《業務用定番機》Fender American Professional Telecaster
「テレキャスター」は、現代における「エレキギターの元祖」と呼んでもよいギターです。世に数多くのテレキャスター・タイプのギターがあれど、ずばり「テレキャスター」を名乗ることができるのは、これを開発したフェンダー、また姉妹ブランドのスクワイアのテレキャスターだけです。
「アメリカンプロフェッショナル」シリーズ新設に伴い、「アメリカン・スタンダード」シリーズが廃止されたこと、また「スタンダード・テレキャスター」がメキシコで作られている現状からわかるように、普及価格帯の標準的なテレキャスターはメキシコの工場で作られています。「アメリカの工場で作られるのは上位モデル」という扱いですが、今回はそのアメリカ工場製テレキャスターから、「アメリカンプロフェッショナル・テレキャスター」に注目してみましょう。
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ザ・クラッシュのボーカリスト、ジョー・ストラマー氏はサンバーストの上から黒く塗りつぶしたテレキャスターを愛用し、「テレキャスターは歌う人が持つもの」というイメージを一般化したと言われています。氏のハードなストロークは、ボディのエルボー部分を削ってしまうほどでした。氏の「ストラマー」という名は、「strum(かき鳴らす)」に由来しています。
アメリカン・シリーズのテレキャスターについて
大きく分けてモダンスタイル、ヴィンテージスタイルの2つがある
アメリカンプロフェッショナル・テレキャスターは、フェンダー・テレキャスター全体では「モダンスタイルの上位モデル」という立ち位置です。このテレキャスターやストラトキャスターのように、長い歴史を持つエレキギターは、
- 現在の音楽で使うことを意識した「モダン(現代的)スタイル」
- 昔の設計を尊重する「ヴィンテージ(伝統的。トラッドとも、クラシカルとも)スタイル」
このような2種類のスタイルがあり、このどちらにも好きな人がいて、市場からはどちらも求められます。ですからフェンダーでは、現代的なスタイルと伝統的なスタイルという、二面的なラインナップを展開させているわけです。
さらに細かく分けると4シリーズ/7モデル
現在、アメリカン・シリーズからは
モダン(現代的)スタイル(3シリーズ)
- American Elite Telecaster(2モデル)
- American Professional Telecaster(2モデル)
- American Special Telecaster(1モデル)
ヴィンテージ(伝統的)スタイル(1シリーズ)
生産完了モデルを除く4シリーズ/7モデルのテレキャスターがリリースされています。
これらのモデル名はギター本体に記されるわけではなく、全モデルのヘッドに「Fender Telecaster」とだけ記されます。これはなかなかに頭の痛い問題で、単にフェンダーのテレキャスターがそこにあった場合、それがどういうモデルなのかが判別しにくいわけです。
そんなわけですが、モダン/ヴィンテージ二つのスタイルどちらかなら3つのチェックポイントで簡単に見分けられるので、知っておくと何かと便利です。オーソドックスなテレキャスターで、どれか一つでも当てはまったらモダンスタイルです。
チェックする箇所 | 判別法 |
フロントピックアップ | モダンスタイルでは、ピックガードを外さなくても高さの調節ができる。 |
ペグ | モダンスタイルでは主に、堅牢なダイキャスト・ペグが使われる。 |
ブリッジ | モダンスタイルでは6連サドル、もしくはオクターブ調整の問題を解決させた改良3連サドルが採用される。 |
表:テレキャスターのモダン/ヴィンテージ両スタイルの見分け方(オーソドックスなテレキャスターに限る)
モダン・スタイル3シリーズ比較
その誕生以来エレキギターの歴史を牽引してきたテレキャスターは、基本的なスタイルを守りながらも時代に合わせた変身を重ねてきました。現代における最先端のテレキャスターは、どういう姿をしているのでしょうか。モダンスタイルのテレキャスター3機種のおおまかな特徴を見てみましょう。
- American Elite Telecaster(2モデル)
- American Professional Telecaster(2モデル)
- American Special Telecaster(1モデル)
これら3シリーズは価格差によってグレードが付けられていますが、それぞれ異なるアプローチのピックアップが採用されているなどコンセプトが異なっており、違った方向性を持ったテレキャスターになっています。特に
- ネックグリップとフレット
- ピックアップと配線
- ブリッジ
といった、サウンドや演奏性に設計上の違いが発揮される重要な個所には、それぞれ異なる仕様が採用されているのがわかりますね。
エリート | プロフェッショナル | スペシャル | |
ボディ | アルダー(コンターあり)/アッシュ | アルダー(デラックスはコンターあり) | アルダー |
ネックグリップ | C to D コンパウンド | 新開発ディープC | C |
指板 | 9.5″-14″コンパウンド | 9.5″R | 9.5”R |
フレット | ミディアムジャンボ | 新開発ナロー・トール | ジャンボ |
ジョイント部 | ヒールカット有り | マイクロティルト有り | スタンダードな4点留め |
ピックアップ | 新開発第4世代ノイズレス | 新開発「V-Mod」/「Shawbucker」 | 名機テキサス・スペシャル |
特徴的な配線 | S-1スイッチ | 新開発トレブル・ブリード | グレースバッカー |
ペグ | ロック機能を有するショートポスト | スタガード・ポスト | 標準的なロトマチック |
ブリッジ | 6連ブロックサドル/新開発サスペンションブリッジ | 新開発ブラス製3連サドル/6連ベントサドル | クラシカルな3連ブラスサドル |
表:モダン・スタイル3シリーズ比較
「アメリカン・プロフェッショナル・テレキャスター」とは?
「アメリカンプロフェッショナル・テレキャスター」は、
- オーソドックスなスタイルの「American Professional Telecaster」
- 2ハムバッカー仕様の「American Professional Telecaster Deluxe Shawbucker」
という両面でリリースされています。いずれも新しい設計が多く採用されていますが、テレキャスターの長い歴史をリスペクトした、ヴィンテージライクなスタイルにまとめられています。
Marlon Williams Discusses the Fender American Professional Telecaster | Fender
ピックアップ、ネック周りの演奏性、トレブルブリード回路、ブリッジといったところに注目して解説しています。伝統的なテレキャスターサウンドを、かなり快適に利用できるようになっているということです。
「アメリカン・プロフェッショナル」の共通仕様
では、2種類の「アメリカン・プロフェッショナル・テレキャスター」に共通する仕様を見ていきましょう。「プロフェッショナル」共通仕様は、ストラトやジャガーなど他のモデルでも多く共通しています。
新開発ピックアップ
American Professional Telecaster(Mystic Seafoam)
「プロフェッショナル」に搭載されているピックアップは、フェンダー社のピックアップ部門におけるチーフエンジニア、ティム・ショウ氏が設計しています。ティム・ショウ氏はギブソンでヴィンテージ・ピックアップのリイシューに携わった経歴があり、移籍したフェンダー社にはピックアップのエンジニアとして20年以上在にわたって活躍しています。2大メーカーのピックアップ開発で中心的なポジションにいたことから、今や「ピックアップの巨匠」とまで呼ばれています。
新開発されたシングルコイル「V-Mod」ピックアップは、1~3弦、4~6弦それぞれに異なるマグネットを配置するというアイディアでプレーン弦、巻き弦それぞれの音が良好に響くように設計されています。テレキャスター用のV-Modでは、
- 1~3弦用に「アルニコII(中域が主張し、滑らかで繊細)」
- 4~6弦用に「アルニコV(大胆さがあり、タイトでパンチがある)」
というセレクトになっています。
ピックアップの磁石の種類、交換方法について
アルニコIIを使用したハムバッカーピックアップ「Shawbucker(ショーバッカー)」は、これまでのものをさらにブラッシュアップし、ヴィンテージライクなフィーリングとフロント/リアのマッチングを向上させています。
新しいネックグリップ「ディープC」
「プロフェッショナル」のネックグリップは、「ディープC」を新たに開発、採用しています。これまでの標準仕様であった「モダンC」と比べると厚みと丸みが増しており、「カマボコ」と称される「U」の中間を行くグリップとなっています。細ければ弾きやすい、薄ければ弾きやすい、という流行を見直すシェイピングになっていますが、コードを押さえたりチョーキングをしたりする際、ネックにはある程度の太さがあった方がストレスは少ない、という人間工学に基づいた設計です。ネックの体積が増すことから、剛性や音響性能も向上します。
新しい「ナロー・トール」フレット
フレットについても「ナロー・トール」フレットを新たに採用しています。かつての標準仕様「ミディアムジャンボ」と比べると幅が狭く(narrow)、背の高い(tall)もので、ヴィンテージライクなフィーリングを残しながらチョーキングしやすい設計です。
ヘッド側から調節するトラスロッドは「Bi-Flex(バイフレックス)」で、順ぞり/逆ぞり両方向への調整が可能です。またネックジョイント部には「マイクロティルト」が仕込まれており、ネックの仕込み角度を調節することができます。
Fender American Professional Telecaster
1分10秒辺りで、ミディアムジャンボフレットと新開発ナロートールフレットを並べた画像を見ることができます。
トレブル・ブリード回路
ボリュームポットには、新開発の「トレブル・ブリード」回路が仕込まれています。本来ならば、ボリュームを絞っていくと高音域が削れた甘いトーンになる半面、音抜けが悪くなってしまいます。トレブル・ブリード回路はこの傾向を改善し、ボリュームを絞ったときの音色に高音域を残させることで、抜けの良いサウンドを作っています。
テレキャスターではシャキッとした音が欲しいこともあり、
- 抵抗値の高い可変抵抗(抵抗Ωが上がると高音が引き立つ)
- ハイパスフィルター(ボリュームを絞っても高音域は残る)
という回路になっているのが伝統でした。新開発のトレブル・ブリード回路は、これに代わる新しい方式で、耳に痛いチャリチャリとまではいかない、音楽的なトーンを得ることができます。ギター本体に搭載されるピックアップ「V-Mod」や「Shawbucker」とのマッチングも十分に考慮する、という気合の入り方です。
特徴的な金属パーツ
ペグには堅牢な「ロトマチック・ペグ」が採用されていますが、ストリング・ポスト(軸)がポジションごとに適正な高さになっており(スタガード・ストリング・ポスト)、弦の張力が良好に整えられています。
ブリッジには伝統的なスタイルを採用しつつ、取り外し可能な「アッシュトレー・カバー」が付属します。伝統的なブリッジカバーはピックアップまで覆い隠す大きなものでしたが、本機のカバーはサドルのネジを覆い隠すだけのごく小さなもので、ブリッジミュートも問題なく行うことができます。体質的に金属パーツを錆びさせてしまうという人は、これを使うようにするとネジが錆びるのをいくぶん食い止めることができます。
「アメリカン・プロフェッショナル」2機種の特徴
では次に、「アメリカン・プロフェッショナル」2機種の特徴をチェックしてみましょう。
American Professional Telecaster
「アメリカン・プロフェッショナル・テレキャスター」は、エレキギターの歴史を築いてきたテレキャスターを徹底して再検証し、改良できるところは改良し、改良が不要なところはそのまま残して仕上げたギターです。大小二つのシングルコイルピックアップは新開発の「V-Mod」で、ひとつのピックアップ本体の中で二種類のマグネットを使い分けています。フェンダーならではの歯切れがよく、クリアで、なおヴィンテージ的な温かさのあるサウンドが持ち味ですが、出力も十分に確保しています。
ブラス製3連サドル
伝統的なブラス製3連サドルが採用されていますが、オクターブ・チューニングが合うようにポジションごとに加工されており、ピッチが甘くなりがちという3連サドルの弱点をしっかり克服しています。
2017 Fender American Professional Telecaster
また、本機のみ、左用がリリースされています。カラーバリエ―ションこそ少なめですが、そのためか右用よりも価格が抑えられています。左用の方が低価格のギターは他に類を見ず、おそらく世界初です。常に新しいことへの挑戦を怠らないフェンダーが、ここにまた新たな歴史を築いたわけです。
American Professional Telecasterを…
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American Professional Telecaster Deluxe Shawbucker
「アメリカン・プロフェッショナル・テレキャスター・デラックス・ショーバッカー」は長い名前ですが、1973年に発表された「テレキャスター・デラックス」の雰囲気をそのまま残しながら、現代的なアレンジが施されています。正面から見たら普通のテレキャスター・デラックスですが、背面にはコンター加工が施されており、ステージで暴れ回っても脇腹が痛くならない、ロックギタリストにぴったりのテレキャスターとなっています。
モデル名にもなっている「ショーバッカー」は、このモデルのために新しく設計されたピックアップです。ヴィンテージ・ピックアップで採用されているアルニコIIマグネットを採用し、タイトなハムバッカーサウンドを持ち味としています。シングルコイルと比べると高出力ですが、パワーにものを言わせるほどのものではなく、「キレ」で勝負するタイプのピックアップです。
6連ベント・サドル
ブリッジは6連の鉄製「ベント・サドル」を採用しています。現代的な仕様で言ったら「ブロック・サドル」を採用するところですが、新しさよりもサウンドを考慮し、音の伸びよりもキレを重視した設計になっています。
2017 Fender American Professional Telecaster Deluxe Shawbucker
1分20秒あたりで、トレブル・ブリード回路のかかり具合を確認することができます。ボリュームを絞った音も、甘くなりすぎずスッキリとした印象です。
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- カテゴリ: テレキャスター ,
[記事公開]2018年12月7日 , [最終更新日]2018/12/08