フレットの種類と特徴

[記事公開日]2020/12/20 [最終更新日]2024/6/23
[編集者]神崎聡

ギターフレットについて

「フレット」は指板上に打ち込まれた金属の棒で、ギターの音階を決定付けるパーツです。このフレット、実は消耗品で、経年劣化で腐食したり、弦とこすれて局部的にすり減ったりということが起こり、特定のポジションで「ビビリ」が出る原因となったりします。また「浮き」が出てきたり、木が痩せる「バリ」が起こったりすると、音が悪くなったり弾きにくくなったりします。ある程度年月を経たギターのフレットは、一度メンテナンスしてあげましょう。

弦がビビる、その原因を探ってみよう

フレットの材料

エレキギターのフレットには、主に「ニッケルシルバー」と「ステンレス」が使われます。ニッケルシルバーは銅/ニッケル/亜鉛の合金で、別名「洋白(洋銀)」といいます。洋白に近いものは紀元前から使われており、現代でも装身具やナイフ/フォークなど身近なものに使われます。ステンレス(Stainless Steel=錆びない鉄)は錆びにくさ&頑丈さから、食卓から宇宙開発まで多岐にわたって使用されています。

ニッケルシルバーフレット

フェンダーギブソンも、サイズや形状に違いこそあれジム・ダンロップ社のニッケルシルバーを採用しています。アイバニーズフジゲンヤマハなど国内のブランドでは三晃製作所の、やはりニッケルシルバー製フレットが使われます。

ニッケルシルバーはギターのフレットとしては標準的な素材で、そこそこの強度があり、美しく、また加工がしやすいことが利点です。しかしこの金属は弦よりもわずかに柔らかく、何年も使っていると削られて凹んでいくなど変形していきます。よって定期的な「フレット擦りあわせ」や「フレット交換(リフレット)」が必要になります。

ステンレスフレット

いっぽうトム・アンダーソンサージェームズ・タイラーT’sギターといったハイエンドブランドのギターでは、ジェスカー社のステンレスフレットが目立ってきました。また、シェクター、バッカス、アイバニーズといったブランドでは、海外生産機に敢えて採用する例が見られます。

ステンレス(Stain Less =汚れが無い)はその名の通り汚れにくく、いつまでもくすんでしまわずに美しさを維持します。また弦よりも硬いので、長年の使用で凹んでしまうことがほぼなく、いつまでも弦が滑るかのようなスムーズな弾き心地です。しかしニッケルシルバーと比べて音が硬くなり、高音域の扱いに工夫が必要になります。

FREEDOM SP-SF-01S
STAINLESS FRET SPEEDY

Freedom Custom Guitar Researchで採用されているステンレスフレットは、金属の硬度を落とすことで、過度にキンキン言わないトーンバランスを実現させながら、いつまでもきれいで弾きやすいというステンレスのアドバンテージを守っています。

Freedomのステンレスフレットを…
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Freedom C.G.R. 深野氏

固すぎるステンレスフレットはブライトすぎる音しか出てこない感じが嫌いだったので、自分達で柔らかいステンレスフレットを作りました。「柔らかい」っていうのが一番の特徴なんです。耐久性は市販のステンレスフレットより落ちるんですが、ニッケルシルバーのフレットよりは持ちます。うちはやや硬めな「スピーディ」/すごく柔らかい「ウォーム」という2種類を出しています。固いニッケルフレットとうちのスピーディを比べるとうちのほうがちょっと固い、けど他社市販品よりは柔らかい。で、音が全然違うんです。
―Freedom C.G.R. 深野真氏

フレットのサイズとサウンド

フレットのサイズ

フレットは

  • タング:指板に埋め込まれる「舌」
  • クラウン:指板から出て、弦を受け止める「冠」

の二つの部位に分けられ、それぞれモデルごとに細かな違いが設けられます。

フレット模式図 タングには、抜け防止のためのツメが付いています。

タングのサイズを最初から気にする必要はありませんが、フレット交換を行なう際には古いフレットと同じかそれより大きなタングのものを選ぶ必要があります。
「フレットのサイズ」と言う時は、一般的にはクラウンのサイズ(金属量)のことです。この金属量が、サウンドに影響します。金属量が少ないとウッディな丸いトーンに、金属量が多いとハッキリとした明瞭なトーンになります。

現代流行している「ミディアムジャンボ」を中心に、「ヴィンテージタイプ」は細く低く、「ジャンボ」は太く高く、「エクストラジャンボ」はもっとでっかくなります。このほかフェンダーで見られる「ナロー・トール(細く、高い)」、ギブソンのレスポール・カスタムの特徴だった「フレットレス・ワンダー(低く、広い)」など、形状にもいろいろな種類があります。

クラウン形状と弾き心地の関係

弾き心地について、一般論としては

低い:スライド/グリッサンドに有利、高い:チョーキング、ハンマリング/プリングなど指技に有利。押弦が軽くできる

幅が細い:弦が触れる面積が少ないためサスティンが伸びる、幅が太い:スライド/グリッサンドに有利

といった特徴があります。しかしフレットは気軽に交換できるパーツではないため、弾き手が楽器の特徴に合わせてプレイする、というのが普通です。用途やサウンドを狙って擦り合わせやリフレットを行うというときには、プロとのミーティングでしっかりと検討する必要があります。

石橋さん

耐久性やメンテナンス性でステンレスを選ぶお客様もいらっしゃいます。フレットは弦振動の支点になる重要箇所で、耐久性や音の立ち上がりも左右します。ですから弊社ではフレットの足に合わせた適切な溝を切り、慎重に打ち込むように特に気を付けて作業します。
また質量が大きいと金属的なタイトな音に、小さいと「木の音」が感じやすい傾向にあります。しかし演奏性を大きく左右しますから、慣れているもの、あるいは弾きやすいと感じられるものを選ぶのが良いでしょう。
-Red House石橋良一氏
《愛機復活!!》Red Houseにネック交換を依頼してみた!

特殊なフレット

ゼロフレット

ゼロフレット

ナットのすぐ近くにゼロ番目のフレットを打ち込み、解放弦も押さえた弦と同じ響きにします。ナットの溝を調整することなく、フレット打ちだけでセットアップがバッチリ決まる設計です。モズライトスタインバーガー、またグレッチのカントリージェントルマンテネシーローズなどで採用されています。ゼロフレットは常に弦が当たるので、そこだけ減りが早いのが唯一の難点です。

サークル・フレッティング・システム(CFS)

サークルフレット

フジゲンで標準となっている特徴的なフレットで、弦が狭い扇状に広がって張られるのに合わせるようにフレット自体を湾曲させます。これにより末広がりにに張られた弦がどのポジションでも90度でフレットに触れることから、弦振動がクリアになります。

ファンフレット(マルチスケール)

フレットが斜めに打たれている

最近流行してきている、徐々に角度が変わっていくフレットが「ファンフレット(マルチスケール)」です。これにより低音弦側の弦長が伸びてトーンに「張り」が生まれ、反対に高音弦側の弦長は伸ばされないので、弾きやすさが維持されます。

《特集》ファンフレットのギターって、どんな感じ?

《症状別》フレットのケアとリペア

フレットの手入れは、カンタンにできることと専門的な技術を要することに分かれます。しかし、フレットはサウンド面でも演奏性の面でも、超絶に重要な部分です。迷ったらプロに相談しましょう。

曇る、錆びる →
とにかく弾く、もしくは磨く

フレット磨き

いつも弾いているギターのフレットは、弦に常に磨かれている状態です。しかししばらく弾かずに保管していた場合、フレットが曇ったり、錆びてしまったりすることがあります。特にクラウンのてっぺんは弦と接触する部分なので、ここが錆びると非常に弾きにくくなります。ひとまず保管する前に、クリーニングクロスなどでフレットを拭くようにしましょう。

なお、ちょっと曇った程度なら、弾いているうちに元通りになります。我慢できないくらいに症状が進行してしまったら、磨く必要があります。指板を削ってしまわないようマスキングを施し、スチールウールで磨く、というのがオーソドックスな方法です。

キョーリツ「フレット磨きプレート PFB500」は、いちいちマスキングせず、いきなりフレットを磨くことができるプレートです。ごみも増えません。
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フレット浮き →
叩くか接着、最悪の場合リフレット

クラウンは、指板面に密着している状態が正常です。隙間が空いていたら「フレット浮き」です。温度や湿度の影響により、指板がフレットを押し出してしまうことがあるのです。また、タングの部分で浮きが生じていることもあり、特定のフレットでサウンドが物足りなくなることがあります。
この場合、出ているフレットを叩いて押し込んだり、接着剤を流し込んで固定したり、いっそのことフレットを交換してしまう、といったリペアが行なわれますが、やはりプロに依頼した方が安全です。 

フレットの「バリ」 →
環境を変えるか、削る

冬の乾燥などで「ネック痩せ」が起こると、ネック材が痩せて細くなってしまいます。そうなると、フレットがネックの幅からはみ出して、「バリ」を作ってしまいます。しかしある程度の湿度ある快適な空間に移せば、やがて痩せが回復することもあります。ネック痩せが回復しなければ、はみ出たフレットは削る必要があります。弾きにくくならないように、かつ指板を削らないように作業しなければなりません。

フレットの摩耗や変形 →
すり合わせ、もしくはリフレット

フレットは振動する弦によって、すこーしずつ削られていきます。削られていった部分は低くなっていきますが、あまり使われないポジションのフレットは高いままです。そんなわけで弾いていくうち、フレットの高さはバラバラになってしまいます。これでは弾きやすさに影響するばかりか、ビビリを生んでしまいます。
このとき、フレット自体の高さが十分あるならば、全体的に削って平面を出す「すり合わせ」で対処できます。凹みがなくなるまで削っていき、それからクラウンをキレイに成形します。

凹みが深かったり、またフレット自体がすでに低かったりすると、フレットを全交換する「リフレット」が必要です。指板を痛めないよう、既存のフレットをスポスポと抜いていき、新しいフレットを打ち込みます。「すり合わせ」「リフレット」共に、レッツトライ!とは言いにくいハイレベルな作業です。迷わずプロに依頼しましょう。

近年では「plek(プレック)」という巨大システムを使ってネックや指板、フレットのコンディションを測定、そしてフレットの摺合せができるショップが増えてきました。高性能なplekといえどあくまでも扱うのは人間ですが、1000分の1ミリという超高精度の測定とすり合わせが可能です。

《体験取材》ギターを測定する機械「plek」って何だ? – ギターニュース.com

フレットの保護がしたい →
「フレットガード」がお勧め

フレット・ディフェンダー Fret Defender FD-02

ぶつけたり倒したりで弦がフレットに押しつけられると、深い凹みを作ってしまうことがあります。ステンレスフレットですら、凹んでしまうことがあります。そうなると演奏性が著しく損なわれますから、すり合わせを施さなければなりません。その防止のためのアイテムが「フレットガード」です。弦とフレットの間にコレを挿しこんでおくことで、悲しい結果を未然に防ぐことができます。

MUSIC WORKS「Fret Defender FD-02/BK」
MUSIC WORKSの「フレット・ディフェンダー」は、調湿調臭シートでできているため、フレットを保護しながら指板のコンディションを維持することができます。
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