてもらっていて、飲み物や間食も自由です。時間勤務で残業は無く、会社は栄養バランスの良い社食を提供し、衣食住においても不便ないようにしています。

エフェクターメーカーには、それぞれのスタイルがある。

次の工程を待つ基盤。「titania V2」だろうか。

北田:良い製品を作るのは前提で、エフェクターメーカーはどこも持ち味や強みを持っています。ギターテックなどミュージシャン相手の延長で立ち上げたメーカーはアクセスの良い東京に拠点を構え、現場主義の製品を得意としています。輸入代理店からスタートしたメーカーは、地価を抑えられる地方に拠点があり、倉庫を兼ねる大型の社屋を構えています。

これらに対して弊社は、個人工房と大企業の中間くらいの規模で運営しています。弊社は自社製品の製造だけでなく製造委託を受けるしコンサルもやっていますが、同じことをしているメーカーは今のところありません。

電源の基板と組み合わせた状態。

北田:国内にもPCなど電子機器の量産ができる工場は多いんですが、音楽のための量産ができる工場はなかなかないと思っています。音へのこだわりからハンダを使い分けたり、熱を当てる量を指定したり、こうした注文にも応じなければなりません。細かい手作業が多いし、思惑通りの音がちゃんと鳴るかどうかという検品ができる人もなかなかいないと思います。

小規模のエフェクターブランドが、実はそもそも少ないですよね。やってみて初めて知ったんですが、レッドオーシャンにしか見えなかったエフェクター市場の、KarDiaNはブルーオーシャンを泳いでいる感じです。エフェクターのフィールドには、ビジネスチャンスがたくさん埋まっているんです。


以上、後編では工場の様子から仕事内容、ビジネス論などをKarDiaN代表の北田さんに語っていただきました。取材を通して、北田さんの「エフェクターが好き」という気持ちが伝わってきましたし、幅広い専門分野のそれぞれ深いところまで踏み込みながら、楽しそうにしている姿が印象的でした。ぜひ実際にチェックして、KarDiaNの楽しさを味わってみてください。

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