エレキギターの総合情報サイト
「Red House(レッドハウス)」は、ギター工場として、あるいはリペアショップとして、あるいは音の追及を手助けするプロショップとして、30年以上のキャリアを誇る信州の老舗です。サドウスキーMetroLineを手掛けることで知る人ぞ知る存在となり、このほどケリー・サイモン氏のシグネイチャーモデル発表を契機に一気に認知度を上げ、近年楽器フェア2018、サウンドメッセ2019など展示会へ出展、特にストラトタイプを突き詰めるブランドとして全国的に有名なメーカーとなりました。
弾けまっせ!買えまっせ!サウンドメッセ2019レポート!! – ギターニュース.com
エレキギター博士取材班はこのたびレッドハウスの工房を訪ね、社長の石橋さんにいろいろなことをお聞きしました。
入口にかけられたベースには、エルボー部分にがっつりとカットの跡が。試作やサンプルは、いろいろな実験材料として駆使されます。
石橋良市(いしばし・りょういち)株式会社レッドハウスギター代表取締役社長
ギターメーカー勤務から26歳で独立、ヴィンテージギターのリペアやオーダーギターを製作するかたわら、夜の3時間しかOpenしていない楽器店Red House Guitarsを6年経営し、ハイエンドオーディオの販売も手掛けた。配線材やハンダ、コンデンサーの研究も重ね、木工と電工、両方のノウハウをバランスよく蓄積する名工。自宅は工場の隣で、休日はライブを観に行くか、工場にいるかのどちらか。スタッフさんいわく「会社にいない時には、ライブに行っています」。奥様は40冊以上の著作を手掛けた菓子研究家、石橋かおりさん。
──よろしくお願いします。レッドハウスは、どのようなギターを作っているのでしょうか?
石橋:よろしくお願いします。弊社ではポリシーですか?
これを前提として、トータルバランスを重視しています。
音的には密度感があり、情報量が多く、全帯域がまんべんなくフラットに出ていること。必要に応じて足したり引いたりして目指す音作りができる楽器を目指しています。そうでないギターは欲しい帯域を操作できず、音抜けが悪くなる傾向があると思います。ギターらしいと言われる癖のある感じとは少し違うので、人によっては面白みが無いと言われる方もいます。しかし弊社のギターはミッドが足りなければ上げて、トレブルがきつかったら下げて、欲しい音をちゃんと作ることができます。
プロミュージシャンの方に試奏していただく機会を多くいただいているんですが、いつも開口一番で「弾きやすい」というお言葉をいただくのは、弊社の自信になっています。一般のお客様への販売では、第一印象ではなく何回か試奏して、他社とも比較して、最後に選んで頂けたということが多く、ケリー・サイモンさんからもいきなりオーダー頂いたわけではなく、しばらく弊社のストラトをお貸しして使っていただきました。
石橋:口コミからオーダーをお受けするのはずっと前からやっていたんですが、会社としてオーダーを受け始めたのは本当にごく最近です。1年半くらい前ですが楽器店さんから2本のストラトをオーダーいただきました。キルトトップの方は納品したその日に売れてしまったんですが、もう片方のオーソドックスなストラトが、ケリー・サイモンさんとお会いするきっかけとなりました。
あるときケリーさんが来店して、店長さんが「弾いてみてください」と、ケリーさんも「ぜひぜひ弾かせてください」と、そういうわけで試奏していただいたそうです。そのうちケリーさんは真面目な顔で弾きだして「ローズ指板なのに、この立ち上がりは」と驚かれたそうです。弊社のギターが大事にしている「立ち上がりの速さ」、そこを気に入っていただけました。
ケリーさんの演奏を初めて観た時は、あまりにウマくて驚きました。速いだけじゃなくて、ギターの良い音をしっかり出す技をお持ちです。
──二本のストラトがそこまでの結果を出すなんて、ものすごい命中率ですね!
レッドハウスのオーダーメイドは低価格に抑えられているようですが、どのように作るのでしょうか。
石橋:他社さんで作ったことのあるお客様からは、弊社の「ストラトタイプ、26万円から」という価格設定は安い、というお言葉をいただくことが多いです。ボディカラーやポジションマークの変更などでいちいちアップチャージしないことも多いですから、むしろ経営を心配されることもあります。そんな時は余計にお支払いいただいてもいいですよと笑います。
オーダーが2本目3本目というお客様は、漠然とした夢だけでなく、ハッキリとした方向性があって作るという方です。こういう方々はまさに「バランスが良くて立ち上がりが早い楽器」が必要だと思って弊社にいらっしゃることが多いです。
弊社はトータルバランスこそ大事だと考えています。その中でお客様の好みにどれだけ合わせられるか、これが作る側の面白みです。パーツや材木などでお客様の注文がすべてかなえられているからOKかというと、そうではないと考えます。このギターを「こういう音楽で使いたい」という希望になるべく向けてあげることが大事だと考えています。ハイ上がりなジャリーン!って音が好きな人もいれば、ウッディな柔らかい音が好きな人もいますよね。弊社はいろいろな面でクオリティを上げていく努力を重ねております。その上でお客様の好みやこだわりを察して、ぴったりのギターを提案する事を常に目指しています。
──変わったオーダーにはどう対処するんでしょうか?
石橋:弊社はオーソドックスなスタイルの楽器を求めるお客様が中心で、奇抜な形のオーダーはありません。
とはいえ弊社はOEMをずっとやってきていますので、何でも作ることはできます。日頃お受けするOEMでは相手先の求める品質と納期こそが重要なので、弊社のこだわりを必要以上に込めたりはしません。
しかしオーダーメイドではお客様と一対一のやり取りとなりますから、なるべくお話を聞いて、こちらからも積極的な提案をして、最終的な形を決めていく、という作り方をしています。
備考:OEM(original equipment manufacturer):他社ブランドの製品を製造すること、またはその企業。日本では「相手先ブランド名製造」、「納入先商標による受託製造」とも(ウィキペディア「OEM」より抜粋)。
石橋:「バランスと立ち上がり」だけでなくもっと「木の性質を生かして」などのコマーシャル的なセールストークが必要なのかもしれませんが、僕は最終的には「お客様にとって良い音楽ができるギターとは何か?」が問われていると思っています。弊社は幸運にも良い木材を集められているので、これを使って“楽器”として使えるものを作っていきたいです。
僕はヴィンテージが大好きですし、リスペクトもしています。ですが現場現場で必要とされる音は違いますから、何でもビンテージに追従するのとは違います。「どういう音が良いのか」に正解はなくて「良い音という音」も無いと思っています。その人その人に必要な音を提供するお手伝いができれば、と思っています。そういう意味では、ウチの楽器はこうです!というわかりやすいものは今のところありません。基本性能の高さが持ち味ではあるんですが、分かりやすいPRは難しいな、と感じています。ぜひ実際に体感して、感じていただきたいです。
では、いよいよ工場を拝見しましょう。いろいろなものを見ながら、石橋さんにギター作りの哲学を語っていただきました。
メインの空間となる木工所。窓から光がさす、明るい環境です。
二階は資材の置場。
整然と並ぶ工具。いろいろなブランドの発注を受けるだけあり、ドリルだけでも無数に揃えています。
石橋:これはピックガードのテンプレートで、同じように見えて全部違うものです。お客様は「ストラトなら一緒でしょ」とお思いになって気軽にご注文くださいますが、同じストラトタイプでもメーカーによって微妙に違いますし、同じメーカーでも年代や生産ラインによって違います。ネジ穴の位置だけが違うこともあるんですが、お客様によってネジ穴を空けなおしてよいという方も、やはり穴を空けたくないという方もいらっしゃいます。これだけでも大変ですよ(笑。
石橋:これはハカランダです。5年位前まではまだ流通がありましたが、最近はいよいよ流通がなくなりました。モダン志向のギターメーカーさんはハカランダにそれほど執着しないと思いますが、弊社はヴィンテージギターの取り扱いから始まっておりますので、なくなってきたとはいえコレにはこだわっていきたいです。指板用の木材としては、やはり大変優秀な材が多いですからね。最近は、木目が巻いている荒れた模様が重宝されている風潮があります。意匠としてはイイと思いますが、木目が巻いているものはそれだけ狂いも大きいので、気を付けて扱っています。
何とも美しいキルト模様。
石橋:木材は製材してからでも動きます。これは「動く方向に力がかかる」とも言えますので、例えば指板材の動いてくるところを狙ってネックの弱いところに充てることで、変形しようとする力をネック材の補強に向けることができます。これは経験を積んでいくにつれてできるようになる技術ですが、宮大工さんが木材のクセを利用して先を見据えて作るのと同じなのかな、と思っています。
積み上がったボディ材は、軽量なものを選んでいる。中には3kg台のものも。
石橋:ケリー・サイモンさんモデルのボディ材です。ようやく選別が完了しまして、これで初回分の準備ができました。今まではなかったお仕事なので会社の仕事量は増えるんですが、これからの段取りはできているのでグっと進んでいくと思います。
ケリーさんご本人モデルのボディは「重さを絞ってミッドがよく出るもの」という指定でした。お客様向けのギターでも同じになるように、なるべく良いものをお届けしようとしておりますので、選別には時間がかかりました。このサイズなら4.5kgが平均ですが、今回のものはエリートクラスに軽量なものばかりです。
貼り合せる木材は「木材の中心側がトップ側」で統一されている。
石橋:2Pのボディ材は、木の中心に近いほうがトップ面に来るように貼り合せています。この取り方が音響的に楽器に向いていると判断しており、弊社のこだわっている部分の一つです。逆の方が良いという考え方をする人もいて 考え方次第なんですが、その自由度こそが楽器製作の面白みだと思っています。
特にアコギではこだわりのポイントが千差万別で、職人さんによってトップが命という人も、サイド&バックこそという人も、ネックはそんなに重要ではないという方もいらっしゃって、それぞれにこだわるポイントが違っています。「スプルースを加工するのは、月の夜に」という信じられないこだわりを持つ職人さんもいるようです。
そういうこだわりの部分を一つ一つていねいに解説してくれるメーカーさんもあると思うんですが、僕は過度な情報や先入観を持って楽器に向かって欲しくはありません。僕自身は下調べをせずにライブを観たいんです。そこで自分が音を聞いてどう感じるか、そこをとても大事にしたいと思っています。気に入ったバンドについては後から調べることもあるんですが、先入観があると、どうしてもフラットな耳で聞けなくなってしまいます。弊社のこだわるポイントについても同じで、お客様には情報じゃなくて音を感じてほしいと思っているんですが、悩ましいところです。オーダーくださるときには、僕たちが思っていることをきちんとお客様に伝えて、そのうえで選んでいただけるようにしたいと思っています。
ずいぶんと変わったボディ形状。変形モデルでしょうか?
複雑な木目に交差する杢が、何とも美しい。
石橋:これはOEMで作っている「ドロップトップ」のボディ材です。ボディの曲面にあわせてメイプルを貼りつけていますが、弊社ではこの状態で全体に圧力を均等にかけ、カッタウェイや高音側は後から加工します。加工の手間はかかりますが、結果を見るとこの工法がベストだと判断しています。
バック材にはアルダーとアッシュを使っています。
石橋:コンコンと叩いてみると、中音域のコロコロっとした感触や高音域の立ち上がりなど、木材の個性を知ることができます。巷では”アッシュは~な音がします”、”アルダーは~な音がします”と言われると「アルダーとアッシュで音の違いが判らない」という人もいらっしゃると思うのですが、それはその通りなんです。アッシュっぽくキンキンしているアルダーもありますし、アルダーっぽくゴンゴンしているアッシュもあります。アッシュもアルダーも木材それぞれに個性があって、全体的には極端に違う音ではなく近いところを持っていますから、ブラインドテストで音だけを聞いて樹種を判別するのは、極端に特徴的なもの以外は難しいと思います。
──これだけ物が多いのに、キッチリ整頓されていますね!
「私たちが作っています!」工場のスタッフは総勢5名。
(取材中に訪問販売のセールスマンが訪ねてきましたが、石橋さんはこれに応対、しっかり説明を聞いたうえで新発売のクリーナーを一個買いました。スタッフさんいわく、石橋さんは「試してみなければわからない」という思いで何でも試すし、そのうち想定外の使い方を発明することもあるのだとか。事実、石橋さんはこのクリーナーに対し「レリック加工に使えるかもしれない」とおっしゃいました)
石橋:レッドハウスは工場の隣にスタジオを併設しており、音量を気にすることなく大音量で楽器のチェックができます。バンドメンバーを連れてこれれば、バンドアンサンブルの中でギターの音がどう響くのかもチェックできます。スタックアンプに冷蔵庫の様なラックシステムを持ち込んだ強者ミュージシャンさんもいらっしゃいました。(笑)
広いスタジオにずらりと並んだギターとベース。左用もちらほら。
石橋:弊社はスタジオも持っておりまして、バンドアンサンブルの中でギターの音をチェックできます。ギターやエフェクターのテストに使用しているのがこのハイワット(写真上)で、ショップを始めた時に導入して以来、30年以上使っている60年代の代物です。すべての音域を容赦なくクリアに、また色づけなく出してくれるので嫌がる人も多いんですが、ウマい人はこのアンプでびっくりするくらい良い音を出してくれます。
これの感触を覚えておくと他社製のアンプでどんな色付けがされているかも判る、いわば測定器のようなものです。非常に分離が良く、チューニングの甘さもすぐ聞き取れるし、たとえばナットの仕上げが甘いのまで聞き取れますから、社員の仕事もシビアになります(笑。
スタジオにも何台かアンプを用意しており(写真下)、アンプごと、サウンドごとの感触をチェックできます。ローランドJCを使う人は多いので、必要だと思っています。フェンダーはクランチ/ドライブ用、マーシャルはがっつり歪ませるために置いています。それぞれ古いものだということもあって、スピーカーを交換するなどカスタマイズされてます。
すごくクッキリとしたサウンドで、フロントでしっかり歪ませた状態でさえ、滑らかな感触の中にピッキングが活きる、とても明瞭なサウンド。ピッキングが荒いのを誤魔化すためにフロントを使う、というのは「速弾きギタリストあるある」ですが、これでは誤魔化しきれません。個別のコイルタップで作られるサウンドバリエーションが面白いです。
石橋:「ストラトってシングルコイルが多いよね」と思って作った2ハムのストラトです。ウチのギターはものすごくクッキリとしますよ。録音ではテイクごとにいったん止めて、音を作って、ということができるんですが、ライブでは魂の赴くままに弾きたいから操作系はシンプルが良いですよね。2ハムで3WAYセレクター、タップスイッチという構成は、録音では音が作り込めるし、ライブではシンプルに弾ける、という2面性を持っています。
2ハムはコイルタップをからめると守備範囲が広いんですよ。昔ある有名ミュージシャンの音を研究していたのですが最終的には「コイルタップの音を巧く絡める」のがポイントだなと学びました。このギターは個別にタップできるミニスイッチを持ち、ミックスポジションでは4種類のサウンドが得られます。録音ではかなり有用です。また、弊社のハムバッカーは、コイルタップすると本格的なシングルコイルのサウンドが得られます。配線をいじって、シリーズ/パラレルで使っても面白いですよね!
なんともしっくりくる、絶妙なサイズ感と弾きやすさ。そして、まあるく芯のある、正真正銘のセミアコのサウンド。この落ち着いたいでたちから、ジャズやブルースに使いたくなりつつも、ロック系でも活躍できるポテンシャルを感じます。
石橋:これは非常に反響が大きくて、早く製品化したいと思っているギターです。シンラインっぽいルックスですが、シンラインのようなシャ-プでブライトな音は狙っていません。軽さとエアー感というメリットは残しつつ、ジャズやブルースも行けるような芯のあるファットな音を併せ持つ、ギブソンES-335風のアレンジに挑戦しています。スケールも試験的にギブソン、フェンダー、PRSらの中間「25.25インチ」にしています。
ボディはちょっぴり小さめで、平均的な身長の日本人が構えてかっこいい寸法を目指しました。
トップのマホガニーは化粧板で、エッジの部分は丸く面取りしてあります。ボディの空洞は、内部の空気が狙い通りに振動してくれるように特殊な開け方をしています。ホール内の音の反射を変化させる為の加工も施してあり、これらがサウンド構成の大きな役割を担っています。材の違いではなく構造の違いで狙った音に近づける試みでした。これはかなり満足のいく結果になったと思っています。アタックは少し丸いですが、音はつぶれません。トーンやボリュームを絞って使いたくなるし、アコギのフィンガーピッキングでも弾きたくなる音です。
このネックには杢が入っていますが、硬いメイプルではなく、比較的立ち上がりのゆっくりとしたフレイムメイプルをわざわざ選んでいます。
石橋:ケリーさんのギターに近い仕様ですが、ピックアップはディマジオYJMで、リバースヘッドになっています。YJMは王者イングヴェイ・マルムスティーンさんのシグネイチャーモデルなんですが、トレブリーで生々しいプレキシ・マーシャルに繋げて使うため、少し甘い音を持っていて、トレブルの痛いところが上手に絞られています。
石橋:スケールはほんのちょっと短くて、フェンダーの25.5インチとPRSの25インチの中間、25.25インチにしています。フェンダースケールと比べ12Fまでで3,3ミリ短いです。弦のテンション感は弦長やチューニングなど物理的な要素で決まってくるものです。010-046のゲージ弦の音は素晴らしいんですが、フェンダーの伝統的な弦長(25.5インチ)では少し硬いのが難点です。弦長をほんのちょっぴり短くすることで、チョーキングの感覚やピッキングのリアクションななど、演奏性は向上し、音的にも面白くなりました。
こういうルックスのストラトなら、こういう音だ、という予想通りの安心感のあるギターであり、パリパリ感のある気持ち良いサウンド。
石橋:一方こちらは、対照実験用として作った、LPと同じ「指板R12インチ」以外はまったくもってオーソドックスなストラトです。近年このような平たい指板や円錐指板が好まれる傾向ですね。
リアシングル一発にトレモロレス、これはまたずいぶん攻めたギター。ここまで潔いギターだとボリュームもトーンも使いたくなりますが、スッキリとしつつ案外柔らかい音が得られます。ボディはとても軽量ですが、外周はバインディングではなく、塗装を削ったように見えます。
石橋:こちらはプロトタイプです。ボディの外周は「エッジが立ちすぎるボディへのアプローチ」として塗装後に削ってみたことから発見した手法です。抱えても痛くないし、外観のアクセントになりますね。
ピックアップはさっきの普通のストラトと全く同じものですが、全く違う音に聞こえます。「リア一発」仕様は基本的にフロント部に穴が開いていません。シャープ、ソリッド、タイトな音が欲しい人にお勧めですが、エアー感や楽器らしさを求めるのなら、ここに空洞があってもいいのかな、と思い今回は開けてあります。それに加えボディには、某社のスピーカと同じ原理で細い空洞を引き回すようなチェンバー構造に挑戦しています。
オーディオのノウハウは、いろいろなところでギターに使えると思っています。
サウンドメッセ2019の取材において、石橋さんは「どのギターも狙って作りたい」とおっしゃいました。その「狙う」とは、どういうことなのか。取材でこれを伺いたいとお伝えしたところ、二本のギターをご用意くださいました。
「このくらいの違いは伝わるのか伝わらないのか、僕らも知りたい」という2本のギター。ネックは全く同じ時に同じ状態で作っもので同じ重量、ボディはこれまた同じ時に作ったアルダー製で、こちらの重量は80gしか違いません。塗装も同じ種類、ピックアップと金属パーツも全部同じです。しかし狙った「違い」があります。さて、何が違うのでしょうか?
──白の方が柔らかくて明るい?黒の方が締まっていて中低域がブンってしてる?モダン系とヴィンテージ系の違いでしょうか?私たちが試される取材は初めてです(笑。
石橋:二本の違いは、配線材の種類や太さ、アースの取り方など電気的なことだけです。オーディオの世界ではよく知られていることですが、ギターに応用すると面白いこともあるんです。狙ったのは、
というあたりです。こうしたちょっとした引き出しがあれば、お客様の「もうちょっとこうしたいんだけど」という声にお答えできる可能性が広がります。
よく「アタリ」と「ハズレ」っていうじゃないですか。同じ設計だし出荷基準も満たしているのに、どうして個体ごとに評価が分かれるのでしょうか。それは何かの偶然が重なって、人を心地よくさせるんです。その偶然の要素を狙って再現できれば、「ハズレ」のギターが生まれないように出来ないかと考えています。弊社にはこうした狙う要素の蓄積があります。木材ですから完全に狙った通りというのも難しいんですが、初めて作るもの以外では、今のところ大外しはありません。
──感服いたしました!
石橋:「左用の良い楽器がない」というのは、皆さんおっしゃいます。選択肢が少ないしお店に置いてなくて通販しかないし、オーダーしようにも左用というだけでアップチャージされてすごく高くて、と左のギタリストは苦労が絶えません。フェア出展で弊社の何をPRできるかと検討した時に、「こだわりなく多種多様なものができる」に加えて「左利きの人たちのために何かできないか」という案が出たんです。これは良い提案だということで、左用のギターも積極的に作っていこうとしています。
──(マーシャルでギャンギャン弾く)ドライブサウンドで物凄く抜けてくる、モダン系らしい立ち上がりの良さを感じます。この抜け感が出すぎずちょうど良い、痛すぎないのがまたイイです(左用ギターのピックアップについては事前に好みを訊いてくださったので、まことに恐縮ながら「SSH配列で、モダン系シングルコイル2基にハイゲインのハムバッカー」という好みをお伝えしていました)。
(「測定機」のハイワットで鳴らす)これ、ピッキングのコントロールが難しいですね!ピッキングでニュアンスを付けないと無機質に感じてしまいます。しかしソフトに弾くと甘い感じの音が出せるのが分かります。ストラトのツルツルのクリーンでこれだけ気持ちよく鳴ってくれるのは、珍しい体験です。
トーンを絞った甘い音もしっかり抜けてきて、これならジャズもできそうです。ボリュームをちょっと下げた甘い音も気持ちが良くて、ボリュームとトーンも積極的に使った音作りをしたくなります。しかし、ストラトのピックアップなのに、3弦がバカでかくない、2弦が引っ込んでいない、各弦の音量バランスがとてもいいのが不思議です。
石橋:どのギターも、良い弦振動が生まれる本体を作り、バランスと立ち上がりがよくなるよう手間をかけています。この左用については、お好みのものになるべく近いピックアップを選びました。弊社のギターで使うピックアップは、基本的にピックアップメーカーさんとのコラボで開発したオリジナルです。ストラト用のシングルコイルは右でも左でも同じように使えるよう、ポールピースの高さを調節しています。リアのハムバッカーはゲインに加え、バイト感(食いつき)のあるものをチョイスしています。
ロック系のギターでありながら「ジャズでも使える」というのはまさに弊社が目指しているところです。ジャズはコードバランスとタッチへの追従が必要で、ヘヴィメタルではバランスの良さと立ち上がりの速さが必要ですが、両極端のジャンルでもギターに必要とされる要素には共通点が多いと思います。弊社はこういうところの底上げをしたいと考えていて、その意味で「プレイヤーの好み」の枠を越えた「セオリー」を守った上で、いかに良いものを提案できるか、を曲げずにやっていこうとしています。
特にブルースやフュージョンのプロミュージシャンはギターのボリュームを「10」ではあまり使わず、「7」か「8」くらいを基本に音作りや表現力に幅を持たせています。ジャズのプレイヤーさんになると、ボリュームもトーンも全て使って音をコントロールする方が多いです。操作系で作る音のバランスについては、そういうミュージシャンの方から本当に貴重なご意見を頂きました。
このギターは実験的に、敢えてノイズ処理をしない生々しいサウンドで仕上げてみました。ヴィンテージ系のギターでしたらこれくらいのノイズは許容範囲です。しかしモダン系のギタリストは「多少の音質と引き換えでも、ノイズを除去したい」と考える方も多いです。そういうお客さまに提案できるような、これは良い!という導電塗料は見つかりましたが、銀が入っていて高価すぎるのが頭の痛い問題です。
500gで70,000~時価(銀の相場で変動します)(笑)。
──(「測定機」のハイワットで鳴らす)太くてクリアで、第一印象でとても良い音です。ドスンと来る迫力のある音なのに、低音域が拡がらない感じが絶妙です。本体が軽いのもイイですね。
石橋:これもギター同様、良好な弦振動を作っておいて、バランスと立ち上がりをよくする手間をかけています。このベースの秘密はチェンバーボディです。これも細い溝を引き回す方式で作られています。基音がしっかりしているのでロックでも使える音であり、ジャズやフュージョンでも楽しく弾けるほのかな余韻のあるベースを目指しました。音は「低域が拡がらない、立ち上りが早く、輪郭のある太い音」を目指しています。ベースの場合、低域の迫力が欲しいからってローを上げすぎてしまっては、アンサンブルを壊してしまいます。本機はそこを意識して低域をキュッと絞めていますし輪郭のある音ですので「トーン0」で弾いても、バンドアンサンブルでしっかり抜けてきます。こういう音は、ドラマーにとっては乗りやすく、ボーカリストにとっては歌いやすいですから、自分よりもバンドメンバーが喜びます。
──確かに、「高い基本性能による、何だか良い感触」というのを味わうことができました!
ではここで、次なる会場に行ってみましょう。木材の保管と塗装の作業場は、車で10分ほどのところにあります。木材に絶対的な自信を持つというレッドハウスのお宝を拝見しましょう。
石橋:私がレッドハウスを開く前に勤めていた工場は、各社コンポーネントギターのネックやボディを作っていました。高い要求に応じられる良い木材をたくさん確保していて、それに足る技術もありました。惜しまれながらその会社を畳むというときに、頑張ってお金を工面して、保管している木材を全部譲ってもらったんです。40年くらい前の古い木材だしグレードも高くて、マホガニーなんか特に、木材の時点ですでに楽器になっているものばかりです。木材が好きな人は、コレを肴にお酒が飲めると思います。必ず悪酔いすると思いますが(笑)
大事に使わせていただいています。
しましま、しましま、しましま・・・。自然が作る美しいストライプにうっとり。
石橋:今の価値観だったらマスターグレードくらいの扱いになると思うんですが、当時ではAAAクラスという扱いでした(とはいえ、当時はAAAが最高級)。
石橋:エボニーは真っ黒なものばかりで、ものすごく硬いですよ。ハカランダもまだあります。しかし材料が良ければ良い楽器になる、ということはありません。ヴィンテージギターのリペアをやるとわかってくるんですが、70年代のギター産業では、大量生産のために精度を甘くして、作りやすさを優先させた設計が多く採用されていました。そういう楽器で材料の良さを論じてはいけないんじゃないかな、と思います。これに対して50年代の楽器は、ほんとうにキッチリ作られています。50年代のフェンダーやギブソンは、エレキもアコギもたとえば鉄芯(トラスロッド)なんかも物凄くタイトに加工されていました。楽器として残っていくものを作るには、素材だけでなくてきちんとした作り方が重要なんだと考えています。
石橋:塗装工房のスペースは半分位のサイズでも良かったんですが、物件を半分だけ借りるわけにもいかなかったので、このサイズになりました。木材を置くスペースも確保できましたから、結果的にはこれでよかったと思っています。塗料は色々な種類をストックしていて、ベンツやフェラーリ、レクサスなど自動車の塗装に使うものも使います。「自分の愛車と同じ色にしてくれ」なんてオーダーも結構あるんですが、こだわるお客様は「同じ純正塗料でなければ」とおっしゃるわけです。安い塗料ではありませんが、夢があってイイですね。
電熱線のヒーターを使い、24時間体制で温度管理をしています。
何十年も前から寝かせている木材で作ったレスポールタイプ。グーで叩くと腰の高い軽快な音が。
石橋:こういうオーダーもあろうかと、思い切った色調のサンプルも作っています。
丸太をスライスしたそのままの木材。順番通りに積み上げると丸太になる。
さてここからは、取材中にお話しいただいたトピックをいくつか紹介します。
石橋:楽器選びの決め手は、「弦振動」だと考えています。弦振動がきちんといしていないギターは、それ以上にならないと思っています。まずは6弦を弾いた時に倍音が豊かで、ぼやけず芯のある音のギターを選びましょう。
サウンドメイキングについても、弦振動はとても重要だと思います。弦の状態 同じギターで同じ機材で鳴らしても弦が新しいか古いかで全く違う出音になりますよね?極端に古い弦はチューニングも合わなくなります。もっと極端に言えば弦が切れたら音は出ませんよね?弦ってそのくらい大事な基本だと思っています。
無頓着な方もいらっしゃいますが、弦が新しいか古いかで、キラキラしたりモコモコしたりしますよね?どの状態でサウンドメイキングするか(例えば張り替えて次の日とか、)タイミングを自分の中で定めておくと近道かと思います。
キイチビール&ザ・ホーリーティッツ「鰐肉紀行」
爽やかながらどことなく懐かしい、上質なポップス。橋本=タフネス=樹氏の奏でるPベースは、しっかり抜けてくる聞きやすいサウンドです。
石橋:楽器が完成したその時だけでなく、ミュージシャンの方が現場で音楽制作に使い、リスナーの方に音が届く、弊社の楽器で録音されたCDが、弊社のギターやベースの音が、たくさんの方々に届いてリスナーの方が幸せを感じて下さる、そういうことで、こちらも幸せを感じています。そういう道具を作らせて頂ける事に本当にありがたみを感じますし、お金を頂いた上に「ありがとう」と言って感謝までしていただける、素晴らしく夢のある仕事だと思い感謝しています。
アマチュアのお客様がプロになって有名になる、ということもありました。キイチビール&ザ・ホーリーティッツのベーシスト、橋本=タフネス=樹さんもその一人です。
知り合いの業者さんから、弊社のベースを弾かせてみたい人がいるというお話をいただき、2本お貸ししたことがあるんです。まだ若くてアマチュアだったんですが、ベース1本当たりレポート用紙で2枚ずつ、レビューを書いてくれたんです。内容も専門誌のコラムのように凄く細かく詳しく、ベースから彼が感じたこちらの意図を分析した上で、自分の意見もキッチリ書いてくれました。正直ビックリしました。
ご本人が弊社にいらしたときに「測定器」ハイワットで何本か弾いてもらったんですが、ものすごくウマくて、ビックリしました。とっても感動したので「次に弾くならどんなベースが弾きたいですか?」って質問しました、むしろ何かやらせてくれないかと半ば強引に推して、「社長特権」で彼の好みのベースを作りました。弊社には社長特権の枠があって、僕が本当に作りたいと思っている楽器の製造を、会社のスケジュールに挿しこんでもらえるんです。スタッフも納得してしっかりと協力してくれます。(原価は社長の個人マネーから会社に支払います 笑)橋本さんはそのベースを使いメジャーデビューし、アルバムも2枚目となり、ベースマガジンでご本人とベースが紹介されたんです。これはとてもびっくりしたし、嬉しい事件でした。
石橋:弊社は本当のところ一人でやるつもりだったんですが、某NYCの有名メーカー様のOEMを引き受けてからは、そうもいかなくなりました。はじめ代理店のチーフルシアーAさんからお誘いをいただいたんですが、こちらは一人だから生産が間に合わない、とお断りしていたんです。それでもやれるペースで良いからと再三お誘いを受けました。サンプルだけでも作ってみてもらえませんか?と依頼されたので、お渡ししました。そしたらしばらくしてNYCから御本人がいらして(笑)、サンプルを持参していて目の前でチェックして“グリーンライト”と言われました。何??と思っていたら青信号だから進みましょう!!の意味と説明を受けました。
なんてカッコいいんだ!!と思い“YES!じゃあやりましょう”と言ってしまいました(笑)
それから弊社は徐々にスタッフをを増やしながら、OEMを受ける工場として運営してきまして、自社ブランドを打ち出したのはごく最近です。僕自身は個人オーダーを受けてギターを作ることはありましたが、「万人に向けたギター」を作るイメージが湧かなかったんです。当社の考える「立ち上がりが早いギター」というのは弾き手を選ぶ傾向が強く、人によっては弾きにくく感じられてしまうかも、と思います。弊社はブランドとしてはまだまだ始まったばかりですから、現場からの声は大変貴重な情報です。お客さまからの声をたくさん聞いて、製品に反映させていきたいです。
──求人を出すなら、どんな人に来てほしいですか?
石橋:常識をわきまえた方でしたら誰でもいいんですが(笑、理想を言うと「想像力のある人」です。自分があることをしたとき、どういう結果を生むのか、音がどうなるのか、先を読んで考えられる人がいいですね。いくら読めたからってあまりにも偏屈な人は困りますが(笑。
──ありがとうございました!
石橋:ありがとうございました。
取材中、奥様の菓子研究科、石橋かおりさんが手作りのロールケーキをふるまってくれました(写真左)。ギターのことで頭がいっぱいなのにおいしかったので、恐ろしくおいしいケーキだったのだと思います。ブルーベリーは長野産です。レッドハウスの社員になると、奥様のスゥイーツが食べられるわけです。
お昼にはお勧めのおそば屋さんに行き、おいしいおそばやお刺身を楽しみながらギター談議に花を咲かせました(写真右)。さすが長野県、左側の赤いお肉は馬刺しです。ギターメーカーは林立してるしおいしいものはたくさんあるし、長野県は素晴らしいところです。
以上、長野県塩尻市、レッドハウスからお届けしました。ケリー・サイモンさんのシグネイチャーモデルで露出が多いだけに、ハードロック、ヘビーメタルに強いメーカーだというイメージを持つ人も多いかもしれません。しかし実際は特定のジャンルへの偏りはなく、逆にどんな現場に対しても合わせられる柔軟性と幅広い守備範囲を持ったメーカーなのだと分かりました。これからレッドハウスがどんなギターをリリースしてくるのか、とても楽しみです。ギターのオーダーメイドを考えている人は、ぜひレッドハウスも検討してみてください。
石橋さんより、情報サイト「エレキギター博士」読者の皆さんに、プレゼントをいただきました!
プレゼントをご希望の方は、当サイトの問い合わせページから、「Red Houseプレゼント応募」の件名にて、
をご明記のうえ、メールを送信してください。
応募の締め切りは2019年8月31日です。
当選者の発表は発送をもって代えさせていただきますが、当選した人は、ぜひご自分のSNSで盛大に自慢してください。ご応募、お待ちしております!
(※個人情報はプレゼント送付以外の目的には使用いたしません。いただいたメールは、抽選後に全て削除します。)
※当サイトではアフィリエイトプログラムを利用して商品を紹介しています。
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