エレキギターの心臓部を自作!シングルコイル・ピックアップ手巻きレポート

[記事公開日]2025/4/1 [最終更新日]2025/4/2
[ライター]森多健司 [編集者]神崎聡

ピックアップ手巻き

ピックアップは数多いエレキギターのパーツの中でも、特に音に直結する割合の高い部品です。今回はハンドメイド・ピックアップブランド”Euphoreal”を主宰する藤野氏に協力を仰ぎ、氏の指導のもとで実際にシングルコイル・ピックアップの製作を行ったうえ、その製作方法や実際に作ってみての印象などを述べていきたいと思います。

森多健司

ライター
モリタギター教室 主宰
森多 健司

新大阪に教室を設立し10年弱、小学生から70代まで、音楽経験皆無の初心者から歴20年のベテランまで、幅広い層に教える。2015年 著書「ロック・フュージョン アドリブ指南書: マイナー7th上で多彩なフレーズを生み出す方法」、2016年 著書「六弦理論塾〜ギタリストのためのよく分かる音楽理論」上梓。

Trial

記事監修
Euphoreal 代表
藤野 州豊

“プレイヤーが陶酔できるサウンドを現実のものに”というコンセプトを元に、ハンドメイドでピックアップを制作するメーカー。レーザー加工機による微細彫刻が施されたドレスアップ金属パーツを作る他、不定期でギターを制作する。
Euphoreal – Supernice!ギター工房


  1. ピックアップ手巻きとは?
  2. 手巻きピックアップ作成に必要な道具
  3. 作業手順
  4. 作業の注意点

ピックアップ手巻きとは?

手巻きピックアップ

手巻き – Hand-wound

エレキギターのピックアップは鉄芯や棒磁石の周りに細いワイヤーを巻き付けただけのシンプルな構造のため、個人で製作するのも困難ではありません。その反面、エフェクターなどと違い、複数の部品が組み合わさっているというたぐいのものではないため、狙った音に仕上げにくいという面があります。実際に自分の理想の音を追求するにはトライアンドエラーが不可欠になります。

手巻きのメリットとは

ワイヤリング

ワイヤリングにおいて音に影響する工程は少なくなく、巻くときの強さや、巻き終わったときの形状など、さまざまな要素が相互に影響します。手巻きはそれぞれの要素がかなりランダムになりやすいため、結果として面白みのない音になりにくく、かつ予想もしなかったような仕上がりを見せることもあります。
逆に、狙った音に仕上げるには経験が必要なのも確かです。各工程と音色について、ある程度の傾向が存在するため(下表参照)、製作の際はそれらを掴んでおけば、意図した方向に寄せることはできるでしょう。

ピックアップを手巻きで自作することの魅力は数多く、コイル部分と音色の相関関係を実践的に理解できる、様々な作り方を試し仕上がりを味わう面白さがある、理想のピックアップを自らの手で追求できるなど、既製品を買うだけでは得られない楽しさが味わえるはずです


初めて自作したギター博士でも、しっかりと音が出るピックアップを作る事ができました。サウンドも納得の仕上がりに。

手巻きピックアップ作成に必要な道具

工具、道具

ピックアップ巻き機

ピックアップ巻き機

当作業を行うために最も重要なのがピックアップの巻き機。これは専門商品であるためあまり販売されておらず、現在のところ簡単に手に入れる方法はAmazonなどで中国製のものを仕入れるぐらいしかありません。しっかりとしたクオリティを求めるのであれば、グローバルスタンダードであるStewMacの該当製品を選択するのがおすすめです。StewMacでの取引はアメリカからの直輸入となり、値段も高いため、少し購入のハードルは上がりますが、数多く巻いていきたい方にとっては選ぶ価値が十分にあるでしょう。

またEuphorealは、公式BASE SHOPにてストラト用3シングルコイル作成用の巻き機を販売しています。ストラト用シングルコイルをこれから自作してみたいという人にはこちらがおすすめです。

鍋、温度調整可能なコンロ、パラフィン(ロウ)

鍋

これらの器具はポッティング用です。温度調整できるものを選びましょう。ロウについては様々な材料が使われますが、融点が50℃〜58°ぐらいのものが一般的です。今回は藤野氏持参のパラフィンを使用。こちらも音色に影響するため、こだわる人は蜜蝋を混ぜたり別の添加物を含ませたりと、さまざまな試みを行っているようです。

はんだ、はんだごて、はんだ用ペースト(あると便利)

巻き終わったあとにリード線をピックアップ本体と接続するために使用。出番は少ないですが、欠かせない道具です。はんだごては出力調整できるものが使いやすく、はんだは音楽用として定番のKester 44などを選んでおけば間違いありません。

はんだ付けの苦手、あるいはほとんどやったことのない方はペーストを併用するのも手です。はんだ用ペーストには、金属部分の酸化膜を除去する性質の成分が含まれており、少量塗布することではんだ付けがしやすくなります。

サンドペーパー

#600 サンドペーパー

リード線をはんだ付けする前に、ワイヤーのコーティングを削ぎ落とすために使用。削れれば何でも構いませんが、今回は#600のサンドペーパーを選んでいます。

テスター

アナログテスター

きちんと巻けているかをチェックするために必要。必須ではありませんが、組み上がったあとに音が出ないというトラブルを避けるために準備を推奨します。ギター本体の配線など、電子楽器を扱う際に一つあると便利なため、持っていない方は一つ購入しておくと良いかもしれません。

材料

ポールピース、底板、上板(一体化されているものを入手が望ましい)

ポールピース

ボビンと、ポールピースの役割を果たす金属の棒。後述しますが、バラバラに仕入れると着磁の必要がでてくるため、組み上がっているものを選ぶほうが無難です。

ピックアップ・カバー

ピックアップ・カバー

カバードのピックアップを作りたい場合に必須です。ホワイト、クリーム、ブラックなど種類があります。

ワイヤー

42AWGヘヴィーフォームバーワイヤー

ピックアップの心臓部ともなるワイヤー。さまざまな製品があり、音色に大きく影響します。今回は42AWGヘヴィーフォームバーワイヤーを使用。こちらはシングルコイル系のピックアップによく使われる定番のもので、線材そのものは銅(copper)でできており、”ヘヴィフォームバー(Heavy Formvar)”とはコーティング剤のことです。コーティングについては現在ではポリウレタンなどが主流であるものの、フォームバーはトラディショナルなストラトのピックアップに使われていたため、現在でもヴィンテージ系の音色を指向する際に好んで使われます。

リード線(黒、白)

リード線

ピックアップの巻き始めと巻き終わり部分に接続するための線材です。ギター本体の電子パーツと接続することで、エレキギターからの弦振動の信号を受け取れるようにします。線材については何でも大丈夫ですが、シングルコイルに使われるものは被膜のしっかりした丈夫な線材が使われることが多いようです。

作業手順

ここからはシングルコイルの製作を順を追ってみていきましょう。

ボビンとポールピースを準備

ボビンとポールピース

ボビンとポールピースを組み合わせ、ピックアップの骨格を作ります。バラバラで購入後組み合わせる場合、ポールピースが磁力を帯びていないので、着磁する必要があります。この作業には着磁機という専用の機械を使用するか、強力なネオジム磁石で擦るなどの方法があります。あらかじめ組み上げられたものも販売されていますが、このようなものであれば着磁も済んでいるため、すぐにワイヤリング作業に取りかかれます。今回は出来上がったものを藤野氏に提供いただいたので、それをそのまま使用しています。

ワイヤーを穴に通す

巻き始めとなる部分を穴に複数回通して引っ掛けておきます。シングルコイルには2ヶ所の穴が空いていますが、穴が空いている側を上と見たときに、時計回りに回転させていくため、巻き始めは左側となります。左側の穴に複数回通しますが、だいたい4~5回ほどが望ましいようです。通し終わったら余った部分を切っておきます。

4,5周巻いて引っ掛ける

ワイヤリング

巻き機にセット

ピックアップを巻き機にセットしたらいよいよワイヤリング開始です。ワイヤーを持つ指先と、ワイヤーを引っ掛けて支えている支点の部分は滑りが良いほうが望ましいので、よく滑るように工夫しておくとスムーズに巻くことができます(今回はベビーパウダーを塗布)。

ワイヤリングの様子

最初は低速で緩やかに巻いていき、ある程度まで進んだらスピードを上げていきます。左右に少しずつ揺らしながらゆっくり両端を往復し、一箇所に固まらないように注意します。目線は回るピックアップの上部先端あたりをまっすぐに見ることで、凹凸がよく分かるようになります。形状が少しくぼんでいるところがあれば、そこは少し巻きが足りないということなので、そこに重点を置きつつバランスを取っていくことで、いびつになるのを回避できます。だいたい1000回転ごとに、形がどのようになっているか止めて確認するとよいでしょう。

ワイヤリングの様子

ポイント1:ワイヤーを持つ指先の力の入れ具合

作業中は指先でワイヤーを持ち、それが支点を経由してピックアップに巻かれていくという状態になっています。そこで、指先で持つワイヤーを引っ張り気味にするのか、たるみ気味にするのかで、巻かれていくテンションの強さを変えることができます。一般的にタイトにするほど音色も固くタイトになり、たるみ気味に弱く支えてゆるく巻くとソフトにかつ空気感のある音になるようです。はじめだけはタイトで途中から緩く、などという選択も可能なため、音色幅には無限の可能性があります

ワイヤーを巻く強さ ポッティングの時間 巻数
強い/長い/多い タイト タイト 高出力
弱い/短い/少ない エアリー、ルーズ エアリー、ルーズ 低出力

ワイヤリングと音色の相関関係

ポイント2:何周巻くのか

シングルコイルは一般的に6500~8000回と言われています。多いほど抵抗が強く、出力が上がり高域が削がれていきます。自作であれば9500ターン以上のシングルコイルなども製作可能ですが、本体が膨らみすぎてカバーが入らないといったトラブルになる可能性もあります。今回は概ね7000~7500ターンで製作しています。

ポイント3:速く巻いたときの特徴

速く巻くと手早く仕上がりますが、ピックアップは細長い楕円形状のため、速く回すことで遠心力を生み、両端に掛かる力が強くなります。その結果、両端と真ん中部分について、テンションの差が生まれます。機械で自動で巻いた際に起こりやすく、これも音色に少なからず影響を与えます。

巻き終わりの処理

ワイヤーをカットする

目標となるターン数に達したらワイヤーを切って巻き機から取り外します。穴のある側を上と見て、左側に巻きはじめのワイヤーが引っ掛かっているはずです。今度は右側に、こちらも4~5周ほど繰り返し通しておきます。

巻き終わりのワイヤーを穴に通す

巻き始め・巻き終わり

全て通したら余り分をカットし、はんだ付けを行います。

巻き始め、巻き終わりをはんだで付ける

左右の穴両方について、4~5周ワイヤーが巻き付いているところをはんだで固定します。

事前準備として、ピックアップに使われるワイヤーは、通電しないようにコーティングが施されているため、ワイヤーが巻いてある左右の穴の付近をサンドペーパーで擦ることで、そのコーティングを削り落とします。ワイヤーがくるくると巻いてある箇所を数回擦るだけで十分な効果があります。

左右の穴の付近をサンドペーパーで擦る

その後、はんだ付けを行います。こてをワイヤーが巻いてあるエリアに固定し、そこにはんだを流し込むようにするとうまく固定できます。

左右の穴をはんだ付け

固定したら一度テスターで通電しているかを確認しておきましょう。今はんだで固定した箇所(ワイヤーの終端と始端)にテスターを当て、数KΩ以上の抵抗値が見られたら成功です。

テスターで通電確認

はんだ用ペーストの使用

はんだ用ペースト

はんだ付けが苦手、あるいは経験のない方ははんだ用ペーストをこの段階で使用すると良いでしょう。穴の部分に適量塗布することで、はんだ付けが安定するはずです。

左右の穴にペーストをつける

リード線に予備はんだを施す

続いてリード線の接続に入ります。リード線の被膜をずらし、線材がむき出しになったら、その先端をはんだでコーティングします。線材をはんだで温めつつ、そこにはんだを流し込むように触れさせることで、きれいにコーティングされるはずです。これはピックアップだけでなく、あらゆる線材の接続の下処理として必要になる手法です。

リード線に予備はんだ

本体に接続

リード線を本体の表側(ポールピースが見えている側)から裏側に通すようにはんだ付けを行います。一般的に、巻き始めの穴が黒(コールド)、巻き終わりの穴が白(ホット)となっていますので、間違えないように接続しましょう。

コールド/ホット

本体の穴の部分にはんだごてを当てて、本体に付いたはんだが溶けたあたりで、さきほど予備はんだを施したリード線を突っ込むことでうまく接続されます。

リード線をはんだ付け

リード線をはんだ付け


2本のリード線を中央の穴に通したら巻き終わりの処理は完了

ポッティング~終了

ポッティング
パラフィンに本体を漬け込む。しばらくすると気泡が出てくる

最後にハウリング防止にポッティング(ロウ付け)をします。特に歪ませて弾く際には必須の作業です。充分に溶けたパラフィンに本体を漬け込んで内部の空気を抜きます。入れて置いておくと気泡が出てくるので、この気泡が少なくなるまで続けます。時間については様々な説がありますが、今回はだいたい3分前後としています。この際にやけどを防ぐためにビニール手袋などがあれば安全です。

軽く拭く

引き上げたあとはティッシュなどで軽く拭きますが、こするよりはトントンと叩くように拭くのがポイント。特に横側をこするとワイヤーが切れる事故が起きる可能性があります。ポッティングが終了し、拭き取りも完了したら、内部のロウが冷えて固まるまでしばらく待って完成です。

ポッティング後のピックアップ

作業の注意点

テスターでの確認を頻繁に

最後に装着したあとに音が出ない、といった状況ではどこに問題があるかわかりません。そのため、適宜テスターで抵抗値を図り、しっかり通電しているか見ておきましょう。具体的には巻き終わった段階、はんだ付けが終わった段階,そしてギター本体に取り付けたあと、という3か所がおすすめです。

形状と音色


今回手巻きした3つのピックアップ。どれもやや歪な形をしているが、それも手巻きの醍醐味

手巻きは人間が行うため、形状にはまちまちの差が現れます。あまり考えずに巻いていると中心が盛り上がる”樽型”になりやすく、一部だけが膨らんでいるようないびつな形になることも多々あります。ただし、これは良し悪しというよりも個性。最終的に出音によって良いか悪いかが決まるため、必ずしもきれいに巻けているものが良い音というわけでないのが面白いところです。ちなみに、きれいに巻けているものほどスッキリした音になりやすいといった傾向があります。

作業を終えて【ライター所感】

今回、初めてピックアップの自作にトライさせていただきましたが、思ったより簡単、かつきれいに仕上がるなというのが第一印象です。特にシングルコイルは作業量も少なく、メインとなる巻き作業をクリアできるのであれば、誰もが作れるのではないかと思います。
ただ、藤野氏の言葉によると、一つ作るだけならば簡単ではあるものの、意図して狙った音を作るのは難しく、特に安定して同傾向のサウンドの製品を作るのは手巻きでは至難とのこと。大量生産用にマシンを使用しているとはいえ、やはり市販品における品質の維持には多大な注意が払われているのだろうな、と改めて感じる次第でした。
ちなみにハムバッキング・ピックアップは作業量がかなり増えるとのことですが、基本的にはシングルコイルの延長として作成は可能なようです。未だ自作派の少ないピックアップの世界ですが、自分用としても、エレキギターという楽器をよく知るという意味でも、体験の価値は大いにあるかと思います。


ピックアップの自作については必要な道具が特殊であるからか、あまり自作がメジャーではありません。しかし、巻線機さえ揃えてしまえば誰でも簡単に取り組める作業でもあります。ぜひ一度試してみてはいかがでしょうか。

【Euphoreal主催】自作ピックアップイベントが大阪で開催!

自作ピックアップイベント

今回の企画を監修していただいたピックアップ・ブランドEuphorealが、ストラト用3シングルセットを自作体験できるイベントを大阪にて開催!!

  • 開催日:2025年4月26日(土) 12:00〜15:00
  • 場所Grandeuomoアトリエ(近鉄北田辺駅から徒歩5分)
  • 定員:10名
  • 内容:ストラト用シングルコイル3つの自作
  • 問い合わせhttps://x.com/Euphoreal_lab

定員にはまだ若干空きがあるということで、気になっている人はお早めにEuphorealにお問い合わせを!

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