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続いて八田さんから、具体的にどんな特徴のあるギターを作っているのかを説明して頂きました。次は、こうした設計からどんな音を目指しているのか、どんなところを重要視しているのか、そういったところをお聞きしました。
フラッグシップモデル「Modernize Bend Top」。Fホールはないが、内部はしっかりくり抜かれている。Infiniteの特徴が全て反映された機能性と、このゴージャス感。30万円近辺という価格設定は、かなりのお買い得。
八田:弊社のラインナップは大きく3種類あり、そこからバリエーション展開しています。
今のところTradが一番人気で、フルサイズが追い上げている感じです。フュージョンやジャズのお客様が多いので、モダナイズではホロウのご注文を多くいただいています。ピックガードは埋め込みですが、これもNCゆえの加工です。モダナイズはフラッグシップなので、弊社ができることはすべて注いでいます。
思い切ったカラーリングのモダナイズは、某クモ男的なアメリカンヒーローのイメージ。
八田:Infiniteのギターは全モデルで、まとまった中域が得られつつも、ローがしっかり出ていて、プレゼンスもしっかりある、「フルレンジで鳴る音」が得られるよう設計しています。大前提をフルレンジに置いて、木材やボディ構造によって個性を出していくのがInfiniteのサウンドです。改善できることはいつも探していて、新しいことはどんどん試しています。
フィギュアドメイプルは、しっかり確保している。とはいえ銘木で勝負するブランドではない、という考え。
八田:プレミアムな銘木を贅沢に使用した「木材が作る良い音」といったサウンド作りは、弊社には苦手な分野です。弊社にとって、プレミアムな木材を安定的に仕入れるのは困難だからです。そのかわり「ものつくり」の原点に立ち返り、構造と木工を中心に、サウンドを作ろうとしています。
標準的なメイプル材も、板目材(左)と柾目材(右)を使い分ける。ヴィンテージ・スタイルなら板目材が良いし、モダン系なら柾目材を使いたい。
八田:サウンドや演奏性に与える影響が絶対的に大きいため、ネックには特に深くこだわっています。そのためネック材は、仕入れてから最低でも2年は寝かせます。ロースト材は、3か月ほど寝かせるだけで使用できます。
玉目模様が美しいバーズアイ・メイプル。持ち味のツブツブが映えるよう、木取りされている。
八田:板目や柾目、ローストしていたりしていなかったり、バーズアイ、ローストのバーズアイ、ローストのフレイムメイプルなど、メイプルにもいろいろあります。
ローステッド柾目5Aフレイムメイプル材。どこぞのコーヒーショップに来たかのような長い名前だが、とてもすばらしいネック材。ロースト材は、メイプルの本場カナダの業者から安定的に仕入れている。
八田:ローステッドメイプルは、指板とネックに使用しています。熱処理によって水分が抜けるので、通常より20%ほど軽量です。また内部のセルロースが結晶化するので、物質的にはヴィンテージギターのネック材と同じ状態になります。ただし、ロースト材は硬すぎるがゆえに脆くなりがちです。ですからロースト材に限っては、強度に優れる柾目材を指定して仕入れています。ローストのネック材には、外れはありません。
ロースト材が自社で作れるかどうか、可能性を探っています。ネック材は専門業者に引き続き依頼するとして、弊社ではボディ材のローストを実現させたい考えです。
NC加工した指板。カドを丸める「ラウンド・エッジ」加工がすでに施されている。
八田:ネックは手に吸い付くようなフィット感を意識しています。
フレットの溝は両端を残し、指板の強度を保っています。指板の「コンパウンド・ラジアス」や「ラウンド・エッジ」もこの段階でNC加工します。手作業では多少なりとも狂いが出てしまうところをメカに任せることで、個体差を抑えた精度の高い生産ができます。
設計に深くこだわりつつ、製造においてはNCを軸に据えており、人間の仕事量を抑えて合理的に作っています。安いといってもベーシックモデルで20万円近辺という価格設定です。それだけのお支払いをいただくことを思うと、頑張って良いギターを作っていこうと思います。
工場は木工が中心で、この日は4人のスタッフさんが作業していました。組み込みと塗装は、別の敷地にある事務所兼リペアショップで行われます。
中央のデスクは、いろいろな作業のために柔軟に使われているらしい。製品を傷つけないよう、プチプチが敷かれている。
こちらはボディ加工用のNC。
そしてこっちは、ネック加工専用のNC。NCは2台。
機械加工が多いとはいえ、やはり人の手で行う作業もたくさんある。
合理的な配置で、スムーズに作業できそうな印象。なお、作るのは自社製品のみで、OEMは受けていない。
工場の二階は木材倉庫と事務所。温度や湿度はしっかり管理されている。
仕入れたばかりのメイプル材。しかしココから2年はおあずけ。
グレードの高いメイプル材も、しっかり確保。
ベースも企画中。
ネック材/ボディ材と指板材で、部屋を分けているらしい。
ローズとエボニーの中間と言われ、近年よく知られてきたパーフェロー。
貴重なハカランダも、しっかり確保。
八田:ハカランダは、アメリカに行けばたくさんあるんです。しかし、持ち帰るためには書類をたくさん書かなければなりません。そんなわけで、ギターメーカーの何社か共同で、まとめて仕入れています。
ボディ材は、貼りつけて2Pにした状態で保管。それぞれに重さがメモされている。
銘木での勝負はしないと言いつつも、やはりフィギュアドメイプルはしっかり確保している。
時節柄とはいえ、マスクを着けたままの取材であるのが惜しいイケメンの八田さん。取材を受けながらもスタッフさんにはキビキビと指示を下す。
いろいろ見てきましたが、最後にこれまでのInfinite、現在取り組んでいることや未来について、いろいろなお話を伺いました。
八田:弊社はModernize、Trad、Trad Full Sizeの3つを作っておりますが、これらラインナップを出発点としたオーダーも可能です。現在、モダナイズでダブルネックのご注文をいただいております。もちろんお値段に反映してしまいますが、こちらでCADデータを作り、NCで加工しますから、たいがいのご注文はお受けできます。
八田:現状で、最大月産30本程度です。弊社の事業はリペアとギター製造ですが、リペアのご依頼も多くいただいておりまして、リペアと製造の売り上げは同じくらいです。リペアにも専門のスタッフがおり、弊社の軸です。リペアをご依頼されるお客様は、始めたばかりの人からプロミュージシャンまで、近隣の人は直接持ち込んでくださいますし、遠方の方は郵送されます。
弊社のリペアは価格を抑え、項目ごとにキッチリ値段が決まっている明朗会計です。いくらかかるかわからない、というのは不安要素しかありませんよね。私も依頼する立場なら、そう思います。そのためほとんどの項目で「コレは¥○○○~」ではなく「コレは¥○○○です」と明示しています。ヴィンテージギターに対するアップチャージもありません。
八田:私は19歳で音楽専門学校のプレイヤー科を辞めて、1年くらい演奏を生業にしていました。しかし続けられないと感じて、WEBの会社に就職しました。そこではディレクターしながらデザインやコーディングなど、いろいろやりました。WEBの業界は展開が早いです。駄目ならすぐ辞める、できたら次、その次、とどんどん進んでいきます。私はその感覚のままでギター製造を進めているようで、ディレクターの経験は今の仕事に活かされていると感じています。
八田:会社で働きながら、知り合いのギターをリペアしていました。数年で仕事が増えてきて、ここに可能性を感じてリペアショップとして独立しました。何年か続けているうちに、このまま一人でリペアショップを続けるか、人を雇って事業を拡大していくか、この二つを選択する時が来たと感じました。
やはりギターが作りたい、という思いがあったので、ここで初めてスタッフをひとり雇い入れることにして、その1年後に法人化しました。現在、法人化して5年目です。Infiniteブランドの立ち上げは2017年ですが、製品のリリースは2018年中盤です。
生産体制ができたら、今度は販路が必要です。弊社で直販は難しいことが分かったので、楽器店に置いてもらおうと営業したこともありました。でも私が営業に出ている間は、工場の稼働率が一人分落ちるんです。普通のギターメーカーなら営業スタッフを一人雇うところでしょうが、生産台数と本体価格、そして人権費のバランスを考えると、弊社の場合はやはり難しいと考えました。
そこで、今では代理店(取引を代理する業者)にお願いしています。代理店が製品のPRをしてくれるので、私たちは営業の人件費を抑え、得意な仕事に集中できます。今ではおかげさまで各地の楽器店さんに置いてもらっておりまして、各方面でご支持をいただいております。また来年あたり、アメリカを手始めに海外進出を考えています。弊社はギター業界の「ベンチャー企業」のつもりで頑張っています。
八田:リペアを受けながら、ギターを作りながら、新しいことを模索しています。そのためスタッフに一人、製品開発の担当者がいます。彼はCAD/CAM(コンピュータ支援設計/コンピュータ支援製造)の技術者としても働いているんですが、彼には「作業が止まってもいいから、新しいものを開発してくれ」と伝えています。
彼は5年前に入社したんですが、もともとドラマーでギターのことは知らず、コンピュータの技術も持っていませんでした。入社して半年は基礎的な木工を覚えてもらって、そこからCADの勉強をしてもらいました。2年くらいで初めてギターらしきものが設計できるようになりましたが、それまで彼に支払う給料はリペアで支えていました。
数年前まで素人だった彼は、今や弊社の柱です。そして数年で覚えたCADで設計したギターは、太平洋を渡ろうとしています。彼は小学校からの同級生でしたから、お互いに遠慮がありませんし、私は無茶しか言いません(笑)。しかし、相当がんばってくれたのだと思っています。
ここから事業規模の拡大を視野に、スタッフの増員も考えています。ここからは大阪のメリットですが、府内のギタークラフト専門学校から、インターンを受け入れています。学生さんに何人か来てもらって一週間ほど業務を体験してもらうんですが、弊社のことを知ってもらう良い機会でもあるし、弊社は見どころのある学生さんを人材候補としてチェックできます。
八田:「ミカルタ」は、レジン(樹脂)を吸わせた繊維を圧縮して固めた、ひじょうに硬い素材です。ナイフや包丁のハンドルに使われるほか、ギターではナットに使われます。これを木材に応用したのが「スタビライズ・ウッド」です。
スタビライズ・ウッドのブロックとピックガード。木材には、まだ可能性が残されていた。
八田:最近よく見るバール材は、美しいけど密度が低くて、強度に劣るのが難点です。弊社では極薄の化粧版としては使えても、トーンウッドとしては使えないと考えています。しかしかっこいいし、使いたいんです。そんな中で見つけたのがスタビライズ・ウッドで、真空状態で木材の中まで均等に樹脂を吸わせ、加熱処理で硬化させます。完成体は、木材とレジンが均等に混ざったハイブリッド(混合物)です。樹脂に色を付けることもできますから、切っても同じ色が出ます。
均等な素材は、楽器にとって理想的な材料だと思います。トーンとしてはちょっと硬質で、指板材にも有効だと考えています。今のところピックガードを試作していますが、これくらいのサイズなら家庭用の電化製品でじゅうぶん処理できます。スタビライズ・ウッドは、今までギターに使えなかった低密度の木材から作ります。木材の可能性が広がりますよ。これが使えたら、音も見た目も、かつてないギターを作ることができます。
すでにナイフの柄やペンの軸など、小さなものでは実用化されています。しかし大きいものではとにかく設備投資が必要で、そのぶん製品の価格も跳ね上がります。ボディやネックの大きさでこれをやろうとしたら、恐ろしい金額になります。これをどうしたら現実的な価格で実現できるか研究しているところですが、来年の春にはお見せできると見込んでいます。
──夢とドラマと可能性を感じるお話が聞けました。ありがとうございました!
八田:ありがとうございました。
以上、大阪のリペアショップから生まれた新進気鋭のブランド「Infinite」について、社長の八田さんからいろいろなことを伺いました。新しいジョイント法とネック構造は、まさにギターの「イノベーション(新機軸)」と呼ぶにふさわしく、新しいものを世に訴えていくInfiniteはギター業界では稀有な、ベンチャー企業です。
NCルーターを積極的に利用する合理的な生産体制といい、営業と販売を代理店に依頼する「アウトソーシング(外部委託)」といい、業界の因習から自由な新しい企業らしい、新しいスタイルを感じさせました。それでいて、経験のない社員を一人前に育て上げるという「人づくり」も行われていました。
Infiniteのギターは各地で話題となっており、ギター博士も動画で使用しています。お店で見かけたら、エレキギターのイノベーションにぜひ触れてみてください。
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