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現在では歪みエフェクターというと、オーバードライブ、ディストーションが主流です。しかし、初めて開発された歪みエフェクターはファズでした。回路が弾け飛んだようなチリチリしたサウンドには他の歪み系では得られない独特の魅力があり、その強烈な個性こそファズの真骨頂。
60年代の発売より一時期は人気を落としながらも、90年代以降はディストーションに並ぶ、定番の地位に再び返り咲きました。この記事では、これからファズペダルを探す旅に出る初心者からファズの沼にはまって抜け出せない経験者まで、そんなファズの魅力を余す所なくお伝えします。
新大阪に教室を設立し10年弱、小学生から70代まで、音楽経験皆無の初心者から歴20年のベテランまで、幅広い層に教える。2015年 著書「ロック・フュージョン アドリブ指南書: マイナー7th上で多彩なフレーズを生み出す方法」、2016年 著書「六弦理論塾〜ギタリストのためのよく分かる音楽理論」上梓。
webサイト「エレキギター博士」を2006年より運営。現役のミュージシャンやバンドマンを中心に、自社検証と専門家の声を取り入れながら、プレイヤーのための情報提供を念頭に日々コンテンツを制作中。
ファズエフェクターのほとんどが2つもしくは3つのツマミ構成の非常にシンプルなものですが、その奥深さはツマミ構成に比になりません。ファズの歪みとは何なのか、見ていきましょう。
ファズがギターサウンドにもたらす最も顕著な特徴は、音の歪み具合です。その歪み方は原始的と言えるもので、ジューシーというよりはジャリジャリとした硬質な質感を伴います。通常の歪みペダルやオーバードライブとは異なり、ファズは完全に音を変形させ、まるで音が崩れたかのような感覚を与えます。
それによるリフの表現は60年代の初期ロックをはじめ、のちの90年代に登場するグランジやシューゲイザーに至るまで、非常に個性的なものとして現れました。これは一般的なオーバードライブやディストーションではなかなか得られない、独特な音だからこそ生まれたもの。このサウンドはエフェクター内の回路設計に起因しており、そのユニークなトーンにはまさに唯一無二の魅力があります。
また、圧倒的なサステインや、初期のヴィンテージファズに見られるボリュームとの追従性の高さによって、一般的なファズのイメージとは少し違った繊細な変化や、音色の多様性が得られることも魅力の一つ。ジミ・ヘンドリックスはストラトとファズだけで、非常に繊細かつ多様な音色をコントロールしており、そのバリエーションの広さ、懐の深さを感じ取ることができます。
ファズがいつまでもマニアの中で魅力を放つのは、このような個性によって、それでしか得られない表現があるからでしょう。通常のオーバードライブなどに比べ、それでしか成立しない音楽がある、というのがファズの何よりの立ち位置の凄みであり、圧倒的個性の証明ともなっています。
ファズを使用したギタリストでもっとも有名なのはジミ・ヘンドリックスでしょう。Fuzz Faceを繋いでギターのボリュームやトーンを駆使して七色のサウンドを出している姿からは、ファズの底力を感じずにはいられません。Big Muffも始めの一台はジミが購入したという話があり、ロジャー・メイヤーはジミの発想を形にするためにともに歩みました。
強い歪みを得るためのAxis Fuzz、歪み+オクターブという発想から有機的なサウンドを創出するOctaviaなど、このコンビからは銘機がいくつも生み出されています。
The Jimi Hendrix Experience – Voodoo Child (Slight Return) (Live In Maui, 1970)
1970年のライブ映像。VOXのワウペダルの隣にグレーのFuzz Faceが確認できます。
波形がいびつに切り取られたようになるファズは、その破壊的なサウンドがディストーションやオーバードライブとはかなり違います。ある程度音の芯を残すディストーションに比べると、ファズは芯の部分まで歪んだような音になり、場合によってはチリチリした成分が発生、発振を伴ったり、強弱を伴わないシンセのような音になることもあります。
サステインも非常に長くなり、音が非常に長く伸びるようになります。まだあまり歪むアンプが存在しなかった60年代において、この変化は劇的な印象を残したことでしょう。Big MuffのコントロールにSustainが存在するのは、この効果を表したものの名残で、実際にはただのゲイン調整なのです。
1960年代、まだ黎明期であったロックにおいてこの変化は大いに受け入れられ、これを利用したギターサウンドは今でも当時のヒット曲の中に聴くことができます。またFuzz Faceを代表とする、「繊細なファズ」では、チリチリ、ザクザクとしたファズっぽい音色から、オーバードライブ的な軽い歪みまで、ギターのボリューム一つで多彩な音色に変化します。そのサウンドは、アンプの歪みがまだ未発達だったこの時代の音楽でこそ最大限に味わえるものです。
構造的に見ると、ファズは非常に簡単な回路をしています。ファズの元祖とも呼べる存在の、初期のFuzz FaceやTone Benderでは歪みを得るためにゲルマニウム・トランジスタが使われ、その後モデルチェンジを経るごとに、ほぼすべてのモデルでシリコン・トランジスタに置き変わりましたが、どちらにせよトランジスタが使われていたことに変わりありません。このように、ファズエフェクターでは波形を歪ませるクリッピングにほとんどの場合でトランジスタが使用されており、その部品こそが、ディストーションなどの他のエフェクターとの最大の違いです。
オーバードライブやディストーションでは歪みを得るためにダイオードやオペアンプが使われます。ダイオードやオペアンプではより滑らかかつ自然な歪みが得られ、毛羽立った歪みのトランジスタとは少し毛色が違います。また、特にオーバードライブでは何段かに分けたクリッピング回路を持つものも多く、ファズとは比べ物にならない複雑さを持ち、繊細でクリーミーな歪みを生み出すために工夫を凝らして設計されています。この回路設計の複雑さも一つの要素として無視できません。
ちなみにファズにおいてもダイオードが併用されている例はあり、69年に発売されたBig Muff Piではトランジスタに加えてダイオードがクリッピングのために併用されています。
タイプ | 主要な回路部品 | 歪み発生方法 | 典型的な回路傾向 | 代表的な機種例 |
---|---|---|---|---|
ファズ (Fuzz) |
トランジスタ主体。 オペアンプやダイオードは基本未使用。 |
トランジスタの飽和によりクリッピング。 部品自体が歪みを生む。 |
2~3段のトランジスタ増幅。 入力インピーダンスが低くギター側で歪み量を調整可能。 |
Fuzz Face Tone Bender Big Muff Pi Maestro FZ-1 |
オーバードライブ (Overdrive) |
オペアンプ主体。 クリッピングにダイオードを使用。 バッファにトランジスタ。 |
オペアンプで増幅し、フィードバック回路内のダイオードでソフトクリップ。 | 1段のオペアンプ+クリッピングダイオード。 入出力にトランジスタバッファ。 |
Ibanez Tube Screamer(TS-9) BOSS OD-1 BOSS SD-1 Klon Centaur |
ディストーション (Distortion) |
オペアンプ主体。 高ゲイン目的でトランジスタも併用。 ダイオードでハードクリップ。 |
多段増幅後、出力段でダイオードが信号を強制クリッピング(ハードクリップ)。 | 2段以上の増幅+ハードクリップ。 強い歪みとコンプレッション感。 トーン調整回路付き。 |
BOSS DS-1 ProCo RAT MXR Distortion+ BOSS MT-2 |
ファズ/オーバードライブ/ディストーション:部品構成による違い
ファズペダルの先駆けはギブソン社がMaestro(マエストロ)というブランドで発売した「FZ-1 Fuzz-Tone」とされています。50年代にはアンプのオーバードライブによる歪んだサウンドがクールである、といった認識がすでにあり、それに近づけるために開発されたもので、時期的にも最初期のエフェクターと言ってよい存在でしょう。有名なローリングストーンズの「Satisfaction」は、1965年にこのFuzz-Toneを使ってレコーディングされています。Fuzz-ToneはそれこそSatisfactionのオリジナルテイクを聴いても分かる通り、低音がこそげ落ちたようになるのが特徴で、これはこの最初期のファズの色合いだったと言えます。
そして、その後10年としないうちに様々なメーカーからファズペダルが生み出されました。ジミ・ヘンドリックスによって利用された、Mosrite FuzzRITE、Roger Mayer AxisFuzz、そして有名なArviter Fuzz Face、ポール・マッカートニーも使ったVOXのTone Bender,そしてBig Muff Pi…、まさにファズペダルの百花繚乱時代に入っていきます。この時代に生まれたファズペダルは、Fuzz-Toneに比べるとレンジもゲイン幅も劇的に広がりました。これらは未だに現在のシーンの主流をなしており、いかにバリエーションに富んだ優れたものが多かったのかがわかります。
ところが、70年代から80年代に掛けてはアンプの大音量化や、アンプそのものから良質な歪みが得られるようになったこと、ノイジーなギターが好まれなくなったことから、ファズペダルは人気を落とし、ディストーションやオーバードライブに取って代わられます。
そんなファズが再度脚光を浴びるきっかけとなったのが、90年代に到来したグランジブーム。”ノイジー”なサウンドをギターでかき鳴らすバンドが多数登場したことから、ファズは再びメインストリームに躍り出ることになります。時期を同じくしてZ.VexからFuzz Factoryが発売され、それまでに類を見なかったノイズを含む攻撃的なサウンドは大いに人気を博し、ファズは発振音までも音楽として昇華されるという稀有の機材となりました。
ニルヴァーナにも影響を与えたMudhoney初期の楽曲。Big Muffの破壊的なエネルギーが堪能できます。
90年代に一斉を風靡したグランジやシューゲイザー、ガレージロックなどは、よりファズの持つ破壊的なサウンドに焦点が当たりました。ニルヴァーナのカート・コバーンはファズをあまり使っていませんでしたが、そのニルヴァーナに影響を与えたマッドハニーは「Superfuzz Bigmuff plus Early Singles」というその名もズバリな企画盤を出しており、同時期に登場したダイナソーJrなど、ファズの使用を明確に感じさせるバンドが多く登場しました。
また、My Bloody Valentineに代表されるシューゲイザーでは、ファズのチリチリしたサウンドと空間系エフェクトの組み合わせで、ノイジーでありながらアンビエントでもあるという、それまでになかった新たなギターサウンドが創出されました。ファズを使ったサウンドが新たなジャンルの音楽の原動力となり、ファズ自体も再び脚光を浴びたのです。
シューゲイザーの旗手、my bloody valentineのケヴィン・シールズもファズエフェクターの巧みな使い手です。2013年のライブではBig Muff PiやTone Bender Mk3などがボードから確認できますが、代表作「Loveless」ではTone Bender Mk3と並び、Axis Fuzzが全面的に使用されました。Axis Fuzzで得たサウンドをさらにOctaviaに流し込むといった音作りがされたという言及もあります。
Tone Bender、Fuzz Face、Big Muffを指して三大ファズと呼ばれることがあり、この3機種は後世への影響が特に強く、今でもファズを語る際に〇〇系といった風なカテゴリ分けとして使われています。オクターブファズの第一人者としてのOctavia、そして90年代に登場したFuzz Factoryも定番の仲間入りをしており、現在一言でファズと言った際には、おおむねこの中のいずれかが元になっています。
機種名 | サウンドの特徴 | トランジスタの種類 |
---|---|---|
Jim Dunlop Fuzz Face | ソフトでウォーム、丸みのあるトーン。 ギターのボリュームで歪みが変化しやすく、クリーンにも近づける。 サステインは中程度。 |
ゲルマニウム(NKT275など)またはシリコン(BC108など) |
Electro-Harmonix Big Muff Pi | 重厚でサチュレートしたサウンド。 長いサステインとミッドスクープによる抜けの良さ。 コンプレッション感が強い。 |
シリコン(2N5088などを4石) |
VOX Tone Bender | Fuzz Faceよりも歪みが深く、攻撃的。 長いサステインとパワフルなファズトーン。 ボリューム操作で歪み量の調整も可能。 |
ゲルマニウム(OC75, OC81Dなど) |
Roger Mayer Octavia | 1オクターブ上の倍音を付加。 鋭く唸るようなファズトーンで、ジミ・ヘンドリックスの代表的なサウンド。 中域がやや不安定で不協和音的な要素も。 |
ゲルマニウム(初期) |
Z.Vex Fuzz Factory | 設定次第でベルクロ系ファズ、発振、ゲート、オクターブ的効果など多彩。 非常にモダンかつ過激で実験的なファズ。 |
ゲルマニウム(選別品) |
2000年代を代表するガレージロックバンドThe White Stripesのギタリスト、ボーカルであるジャック・ホワイトはBig Muffの使用者として有名です。Big Muffのはち切れそうなサウンドにオクターバーを掛けた太いサウンドはたった二人でライブを行うWhite Stripesの根幹を握る要素です。
昨今発売されている多くのファズペダルは、まるでアナログシンセのように、強弱が一切なくなるほどの変化を及ぼすものもあれば、ボリュームとの追従によってクリーンからディストーションまで自在に制御できるようなものまで、幅広いサウンドのものがラインナップに存在します。
ファズに使われるトランジスタにはシリコン製とゲルマニウム製のものがあります。ごく初期のファズにはゲルマニウムが使われており(当時の主流の部品だった)、さらに現在では希少になっているのもあり、ゲルマニウムの方が良いと言われることもありますが、実際には個性の差であり、自分のスタイルに合ったほうを選ぶのが良いでしょう。
ゲルマニウム | 音に温かみがある 低域が少しルーズ シリコンより歪みの増加によく耐える ギターのボリュームを絞った際にはオーガニックな響き |
---|---|
シリコン | 音はやや冷たくアタックが強め 低域はタイト、コンプレッションが強い ゲインを上げると飽和しやすい ギターのボリュームを絞った際にはブライトな響き |
初めてのファズ・エフェクター
ゲルマニウム・トランジスタを採用した「Z.VEX FUZZ FACTORY」
コンパクト化が進む現代と比べて、ヴィンテージ・ファズやこだわりのファズなどは現代のものでも大型のものが多い
ヴィンテージファズが生み出された60年代、エフェクターもあまりメジャーなものではなく、非常に大型のものが当たり前でした。復刻版は当時の筐体のまま販売されていることがあり、このようなものは通常のコンパクトエフェクター数個分に相当するほどのサイズとなっているため、ボードのスペースなどを考えて選ぶ必要があるでしょう。
シミュレート系の後発品はサイズも小さく、インピーダンスの問題も解決されており(後述)、現在の事情にあわせて使いやすく設計されているため、オリジナルに拘りがないのであれば、こういうものを選ぶのも一つの手です。
またヴィンテージ系ファズにおいて、電池駆動のみであるものが多いこと、またACアダプターが使えても端子が違っていたり、もっと強烈なものではセンタープラス仕様であったりするものがあるので、こちらも導入の際には注意する必要があります。
特にセンタープラス仕様のものは、現在ほぼすべてのエフェクターがセンターマイナスのため、何も考えずにセンターマイナスのプラグを繋いで故障をもたらすという最悪のケースが考えられます。十分に注意しましょう。
ファズはその音の特性ゆえにバンドアンサンブルで抜けなくなることがあり、独特のザクザクした歪みを維持しつつ、抜けを良くするために前段にブーストペダルを使用したりするケースも見られます。しかし、ヴィンテージ系ファズの中には、ギターから直接の入力を想定して製作されているものがあり、そういうものは前段に別のペダルを繋ぐと本来の音が得られません。また、前段にワウペダルを繋ぐと、まともに動作しなくなるモデルがあります。
これらはいずれもインピーダンスのマッチングに起因します。このようなケースの対応として、インピーダンスを上げ下げする機材も販売されています。しかし、あまり一般的ではないため、ワウやブースターとの併用を考える際には、このあたりは慎重に調査しておいたほうが良いでしょう。
ここまでファズの歴史を紹介してきましたが、いきなり好みのファズペダルを探し当てるのは至難の業。まずは第一歩を踏み出しやすいコストパフォーマンスに優れたモデルを中心に紹介していきます。
ビッグマフはファズの代名詞と言って良い存在であり、それだけにビッグマフ系は多くのメーカーから幅広いモデルが発売されています。ビッグマフ自体は非常に太く存在感のあるサウンドで、壁に張り付いたような轟音が特徴。後述の通りバリエーションが多く、一口で語るのは少々乱暴ではありますが、そのような飽和感の強い音を得るならこのカテゴリから選ぶのが良いでしょう。紆余曲折の多い運命を辿った機種であり、生産拠点もニューヨーク~ロシアと転々としており、それぞれ音の傾向が少しずつ違うため、「ビッグマフ(〇〇期)」のような呼ばれ方をすることも。また、複数の時期のバージョン違いを内包した、「一台丸々ビッグマフ」と呼べる、マフ・シミュレート・エフェクターもあります。
詳しく:Supernice!エフェクター
ファズペダルの定番、BIG MUFF特集
ギターエフェクターの中でも長い歴史を誇るファズは、その独特の個性とともに、信者のような愛好家を多く生み出しました。その反面、万人受けしにくいため、一般的にアクが強く、使い所に困ると思われがちです。
しかし、実は意外に汎用性の広い製品も多く見られますし、やはりロックの初期を支えた圧倒的な存在感を感じられるのもまた確か。普通のオーバードライブに少し飽きがきたら、一度試してみてはいかがでしょうか。新しい世界が広がっているかもしれませんよ?
ファズペダルの売れ筋を…
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