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ギタリストおよび音楽プロデューサー、劇伴作曲家でもある照井順政氏にインタビュー。第二回目はギタリスト、そして作曲家としての側面にクローズアップ。アンプやエフェクターなどギター系機材、プラグインシンセやエフェクトなどDTM系の使用機材について、また作曲についての話まで伺いました。
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照井順政
日本の作詞・作曲・編曲家、音楽プロデューサー、ギタリスト。オルタナティヴ・ロックバンドのハイスイノナサ、およびsiraphのメンバー。アイドルグループ・sora tob sakanaの音楽プロデューサーを2015年1月から2020年8月のグループ解散まで務める。2020年からTVアニメ及び劇場版『呪術廻戦』シリーズの劇伴音楽を、2025年には「機動戦士Gundam GQuuuuuuX」の劇伴音楽を手がける。バンドでの活動と並行してTVアニメのテーマソング制作やアーティストへの楽曲提供なども行っている。
──音楽の理論的な事はどうやって学びましたか?
照井順政: 基本的に独学です。専門学校には1年間通ったんですが中退しました。様々な本を読んだり自分で好きな曲をアナライズするなどして学んだので、色々偏りがあると思います。
──機材のことについて伺っていきます。まずはDTM環境から。DAWは何をお使いですか?
照井: Logicを使っています。Pro ToolsもPCに入っていますが、基本的にはLogicです。普段からミックスなども頻繁にやっているならスタジオとの互換性などもあってPro Toolsを使いたくもなりそうですが、そこまでやることは少ないので問題なくやれています。
──劇伴音楽の作曲はバンドとはまた違ったアプローチになるのではないでしょうか。劇伴音楽はどんな楽器を・どんなモチーフを中心に作っていくのでしょうか?
照井: 曲によって様々ですね。基本的には監督と音楽プロデューサーのイメージを聞いたり、また時には参考曲を聞かせてもらうこともあるし、抽象的なイメージから照井さんなりにアイデア出してもらえると嬉しいですと言われることもありますし。
一曲一曲違うんですが。最近は「BPMがかなり大事」と思うようになりました。「曲の速さが映像にハマっていれば、もう半分うまくいってるようなもの」だって言う人もいますね。まだ動画がない状態の時も多いので、その場合なるべく監督からその辺りのイメージも聞いたり。
なんとなく音楽全体がパッと思いつくときも結構あって、その場合はその閃きに従うことが多いですが、パッと思いつかない時は一旦BPMから考えることが最近は多いです。
──個人的に呪術廻戦の劇伴音楽に関しては、ハイスイノナサの影響が色濃く反映されているのかなと感じました。
照井: そうかもしれません。ハイスイノナサは、基本的に全部の曲を初めて作る曲の感覚で作りたいと思ってやっていて。「深海に潜って宝石を探す」みたいなイメージで作ってたんですよ。数をこなしても、作り方自体が上手くならないように、というか毎曲根本の法則やイメージを変えているから上手くなりようがないんですけど、ただ肺活量と耳は鍛えていくイメージでした。
曲作りのフォーマットをなるべく作らず、とにかく息が保つイメージの世界に限り潜りまくる。で長時間潜っているとごくたまに「なんか真珠が見つかった」、みたいな。そうやって見つけた宝石を集めたものがハイスイノナサでやってたもので、俺の中にもし光るものがあるとするならばそこにあると思ってて。
劇伴作家としての自分には全く自信はないですが、ハイスイノナサの時に本気で死にかけながら探してた宝石みたいなものを散りばめることによって、ようやく呪術廻戦という巨大な作品の劇伴音楽としても機能するレベルの作品ができる可能性があるのかなと思っていて。
また、もっと具体的なところで言うと呪術廻戦の時にはミニマルというテーマがあったので、そこはストレートにハイスイノナサと共通する部分かなと。その辺りで濃いめにハイスイ成分が感じられるのかもしれません。
──DAWで使っているプラグインについて。プラグインはバンド編成ではあまり使わないですか?
照井: sora tob sakanaではゴリゴリ使ってました。本当に最終的にバンド編成の音楽にしようと思う曲は、デモ制作にだけ使うような感じです。
──プラグインですが、まずリズム系では何を使われていますか?
照井: ずっと長く使っているのはBattery、今のバージョンは「Battery4」ですかね。サンプラーですが、ドラムの音源も入っているのでそのまま使う時もあります。リズム系では一番慣れているソフトですね。曲によってはキックはKick NinjaとかBig Kickとか。、スネアだったら7DeadlySnaresとか単体音源を使うこともあります。
生系のドラムはレコーディングでドラマーに叩いてもらうので、打ち込みで完結させることはないですね。ただ、もし完結させなければいけないってなると主にSuperior Drummerを使います、なるべく避けたいですけど。
──「呪術廻戦」の劇伴の中でも特に動きのあるような楽曲のリズムトラックを聞くと、とても作り込まれている印象を受けました。リズムの基本パターンだけでなくフィルやちょっとしたギミックなども作り込んでいくのでしょうか?
照井: はい、基本的には全て自分で作り込んで打ち込みます。ただ劇伴だと曲数が膨大で時間もタイトという場合が多く、最近は信頼できる人にお手伝いをお願いすることも少しずつ増えてきました。例えば呪術の懐玉・玉折の時にはjitteryjackalさんに、GQuuuuuuXの時はWOZNIAK星君にも一部プログラミングをお手伝いいただいたりもしました。
今まで一人で作業することに慣れすぎていて人にお願いすることが下手だなと思うのですが、今後は作品が良くなるのであればどんどん人にお願いできるところはしていきたいなと思っていて、そういう人を常に探しています。
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──ではシンセ系のプラグインについてはいかがでしょうか。劇伴音楽にしても、色んなバリエーションのシンセが使われていますね。
照井: シンセ系は相当色んなもの使ってますけど、基盤となるのは大きいいくつかって感じで。例えばSPECTRASONICS Omnisphere、Keyscapeとか、バキバキ系だったらSerum、AVENGERとか。アナログ系だったらArturia系統とか。よく使うのはこの辺で、あとはニッチなやつを買ってるって感じですね。例えばS.K.Y. StudiosがリリースしているS.K.Y. Keysとか。
──マニアックですね
照井: あまり日本の市場では見かけないようなプラグインですね。インスタとかで流れてきたりして、そういうものも面白そうだったら買ってみるって感じですね。
──ベース音源はいかがですか?
照井: 最近だとMoogのMariana Bass Synthesizerとか、実機でよく使われるNovation Bass Stationのプラグイン版とかをよく使いますね。あとはSerumやAvengerとかに入っているEDM的なバキバキ系のベースを使ったりします。生系の音はデモの段階ではMODO BASSをよく使いますが、最終的には生演奏に差し替える前提です。
──ソフトウェアシンセって音選びに時間がかかりませんか?音選びで時間短縮するために心掛けていることなどあれば教えてください。
照井: 本当にそうですよね。自分が曲作りの際に一番しんどいのがこの作業です。基本的には地道にやるだけで、短縮できる方法はぜひ教えて欲しい…
できる限り効率的なショートカットキーを使うことや、左手デバイス使ったり、少しでも楽できるよう環境を整えるくらいですかね。
──ディレイやリバーブなどエフェクト系プラグインにこだわりはありますか?
照井: 最近はまたギター熱が高まってきたこともあって色々チェックしていますが、特に劇伴においてはディレイなどは最終的にエンジニアさんに任せることが多くて、大体このテンポ感でこういう質感のものをかけて欲しいっていうのを伝えてかけてもらう事が多いです。
よく使うのはFab FilterTimelessとか、Logic付属のエフェクトも良いので使います。リバーブの方がディレイよりもいっぱい持ってますね。お気に入りはUAD EMT140のプラグイン版です。ギタリスト的にはEventide Blackholeのプラグイン版もよく使いますね。
──かなりの量のプラグインを揃えていらっしゃるんですね
照井: 気づいたらいつの間にかたくさん買ってましたね。逆にハードウェア製品はプリアンプぐらいで、エフェクト系はないです。
──ちなみにプラグインは全部自分でアンテナ張って探してるんですか?
照井: そうですね。詳しい人に聞くのも含めて。プラグインセール情報なんかは一日一回は絶対見てるんで(笑。セール見て安くなってたり、暇さえあれば買ってたりします。
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──エレキギターの話を伺います。今メインで使われているのがFenderから2024年にリリースされたAmerican Ultra II Stratocasterだと思いますが、最近また別のギターを導入されましたね。

照井: はい、Momoseの限定モデルMT-PME/E EQS NA-MATですね。ボディトップがPale Moon Ebonyで、ボディ材は貼りアルダー2pというスペックのモデルです。テレキャスがずっと欲しくて、メインにしたいわけじゃないんですが、ポイントでテレキャスの音が欲しい時に使いたいなとずっと思っていて。これまでも「ホントはこのフレーズはテレキャスだったら、もっとそれっぽくなったな」と思うことがあったんです。いいテレキャスをいつか買おうと思っていて、それで最近買いました。
──色々なギターを使われてきたと思いますが、自分のシグネチャーサウンドといえば、どのギターになりますか?
照井: いやー、色々あるんですけど元はレスポール使いなんですよ。ザック・ワイルドが好きだったんで(笑。レスポールは見た目も好きで、レスポールをめっちゃ低く構えるっていうのがカッコいいだろって思ってたんですよね。その後KORNとかのモダンヘヴィネス勢にハマっていた時期があり、Ibanezのストラトタイプなども使っていた時期があります。
ただ自分がバンド(ハイスイノナサ)をやるにはちょっとあってないかなと思って、その頃の自分の事を知ってくれている人にとって俺のイメージはジャズマスターじゃないかな?ジャズマスの人って言われることが一番多い気がします。ジャパニーズ・オルタナティブ・ロックでは定番のジャズマス使いの1人でした。
で、ここ2,3年でストラトを使いはじめた感じです。ピックアップ構成がSSHのもので音作りの幅が広く便利です。スリーシングル格好いいなと思うんですが、劇伴で色んなタイプの曲を演るってなったらSSHは対応力が魅力です。
──お使いのギターアンプについて教えてください(宅録用途・Rec用途・ライブ用途それぞれお伝えいただけると嬉しいです)
ギターアンプは持っておらず、基本的には宅録もライブもKemperをラインで使っています。Kemper購入前はライブではフェンダー系のアンプがあれば使っていました。ない場合はジャズコーラスを。Kemperは利便性という点で使いだしたんですが、今はアンプ鳴らしたいです!今後色々と考えていきたい点です。
──2025年12月にエフェクターボードを新調されましたね。こちらのボードのコンセプトなどあれば教えてください。

上段左から: SOURCE AUDIO SA263 COLLIDER(ディレイ&リバーブ)、strymon Mobius(モジュレーション)、Electro Harmonix Nano Q-Tron(エンベロープフィルター)、TC Electronic Polytune 3 NOIR(チューナー)、UAFX Dream ‘65(アンプモデラー)
中段左から:strymon El Capistan V2(テープエコー・エミュレーター)、Vemuram Myriad(ファズ)、One Control Gecko MkIII(MIDIコントローラー)、Vemuram Jan Ray(オーバードライブ)、MASF Pedals RAPTIO(グリッチ/ホールド)、
下段左から:Free The Tone ARC-53M(スイッチャー)、Suhr Eclipse(ディストーション)、Xotic Wah XW-1(ワウ)

本体背面:Beyond Tube Buffer 2S(バッファー)、Fender Engine Room LVL12 Power Supply(電源)
照井: 多分10年間くらいKemper頼りでエフェクターをチェックしておらず、あまり最近の良いものを知らなかったので、試した中でとりあえずベーシックにいい音が出せて幅広く対応できる形にしたという感じです。個性みたいな点で言うとかなり面白みのないボードだと思うんですが、ここから色々探求したい感じです。
まあ、ハイスイの頃から音色自体で変わったことをしようという気持ちはあまりなくて、音自体はフラットな中でいかに創造的なことをするかという方針ではあったので、時間が経っても根っこの考えは変わってないんだなと自分に対して思いました。
──今後の活動としてソロをお考えとのことですが、どんな音楽をやるつもりですか?
照井: いやーそれはまだちょっとわからないですね(笑。
実は俺、ちょっと来年数ヶ月くらい仕事休もうと思ってて。siraphはやりながらですけど。ハイスイノナサのあと休みなくずっと仕事をやってきて、そのどれもが大事でやりたいことの一部ではあったんですが、根本から自分がやりたいという事に時間をとって向き合うことはできなかったですからね。
まあ多くの人達がそういう状況の中で頑張っていらっしゃると思うので特別なことでもないと思いますが、とにかく一度落ち着いた生活を過ごした後に、自分の中に湧いてくる欲求に従いたいと思います。
ただ一つ現時点で思うことは、前のめりに魂を燃やし尽くせるような、熱狂できることをやりたいなと。いまだに我欲で突っ走りたいあたり小物感がすごいですけど、それもいいじゃないかと思っています。
──ソロ音源のリリースを楽しみにお待ちしています。ありがとうございました!
ペダルボードに登場したエフェクター:
SOURCE AUDIO SA263 COLLIDER(ディレイ&リバーブ)
strymon Mobius(モジュレーション)
Electro Harmonix Nano Q-Tron(エンベロープフィルター)
TC Electronic POLYTUNE 3(チューナー)
UAFX Dream ’65 Amplifier(アンプモデラー)
strymon El Capistan V2(テープエコー・エミュレーター)
Vemuram Myriad(ファズ)
Vemuram Jan Ray(オーバードライブ)
MASF Pedals RAPTIO(グリッチ/ホールド)
Free The Tone ARC-53M(スイッチャー)
Suhr Eclipse(ディストーション)
Xotic XW-1(ワウ) – Supernice!エフェクター
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