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ジェリー・カントレル氏は、ロックバンド「アリス・イン・チェインズ (Alice in Chains。略称AIC) 」所属ギタリスト兼ボーカリストとして知られ、グランジ発祥の地シアトルで最も影響力のあるギタリストの一人と目されています。「ヘヴィなサウンドとキレイにハモるヴォーカル」というスタイルは、その後のオルタナティブ・ロックに多大な影響を及ぼしました。今回はこのジェリー・カントレル氏に注目していきましょう。
Alice in Chains “Check My Brain” Guitar Center Sessions on DIRECTV
ネットリとしたベンドが聞く者の音感を狂わせる、巧妙なリフ。多くの人々が、「よくこんなリフ弾きながらハモれるな!」と感心したに違いない。コード進行も独特で、いったいどんな音楽理論で説明できるのかさっぱりわからない。既存の音楽理論を超えた存在、それがジェリー・カントレル氏。
ジェリー・カントレル氏は1966年ワシントン州タコマにて、軍人の父とアマチュアオルガン奏者の母の間に生まれます。家にはいつも音楽があり、氏は幼い頃から音楽に夢中になりました。ギターを始める前は合唱団に所属しており、4年生のときにはリーダーを務めていました。6年生の時、KISSへの憧れからクリスマスにレスポールを欲しがりましたが、「弾けるようになったら買ってやる」ということでアコギを手に入れました。本格的にエレキギターを弾きだしたのは17歳からです。
19歳でダラスに引っ越し(1985年)、バンドを始めます。このころG&L「ランページ」を手に入れ、またデビュー前のダイムバッグ・ダレル&ヴィニー・ポール両氏と親交を深めます。
Alice In Chains – Would? (Official HD Video)
不協和音と独特なコード進行、ドレミから逸脱しているぽい音階。しかしそこに違和感を覚えさせないしっかりとしたヴォーカル。これがAIC。
ロックバンド「アリス・イン・チェインズ」は1987年にシアトルで結成、1990年にアルバム「Facelift」でデビュー、ニルヴァーナ、パール・ジャムらと共に、グランジ/オルタナティヴの担い手として注目を集めます。こちらのジャンルにおいて、AICは特にリフと歌唱力が図抜けたバンドだと一目置かれていました。
華々しい実績を積み上げていく一方で、バンド内では薬物が横行し、活動は次第に途切れがちになっていきます。アルバムのリリースは1995年の「Alice in Chains(米国ダブルプラチナ)」以来なく、遂に2002年、レイン・ステイリー氏(ボーカル)が過剰摂取で鬼籍に入り、バンドは停止します。
自然解散かに思われていたAICですが、2006年に新たな歌い手ウィリアム・デュヴァル氏を迎え、14年ぶりとなるアルバム「Black Gives Way to Blue(2009)」をリリースして復活しました。以降は数年おきに新作をリリースしています。
Jerry Cantrell – Leave Me Alone
コメディ映画「The Cable Guy(1996)」のサウンドトラックで独占リリースされたソロデビュー曲「 Leave Me Alone 」。ドラムはAIC所属ショーン・キニー氏が担当しましたが、その他のパートは総てカントレル氏が担当しました。
カントレル氏は19998年以来3枚のソロアルバムをリリースし、またメタリカ、ニッケルバック、ダメージプラン、スティーヴィー・サラス氏、リッチー・コッツェン氏ら気の合うアーティストとセッションをするほか、オジー・オズボーン氏のアルバム「Under Cover(2005)」にメインのギタリストとして参加しています。
個性的なリフが評価され、カントレル氏はイギリスのメタル専門月刊誌「Metal Hammer」の2006年「リフ・ロード賞」を受賞します。なお、同賞の受賞者には他に、ザック・ワイルド氏(2005)、ジョー・ペリー氏(2010)、マーク・トレモンティ氏(2014)、デヴィン・タウンゼンド氏(2017)、ウェス・ボーランド氏(2018)らがいます。
Alice In Chains – Stone
現在の編成ではヴォーカルもギターを担当することで、表現の幅が広がっています。ところで、ウィリアム・デュヴァル氏のギターはカントレル氏のシグネイチャー・レスポールカスタムそっくりですね。
ヘヴィなグルーヴの演目では、粘っこいベンド(チョーキング)を利用したウねるようなリフが目立ちます。このような音感を狂わせるようなリフにキレイなハーモニーのヴォーカルを乗せるのが、カントレル氏の得意技です。ギターソロにおいてはアドリブが苦手だと公言していますが、ギターソロで奏でるメロディは歌メロの続きのようなものだからキッチリ作曲している、ともコメントしています。
Alice In Chains – Them Bones (Official HD Video)
名作との呼び声高い2ndアルバム「Dirt(1992)」の1曲目で、8分の7拍子と4分の4拍子を行き来する変拍子の演目。ローC#から半音ずつ上昇する、シンプルながら強力なリフ。7拍子に乗せるギターソロも、しっかり長い。
カントレル氏はリフとメロディ、そして伝えたい事の3つが重要だと考えており、リフに対しては並々ならぬこだわりがあります。考案したリフは一晩寝かせて翌日チェックするし、第三者の耳を捕えることができるかどうかも検証して、アリかナシかを判断しています。
Alice in Chains – Nutshell (Music Video)
3rdアルバム「Jar of Flie(1994)」より。シングルカットこそされていないがAICを象徴する演目で、2011年以来AICのライブステージでは故レイン・ステイリー氏、およびオリジナルベーシストの故マイク・スター氏に捧げています。
思いついたアイディアはスマホやレコーダーに保存していますが、いざ作曲するとなると、カントレル氏はアルバム1枚分が完了するまで数か月から1年ほど自室に籠ると言います。それまでにどれだけのアイディアを蓄積できるか、がカギです。
カントレル氏はさまざまな機材を使いこなしていますが、ここでは代表的なものを見ていきましょう。
シグネイチャーモデルには全て「JJ(ダブルJ)」が記されますが、これはカントレル氏のフルネーム、Jerry Fulton Cantrell Jr.が由来です。
エレキギターについては基本的にハムバッカー・ピックアップを備えるものがお好みで、弦はアーニーボール「RPSレギュラースリンキー(10-46)」、ピックはジム・ダンロップ「トーテックス・スタンダード1.0mm」をお使いです。
Alice In Chains – Sea Of Sorrow (Official Video)
この動画で使われているのは「Blue Dress」。青い衣装を思い切りはだけた女性のイラストが描かれている。
カントレル氏のアイデンティティと言えるギターが、二本のG&L社製「Rampage(ランページ)」です。いずれもダラスでバイトしながらバンドをしていた時に入手したもので、その姿から「No War(1984年製)」、「Blue Dress(1985年製)」と呼ばれています。ランページはメイプルボディ&ネック、平滑なエボニー指板、ハムバッカー1基、ケーラートレモロ装備、ボリュームノブ1基という構成で、まさにメタル/ハードロック仕様の、Rampage(大暴れ)するためのギターです。カントレル氏はエドワード・ヴァン・ヘイレン氏へのリスペクトもあって、この仕様が気に入ったようです。
フロイドローズのナットに交換し、リアピックアップはセイモア・ダンカン「JB」、ケーラーはボディにわずかに沈めて設置するのがカントレル仕様。
Jerry Cantrell – Brighten (Official Live Video)
ギブソン・カスタムショップにて100本限定生産されたシグネイチャーモデル「Wino」は、渋いワインレッドの本体にカバー度のフロント&オープンのリアという組み合わせが特徴です。ピエゾピックアップとステレオアウトプットを備え、エレキの音とアコギの音を別々に出力できます。
クリスマスに欲しいものとしてレスポールを挙げていたくらい、レスポールはカントレル氏にとって重要なギターです。VAN HALENが好きでランページを持ち、KISSが好きでレスポールカスタムを持つあたり、アーティストをリスペクトしながらもちょっと違ったギターを持つ、というのがカントレル氏のこだわりのようです。ワインレッドのレスポールカスタム「Wino(ウィーノ)」は90年代中ごろから使いだし、さまざまな改造が施されています。なお「wino」は、安いワインやその他のアルコールを過剰に飲む、特にホームレスを指す蔑称ですが、ワイン愛好家や好奇心旺盛な人をいう意味でも使われます。
エピフォン「ジェリー・カントレル”ウィーノ”レスポールカスタム」は、氏の愛用するレスポールカスタム「Wino」を基に作られたシグネイチャーモデルです。メイプルトップ、重量調整を施したマホガニーバックのボディにマホガニーネックをセットイン、エボニー指板という本体、フロントにカバードの「アルニコクラシックPRO」ハムバッカー、リアにオープンの「98TPRO」ハムバッカー装備、うっすらと木目の浮き出るワインレッドのフィニッシュ、という構成です。ピックアップのグレードが上がり、また3フレット以下のローポジションで若干スリムになる、特別仕様のネックプロフィールが採用されています。
「Les Paul Prophecy(レスポール・プロフェシー)」は、24フレットの音域と新しい電気系を大きな特徴とするモダン・レスポールです。カントレル氏のシグネイチャー・レスポールカスタム・プロフェシーは、重量調整を施した本体にFishman社製「Fluence」ピックアップを2基備え、まばゆいボーン・ホワイト・フィニッシュとカスタムインレイで仕上げています。
ボリュームノブで各ピックアップのコイルタップ、トーンノブで各ピックアップのボイス切替ができ、たいへん幅の広いサウンドバリエーションを持っています。通常のレスポール・プロフェシーでは、バックコンターやヒールカットが大胆に施されます。これに対しカントレル氏のモデルではバックコンターもヒールカットもない、伝統的なレスポールの背面に帰化しています。
Jerry Cantrell “Atone” Songwriter(上)、Jerry Cantrell “Fire Devil” Songwriter(下)
Gibson「Songwriter(ソングライター)」は、自宅での作曲からスタジオでの録音、ステージでのライブ演奏まで、あらゆる場面での活躍を目指したモデルです。カントレル氏のシグネイチャー・アコースティックギターはこのソングライターを出発点に、クールな意匠とLRバッグス社製ピックアップを備え、個性と実用性を兼ねたギターに仕上がっています。なお、”Fire Devil”は100本限定生産です。
Jerry Cantrell – Atone (Official Video)
3枚目のソロアルバム「Brighten(2021)」より。それまでのソロ作はAICに近い作風でしたが、最新作の3枚目「Brighten(2021)」では自らのルーツに根差した楽曲も作っています。カントレル氏は幼い頃カントリーミュージックに囲まれて暮らしていたようで、本作ではそこをしっかり出してきています。トランス状態に引きずり込まれそうな中毒性のある響きには、特殊なオープンチューニングを使っています。
カントレル氏は巨大なラックシステムと何台ものアンプを使用し、さまざまなアンプとエフェクターの組み合わせを模索しています。録音では自分の持っている機材を洗いざらいスタジオに持ち込んだうえ、無いものはレンタルまでしています。
開発に数年を要したという、FRIEDMAN「JJ-100 」は、プリ部に4本のEL34管を配置する、2チャンネル仕様の100Wアンプです。倍音が豊かに響くことでレスポンスに優れ、シアトルのサウンドをしっかりアウトプットします。ドライブ/クリーンチャンネルそれぞれにEQを備え、両チャンネル共通のJBE voiceスイッチではゲインとサチュレーションを持ち上げ、またクリーンチャンネルには3WAYのブライトスイッチが付き、背面には音量操作のできるラインアウト、エフェクトループを備えます。
The Friedman Double J Jerry Cantrell Signature Amp Demo
FRIEDMAN「JJ Jr HEAD」は、シグネイチャー・アンプ「JJ-100」を出発点とした小型のアンプヘッドです。ホームスタジオでの音楽制作を意識して「スピーカー・エミュレートXLR出力」と「AXISスイッチ」が追加されています。これらの組み合わせで、ヴィンテージ・スピーカーで出した音をクラシック・マイクで録音した感じのサウンドが得られます。
シグネイチャー・ワウペダル「JC95B」は、カントレル氏の求める陰鬱かつムーディーな、それでいて乾いたサウンドを最大限に再現できるように開発された、ダークかつワイドレンジなクライベイビーです。本体側面のノブでは、トゥダウン時の周波数を調整できます。
Alice In Chains – Rainier Fog (Official Video)
ペダルトップのラバーには、ご本人の腕に刻まれたタトゥーの模様が描かれます。またボトムプレートには、「Rainier Fog」の全歌詞がプリントされます
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