エレキギターの総合情報サイト
「T’s Guitars(ティーズギター)」は高い加工精度、ていねいな作り、美しい仕上がりと尋常でない弾きやすさにより注目を集めているギターブランドです。セットネックモデルの Arc、スーパーストラトの DST を主軸とするカスタムメイドのハイエンドギターが、多くのプレイヤーの支持を集めています。
今回は、長野県塩尻市、角前(かくまえ)工業団地の一角に本社を構える「有限会社ティーズギター」社長の高橋謙次氏とお会いする機会をいただきまして、ティーズギターの魅力や調整のコツ、また「バジー・フェイトン・チューニングシステム(BFTS)」の権威としてその特徴やメリット、注意点などいろいろなテーマでお話をうかがいました。
──ティーズギターは顧客の好みに合わせて作る「カスタムメイド」を基本に据えていますが、オーダーが来てからどれくらいの期間で完成するのでしょうか?
高橋 5~6ヶ月くらいの納期をいただいています。最短2ヶ月で作ろうと思えば作れるんですが、あまり急いで作ってしまうと後から狂いが出てしまうんです。
ネックの加工に一番時間がかかり、2カ月を要します。削ると木材と刃物との摩擦によってネックが熱を帯び、わずかに変形するんです。このまま作業を進めてしまったら狂いが出てしまうので、粗加工を行ったらしばらく時間を置きます。指板を貼ってからもしばらく置き、というようにちょっとずつ時間を置いて進行させています。ネックと指板については「寝かせれば寝かせるほど良い」という考えなので、どうしてもそこで時間がかかるんです。ですからネックだけは、あらかじめ途中まで作っておいて何ヶ月も寝かせ、その中からオーダーの内容に合うものを選別しています。
ボディは材の選定さえ済んでしまえば、削るだけなら1日でできます。途中まで作ったストックのネックはあるので、弊社製品のグレードのわりに納期は短めです。
T’s Guitars社長:高橋謙次氏
──ギターを作る道具に関して、こだわりはありますか?
高橋 木工の道具には、それほど特別なものはありません。加工に使用するのは主にルーターやボール盤などですが、だいたいどこの工場でも決まった物が使われています。ボディの加工の中で特殊なものがあるかというと、そういうわけでもありません。
ティーズギターのNCルーター
弊社にはNCルーター(コンピュータの制御で自動的に削る)がありますが、コレを使用する「機械加工」と「手加工(ピンルーターを使って、手で加工する)」を使い分けています。細かい仕上げは職人の手作業です。異なる作業を組み合わせて、巧く進行させようといつも考えています。
木地研磨については、いわば原始的な工法をあえて選択しています。先進的な工場ではNCルーターでほとんど仕上がりに近い形状まで追い込んでから、サラッと研磨を済ませます。それによって誤差が抑えられるし、どの職人が仕上げても同じ結果が得られます。いっぽう弊社では荒く機械加工をした後、ゲージや手の感覚を頼りに最終の形状まで仕上げています。一本一本触ってみながら進めますので、手間がかかります。もっと良い工法があるのかもしれませんが、今のところこのやり方が弊社にはベストです。
反面、塗装には特に特別な道具はありませんね。凝るとしたら、職人それぞれグレードの高いこだわりのマスキングテープを使っています。セットアップはチューナーにこだわっていて、ピーターソンの業務用のものを使用しています。
──ティーズのギターを使用する際に、気をつけることはありますか?
高橋 ティーズのギターを買ったら、サドルは出来るだけ動かさないようにして下さい。BFTSはサドルの位置で合わせているからです。弦高が変わってきたら、サドルよりネックの状態を見ます。ネックを真っすぐに保ち、弦高が新品の時と同じになるように気をつけてください。もし変化していたら、ぜひ自分でロッドを回して調整してみてください。自分でロッドを回しても、ウチの製品はまず壊れないから安心です。
どこも押さえていない状態で、1弦12フレットで1.4mmか1.5mmという弦高で出荷します。誰でも弾きやすく、気持ちよくいつまでも弾けちゃう、弾き始めたら止まらない、今まで弾けなかったフレーズまで弾けちゃう、という弾きやすさを実現するセットアップが僕の理想です。昔そういうギターに出会ったことがあって、こんなギターを作りたいな、と思ったんです。そのほかのハイエンドブランドのギターも、すごく印象が良かったのを覚えています。
1円玉がだいたい1.5mmの厚さなので、コレが12フレットに入るか入らないかで見ることができます。コレを13だったり14だったりで試してみて、違いをチェックするとわかりやすいです。最初の調整バッチリの時点でチェックして「自分のギターは14で入る」みたいに覚えていれば、入らなくなってきたら逆ぞってきている、余裕が出てきたら順ぞっている、と判定できます。もちろんティーズ以外のギターでも同様にチェックできます。
高橋社長は日本人で初めて「バジー・フェイトン・チューニングシステム(BFTS)」のライセンスを受け取った、この分野での第一人者です。「響きが美しい」と言われるBFTSとは何なのか、これを搭載したギターはどう扱えばいいのかをお伺いしました。
──高橋社長はBFTSの権威として知られています。BFTSの特徴やメリットには、何があるのでしょうか。
高橋 良いギターを作りたい、少しでも、1%でも1箇所でも、他社と違う良いものを作りたいな、と思った時に出会ったのがBFTSです。もちろん先行するハイエンドブランドが採用していたというのもありましたが、チューニングに関しては自分でも悩んでいたので、コレはいいものに出会ったと思って始めました。
ギターのチューニングは「平均律」で合わせますよね。一言で「平均律」と言っても、誰々の提唱する平均律、といいうものがいろいろあるんです。どれも正解と言えば正解なんですが、BFTSはヴェルクマイスター(Andreas Werckmeister (1645ー1706))が捉えた平均律からヒントを得て作っています。
例えばドとソを同時に鳴らすとき、ギターではチューニングが合っていたらうねりのない澄んだ響きになります。しかし実際に楽器店においてあるピアノでこれを試すと、ちょっとうねるんです。なぜかというと、そういうふうに調律しているんです。ドとミ、ドとソなどを一定の周期でうねるように合わせていって、全体のハーモニーを作ってゆきます。ギターでも同じようにうまく音程を散らして、どこでも均等にうねりがようにするのがBFTSです。どの音程も合うようにするのではなく、割り振りを調整してうねりを均一化させるんです。コードを弾くと音はうねるんですが、どのコードを弾いても均等にうねる、誤差を散らすセッティングなんです。そのおかげで和音に奥行きと広がりが出ます。
だからBFTSでセットアップした弊社ギターのオクターブピッチを普通のチューナーでチェックすると、ずれているんです。しかしそれで正常です。これを「オクターブがズレているから」といって修正してしまったら、台無しになってしまいます。ですのでサドルは動かさないようにしてください。
工場には BFTS 専用のピーターソンのチューナーが
もしかしたらブルース系のプレイヤーにとっては、BFTSは無くてもいいかもしれません。しかしジャズやポップスなどで響きの美しさを重視するプレイヤーにとって、かなり嬉しいことだと思います。オープンコードを弾くだけでも心地よいので、ギターボーカルの方にもお勧めです。アコギの12弦ギターなんかでBFTSを使用すると、とても美しいですよ。厳しい目で見て12本のイントネーションすべてが合っている12弦なんて、なかなか無いんです。
お客様に「BFTSじゃないヤツが、あえて欲しい」って言われたことがあって、比べてもらったことがあります。チェックした結果「どっちもいいですね」って言われて、ある意味安心しました。BFTSじゃなければ合っていないとか、コードが乱れるとかではないんです。ナットをフレットにちょっと近づけた位置に設置していますが、それ以外は普通のギターと変わりません。ナットが「1フレットに近い」のではなく、「全フレットに近い」ものですから、開放弦と、その他の全フレットの音程差に意味があります。
──BFTSは、専用チューナーでないとチューニングできないものなのでしょうか。
高橋 いえ、普通のチューナーで普通にチューニングしてくれていいんです。あまりそこを難しく捉えられてしまうのも良くないと考えています。
ただし専用のチューニングに従うことができれば、より「コードの整合性」が出ます。ちなみにBFTSのバズ・フェイトン社では「ピーターソンのストロボチューナーでセットするのがベストだ」と提唱しています。
各弦ごとに少しずらしたチューニングにするんですけど、1セント2セント(半音の100分の1。通常のチューナーで測定できる限界。)の違いなので、微妙と言えば微妙です。ギターは弾いているとチューニングが崩れていくものなので、普通に合わせてしまってもそれほど変ではありません。
備考:トム・アンダーソンのサイトでは、「普通のチューナーでBFTSにセットアップしたギターをチューニングする方法」について触れられています。1弦はジャストで合わせ、2弦は針一本分高くして、3、4、5、6弦は7フレットのハーモニクスでジャストに合わせる、というやり方です。ハーモニクスは、定番の12フレットではなく、7フレットです。この方法はBFTS専用であり、普通のギターでは意味がありません。普通のギターの場合は、普通のチューナーで全部真ん中に合わせます。
──自力でのオクターブ調整は、できるものなんでしょうか。
高橋 BFTSに乗っ取ってセットアップするには、その資格を持っているヒトにやってもらわなければなりません。日本国内にもライセンスを取っているところが20店舗くらいありますので、そういうところに依頼するといいでしょう。7弦ギター以上の多弦ギターにもBFTSは対応できます。
「時間と共にピッチが変わっていく」ことを頭に入れてチューニングしていくことはとても大事なことです。ポンと弦を弾いてから一瞬音程が上がって、徐々に下がっていきます。「どこに合わせるか」を見抜くのが、クラフトマンの腕の見せ所です。チューナーの針が落ち着いてしまってからだと見やすいですが、実際の演奏のときには音程が上ずって聞こえることもあります。「高級なギターだと変化しない」というわけではありません。
「ピッキング」は厳密に分析すると、「弓を引くように、弦を引っ張って放す」という動きです。弦は引っ張られているわけですから、鳴らされた瞬間には弦の張力が上がり、音程も高くなります。それからだんだん落ち着いて来るという変化をしますが、このときチューナーの針はピッキングの瞬間ポンっと右に跳ねて、徐々に左側へ動いていきます。振幅が狭くなるので引っ張られる量が減るんです。どのギターでも必ずそうなるんですけど、このパンって弾いた直後のピッチに合わせるのがいいのか、それとも落ち着いてからの方がいいのかというと、普通の演奏では続けてピッキングするので、弾いた直後、針が跳ね上がった直後の所に合わせてチューニングすると、正しい高さに聞こえます。演奏時の音程に近いかな、と思いながら調整してくと、違いは出てきますよ。
続いて高橋社長にご用意いただいた T’s Guitars のサンプルを、Supernice!スタッフが試奏させていただきました!
試奏させていただいた DST サンプルモデル
──私が知っているエレキギターの音じゃありません!
ピアノやオルガンのように、本当に均一に響いていますね!しかもポールピースが固定されているシングルコイルの音も、不思議と各弦の出力が均一です。絶妙なセットアップです。
高橋 オーダーで作るのは「DST」が多いですね。小ぶり(Dinky)なストラトタイプということで付けた名前ですが、今ではディンキータイプに加えてフルサイズのボディがあります。このDSTサンプルはいわゆるストラト属のギターとは違うトーンを持っているんですが、マホガニー2ピースボディなんです。そのため反応が早くて、全体がドーンって出る感じになっています。それだけでなく、ピックアップの特性や、ネックの強度が「鳴り」に関係しています。
T’s Guitars「DST」について詳しく
──こちらのArcは、また美しいギターですね!
高橋 「ほかのメーカーと違うものを作ろう」と考えて最初に作ったのは Arc で、第一号は Arc-Hollow というホロウボディのモデルです。「Arc」の名称はアーチトップ(Arch Top)から来ているのですが、電気用語のアークやノアの方舟(Ark)などからもインスピレーションを得ました。
ピックアップも弊社で開発していますが、磁力の付け方を調整することで弦振動の邪魔をしにくくしています。このサンプルのピックアップは、フロント/リア共にアルニコIIを採用したヴィンテージ志向のセットです。ほかにはフロントにアルニコIV、リアにアルニコVを採用して、ややパワーを増強した現代志向のセットがあり、DSTもArcも同じハムバッカーを使っています。弊社の製品は、歪ませても音程感がしっかり残ります。歪んだ音のクリアさ加減は、アンプの性能だけではなくギター本来の音色も重要なんです。
T’s Guitars「Arc」について詳しく
──FRT(フロイドローズ・トレモロシステム)は便利ですが、ヴィンテージズタイルのブリッジに比べて音色に「コシ」が無くなってしまうことがあるように感じています。FRTのセットアップで注意すべきことは何でしょうか。
高橋 定番機ではここ2年くらい、FRTのニーズは減っています。しかしこちらで作っていて、それほど差があるとは思っていません。FRTモデルでも、生の音から美しく鳴りますよ。弊社で採用しているシンクロタイプとは2点支持で共通しているので、ブリッジ本体は問題ではありません。
「FRTでは音が細い」と言われることも確かにありますが、そういう場合はロックナットの精度が悪かったりするんです。弦との接点にちょっと「バリ」ができていたり、溝がざらついていたり、角が丸くなっていたり、微妙な要因で弦がちゃんと鳴れる状態になっていないものはありますね。二つの支点のうちの片方ですから、ナットはものすごく大事です。しっかりしていないと弦振動を受け止めることができません。「支点」を考えることは僕にとっては非常に重要で、狙った音に持っていくには支点の前後をどうするかを考慮します。
レスポールのようにヘッドに角度が付いているものは、大抵大丈夫です。テンションピンも使用していない弊社製品の場合はなかなか難しいんですが、(DSTサンプルを弾きながら)この通り振動は漏れていません。しかし振動はナットからメイプルへ伝わりますから、ペグには振動が伝わるんです。だから「特定の弦だけ変な音がする」というときには振動がどこかで漏れているかもしれないので、ペグの振動をチェックすることもあります。
──お話の間に、「精度」という言葉が何回か使われました。公式サイトでも何度か使われる言葉ですが、どういったことへの精度にこだわりがありますか?
高橋 「精度」には2種類あります。ひとつは「加工精度」で、木工やパーツの埋め込みに対しての誤差をいかに少なくしていくかです。しかしこれはこだわりというよりも、良い製品を作る上での当たり前の心がけだと思っています。例えばトラスロッドをネックに挿入するときの精度は、単純に後々の性能に影響してきます。また指板Rについても同様で、誤差なく仕上げていきたいポイントです。他にもパーツのセンター(中心線)がずれてはいけないなど、工程ごとのいろいろなポイントで逐次チェックしています。
工程の最初の方で発生した誤差を見落としてしまうと、後々までその誤差が残ってしまいます。後でできるのはごまかすことだけなのですが、そういうものをお客様に渡してしまうと、「うーん、大体いいんだけどな」という感想で終わってしまいます。それではいけないので、弊社ではできたものは一本一本全て計測して、誤差をチェックしています。
例えば10本生産したものは10人のお客さんの手に渡りますが、その10人皆さんに同じ感覚を味わっていただきたいんです。ギター一本のために30万、40万というお金を支払うためには、相当な想いが必要だと思っています。アルバイトで頑張って頑張って、という方もいるでしょう。一生もののギターを買うつもりのお客さんも多いんです。ですからどの一本を取っても、こちらが思っている通りの弾き心地で受け取ってほしい、という気持ちが根底にあります。これが二つ目の精度、「こちらがベストだと思っているものに、どれだけしっかり合わせていくか、という精度」です。
こちらには深くこだわっています。工業製品としての精度ではなく、ネックの握り心地やロッドの効き具合など、「作り手のやろうとしていることが高い精度で反映されている製品」を出していきたいと思っています。BFTSも気持ち良く弾くための手段のひとつに過ぎません。弊社製品で「BFTSは気持ちがいいなー」という感想を持たれるかもしれませんが、その裏には弦高やネックの反り加減、グリップの形など様々な要素が関わっているんです。
こういう弾き心地がある、こういう音がある、買ってくれたお客さんに共感してもらいたいと思っています。「ココの音が使えない」とか「ココのチョーキングは音が詰まるから避ける」とか、プレイヤーはいろいろ苦労しています。それが面白みのひとつでもあるんですが、そうじゃなくて、指板の端から端まで自由に弾けるギターを目指しています。
一本一本を納得いくまで、僕自身がすべて最終セットアップをしています。工場でできたばかりのものをセットアップしていくうちに、どこかでスイッチが入ったかのように「カチッ」と収まる瞬間があります。このような調整のまとまりを確認してから出荷しています。セットアップの過程で気に入らないことがあったら、ネックの削り直しなどの修正をやってもらいます。その結果、当たり外れの無い製品展開ができています。
次のページでは、「木材に関すること」「日々のお仕事について」などをお話しいただき、最後は「工場見学」です。
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