グレッチ・ピックアップの種類と特徴

[記事公開日]2018/9/8 [最終更新日]2018/9/8
[編集者]神崎聡

グレッチ・ピックアップ

グレッチに搭載されるピックアップは、特にコードが美しく響くような、比較的低出力で澄んだサウンドを持つものが主流です。

  • フィルタートロン:1958年以来定番化した、グレッチのオリジナルハムバッカー。
  • ダイナソニック:1958年までの定番シングルコイル。
  • ハイロートロン:フィルタートロンをアレンジしたシングルコイル。

この3つを主軸とし、ここから枝分かれしたバリエーションモデルやTVジョーンズ社製ハイエンドピックアップが使用されることもあります。まずは主軸の3モデルを見ていきましょう。

フィルタートロン(Filter’Tron)

フィルタートロン搭載ギター フィルタートロンを搭載した G6118T-SGR Players Edition Anniversary

「フィルタートロン(High Sensitive Filter’Tron)」は1958年以来グレッチの定番をつとめる、名誉あるハムバッカーです。それまでは他社製ピックアップ(ダイナソニック)を使用していたわけですが、オリジナルピックアップ「フィルタートロン」の登場で、グレッチは名実ともに「エレクトリック・ギターのメーカー」になることができたのです。
フィルタートロンの「1959年6月30日特許取得」は、ギブソンのハムバッカー(セス・ラバー氏発明。1959年7月28日特許取得)に先行しており、その意味で「世界初のハムバッカー」と言われています。「シングルコイルに内在する60サイクルのハムノイズ」に悩むチェット・アトキンス氏のために、レイ・バッツ氏が発明しました。

「相反するシングルコイルを直列につなぐ」という開発コンセプトはギブソンと同じでしたが、コイルの寸法や巻き数、磁石の大きさなどの違いから、

  • ギブソン:高出力で太く甘いサウンド
  • フィルタートロン:抑えめな出力で、澄んだサウンド

というように個性は大きく違い、ルックスの帯びる雰囲気も大きく異なります。
フィルタートロンは、最新仕様(Players Edition)のほとんどのモデルに搭載されるほか、アーティストモデル(Professional Collection)でも盛んに採用されます。また「Gretsch Electromatic」シリーズでは、ピックアップの上面を黒にした「ブラックトップ・フィルタートロン」が使用されています。

フィルタートロンのバリエーション

名機フィルタートロンは、これからの音楽を見据え、また搭載モデルのコンセプトに合わせ、さまざまにバリエーション展開しています。

モデル名 特徴と搭載モデル
Broad’Tron フィルタートロンの個性を保ちつつ、ドライブサウンドに対応できる高出力。グレッチのこれからを作るピックアップ。
G6228 Players Edition Jet BT
G6609 Players Edition Broadkaster Center Block
G6659TFM Players Edition Broadkaster Jr. Center Block
Blacktop Broad’Tron Broad’Tronのエレクトロマチック版
G5220 / G5230 Electromatic Jet BT
Broad’Tron Humbucker Broad’Tronのストリームライナー版
G2420 Streamliner Hollow Body
G2622 Streamliner Center Block
G2655 Streamliner Center Block Jr.
Gretsch Dual-Coil Humbucking フィルタートロンの雰囲気を持った、「ジェットクラブ」用ピックアップ。
G5421 / G5425 / G5426 Jet Club
CUSTOM WOUND “Black Top” Filter’Tron ビリー・ダフィー氏のわがままをすべてかなえた特別製。
G7593T Billy Duffy Falcon
Mega’Tron 公式には名前の紹介しかないが、ソリッドボディにフィットするアレンジを施したと推測。
G5135CVT-PS Patrick Stump Electromatic® Stump-O-Matic CVT

表:グレッチで使用されるアレンジ版フィルタートロン


Patrick Stump on his New Gretsch G5135PS
「メガトロン」というピックアップについては公式サイトでも詳細な解説がありませんが、現代的なサウンドにフィットする十分なパワーがあり、音量を絞れば繊細なサウンドも出せるもののようです。「G5135PS」はグレッチでは非常に珍しいソリッドボディを採用し、3ピックアップモードと2ピックアップモードをスイッチで切り替える特殊配線が採用されています。

「フィルタートロン発明者」レイ・バッツ

レイ・バッツ(Ray Butts。1919-2003)氏は、「フィルタートロン」および「エコーソニック(テープエコー内蔵ギターアンプ)」の発明者として知られています。
1940年代にはアコーディオン奏者として活動していましたが、家庭の事情で帰郷、電気屋を継いだのち、ギター/アンプショップ「レイ・バッツ・ミュージック(Ray Butts ‘Music)」を立ち上げます。音楽関係者が通い詰める名店だったようで、レコーディングスタジオや音楽プロデューサーとも商売していました。

ダイナソニック(DynaSonic)

ダイナソニック搭載ギター ダイナソニックを搭載した G6129T-1957 Silver Jet

先述の「フィルタートロン」が発明される1958年までグレッチのギターに採用されていたピックアップは、ディアルモンド(DeArmond)社製の「ダイナソニック」でした。同名のドラム(ロジャー・ドラムス社製”Dyna-Sonic”)との混同を避けるため、いち時期「フィデラトーン(FidelaTone)」と改名していましたが、今では元通りになっています。

ダイナソニックは固定式とネジ式の2列のポールピースを持っていますが、コイルはこれをまとめてぐるぐる巻いてあるので、内部構造はシングルコイルです。「固定式ポールピース自体が磁石で、縦長の磁界で振動をキャッチする」という方式はフェンダーのピックアップに近く、明るくトレブリーに響きます。ネジ式のポールピースは高さ調節ができるので、弦ごとの音量バランスを整えることができます。磁石は脆いので、ネジの溝を刻むことができません。じゃあ、そのすぐ隣に鉄のネジを挿せばいいじゃないか、というアイディア設計です。

ダイナソニックは、1958年以前のスタイルを再現したモデルに搭載されています。

ハイロートロン(HiLo’Tron)

G6119T-62 テネシーローズ ハイロートロンを搭載した G6119T-62 Vintage Select Edition ’62 Tennessee Rose

「ハイロートロン」は、フィルタートロンの片側のポールピースを抜いて、もう片方のシングルコイルからしか音を拾わなくしたピックアップです。片方からしか音を拾わないのでサウンドはシングルコイル・ピックアップですが、音を拾わないもう片方のコイルの恩恵でハムノイズがカットされる(ハムバッカー構造)ため、高域(ハイ)から低域(ロー)まで美しく響きます。
ハイロートロンは主に、G6118アニヴァーサリーG6119テネシーローズで使用されます。

TVジョーンズ

TV Jones ピックアップ

特徴と搭載モデル
TV-CLASSIC フィルタートロンタイプ。ヴィンテージ・グレッチのサウンドを再現。
G6118T 130th Anniversary™
G6120RHH Reverend Horton heat
G6134T-KWP KDFSR Kenny Wild Penguin
G6136T-AZM-LTD17 Limited Edition Falcon
G6136T-DCHFL-LTD16 Limited Edition Falcon
G6136T-KF FSR Kenny Falcon
G6136T-KFJR FSR Kenny Falcon Jr.
G6136TTV-FSR OCT JR Falcon™ Jr.
G6120T-59 VS Vintage Select Edition ’59 Chet Atkins®
G6122-6212 VS Vintage Select Edition ’62 Chet Atkins® Country Gentleman® 12-String
G6122T-62 VS Vintage Select Edition ’62 Chet Atkins® Country Gentleman®
G6128T-59 Vintage Select ’59 Duo Jet
G6129T-59 Vintage Select ’59 Silver Jet
G6131T-62 Vintage Select ’62 Jet™ Firebird
G6134T-58 Vintage Select ’58 Penguin
G6136T-59 VS Vintage Select Edition ’59 Falcon
G6196T-59 VS Vintage Select Edition ’59 Country Club
Brian Setzer “Signature” TV Jones® フィルタートロンタイプ。ヴライアン・セッツアー氏のシグネイチャーピックアップ。
G6120SH Brian Setzer Hot Rod
G6120SSL Brian Setzer Nashville
G6136SLBP Brian Setzer Black Phoenix
Power Tron フィルタートロンタイプ。グレッチサウンドとギブソン系ハムバッカーをブレンドさせ、中域の押し出しを増した。
G6118T-LTV 130th Anniversary™ Jr
G6128T FSR Jet™ Solid Body
G6199FSR Billy-Bo Jupiter Thunderbird
G6199RV FSR Billy-Bo Jupiter Thunderbird
Power Jet Firebird TV Jones (PowerTron Pickups w/Bigsby) G6131T-TVP
Super’Tron バーポールピースを採用。クラシカルな透明感を残しつつ、押し出し感も増した。
G6122T-59 VS Vintage Select Edition ’59 Chet Atkins® Country Gentleman
G6122-1959 Chet Atkins Country Gentleman
T-Armond ダイナソニックタイプ。突き抜ける透明感。
G6120T-55 VS Vintage Select Edition ’55 Chet Atkins
G6128T-53 Vintage Select ’53 Duo Jet
G6128T-57 Vintage Select ’57 Duo Jet
G6136-55 VS Vintage Select Edition ’55 Falcon
TV-HT ハイロートロンタイプ。ブライトな中に、セクシーな低域。
G6118T-60 VS Vintage Select Edition ’60 Anniversary
G6119T-62 VS Vintage Select Edition ’62 Tennessee Rose

グレッチに搭載されるTVジョーンズ社製ピックアップとその搭載機(2018年9月版)

TVジョーンズ社からは、これ以外にも様々なタイプのピックアップがリリースされています。やはりヴィンテージ・ピックアップを再現したものが高人気ですが、フィルタートロンのルックスでダイナソニックの音を出す「マグナトロン(Magna’Tron) 」のような変わり種も。

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