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MT-2 Metal Zoneは1991年の登場以来、ハイゲインディストーションの雄として、発売30周年を迎える2021年ついには100万台セールスを突破しました。この屈指のロングセラーモデルはその特徴的な名前ゆえに様々な見方をされてきましたが、本質はどこにあるのか。あらためてMT-2という存在に迫っていきましょう。
MT-2 Metal Zoneが登場した1991年は、メタリカのブラックアルバム、パンテラのCowboys From Hellなどがヒットし、ザクザクと歪んだサウンドに人気が集まりだしていた時期でした。MT-2は単体でとにかく良く歪むエフェクターとしてBOSSから発売されましたが、当時ギシギシに歪むエフェクターは珍しく、それが万人受けしやすいエフェクターを数多く作り出していたBOSSから登場したというのも、当時の音楽シーンやエレキギターのシーンを示唆的に表しています。今ではメタル系アンプの代名詞となった Mesa Boogie Dual Rectifier が同じく91年の発売であることを考えると、この時期はエレキギターのサウンドにおいても転換期であったと言えるでしょう。
そのようなシーンの後押しもあって、MT-2はメタルサウンドを手軽に体験したい層に爆発的な人気で迎えられました。90年代を通し、当時のギタリストのほとんどが手にしていたのではないかと思えるほどの大ヒット製品となり、下の動画ではペリフェリーのギタリストMark Holcomb氏が、ギターを弾き始めた1995年、メタリカのJames Hetfield(ジェームス・ヘッドフィールド)氏のような音を探し求めて始めに手にしたエフェクターであると明言しています。
さらに、このようなサウンドがアンダーグラウンドなものになっていった2000年代においても、MT-2は着実に売れ続けました。”Metal”というまるで万人受けしなさそうな名を冠しながら、30年間以上をディスコンにならずに生き抜いたエフェクターは他に類を見ない存在です。これはひとえに単なるハイゲインのみに留まらない大きなポテンシャルを秘めた製品であったからこそで、2019年にはついにBOSSコンパクトエフェクターの上位グレードである”Waza Craft”バージョンが発売されます。その後、冒頭に述べた通り、2021年には累計100万台セールスを突破し、BOSS最大級のヒット商品であることを数字で示しました。
MT-2はその名に違わず非常に強烈な歪みを持っています。特にDISTつまみを半分以上まで上げた時の歪みは凄まじく、どのような機材であってもメタル系のトーンに変えてしまうほどで、非常に大きな存在感を発揮します。ハイゲインアンプを手にするのが難しいアマチュア層に受けたのも、まさにそのハイゲインサウンドが手軽に体感できるからに他ならず、やはりこの名称とこのトーンの個性が時代とニーズにマッチしたというべきでしょう。
そして、本機を語るときにしばしば話題に上るのは歪みの深さだけではありません。効き過ぎるほどの3バンドイコライザーもその特徴としてよく挙げられます。BOSSコンパクトは多くても4つ程度のつまみしか配置できないデザインとなっていますが、つまみを二軸にすることでこれをカバー。15dbもの可変幅を誇るイコライザーではLOW、MID、HIGHのほか、MID FREQの調整が可能となっており、中域部はブーストカットする周波数帯域を選べるパラメトリック式が採用されています。可変できる帯域は200Hzから5kHzとなっており、ほとんど低域から高域に達するほどの幅広いエリアを含んでいるため、非常に美味しいところを狙い撃ちできる反面、下手につまみを振り切ったりすると、まるで使えない妙な音になる可能性を孕んでいます。
MT-2はメタルでのザクザクしたリフから、中域にピークを持ったリードギターのトーンまで、相当に広いサウンドを変幻自在に作ることができますが、その要因は主にこの2つにあると言って良いでしょう。
MT-2はその強烈な歪みで、例えばシングルコイルのストラトにJC-120という、まるで歪まない組み合わせでさえ極悪なメタルトーンに変質させてしまいます。そのため、しばしば「どのアンプでも同じ音になる」と揶揄されることが発売当初からありました。やがて「シャリシャリで芯のない音になる」という評判がそれにつけ足され、MT-2はその売り上げとは裏腹の悪評がついて回ることになりました。
この原因はMT-2が初心者に大量に売れた割に、初心者には難しいエフェクターであったことに起因します。エレキギターは歪ませると弾けている気がしてしまうため、技術的にまだ未成熟なプレイヤーほど総じてゲインを上げたがる傾向があり、さらにイコライザーの可変幅も広すぎて、簡単にこもった音や、ヌケの悪いスカスカの音が作れてしまいます。パラメトリックになっている中域に至っては調整方法がまるでわからないという人が少なくありませんでした。当時はネットで情報を拾うこともできず、何となくで作ったシャリシャリした音のイメージがMT-2というモデルについて回るようになります。またそれを聴く別のプレイヤーにもMT-2はこういう音だという印象を残したでしょう。
しかしMT-2の真骨頂は「たくさん歪む」ということではなく、「たくさん歪ませることもできる」というものが近いというべきで、ザクザクと刻むハイゲイントーンのみならずオーバードライブ的な軽いトーンも非常に魅力的です。その名称ととにかくよく歪むという評判のせいで勘違いされやすいですが、ローゲインからハイゲインまで多様なセッティングが可能であり、イコライザーのセッティングも適切な使用によってその可変幅が生き、慣れた人であればたやすく自分の望むサウンドを見つけることができるでしょう。MT-2は初心者に大量に売れましたが、その実、熟練者ほどそのポテンシャルを発揮できるエフェクターなのです。
2019年に登場したWaza CraftシリーズのMT-2Wは、オリジナルの回路が細部から見直されており、ディスクリート回路で新たに組み直されています。BOSSエフェクターを象徴するバッファにもよりピュアなものが採用され、MT-2の特徴であるEQ回路も再構成されました。特にオリジナルが発売された90年代初期には存在しなかった、多弦ギターによる重低音部分にもEQの見直しにより最適化が図られています。またWaza Craftシリーズの特徴であるスタンダード、カスタムの2つのモードも踏襲。オリジナルを再現したスタンダードモードに加えて、新たに搭載されたカスタムモードでは中域部がわずかに押し出され、歪みの質も若干変化します。よりアンプ的なナチュラルさを求めたサウンドという印象で、モダンメタルにはさらに適したサウンドになっており、また歪みをやや少なくして使うケースでも良い働きをするように作られています。スタンダードとカスタムの切替でEQの可変帯域などもわずかに変化し、各モードに最適化された調整ができるようになります。
BOSS MT-2W – Supernice!エフェクター
多くの賛否を浴びながら30年以上を生き抜いたMT-2。多弦ギターを利用したモダンメタルサウンドが隆盛を誇る現在でも、いまだ古さを感じさせないのはさすがの一言です。未だ使ったことがない人も、90年代に使っていた人も、極歪みエフェクターの元祖として、改めてスポットライトを当ててみてはいかがでしょうか。
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