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「ビヨンド(beyond)」は、2019年に立ち上げられた新しいエフェクターブランドです。製品第一号をリリースするために開かれたクラウドファンディングでは目標の8倍を超える金額を集め、その高い期待と注目度が話題となりました。本格的に始動したビヨンドはラインナップを拡充させ、武骨な外観と国内生産の品質、そしてアナログ100%の「速い音」が支持を集めています。今回は、このbeyondに注目していきましょう。
エフェクターブランド「beyond」は、SONY出身エンジニアら4人で立ち上げた、株式会社シングス(2019年2月設立)のブランドです。「アナログ100%」であること、音響用コンデンサや金属皮膜抵抗など、ひとつひとつ厳選したパーツを使用した国内製造、それでいて求めやすい価格を実現することなどを目指し、実物の真空管を挿し込んだエフェクター「beyond」シリーズを展開しています。
本社は新宿ですが、餃子で有名な栃木県宇都宮市に自社工場を構え、また世田谷にショップ兼カフェ&バー「Things Store & Cafe」を開いています。
beyondの特徴は武骨なルックス、そしてアナログ100%の音にあります。これについて、もう少し詳しく見ていきましょう。
Beyondのエフェクターは共通して、アルミの筐体に真空管が刺さっている、スチームパンク感を帯びた武骨なルックスです。真空管の両側に立つアーチは、ガードの役目を果たします。
今のところ、すべてのモデルでルックスのコンセプトが共通しています。直立した真空管はインパクト十分で、知ってる人なら遠くからでもbeyondだと分かります。左の二つが新作のオーバードライブとディストーションで、ブランド名とモデル名がすべて小文字になっています。
起動させると、内側に仕込まれたLEDが真空管を照らします。何ともクール。
電源は、パワーサプライから供給します。電池駆動はしません。
「デジタル」が隆盛を極める現代ですが、ギターという分野ではいまだに「アナログの音の良さ」が支持されます。耳の肥えたミュージシャンなら聞き分けられる音の良さ、またバンド内での音抜けなど、アナログの音は決して無視することができません。
デジタル機器もかなり頑張っています。しかし今なおほとんどのデジタルアンプやデジタルエフェクターが、ヴィンテージアンプやヴィンテージエフェクターの音をシミュレートしようとしています。出そうとしている音のほとんどが「アナログの名器の音」です。この事実からも、現代のギターサウンドにおいてなお、「アナログこそ本物」なのです。
ギター単体では迫力のある太い音を作ったつもりなのに、いざバンドで鳴らすとその迫力を失い、聞こえにくくなってしまった、という経験のある人も多いことでしょう。トランジスタやデジタルのデバイスで歪みを作ると、歪みの量に従って音圧を失ってしまいます。するとバンドの音に埋もれてしまう、抜けない音になってしまいます。対処法は音量を上げるか歪みを下げるかですが、いずれもバンドサウンドには寄与できません。
いっぽう、beyondシリーズの「真空管増幅」が作る音圧は、バスドラムやベースに負けることがありません。バンドアンサンブルに埋もれることなく、真空管がもたらす倍音感のある音の存在を主張できます。トランジスタで増幅した信号は真空管で増幅したときと異なる調波を生み、これがいかんともしがたいサウンドの差になります。「20世紀最大の発明」とまで言われるトランジスタですが、ことギターサウンドに限っては、真空管に及ばないのです。
真空管には、エレクトロ・ハーモニックス社の「12AU7 EH」が採用されています。「中音域を輝かせるキャラクターがある」として、オーディオマニアにもファンが多い真空管です。何より大企業が安定的に供給する真空管なので、「メンテナンスやトラブルへの対処がしやすい」という、たいへん大きなメリットがあります。
良い機材の基準の一つに「音の速さ」があります。ピッキングした瞬間に響く反応の良さは、立ち上がりの速さを生み、抜けの良さを作ります。beyondのエフェクターは音の速さが話題となりましたが、音が速いとはどういうことなのか、オシロスコープの計測を比較してみましょう。
提供:beyond
黄色い波形はギターからの直接の信号、青い波形はトランジスタ回路のエフェクターを通した信号です。黄色に対して青い山と谷が右にズれているのがわかりますね。これは、エフェクターを通した音が若干遅れていることを表しています。
提供:beyond
こんどは「Beyond Tube Booster」を通した場合です。やはり黄色い波形はギターからの直接の信号、青い波形はbeyondを通した信号です。こちらは黄色い山と谷、青い山と谷の位置がほぼ一致していることがわかります。0コンマ何秒という極小の世界ですが、それだけ音が速く立ち上がっているわけです。音が速いように聞こえるのではなく、実際に速いのだということがわかりましたね。
「Beyond Tube Booster」の本体内部にはトーンとボリュームを、ほかのモデルにはボリュームを操作する回路(トリマー)が備わっています。これは本来、真空管の個体差による音量のばらつきを整えて出荷するための設計です。さらなる追い込んだサウンドメイクのために好奇心をそそる機構ですが、真空管を交換する時でなければ積極的に操作する必要はありません。
真空管は増幅率にばらつきがあり、シビアにチェックすると音量にも音質にも個体差があります。内部のトリマーで音量を整えることはできますが、サウンドに現れる違いについては「アナログの面白さ」として許容する必要があります。なお、個体差で音に違いが出るとはいえそれはニュアンス程度のもので、製品としての同一性を逸脱するほどのものではありません。
Beyondのエフェクターは、「Beyond Tube Booster」ならば約200mA、「beyond tube over drive」ならば約180mAというように、アナログエフェクターとしては消費電流が多めです(ちなみにBOSS「DS-1」では10mA)。またアナログ機器は電源の影響を強く受けます。そこでbeyondでは、
など「エフェクター用としてノイズ対策回路を搭載したスイッチング方式のACアダプター」の使用を推奨しています。
そうでない電源で使用すると、不愉快なノイズが出てしまう場合があります。このように、アナログ機器では取扱いにちょっとした注意が要求されますが、アナログを積極的に選ぶ人にとってはデメリットどころかむしろチャームポイントです。
では、beyondのラインナップを見ていきましょう。共通してアナログ100%の音を持ちますが、それぞれのモデルに他の何とも違うサウンドキャラクターがあります。真空管のニュアンスを出すプリアンプ的なイメージというよりは、使っているアンプのサウンドを大事にした上で、一台のエフェクターとして「もう一歩先のサウンドメイク」に役立ってくれます。
なお、はじめは大文字も使っていたブランド名/モデル名でしたが、2020年12月リリースのオーバードライブとディストーションから、フル小文字の表記へと変更されており、本項の表記もそれに従っています。
「チューブ・オーバードライブ」は、オーバードライブの原点である「真空管アンプをただ飽和させただけの荒削りなドライブ」を目指し、余計なものの一切合財を排除したピュアな真空管オーバードライブです。ドライブエフェクターが存在しなかった60年代~70年代にアンプだけで作ったドライブサウンドが得られ、特にブルースやロックンロールといったジャンルにフィットします。
本体上面のゲインツマミでドライブ量を設定し、側面の小さなツマミで音量とトーンを設定します
ギター博士「バリッとした荒さ、和音を弾いた時の塊感のある音、アンプがオーバーロードする様なサウンドぢゃ。かき鳴らす系のロックギターのサウンドにあうかなと思ったゾ♫」
「チューブ・ディストーション」はメタル/ハードロックのハイゲインサウンドを目指した、しっかりと歪むディストーション・ペダルです。バンドアンサンブルに埋もれることを恐れることなく、思う存分歪ませることができます。
先述のオーバードライブ同様、本体上面にゲインツマミ、側面に音量とトーンの小さなツマミがあります。
ギター博士「ゲイン0でも歪みの量はかなり多め、粒の揃ったディストーションというよりかは、荒さ/暴れる感じ、ファズ的な歪みという感じ。このファズ的な暴れる感じが、ワシ的にはグランジ/シューゲイザーといった轟音系ギターサウンドにマッチするのかなと思ったゾ♫。ギターをもう一段階暴れさせたい時に踏むかな♫」
「チューブ・ブースター」は、beyondの名を世に知らしめた記念碑的デビュー作です。高域のスピード感があり、ドライブサウンドのキレや抜けに寄与します。ブースト量も十分あるので、納得いくまでゲインを持ち上げることができます。
真空管のサウンドをもう一段ドライブさせる、またもう一歩前に出す、というところを目指して開発されましたが、宅録のライン録りやトランジスタアンプとの相性も良く、さまざまな環境で真空管の力強い音圧を利用できます。
ギター博士「力強くハリのある感じ。レンジも広く、高音域にスピード感のある印象。ハイのスピード感はドライブサウンドをブーストさせた時にいい影響があるかな!ブースト量も十分にあるので、好みのドライブサウンドを強力にプッシュできそうぢゃ!」
「チューブ・バッファー・プラス」は、モデル名の「+(プラス)」が暗示する、真空管の個性をギターサウンドに反映させるバッファーです。高音域のレンジを広げ、きらびやかでリアルなサウンドを作ります。また本体側面に「Tube Boost ボリューム」が備わっており、ゼロ時の「ブーストなし、真空管らしいクリーン」から、「真空管によって増幅された、きらびやかで立体的なサウンド」まで、好きなところに設定できます。
ここで作った真空管増幅の音は、後に続くエフェクターの効きにも良い影響を及ぼしますから、エフェクターボード全体がワンランク上のサウンドを持つことになります。
「バッファー」は、ギターから送られる信号をノイズや減衰に強いローインピーダンス信号に変換するためのものです。そのため「エフェクトボードの最前段で、常時ON」の使用が前提です。電源を切るとアウトプットへの信号は遮断され、その代りチューナーへ送られます。
ギター博士「常時ONを想定してデザインされているナ。ONにすると明らかに高音域側にレンジが広がって、煌びやかかつリアルなサウンドになるのぅ。+(プラス)の名の通り、音色への色付けは濃い印象のバッファぢゃ!」
「チューブ・プリアンプ」は、3バンドイコライザーを備えた真空管プリアンプです。もともとは真空管アンプにつなぐことを想定して設計されましたが、トランジスタアンプやデジタルアンプに真空管のニュアンスを加える効果が確認されており、こうしたアンプのリターン端子につなぐという裏技的な使い方も良好です。
基本の音を作るためのデバイスなので「常時ON」での使用が想定されていますが、フットスイッチもマスターボリュームも備えているため、積極的な音作りを行うブースターとしても使用できます。
ギター博士「ワシ個人としては、3バンドEQブースターという印象ぢゃ。レンジも広く、抜けの良いサウンド。3バンドEQはよく効くので、積極的な音作りが可能となっているゾ。」
以上、新進気鋭のエフェクターブランド「beyond」に注目していきました。かつて真空管を搭載したエフェクターは多くリリースされましたが、これほどコンパクトにまとめられた製品はなかなかありません。私たちは今、電話やカメラ、はては手紙までデジタル化したデジタル全盛時代を生きています。そんな現代であても、アナログが劣っているわけではないのだということを、beyondのエフェクターから感じることができます。
beyondのエフェクターを…
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