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世界レコーディング史において重要な意味を持つブランド「ユニヴァーサル・オーディオ(Universal Audio。以下UA)」から、初めてギター向けのコンパクトエフェクターがリリースされました。アナログでもデジタルでも、ソフトウェアでもハードウェアでもトップクラスの品質を誇るブランドが本格的にギター市場へ参入したとあって、さっそく注目を集めています。今回は、UA社が鳴り物入りでリリースした「UAFX」シリーズに注目していきましょう。
UAはレコーディング機器やDAWプラグインを手掛けるブランドなので、なじみのない人も多いことでしょう。UAはどんなブランドで、どんなものをリリースしているのか、ちょっとだけ見てみましょう。
創業1958年「現代レコーディングの父」
UAは1958年、「現代レコーディングの父」ビル・パットナム氏が立ち上げました。氏はエコーチェンバーを世界で初めて録音に使用するなど、数々の「世界初」を記録しています。UAは様々な機器をリリースしましたが、最も名高いのは「610」真空管コンソールで、フランク・シナトラ氏、ビーチボーイズ、VAN HALENら名だたるアーティストの録音に使用されました。
1999年、ジュニアによるリバイバル
企業買収などいろいろあって沈黙していたUAですが、パットナム氏の二人の息子が買い戻し、再スタートを切ります。主力のオーディオインターフェイス「Apollo」シリーズは、名機のシミュレートを中心とする「UADプラグイン」の処理を内蔵DSPで実行させるため、PCに負荷をかけずにより優れたクオリティを実現できるのが大きなメリットです。アナログの名機のように「通すだけで音が良くなる」というプラグインが多くリリースされていることもあって、ハイクオリティな録音のための重要な選択肢になっています。
Apollo Twin X
ギター用デバイスへの注力を始める
ギター/ベース用のプラグインも多く手掛けてきたUAでしたが、ギターに強いエンジニアを迎え入れることでギター用デバイスにも着手しています。2018年にリリースされた「OX|Amp Top Box」は、真空管アンプに関わる音量の問題を見事にクリアし、どこでも真空管アンプを活用できるようになりました。
「OX(オックス)」は、音質はそのままに真空管アンプの音量を下げる「リアクティブ・ロードボックス」、リアルな音でライン録音できる「マイク/キャビネット・シミュレーター」を組み合わせたデバイスです。アナログのロードボックスとデジタルのシミュレーターが共存しており、双方のノウハウを蓄積する同社を象徴するようです。
ロードボックス機能は、アンプからの信号に反応してインピーダンスが変化する、というキャビネットの特性まで再現した「リアクティブ」仕様で、音痩せもありません。マイク/キャビネット・シミュレーターは、スピーカーの挙動や経年変化、特定の音に対して倍音が膨らむ「コーン・クライ」まで再現しており、現在では主流の「IR」を凌駕した生々しさが得られます。
Universal Audio OX Amp Top Box – Supernice!ギターアンプ
UAFXシリーズは、以下の3機種がリリースされました。
いずれも頑強な本体に二つのフットスイッチ、6つのノブと3つのミニスイッチという構成です。1台で、あらかじめ設定した「プリセットモード」と、ツマミの状態が反映される「ライブモード」の2音色が使えます。歴史上の名機を再現し続けたノウハウがここに注がれ、モード切替があってかつPCと連携できるなど、一台にいろいろな機能を盛り込んだ高性能なペダルです。まずはその共通点をチェックしてみましょう。
UAFXに収録されているエフェクターは、リアルなモデリングで定評のある同社製「UADプラグイン」アルゴリズムをベースに作られています。UADプラグインはDSPで処理する解像度の高さが、デジタル機材とは思えない、感性を刺激するみずみずしいサウンドを作ります。UAFXは、この思想でコンパクトエフェクターを作ってしまったわけです。
また、アナログのモデリングではありますが、ノスタルジーに執着しているわけではありません。オリジナルでは不可能だった過剰な設定やステレオアウトプットを利用した使い方もできる、現代のエフェクターです。
各エフェクトには2つまたは3つのバリエーションが設けられており、単体で最大9種類のエフェクターを選択できます。なお、6つあるコントロールノブの働きがエフェクトによって切り替わるので、操作に慣れるまではマニュアルが必携アイテムとなるでしょう。
専用アプリ「UAFX Control」で製品登録を済ませると、無料ボーナスエフェクトがダウンロードできます。
「UAFX Control モバイル・アプリ」の使用で、トゥルー・バイパスとバッファード・バイパスを選択できます。またドライ音はデジタル変換されず、アナログのまま通過します。オリジナルのアナログエフェクターでは泣き所だった「音痩せ」もありません。本体の電源供給が遮断されたとしてもドライ音は本体を通過していきますから、万が一の時にも演奏が途切れることはありません。
踏みかえ時のスイッチ音は、ギターサウンドに混入しないようになっています。トゥルー・バイパス時にはスイッチ自体のカチカチ音こそしますが、この音がケーブルを通過することもありません。バッファード・バイパス時には、スイッチ音すらしません。
エフェクトのON/OFFに関わらず、電源に接続すればUAFXは起動します。複雑な演算処理を行うデバイスということもあって、PCやスマホのように、UAFXは電源に接続してから正しく起動するまでに約15秒を要します。UAFXの電源供給には、「アイソレートされたDC9V、400mA、センターマイナス、2.1 x 5.5 mm コネクタ」の仕様を満たすパワーサプライが必要です。接続端子はBOSSと同じなので安心ですが、アイソレートされ、電流量が大きめ、という仕様が求められます。
ではここから、UAFXシリーズのラインナップをチェックしていきましょう。それぞれ単体でも記事が書けそうな、モデリングへの執念と高い機能性がみられます。
「ゴールデン・リヴァーブレイター」は、真空管スプリングリヴァーブ、スタジオ用プレートリヴァーブ、初期デジタルリヴァーブの3タイプを収録したペダルです。製品登録すると、無料追加エフェクト「Chamber & Plate 224」が無料ダウンロードできます。
UAFX Golden Reverberator
「スプリング65」は、60年代のフェンダーアンプ20台以上の実機から3台を厳選してモデリングし、その3つから選択できるリヴァーブです。モデリングはリヴァーブユニットの範囲を超えてアンプ全体に及んでおり、本物のスプリングリヴァーブの質感/響き/倍音などすべてを再現しています。
バリエーションスイッチ「A」は高域の共振を伴う、キレがあって明るいキャラクター、同「B」は中域に共振を含む、暖かさと滑らかさがあります。同「C」は全体が共振し、長い持続音が得られます。
「プレート140」は、プレートリヴァーブの名機「EMT-140(1965~)」の、濃密で心に響くサウンドを再現しています。プレートの揺らぎで生じるモジュレーションを操作でき、真昼の太陽のようにあたたかい雰囲気でギターの音を包み込むことができます。
バリエーションスイッチ「A」は、明るい響きで早めの減衰、同「B」は暗く落ち着きのある響きで長めの減衰、同「C」は自然な揺らぎのある長めの響きが得られます。
「ホール224」は、デジタルリヴァーブの名機レキシコン「224(1978~)」が持つ、鮮やかで粒立ちの良いディレイと魅惑的なモジュレーションを、ビット単位で正確に再現しています。低域と高域別々にディケイタイムを設定できるのは、アナログでは不可能な機能です。
バリエーションスイッチ「A」は初期密度は中~高程度、色付けは低~中程度のルーム・リヴァーブ、同「B」は初期密度は中程度、適度に不均一なディケイを持つ小さめのホールリヴァーブ、同「C」は低密度で色付けが少なく、長く持続するホールリヴァーブです。
追加エフェクト「チェンバー&プレート224」には、味のある3つのバリエーションが収録されています。こちらも上記「Hall224」同様に、低域と高域別々にディケイタイムを設定できます。しかし上げすぎると無限リピートが発生することがあり、設定には注意が必要です。
バリエーションスイッチ「A」は高い初期密度と色付けを特徴とするパーカッシブなサウンド向け、同「B」は密度が一定なプレートリヴァーブ、同「C」は短い設定が推奨されるエコーチェンバーのシミュレーションです。
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「スターライト・エコーステーション」は、テープエコー、BBD式アナログディレイ、そしてデジタルディレイを収録した、新旧の高品位なディレイが使えるペダルです。製品登録すると、無料追加エフェクト「Cooper Time Cube」を無料ダウンロードできます。
テープエコーとアナログディレイはエフェクトとしてだけでなく、通すだけで音が良くなるプリアンプとしても愛されました。「プリアンプ・カラレーション(色付け)」機能は、このプリアンプとしての機能を操作できます。もちろん使わないという選択もできます。
トゥルーバイパス・モードでは、エフェクトON時のみプリアンプ・カラーレーション有効です。バッファードバイパス・モードでは、エフェクトのON/OFFに関わらず、プリアンプ・カラーレーションは常時有効です。
自己発振(無限リピート)するような過激な設定では、エフェクトをOFFにしても発振が継続されます。トゥルーバイパス・モードでは、切るとエフェクト音は無くなりますが、回路内で発振は継続されます。バッファードバイパス・モードでは、エフェクトを切っても発振はそのまま継続されます。
これを停止させるためには、自己発振が生じているモード(プリセットまたはライブ・モード)で、エフェクトタイプスイッチを切り替えるか、FEEDBACKノブを下げるかする必要があります。
「DIVISION(ディヴィジョン)」ノブの操作で、アナログエフェクターでは超絶に困難な、ディレイタイムの音符設定が可能です。タップテンポにも対応しているので、アナログの音でありながらデジタルの恩恵が受けられます。選択できる音符は、4分音符(ディレイタイムと同じ間隔)、付点8分音符、8分音符、3連8分音符、4分音符 + 8分音符+16分音符、付点4分音符の6タイプです。
UAFX Starlight Echo Station
「テープEP-III」は、テープエコーの名機、Maestro「Echoplex EP-3(1970~)」の回路を再現しています。テープや本体が劣化した影響までサウンドに反映させることができテープの揺らぎ、ノイズ、音飛びまで再現され、MODノブでその劣化具合を操作できます。バリエーションスイッチ「A」は新品同様の状態、同「B」は適度なメンテナンスが施された暖かみのある音、同「C」はメンテナンスが不十分なポンコツの状態です。
「アナログDMM」は、BBDアナログディレイの名機、エレクトロ・ハーモニクス「デラックス・メモリーマン(1980~)」の回路を、実機の醸し出すかすかな狂気まで再現しています。バリエーションスイッチ「A」はビブラートON、同「B」はモジュレーションなし、同「C」はコーラスONです。モジュレーションの速度は実機同様に固定で、MODノブで深さを操作します。
デジタル・モジュレーションディレイ「プレシジョン」は、劣化のない無垢で鏡のようなリピートに、フランジャーやコーラスをかけることができます。バリエーションスイッチ「A」はフランジャーON、同「B」はモジュレーションなし、同「C」はコーラスONです。
UA創設者の初代ビル・パットナム氏が開発に携わったUREI「920-16クーパー・タイムキューブ(1971~。以下CTC)」は、長いホースに音を通して物理的に遅延させる、というユニークなショートディレイです。ディレイタイム自由度の低さから人気は出ず、1,000台ほどしか生産されませんでしたが、独特なファットなサウンドとミックスに完璧に収まるという不思議な能力から、カルト的な人気を博しています。
オリジナルのCTCは34フィートのホースで30ミリ秒のディレイタイムを得ましたが、追加エフェクトのCTCは2.5秒までの遅延が得られるため、使えるホースの長さは2813フィート(857.4メートル)に相当します。
バリエーションスイッチ「A」はハイパスフィルターなし、同「B」はカットオフ周波数240HzのハイパスフィルターON、同「C」はカットオフ周波数1kHzのハイパスフィルターONです。
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「アストラ・モジュレーション・マシーン」は、クラシックなアナログ・モジュレーションを深く掘り下げた、バケツリレー式コーラス/ビブラート、またバケツリレー式フランジャー/ダブリング、そして真空管トレモロを収録したペダルです。製品登録すると、無料追加エフェクト「Phaser X90」 と 「Dharma Trem 61」 がダウンロードできます。
「バケツリレー素子(Bucket Brigade Device/BBD)」とは、コンデンサ(バケツ)と電子スイッチ(リレー)で構成された1ステージを何百と連結し、信号をバケツリレーさせて伝達を遅延させる回路です。たくさん遅延させるためにはたくさんのステージが必要となって大型化してしまうし、ステージを通過していくと音質が損なわれます。この音質の損なわれ方や欠損のフォローのし方が気持ち良い機材が、名機と呼ばれています。
UAFX Astra Modulation Machine
「コーラス・ブリゲード」は、BOSSの名機「CE-1(1976~)」の回路のふるまいまで完全に再現した、繊細な揺らぎ、きらめき、たしかな弾き応えが得られるコーラス/ビブラートです。オリジナルに基づいた操作系を再現しているため、このエフェクター起動時には一部のノブが機能しなくなります。バリエーションスイッチ「A」がコーラス、同「B」がビブラートです。
「フランジャー・ダブラー」は、MXRの伝説的なラックエフェクター「126 Flanger/Doubler(1976~)」の回路を再現しています。オーガニックな厚みやワイルドなかかり具合には、依存性ともよべる魅力があります。バリエーションスイッチ「A」がクラシックなフランジャーサウンド、同「B」がダブラーで、ディレイタイムを短めに設定するとダブリング、長めに設定するとコーラス的な効果が得られます。
「トレム65」は、60年代のフェンダーアンプに搭載されていた、チューブ駆動式トレモロの再現です。ゆらめく波紋から激しいうねりに至るまで、美しい揺らぎが得られます。バリエーションスイッチ「A」が正弦波(サイン波)で、オリジナルを意識した滑らかな揺れ方です。同「B」は矩形波(くけいは。方形波とも)で、カクカクに変化するアグレッシブな揺れ方です。
「フェイザーX90」は、クラシックな「スクリプトロゴ」と「ブロックロゴ」のMXR「フェイズ90」をベースにした、高機能フェイザーです。「SHADE」ノブがインプットレベルとなり、純正の12時から上げていくと倍音が強調されます。バリエーションスイッチ「A」がスクリプト回路で、 クラシックなハードロックトーンのための、スムーズでスローなフェーズが得られます。同「B」はブロック回路で、より速く、より腰の強い揺らぎが得られます。
「ダーマ・トレム61」は、低域/高域のクロスオーバー周波数を操作することでトレモロ速度をダイナミック操作できる、「ダイナミック・ハーモニック・トレモロ」というユニークなエフェクターです。バリエーションスイッチ「A」が 伝統的なハーモニック・トレモロ、同「B」は、フェイザー感のあるハーモニック・トレモロです。
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以上、ユニヴァーサル・オーディオが満を持して放つUAFXの3モデルをチェックしていきました。レコーディング業界では随一のサウンドクオリティで支持されるブランドだけに、モデリングの追い込み加減とそこからの発展のさせ方には、執念すら感じさせます。マニアックな追加エフェクトはお店でチェックできず、買わなければ使えません。こうしたポイントも所有欲をくすぐるデバイスです。ぜひチェックしてみてください。
ギター博士「濃密でムーディ、高音質ぢゃが、ハイファイというよりは素晴らしい音響でレコードを聞いたような、心に響く重厚な響き。エスプレッソのような、濃く、リッチなトーン。これは凄いワィ!!」
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