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デビッド・ギルモア(David Gilmour)氏は、プログレッシブ・ロックバンド「ピンク・フロイド」で名を上げ、現在ではソロで活動している世界的なギタリストです。派手なライブパフォーマンスも華麗なテクニックも使わないシブい演奏スタイルながら、長尺のギターソロをまったく飽きさせないメロディセンス、印象に残るサウンドメイキングなど、音楽の本質的なところが高く評価されています。今回は、このデビッド・ギルモア氏に注目していきましょう。
David Gilmour – Faces of Stone (Live At Pompeii)
Tシャツなど比較的ラフなファッションでステージに立つギルモア氏ですが、トップスは無地が多いようです。また特に1995年ころからは一貫して、黒い無地のTシャツで下はデニム、という組み合わせに落ち着いています。そのスタイルは「究極の普通」であり、ノーマルなハードコア(中核/本質的な)の意味で「ノームコア」と呼ばれます。黒いTシャツに黒いストラトで、気分はデビッド・ギルモアです。
デビッド・ギルモア氏は1946年、大学で有名な英国のケンブリッジに生まれます。父親はケンブリッジ大学の動物学講師、母親は教師ののちBBCの映画編集者という家系です。ギルモア少年は10代前半でクラシックギターを手に入れ、フォークやブルースなどさまざまなま音楽を吸収します。やがてピックギターを手に入れ、ピックアップを取り付けてエレキギターを始めました。
フェンダー・ストラトキャスターは憧れの楽器だったけど高くて買えず、近所の楽器店に入り浸っていたようです。また、自ら「全てのギタリストをコピーした」と豪語するほど、音楽に貪欲でした。学生時代にはのちにピンク・フロイドを立ち上げることになるシド・バレット氏(同バンド初代ギター)、ロジャー・ウォーターズ氏とも会っています。ギルモア氏は大学の昼休みにバレット氏と練習するなどし、19歳の頃にはバンドでスペインやフランスを演奏旅行しています。
ピンク・フロイド (Pink Floyd) は、「5大プログレッシブ・ロックバンド」の一角として知られます(残る4組は、Emerson, Lake &Palmer、Genesis、King Crimson、Yes)。作品の総売り上げは2億5千万枚以上で、「史上最も売れたアーティスト」では8位(2019年時点。1位はビートルズ)、代表作「狂気(The Dark Side Of The Moon)」が全米チャートに741週連続でランクインするなど、ロック界のレジェンドとして世界的な支持を受けています。
Pink Floyd – Comfortably Numb (Recorded at Live 8)
ファンならば涙せずにはおれぬ、「ライブ8」出演のみ限定で実現したピンクフロイド再結成。なおメンバー全員、衣装は無地。これぞ英国紳士の身だしなみ。
ギルモア氏は途中参加でしたが、リーダーだったロジャー・ウォーターズ氏(ベース/ボーカル)の脱退(1985年)以降、バンドを率いるようになります。癌で亡くなった(2008年)リチャード・ライト氏(キーボード、ボーカル)を追悼するアルバム「永遠/TOWA(The Endless River。2014年)」の発表を以て、ギルモア氏はピンク・フロイドを名乗ることはやめ、ソロでの活動を始めます。
「ファンが求めるのは分かるんだが、リック(ライト氏)なしでやるのは間違いだと思うんだ。ピンク・フロイドも単にポップ・グループなんだよ。僕はもういいんだ。この年齢になったら、人生において自分のやりたいことをやるだけなんだ(サイトスタッフによる要約)」ギルモア氏はこのように述べています。
2019年6月20日、ニューヨークのロックフェラーセンターにて、現場で使用された伝説的なギターを含む、デビッド・ギルモア氏のギターコレクション127本がオークションにかけられました。66か国の約2000人という入札者から天文学的な入札を集め、落札価格の総額は2,149万750ドル(約23億円)に達し、「最も高額なギター」の世界記録が更新されました。
さまざまなインタビューでギルモア氏は、
「ギターは自分に音楽を与えてくれて、とても愛している。しかし、ギターが何もせずに眠っているのが嫌だったんだ。ほかの誰かの音楽のために使われる時が来たと思ったし、他の人々に楽しみを与えてくれるはずだよ。売り上げは世界のために使う(当サイトスタッフによる要約)。」
などと語っています。
メインギターまで出品するという姿勢に、業界は騒然としました。ご本人の象徴とも言うべき「ブラック・ストラト」を放出することについては、
「ブラック・ストラトとの別れはそれほど気にしていない。私にとっては、手放すことができる。ブラック・ストラトのおかげで、オークションに世界中の注目が集まった。素晴らしいギターだ。フェンダーがその完璧なレプリカを作って、自分も2、3本持っている。これが今後のメインギターになるかもしれない(当サイトスタッフによる要約)。」
とコメントしています。
はじめギルモア氏自身は「ショップで買ったのは、ただの普通のストラトだった」という思いから、ブラック・ストラトを特別視することに気が進まなかったといいます。ギターのない人生は考えられないと言うほどギターを愛しつつも、ギター本体に対しては意外とドライな考え方を持っているようです。
なお、オークションの収益はすべて環境保護団体「クライアント・アース」に寄付されました。
その前に、いろいろな高額ギターをチェックしていきましょう。
エリック・クラプトン氏を象徴するハイブリッド・ストラトキャスター「ブラッキー」は、2004年に95万9500ドル、ジミ・ヘンドリクス氏がウッドストック・フェスティバル(1969年)で使用した個体だという1968年製ストラトキャスターは1998年に200万ドル、スマトラ島沖地震(2004)のチャリティーのため、ブライアン・アダムス氏が友人を集めてサインを書きこんだストラトキャスターが、270万ドルでそれぞれ落札されています。
この「270万ドル」がこれまでの世界最高額でした。
この記録を破ったのが、ギルモア氏の現役メインギター「ブラック・ストラト」です。気になるお値段は「397万5000ドル(約4億2千万円)」で、落札した大金持ちは、エルヴィス・プレスリー氏、ジョン・レノン氏、プリンス氏のギターも持っているそうです。
もう一つ注目されたギターがシリアルナンバー「1(!)」の1954年製ストラトキャスターで、181万5千ドル(約1億9千万円)で落札されました。この記念すべき個体は、フェンダーの社員がボディシェイプに良い提案をしたご褒美として、レオ・フェンダー氏自身から貰い受けたものとのことです。フルオリジナルの状態を維持し、巡り巡ってギルモア氏のものになったのは1978年でした。
デビッド・ギルモア氏のプレイスタイルは、派手なテクニックで魅せるのではない、しかし一発のチョーキングが胸を打つ、「いぶし銀の演奏」にあります。一貫してメロディ、フレーズ、コードの響きといった音楽的な要素をこそ重視しており、長いギターソロをいつまでも聞いていられる、不思議な魅力に満ちています。
ギター本体にさまざまな改造を加えて現場検証を繰り返したのと同じように、エフェクターなど電気機器の研究にも余念がありません。さまざまなサウンドを駆使しますが、やはり奇をてらうような派手な音作りと言うよりは、あくまでも演奏の演出として使っています。
また相当なパワーの持ち主のようで、激しくカッティングを行うわけでもないのにピックアップカバーが丸く削れてしまうほど、力強いピッキングを行います。このことから、ブラック・ストラトのネック交換を何度も繰り返したのも「力強い押弦によって、フレットをすぐ凹ませてしまうからではないか」と考えられます。第一線で使用するギターなればこそ、フレットを打ち替えるのなんて待っていられなかったのではないでしょうか。
David Gilmour – Shine On You Crazy Diamond (Live At Pompeii)
冒頭のギターソロは、ギルモア氏の合図によってコードが変わっていきます。この演奏ではチョーキング時のビブラートを一貫してアームで行なっていますが、曲によってはチョーキングビブラートを使用することもあり、さまざまな考えをめぐらして演奏しているようです。
4分17秒から始まる4音のアルペジオが、この曲を象徴するたいへん印象的なリフです。このリフとバンドの出す響きとの関係など、バンドアレンジは周到に練られています。なお、ギルモア氏シグネイチャーモデルを買うと、このポンペイでのライブを収録したDVDがオマケで付いてきます。
ギルモア氏はストラトキャスターを中心にさまざまなギターを使い、またいろいろなアンプやエフェクターを駆使してきました。その中から象徴的なものをピックアップしていきましょう。
フェンダー・カスタムショップからリリースされたギルモア氏のシグネイチャーモデルは、伝説的なブラック・ストラトを再現しています。「NOS(New Old Stock。まったくの新品)」と「Relic(原物どおりの使いこまれた状態)」の2モデルがあり、レリックでは金属パーツの錆びやプラスチックパーツの変色、数々の打痕や塗装の剥がれ、ブリッジ交換やキャノン出力の補修痕などがしっかり再現できているほか、そもそも3トーンサンバーストで完成させたボディの上からブラックで再塗装する、というところまで本物どおりの徹底ぶりです。
ギター本体はアルダーボディにメイプル1ピースネックという木材構成で、ニトロセルロースラッカー塗装で仕上げられます。ネックについては1983年製のアメリカンヴィンテージ・57年式ストラトキャスターの設計という、現物同様のこだわりです。指板は7.25インチRでフレットは小さめ、というヴィンテージ・スタイルど真ん中の仕様です。
ピックアップは、
と言う構成です。「SSL-5」はギルモア氏のために開発されたものと言われており、音が伸びて倍音が豊かな高い出力を持ちながら、ヴィンテージのテイストをしっかり残しています。標準的なストラトキャスターの操作系に、フロントピックアップを起動させるミニスイッチが加わります。これを使うことで「フロント+リア」及び「シングルコイル全部」という組み合わせを使用できます。
ギルモア氏のストラトで外すことができないのが、4.25インチの短いトレモロアームです。ご本人は1984年から採用した仕様ですが、アームを持つ/手放すというアクションを小さな動作で済ませられる利点があるようです。
Pink Floyd – Sorrow (PULSE Restored & Re-Edited)
冒頭で大胆なアーミングが確認できますね。短めのアームは、「てこ」の原理によりアーミングに要する力が通常より増すという注意点こそあれ、先端部を持ちながらのピッキングがしやすそうな印象です。
ギルモア氏の愛機「ブラック・ストラト」は、ピンク・フロイドの名盤「狂気(The Dark Side of the Moon。1973年)」以降4枚のアルバムで使用され、ステージでもメインで使用された、黒い改造ストラトです。1986年からはいったんハードロックカフェに展示されましたが、1997年にボロボロの状態で回収、リペアを済ませ、2005年の再結成ライブで再び一軍起用されました。
伝説のブラック・ストラトは、実は二本目でした。1970年、ピンクフロイドの北米ツアー中にニューヨークで黒いストラトを購入した矢先、機材を積んだトラックごと盗まれてしまったのです。仕方なくツアーを中止した帰り道、同じショップで再び黒いストラトを購入します。これがのちの「ブラック・ストラト」です。1969年製で、ショップのカスタマイズにより、サンバーストの塗装の上から黒く再塗装されていました。
それ以来、69年製の黒いストラトはギルモア氏のメインとなり、別のサウンドが必要な理由がない限り、いつも登板しました。とはいえ「愛着」というよりは、新しいアイディアを現場で検証する「実験台」として、とらえられていたようです。約半世紀というもの、ブラック・ストラトの改造は幾度となく繰り返され、その時その時に求められるサウンドや演奏性を達成していきました。
最終的には、以上の仕様でオークションに出品されました。
1970年5月に手に入れてから、翌年10月にボリュームノブを交換することに始まり、キャノン出力取り付け(1972)、フロント起動スイッチ追加(1972)、センターとリアの間にPAFハムバッカー追加(1973)、白いピックガードを黒に交換(1974)、3WAYセレクターを5WAYに換装(1985)など、次々と手が加えられます。ピックガードが交換されてから、このギターは「ブラック・ストラト」と呼ばれるようになりました。ネック交換は何度も試行され、6回とも7回とも伝えられます。
何度かのピックアップ交換もあり、ケーラー社製トレモロブリッジ(1983)、4.25インチトレモロアーム(1984)が載った状態で、1986年からハードロックカフェに展示されました。
エフェクターを多数使用する上で、「ノイズとの戦い」は不可避でした。その結果、銅箔がピックガードの裏側に貼られ、アースの配線はいろいろ模索され、ボリューム回路がアウトプットジャックに直接つながれました。先述の「キャノン出力取り付け」も、ノイズ対策です。こうした数々の改造は、ギルモア氏とギターテックのフィル・テイラー氏によって繰り返されました。その改造の歴史が、書籍として出版されています(Pink Floyd – the Black Strat: A History of David Gilmour’s Black Fender Stratocaster。2010年)。
ロジャー・ウォーターズ氏(ベース、ボーカル)を欠いた新生ピンク・フロイド期を象徴するギターが、キャンディアップルレッドの1957年式ストラトキャスターです。ブラックス・トラトでハムノイズとの戦いに辟易した「悪夢」から、こちらにはEMG社製「SA」ピックアップが載せられました。弦との距離を空けるため、ピックアップキャビティが深く加工されました。またトーン回路もこれに合わせ、同社の「SPC(ミッドブースト)」と「EXG(トレブル/ローブースト)」が載せられました。やはりアームは短めです。
メインで使用された期間が「ロジャー氏のいない期間」というところには、ギルモア氏なりの理由があったのだと推測されます。
Pink Floyd – Breathe (In The Air) [PULSE Restored & Re-Edited]
枯れたオヤジが奏でる、若々しいカラーリングのストラト。この対比がまた美しい。
スタジオでは何種類ものアンプを使い分けていたと伝えられますが、ステージではハイワットを使用することが多いようです。ハイワットは特に「クッキリとしたクリーンが得られる」ことで知られており、エフェクターをしっかり使うギルモア氏にとって好都合だったようです。
ギルモア氏はファズ(主にビッグ・マフ)→オーバードライブというつなぎ方で、ファズのサウンドをドライブペダルで補正しています。二つのキャラクターがブレンドされ、より豊かな音になる、と言うわけです。
ギルモア氏のトーンにとってフランジャーの重要性は高く、特にコードプレイにかけるフランジャーは「代名詞」と呼ばれることもあります。
Pigs (Three Different Ones)
なんだか楽曲全体がシュワシュワしているような印象ですが、ギターサウンドとしては4分10秒辺りからのコードプレイが分かりやすいでしょう。
時としてリヴァーブのようにも使うと言うギルモア氏こだわりのディレイは、ビンソン社「エコーレック(Echorec)」です。これはテープの代わりに金属の円盤を回転させ、その外周を録音、再生、消去用のヘッドが取り巻くという形式の、独特なアナログディレイです。これでしか得られない音があると言われますが、入手は非常に困難です。
この状況に対してBOSS社はエコーレックの実物を調達。分析の末、ハイエンドモデル「DD-500」にてエコーレックのシミュレーションに成功してギルモアファンを沸かせました。
David Gilmour – Echoes (Live In Gdańsk)
まさにそのまんまのタイトル。中間部でたっぷりエコーを聞かせたプレイが確認できます。
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