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──防音室があると、思う存分チェックできますね!
篠原 ここにはアーティストさんがいらっしゃることも多いんですが、防音室に10時間も立てこもった人がいました(笑。
「SHINOS」のブランドロゴが光るのが、尋常でなくかっこいい。また、底面に「スラントバー」がついているので、斜め上に向けても設置できます。
篠原 初期に採用していた電球が手に入らなくなったので、現在ではLEDで光らせています。そのため初期のものと今のものとでは、光り方にちょっと違いがあります。今の現場では「イヤモニ(イヤーモニター)」を使うことが多いですが、そうでない現場ではアンプにスラントバーがあると、ステージで自分の音が聞きやすくなりますね。
──ところで、どの会社のアンプでもそうなんですが、どうしてツマミの下に機能名(Volume、Trebleなど)を書くんでしょうか。アンプを床に置いた場合、ツマミが邪魔になって読みにくいので、屈みこまなければならないと思うんです。
篠原 弊社のアンプでは、キャビネット(箱)の天井部分をカットするなど上からも見やすい工夫をしています。ツマミの下に名前を書くのは、「バミる」ためです。好きな設定を覚えておくために、テープを張ったりマーキングをつけたりできるスペースを残すわけです。
試奏で使用したのは、Fender Custom Shop 1960 Stratocaster NOSです。いわゆる「ヴィンテージ系の枯れたサウンド」を特徴とするこのギターに、SHINOSのアンプはどう応えてくれるのでしょうか。さっそく「Luck 6V」を弾いてみます!
国産ハイエンドギターアンプ、SHINOSのフラッグシップモデル「Luck 6V」を試奏させていただきました。 pic.twitter.com/23arIvpM7x
— Supernice! (@supernice_music) April 10, 2018
高音域から低音域までしっかり感じられるレンジの広さがじゅうぶんにありながら、いらないところが絶妙にカットされて整理されたサウンドに感じます。高音域は耳を傷めやすいところが抑えられていますし、低音域は不要な圧迫感を感じさせない程度にまとまっていますから、どれだけ音量を上げてもうるさくないばかりか、音量を上げれば上げるほど気持ちがよくなります!
篠原 SHINOSのアンプはハンドワイヤード(人間の手でハンダ付けして作る)で作られており、その「質感」というものがしっかり出ています。タッチの速さ、生々しさ、「ドンッ」と来る迫力、レンジなど、アンプから得られる情報量が大量生産のアンプとはケタ違いです。そのため大きな音に感じますし、音圧もしっかり得られます。
──それにしても、ツマミをどう回しても、気持ちの良い音です。回路の隅々まで、篠原さんの感性が行き渡っているのではないでしょうか。
篠原 アンプのイコライザーは、「12時」が標準です。トレブル、ベースなどをいったん12時にしてから、お好きなように調節していただくのがお勧めです。
続いて「WIN」のサウンドです!
国産ハイエンドギターアンプSHINOS、小型軽量ながら50Wの高出力を誇る「WIN」を試奏させていただきました。 pic.twitter.com/8kFu2ynxNQ
— Supernice! (@supernice_music) April 10, 2018
本体は小さいのに、サウンドにはものすごい迫力がありますね!篠原さんは「適度な歪み」とおっしゃいましたが、しっかりとじゅうぶんに歪んでくれます。最大限に歪ませても音の粒は明瞭で、ミストーンをごまかすことができません。「若い人のために」リリースしたというアンプですが、これを使っていたら確実に技術が向上しますね!スプリングリヴァーブがまた良い感触です。
篠原 このアンプについては機能が多いですから、使ってくれるアーティストさんでも「アンプ直」の人もいれば、エフェクターでしっかり武装して使う人もいます。
──驚きました。このギター(Fender Custom Shop 1960 Stratocaster NOS)は普段のアンプで鳴らすと「枯れた味わい」が得られる、いわゆるヴィンテージ系のサウンドを持っていると思っていたのですが、「Luck 6V」や「WIN」で鳴らすと、予想を越えた音が出ます。クリーントーンではハリとツヤのある滑らかさが得られ、歪ませると飽和感のあるパワフルなサウンドが得られますね。自分のギターで鳴らすと、アンプの性能やキャラクターが良く分かります。ヴィンテージ系のギターでこれですから、モダン系のギターも持ってくればよかったと思いました。
篠原さん自身は、ご自分が設計した「Luck 6V」や「WIN」の音を聞いて、どう感じるのでしょうか。「イイなー」って感慨にふけったりするんでしょうか。
篠原 それよりも、「もっとココをこうしてみよう」という感じに、改善点やニューモデルのヒントを先に考えます。目指しているのは一つの方向なんですが、この方向に向かってさらに良くするためにはどうすればいいんだろう、と考えるわけです。だからユーザーの耳というより「開発者の耳」でサウンドを聞いています。
バンドでレコーディングするときなんかと同じかもしれませんよ。録音して、ミックスして、完成版ができた時に限って「あー、あれをこうすればよかった」なんて思いつくことっていっぱいあるじゃないですか。
──確かに!よくありますね!納得です。
整然と整理された、いかにもインダストリアルな雰囲気の作業机。計器類が並んでいますね。キチっと整理されています。
篠原さん作業机の上手側、見やすいところに鎮座するこの装置は・・・。
──「IWATSU」のロゴがついているこの装置は何でしょうか?このロゴから察するに、ここ(岩崎通信機株式会社)で作られたものですね?
篠原 はい、これは「オシロスコープ」で、音の「波形」を見る装置です。アンプの出音などをこれでチェックするので、アンプ開発では絶対に必要です。
篠原 防音室の隣に木工室と塗装ブースを作っています。木工室ではキャビネットを作っています。
篠原 アンプの修理だけでなく、ギターの修理/調整もやっています。
バックにそびえ立つのは、SHINOS初のシグネイチャーアンプ「SW-1 “THE BUILBING”」。古き良き60年代を想起させるレトロなルックスに、異なる二つのスピーカーを採用するこだわり。
──このテレキャスターはミュージックチャイナでもお見掛けしました。これはどういうギターなんでしょうか。
篠原 これは、ずいぶん昔ですが僕が作ったものです。知り合いの職人に作り方を教えてもらって、自分用に1本とミュージシャンに2本作りました。
──何と!自作でしたか!アンプが作れるんだから、ギターも作れるというわけですね!
篠原 いえ(笑)、ギターを作るのとアンプを作るのとは、まったく別の作業です。ギターはずーっと木工と塗装で、電気部分の作業はほんのわずかです。仕事の合間に作っていましたから、一本当たり1年くらいかかりました。しかし、時間をかけて作った方が結果的に良いものができるみたいです。削ってからしばらく寝かしておくことになりますから、木工としてはむしろ好都合だったようです。
──実はぜいたくなギターなんですね!
では、その背後にそびえる「SW-1」を拝見します!
──これは面白いですね!それぞれの目盛りが「11」までありますよ!「10」からさらにもう一息アップさせる感じがイイですね!
「SW-1」の後頭部。着脱式のバックパネルは大きく開口しており、ちょっとしたメンテナンスならすぐできる、という雰囲気。
「SW-1」の後ろ姿。キャビネットには異なる二つのスピーカーが確認できます。スピーカーキャビネットの背後が空けてあるのは、メンテナンス性だけでなく音のためでもあります。
──「SAHASHI MODEL」と書かれたこのアンプは、何をするところでしょうか。配線のカラーリングがきれいですね。
篠原 これは佐橋佳幸(さはしよしゆき。ギタリスト/プロデューサー)さんの「Luck 6V」で、これから「リヴァーブ追加」という改造を施すところなんですが、そのためには回路をいろいろ組み替えなければなりませんから、かなり大規模な改造になります。弊社が採用している「異なるスピーカーの組み合わせ」は、佐橋さんのアンプを開発中に偶然見つかりました。
例えば赤だと高圧電流が流れるなど、配線の色にはそれぞれに意味があります。今はこれと並行して、新しいアンプの試作もしています。
SHINOSでは、キャビネット(アンプの外箱)も自社で手作りします。木工担当の元野さんに、実際に木材を加工するところを見せていただきました。立ち上げ当初の工房は手狭で、修理をしている隣で木工を行っており、木工作業のたびに大掃除をしていたそうです。今の工房はちゃんとそれぞれの部屋に分かれているので、とても助かっているのだとか。
ズバババババーーーッ
カットした木材に、「ダヴテールジョイント」のミゾを刻みます。残す部分を示した冶具(じぐ)をセットし、この冶具をガイドとして、当たっていないところを切削します。この作業は粉塵と音がすごいので、マスク、ゴーグル、そして耳当てが必須です。
ギュイーーーーーン
整然と並ぶ鳩の尻尾(ダヴテール)。手間はかかりますが、木材をしっかりと組み合わせることができるので、それだけ強固なキャビネットができるというわけです。
CADで作成した図面。アーティストさんからの特注に応じるときは、このような図面を作成することも多いのだとか。
──ギターアンプを作ろうと思ったきっかけは、やはり現場のアンプの不具合に悩まされたからなのでしょうか。
篠原 はじめはローディーとして働いていましたが、そこまで詳しくもありませんでしたから、機材のトラブルが発生した時、その場で対応することができませんでした。それで「自分でできるようになりたい」、「技術を習得して、プロフェッショナルなテクニシャンになりたい」と考えました。そこから一気に勉強しまして、2~3年でギターアンプの修理ができるまでになりました。アンプの原理がわかってくるにつれて、「真空管って、面白いな」と思うようになり、「自分のアンプを作ってみたい」という衝動が沸きました。
最初はフェンダー・ベースマンのコピーから始めたんですが、音質はともかく普通に音が出るものを作ることができました。そこから何台か作っていくうちに、レプリカの音に満足しなくなってきて、オリジナルが作りたくなってきたんです。
ちょうどその時に、「THE MODS」の森山達也さんに「じゃあ、アンプを作ってほしい」と言われました。小さいけどステージで使える、オールマイティーなアンプが欲しいということから、オリジナルアンプの具体的なアイディアを煮詰めていったんです。ステージで壊れない、ちゃんと大きな音がする、メンテナンス性が良い、など欲しい性能をいろいろ考えていって、6V6管を使った20Wの小型アンプを作りました。それがオリジナル第一号で、森山さんは今でもそのアンプを使ってくれています。
この第一号をスタートとして、さらにいろいろと考えて完成したのが「Luck 6V」です。
──今後、どんなものを作りたいですか?
篠原 弊社がリリースしている「SILENT AMP(サイレント・アンプ)」は、防音に対してものすごくこだわっていますから、音漏れがありません。鉛の板を張り巡らして高音域を遮音して、さらに吸音材で囲って低音域を熱に変えてしまいます。これは宅録を想定していて、可能な限り小型化させました。
「SILENT AMP」の模式図
鉛の板と吸音材で防音を施したキャビネットの内部に、スピーカーとマイクを置く。内部でギターの音がギャンギャン言っても、音は外へは漏れない。静かな環境で、スピーカーが空気を振動させる「生のギターサウンド」を録音することができる。
この「SILENT AMP」のスピーカーだけ、というものをやってみたいなと考えています。スピーカーを4発装備した大型のキャビネットに超強力な防音処理を施し、100Wのヘッドでも自宅で遠慮なく鳴らして宅録できるようなものを作ってみたいです。これほどのものをしっかり防音するには鉛板&吸音材の壁を二重にする必要があるし、そうとう重くなるし、どれだけ大きなものになるか、予想がつきません。しかし、「SILENT」を名乗る以上、そこのクオリティにはこだわりたいんです。
──「SILENT AMP」は面白いですよね。宅録以外にはどういう使い方が考えられますか?
篠原 現代の現場では、イヤモニが世界的に使われています。ギターアンプをステージの袖で鳴らす、ということもあり、「ステージ上ではドラムしか聞こえない」というのも珍しくありません。こういう現場に「SILENT AMP」を起用したら、舞台の袖もうるさくないし、イベントの進行がスムーズにできるわけです。
──ところで、仮に求人を出すとしたら、どんな人に来てほしいでしょうか?
篠原 弊社の場合、ライブやレコーディングなどの現場に出ていかなければなりませんし、電工も木工もできる必要があります。いろいろなことができなければなりませんから、高い技術を持っている人は欲しいです。またそれとは別に、技術は無くてもギターが好き、アンプが好き、という気持ちを持ちながら、現場の何十人ものスタッフさんと連携を取ることができる、すなわち「元気で明るい人」が欲しいですね。技術は磨いていけばいいんです。
以上、ハンドメイドアンプメーカー「SHINOS」より、代表の篠原さんにいろいろなことを伺いました。SHINOSのギターアンプは美しいサウンドと道具としての安心感を両立させた、アーティストが現場でガンガン使い倒すためのアンプです。アーティストのファンにとっては、「憧れのギターアンプ」になっていくことでしょう。SHINOS公式サイトでは試奏の受け付けもしていますから、頑張って手に入れたいという人は、問い合わせてみてください。
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