エレキギターの総合情報サイト
「Kz Guitar Works(ケーズ・ギターワークス)」は、神奈川県逗子市に工房を構えるギターメーカーです。広い意味で「湘南エリア」と呼ばれる逗子の街並みは、海が近い生活とセンスの良さを感じさせる洋風の家屋が立ち並び、居心地の良さを帯びています。この地域に住むだけで、自然とセンスが磨かれていきそうです。
2016年のNAMMショウで発表されたばかりのオリジナルギターは、どことも似ていない個性と高い性能、ていねいな木工、そして美しいサウンドがさっそく話題を呼んでいます。今回ギター博士取材班はこの工房を訪れ、工房の様子や各モデルの特徴など、いろいろなことをうかがってきました。
Kz One Standard | Team Kz One Live 20160329
弾きやすいダブルカッタウェイのオリジナルギターには、新しいスタンダードにのし上がろうという強い思いと、良いギターを世に問う工夫がいっぱい。どのように作られ、どんな特徴があるのでしょうか。
スタッフ東川さんと濱野さんの案内で、まずは工場を拝見します。建物は三階建てで、各フロアごとに作業が割り当てられています。※スタッフのお二人から話を聞いていますが、便宜上「Kz」さんのコメントとしてまとめています。
木材置場の窓は信号交差点に面しており、光がたくさん入ります。かつてこの建物は雑貨屋さんとして使われていたとのことで、全体的に明るい、センスを感じる雰囲気になっています。天気のいい日には、信号待ちのお年寄りが軒先で休憩していくこともあるのだとか。高齢者にも優しい工房です。
天井からも光が入り、明るい空間になっています。工房全体が機能美だけではない、粋な雰囲気を帯びています。
──宜しくお願いします。外から内部が見えるようになっているんですね。ギター工房の姿としては、かなり新しいのではないでしょうか。
Kz 宜しくお願いします。やはり珍しいんでしょうか。前の道を通っていく人々が、中を覗いてくることが多いですよ。
Kz ここは、次の作業を待っているトップ材やボディ材の保管場所です。張り合わせた状態で重ねて、反ってしまわないように圧力をかけています。岐阜の木材屋さんから仕入れる時点で、乾燥の処理は済んでいます。
Kz これはバック材に貼り合わせる前のトップ材です。ソリッドボディにも、ホロウボディにも使われます。接着剤がはみ出ている所は色が濃くなっていますが、ここからまた削っていきます。仕上げるときれいになります。木工はすべて一階で行いますから、標準的な工作機械はこのフロアに集められています。
──ところで、どうして工作機械はどれも緑色なんでしょうか?
Kz そんなこと初めて聞かれました(笑)。確かに日本製の工作機械は緑系かグレーと決まっていますね。目に優しい色調で、なおかつそこに機械が存在していることもちゃんとわかる、というところで選ばれているのではないでしょうか。目に刺激のある色だと、工作するものよりも機械に目が行ってしまいます。
この工房で一番の働き者は、このピンルーターとのこと。やはりグリーンです。
Kz とはいえ外国製の工作機械では、派手な赤に塗られているものも多いんです。
木工全般は濱野さんの担当。仕事の手を休めて、取材に応じていただきました。
──両側からも挟み込んでいるようですが、これはバインディングを押し付けているんでしょうか?
Kz いえ、これはネックをセットしているところで、上下左右から圧力をかけています。ネックポケットがタイトなので、ネックを挿すとカッタウェイ部分が外へ押し拡げられてしまうんです。横からも圧力をかけることでボディの変形を防ぎ、ネックは底面と側面の3方にキッチリと密着されます。しかしこの工法はレスポールではできません。ダブルカッタウェイだからこそ、こうしたことができます。
接合部分は「ボックスジョイント」で、ジョイント部分はネック幅そのまんまの太さがあります。ジョイントは深く、ネックがフロントピックアップの下にまで達します。フロントピックアップを収めるスペースは、しっかりとボディ/ネックが接合してから空けます。
──ジョイント部の強度を確保してから空けるんですね、納得しました。
Kz ちょうど固着できたところなので、クランプとテープを外してみましょう。
──ジョイント部がスキマなく仕上がっていますね!ところでフレットにもマスキングテープがキッチリと貼られています。フレットにここまで密着させるのは、理由があるんでしょうか。
Kz このあと木地の全面研磨を行うので、保護が必要なんです。ちゃんと貼りつけておかないと、作業中にはがれてしまいます。
──ジョイント部はしっかり存在感を残しているんですね。
Kz ジョイント部については、振動を受ける部分を大きくしたい、というサウンド面を重視した設計になっています。ここを削って丸くしてしまうと強度不足になってしまうんです。しかしハイポジションへのアクセスが良好になるように工夫されていて、最終22フレットまで楽に指が届きます。
ネックヒールについては、いわゆるセットネックのギターの多くで採用されている標準的な位置ですから、レスポールやPRSに慣れている人はなじみやすいと思います。オリジナルギターとはいえ、スタンダードモデルの良いところは採用しています。
Kz これはコリーナ材を使った特別仕様機のボディです。セミホロウモデルは低音弦側とボディエンド部に空洞が開けられます。回路が収まるところはノイズ処理されていますが、ホロウ部分が水分を吸ってしまわないよう、ここにも塗装が施されています。
──これは、妙に見覚えのあるネックですね。レッド・スペシャルは、まだ作っているんでしょうか。
Kz これは特殊モデルなんですが、「Kz One」と「レッド・スペシャル」を合わせたものです。形状はレッド・スペシャルですが、仕様としては「Kz One」と同じになっています。弊社はレッド・スペシャルを作っていたことが知られていまして、これを求めてくるお客様が多数いらっしゃいます。いま作っているのは限定生産の最終ロットで、保管していたパーツを出し切ってしまうので、本当にもうこれで最後です。
Queen – Bohemian Rhapsody – Brian May Guitar Tutorial
参考:レッド・スペシャル
「レッド・スペシャル」は、英国のロックバンド「QUEEN(クイーン)」のギタリスト、ブライアン・メイ氏の愛機で、父親とご自身の二人で5年がかりで手作りしたと言われています。100年以上前の暖炉の木材を使用したと言われ、特殊な配線、6ペンス硬貨をピックに使用する独特な演奏とあいまって、世界に唯一無二の個性を誇る、特別なエレキギターです。しかしやたらと太いネック、単体ではロクな音がしないリアピックアップなど、一般には受け入れにくいクセの強いギターでもあります。
──奥にはボディ材やネック材が保管してあるんですね。「キューバ」という文字もうかがえますが?まさか、幻といわれるキューバンマホガニーでしょうか。
Kz ホンジュラスマホガニーが多いですが、キューバンマホガニーもあります。しかし、木材の確保は本当に大変です。希少なマホガニーのギターが欲しい人は、本当に今のうちが最後のチャンスだと思います。ローズウッドも本当に厳しくなりました。NAMMショウの出展などで製品を海外に持ち出すときには、「CITES(ワシントン条約)」に準拠した書類の申請が必要です。しかし、個人が自分の所有物を持ち出すぶんには問題ありません。
工房内は、整理整頓!こうした収納はすべて自作なのだとか。
ドリルのビットを収めるこの台座は、ホンジュラスマホガニーの端材を使用。持ちやすいように「面取り(角を丸める)」してあります。
──仕事をスムーズにするための整理整頓には、いろいろな工夫があるんですね。
Kz 塗装は外注するんですが、こだわりたい特別な塗装はここで行っています。外に空気がそのまま流れていきますから、塗料が外へ飛んでいかないように工夫しています。
──塗装スペースなのにシンナー臭くないです。空気の流れがとても効率的なんですね。
Kz これはカラーサンプルです。お客様の要望どおりに塗ると、実際にこういう色になる、というのが分かります。
──このピンクはなんとも鮮やかですね。
Kz 3階には各スタッフの作業スペースが用意されています。代表(伊集院氏)は、ここでパーツの取り付けと組み込みをするのがメインの仕事です。奥の別室がバフ室となっています。
Kz 旧モデルをお買い上げくださったお客様の個体に、シリーズ/パラレル切り替えスイッチを増設するところです。現在のモデルでは標準仕様なんですが、2016年以前のモデルにはまだありませんでした。旧モデルはピックアップの外観が今のものと違っていますね。
──それにしても、ずいぶんきれいに使っているユーザーさんですね。
それぞれのスタッフ専用の作業場には、工具類が整然と並んでいます。工具の並べ方に、スタッフそれぞれのキャラクターが反映されるのだとか。工具類も色が豊かで、華やかな印象です。
アッセンブリ取り付け待ちの状態。高級ブランドなら当たり前なのでしょうが、とても美しい仕上がりです。配線の色調がまたきれいですが、こういう見えないところにもセンスを感じますね。
各回路はこのように見本が保存されています。配線のカラーリングは役割ごとに決められておりスタイリッシュな雰囲気ですが、こうすることで作業がしやすくなるのだとか。
以上、「Kz Guitar Works」の工場見学でした。次は、ここで作られたギターを解説してもらいながらチェックしていきます!
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