ギターアンプの真空管の種類・仕組みについて

[記事公開日]2018/3/22 [最終更新日]2025/8/29
[編集者]神崎聡

ギターアンプの真空管

真空管とはアンプの増幅回路に使われる筒状の器具のことで、アンプにおいてプリアンプ部、パワーアンプ部などに主に使用されます。古くはオーディオアンプは全て真空管アンプでしたが、挙動の安定性や消費電力の少なさから、現在ではほとんど全てがトランジスタに置き換えられました。世の中に存在するほとんどのアンプ類がトランジスタを主流とする中において、唯一とも言える例外がギターアンプです。

エレキギターの世界においては、暖かみのある自然な音、ナチュラルな歪みの音は真空管を使ったチューブアンプでしか得られないと考える向きが今でも大変多く、ギターアンプは常に真空管アンプのシェアが一定以上を占める極めて珍しい製品となっています。これは通常のアンプと違い、ギターアンプが意図的に歪み(クリッピング)を発生させるという、一種独特の音の作り方をしていることとも無関係ではないでしょう。

真空管を製造しているのは3国しかない

真空管を現在製造している国は3国しかありません。1993年、チェコと分離独立したスロバキアの「JJ Electronic」、中国の「曙光電子」および「PSVANE」、そしてエレクトロ・ハーモニクスを代表ブランドに持つアメリカの「New Sensor」社がロシアの工場で製造しているもの、この3つに絞られます。

製造会社より真空管を仕入れて販売する「選別管」

それとは別に、独自の基準を元にそれらの製造会社より真空管を仕入れ、自社ブランドの製品として販売する選別販売会社が存在し、このような会社がブランドを付けて販売するものを「選別管」と呼びます。
選別会社は各ブランドごとに異なる基準を持っていますが、どの会社も基準以下の製品は扱わないことから、選別管は一定以上の品質が保証されます。真空管は元よりアナログで原始的な製品であり、製品ごとの個体差やムラが非常に多く、このようなブランド付けはユーザーにとってはありがたい存在です。

選別会社にも有名なブランドがいくつもありますが、真空管の権威アスペン・ピットマンが設立した「Groove Tubes」や、アンプメーカーとして確固たる存在の「Mesa Boogie」、系列会社に製造工場を抱える「Electro-Harmonix」のものなどは、特に手に入れやすいでしょう。
また、かつて製造も行っていたものの、現在は自社ブランドの企画販売のみとする「Mullard(ムラード)」などは、リスニングオーディオの世界でもよく知られる存在です。

プリ管とパワー管の違いは?

ギターアンプには原音を増幅するプリアンプ部、そしてそれをスピーカーに送り込めるレベルにまで増幅するパワーアンプ部に分かれています。
プリアンプは微弱な楽器の信号をパワーアンプに送り込むためのレベルにまで引き上げるのが仕事ですが、その過程で音色の根幹部分が決定されるため、音作りの中で非常に重要な部分を担います。
パワーアンプはプリアンプで出来上がったものをさらにスピーカーで鳴らせるレベルにまで増幅しますが、こちらも単に増幅するだけではなく、音色の決定において一定以上の影響を及ぼします。

プリアンプに使われるプリ管は「12AX7」を筆頭としてミニチュア管がメインであり、パワー管に比べてサイズは小さいものの、音作りにおいて重要なパーツとなる部分です。プリ管の交換がカスタムとしてよく行われているのにはそのような理由があります。
パワー管も音色を調整するためにカスタムが行われますが、プリ管に比べ扱う電圧が桁違いに大きい上、ギターアンプはパワー管に負荷を掛けやすい構造になっていることから、疲弊しやすく、音色の調整以上に寿命での交換がよく行われます。メンテナンス上での真空管の交換は、主にパワー管において見られる作業です。

真空管の種類

代表的なプリ管

ギターアンプの音の根幹部分を作るプリアンプ部に使われる真空管。音の増幅には基本的にミニチュア管とよばれる小さなサイズの「12AX7」が採用されていることが多く、互換品に差し替えるだけで音質の差を楽しめます。

12AX7と12AU7の違い

12AX7(ECC83)と12AU7(ECC82)の最大の違いは増幅率(ゲイン)です。

ギターアンプでの体感としては、ECC83は高ゲインで早く歪み始め、倍音が豊か、コンプレッションが心地よいアグレッシブで歪みやすいサウンドが得られます。
対してECC82はゲインが低くヘッドルームが広いので、クリーンが太く滑らかに伸び、音質に温かみや柔らかさを加えたい場合やペダル前提の「クリーンプラットフォーム」を作りたいときに向いています。

代表的なパワー管

音をスピーカーから出力できるところまで引き上げるパワーアンプ。扱う電圧が大きく、サイズも一回り大きなGT管と呼ばれるサイズが主流です。
ヨーロッパのアンプメーカーは「EL34」系、アメリカのメーカーは「6L6」系を採用していることが多く、両者の音質の差が生まれる上での重要な要素となります。
EL34にはEL34系の、6L6には6L6系の交換用真空管が多数販売されていますが、下記に紹介する5種同士は相互に互換性があるわけではなく、種類ごと交換するにはアンプ本体の改造が必要となります。

管種 電気的特徴(出力・構造) サウンド傾向 代表的アンプ 向いているジャンル/用途
EL34 高い電圧・固定バイアスで使われることが多く、中〜高出力アンプ向け。 中域が前に出て“ガラッ”とした咆哮。
歪ませると硬質なアタックと粘る中域が際立ち、倍音の密度が高い。
低域はタイト寄りで、ハイは荒々しく切り込む。
Marshall系(JCM/JMP/JTM系の多く) ハードロック〜メタル、ブリティッシュ・ロック。
パームミュートの食いつき、コードの押し出しを強調したい人に最適。
6L6 高耐圧・高ヘッドルームで、出力は大きくクリーンの余裕がある。 低域が豊かで、高域はガラスのようにクリア。
ミッドは相対的にスッと引き、ワイドレンジ。
“アメリカン・クリーン”の代名詞で、歪ませても輪郭が崩れにくい。
Fender Twin/Bassman、Hot Rod系、Mesa/Boogieの一部。 カントリー、ファンク、サーフ、ポップス、モダンロック。
ペダル乗りが良く、エフェクト多用でも濁りにくい。
EL84 ペア/クアッドで使われることが多く、カソードバイアス運用もしばしば。 中高域が明るく、ジャングリーで“チリン”としたチャイム感。
早めにコンプレッションし、ピッキングの強弱で心地よく飽和。
低域は引き締まり量感は控えめ。
VOX AC15/AC30、Matchless/Bad Cat系 ブリティッシュ・ポップ、オルタナ、インディー、ブルース。
コードのキラつきとアルペジオの抜けを重視する人に。
6V6 電圧も比較的低めで運用され、小〜中規模のクラブ向け出力にマッチ。 6L6を小ぶりにしたような“甘い”アメリカン系。
ミッドが柔らかく、早めに穏やかにサグ(電源のたわみ)するので、弾き心地がスポンジーでブルージー。
Fender Deluxe Reverb、Princeton Reverb。 ブルース、ルーツ、シンガーソングライター。
自宅〜小規模ライブでの心地よいブレイクアップに最適。
KT88 大電流を流せるため、ペアやクアッドで組んでも余裕があり、100W超級アンプに好適 「EL34の力強さ」と「6L6のワイドレンジ」を兼ね備えたキャラクター。
低域はタイトかつ深く、7弦ギターにも余裕をもって対応。
高域はスムーズで荒さが少なく、歪ませても分離感を維持。
ハイパワーで上品、ゴージャス。
Bogner Uberschall、BLACKSTAR Series One 200 クラシックロック、7弦・8弦ギターの低域再生、高級オーディオアンプの定番。

パワー管5種比較

整流管

MESA BOOGIE 整流管 Mesa Boogie Triple Rectifier Solo Head の真空管:整流管は右3本の 5U4G、パワー管 6L6GC は左6本

交流電圧を直流電圧に変換するために使われる真空管を整流管と呼びます。かつては交流から直流への変換には真空管を使うしかなく、あらゆるギターアンプで標準的に使われていました。現在では効率などを考え、ダイオードを使うやり方が主流となっていますが、Mesa-BoogieのRectifireシリーズを代表として、フルチューブを謳ったアンプにおいて、なお使われ続けているモデルも存在します(ちなみに英語で整流管をRectifireと言い、Mesa-Boogieのアンプ名はそれをそのまま使用したものです)。

Mesa Boogie Triple Rectifier – Supernice!ギターアンプ

ダイオードと整流管の比較 左:ダイオード、右:整流管「GZ34」

ダイオードに取って代わられている主な理由は、音の増幅に絡むことのない電源部であることから音色に及ぼす影響が考えにくいためです。ただ、現在でも整流管の存在がまろやかな音に繋がると信じる向きは多く、整流管を未だ使用しているモデルは、そのような考えに基づいて設計されています。整流管には主に「GZ34」という真空管が使われることが多く、交換する際にも、基本的に新しいGZ34を用意することになるでしょう。

SHINOS 篠原氏

アンプブランド「SHINOS」篠原氏のコメント:

電気回路としてはダイオードの方がはるかに優秀ですし、整流管の方が電気の流れも悪いし場所も取りますから、整流管に電気的なメリットはないんです。
ただし、電圧がちょっと劣ることから、他の真空管に送る電流も若干抑えられ、サウンドにちょっとコンプレッション(圧縮)がかかり、クリーンやクランチがとても気持ち良くなります。アンプから出てくる音に違いが出るわけです。「Luck 6V」は、このコンプ感を選択しました。

【音の良さと、現場での強さ】ギターアンプメーカー「SHINOS」訪問インタビュー

パワー管のマッチングについて


上:パワー管 EL34 EH/ペア
下:6V6R QT マッチドカルテット

大出力ギターアンプのパワーアンプは、パワー管2本を一組として「プッシュプル回路」と呼ばれる回路で動作させるものがほとんどです。このような構造のパワー管を交換する際には、特製の似たもの同士を二つセットにして交換する必要があります。これをパワー管のマッチングと言って、新しい真空管を選ぶ際には気を付けなければなりません。多くの場合、メーカーが真空管の個体差を調べ、誤差が少ない物をセット販売しています。2本セットの「ペア」、4本セットの「カルテット」といった商品ラインナップがあります。
仮に個体差のあるパワー管同士を組み合わせると、アンプの動作が不安定になるだけでなく、それが原因でアンプが壊れてしまう恐れもあります。各社から様々なマッチングセットが販売されているので、パワー管の交換は「まとめて行う」ようにしましょう。


真空管アンプは動作や挙動が非常に複雑ですが、スピーカーやエンクロージャーの材などと並び、最大の要素として真空管そのものの性質が関わってきます。個体差が激しい真空管という製品には、二つとして同じものはないと言っても過言ではないほどで、理想の真空管を見つけることはギタリストとして大きな喜びとなるでしょう。もし手持ちのアンプに不満点が一つでもあるのであれば、一度交換を試してみても面白いのではないでしょうか。

※当サイトではアフィリエイトプログラムを利用して商品を紹介しています。