《薄いボディに太いサウンド》アイバニーズ・Sシリーズ

[記事公開日]2019/3/4 [最終更新日]2019/3/4
[ライター]小林健悟 [編集者]神崎聡

アイバニーズ・Sシリーズ S1070PBZ

極薄ボディを特徴とするSシリーズは、代表機種「RG」に並ぶアイバニーズの定番機種となっています。スリムかつ軽量なスタイルが支持され、このSを出発点とした派生モデルやアーティストモデルもリリースされています。今回は、このアイバニーズSシリーズに注目していきましょう。


NITA STRAUSS – Pandemonium (Official Video)
Sでシグネイチャーモデルをリリースしている、ニタ・シュトラウス女史は、アリス・クーパー氏のバックも務める実力派です。緩やかな曲面を描くSのボディは、ストラウス女史に劣らない柔らかさと美しさを感じさせます。

Sシリーズの特徴

1) SはスリムのSではないが、際立ってスリムなボディ形状

Sシリーズ第一の特徴は、何といっても「限界まで薄くしたスリムなボディ形状」です。専用部品で内部の高さを稼がないと5Wayセレクタースイッチが収まらないほどですから、ボディの薄さは限界を超えていると言ってもいいでしょう。またアウトプットジャックもボディサイドに設置できないため、ボディトップにシールドを斜めに差し込む方式です。

Sが登場した1980年代終盤はアイバニーズがギターのボディ形状を模索していた時代で、RGでもボディを若干スリム化した「RG6」が投入されています。Sはもともと「セイバー」の名で、他の異なるボディ形状のモデルと共にいっせいにリリースされました。他社製品との混同を避けるため改称した「S」は市場に支持されて存続しましたが、同時にリリースされた4モデルは続きませんでした。その4モデルのうち唯一、「R(Radius)」の基本設計がジョー・サトリアーニ師匠モデル「JS」に受け継がれています。

2)体格と裏腹の、太くて丸いサウンド

Sの二つ目の特徴は、「スリムなイメージと裏腹の太いサウンド」です。これはこの薄さだからこそ得られるサウンドです。

なぜボディが薄いと太い音になるのか?

シンバルを例に考えてみましょう。同じ金属で同じ直径でも、厚いものと薄いものと比べると、厚いものはアタックの立つ甲高く鋭い音が、薄いものは低音が豊かな柔らかい音になります。ギターのボディでも同じことが起こるわけです。逆に「ぼやけた音」にまでなってしまわないよう、Sはボディ中央部の厚みを残し、硬質な成分も含んだコシのある太い音を生んでいます。

3)代表機種RGとは、どこが違うのか?

Ibanez:SとRGの比較 上:S1070PBZ
下:RG1070PRBZ

では今度は、「RG」と比較し、その違いからSの特徴を浮き上がらせてみましょう。比べるのは現行モデルの

  • S1070PBZ
  • RG1070PRBZ

です。いずれも海外生産の「プレミアム」シリーズで、異なる木材を組み合わせたボディトップ、個性的なカラーリングを持っています。

基本データを比較してみる

両モデルの仕様をまとめると、このようになります。

S1070PBZ RG1070PRBZ
ネック構造 11層もの木材を貼り合わせた「ウィザード」11pネック 同左
ボディトップ ポプラバールを中心に、異なる木材を組み合わせたトップ ポプラバール
ボディバック アフリカンマホガニー バスウッド
指板仕様 バインディングしたパンガパンガ指板、マザーオブパールインレイ、ステンレス製ジャンボフレット 同左
ネック関係の寸法 弦長25.5インチ、ナット幅43mm、12フレット地点でのネック厚20mm、400mm指板R 同左
ブリッジ Edge-Zero II w/ZPS3Fe 同左
ピックアップ ディマジオ製Air Norton、True Velvet、The Tone Zone 同左

表:SとRG仕様比較

何と、「ボディ仕様以外すべて共通」という結果です。SでもRGでも「このボディ形状と木材のセレクトに、それだけの意味がある」ということがわかります。

近年のRGでは他のボディ材も目立ちますが、それでもバスウッド製ボディのRGが無くなることは今のところありません。RGは「普通サイズのバスウッドボディ」という仕様を重視しているようです。対するSは、トップ材のバリエーションこそあれ、一貫してマホガニー系の木材をボディ材に使用しています。Sは「薄型マホガニーボディ」こそが重要なわけです。

バック側を見てみよう

RGではボディバック面とバックパネルが「ツライチ(段差がない)」になっています。ボディ厚にゆとりがあるため、バックパネルを落とし込んでスッキリ設置できるわけです。しかしSのボディ厚では、これをツライチにするゆとりすらありません。Sのボディ厚は、本当にギリッギリなのです。

音を聴き比べてみよう

動画で音をチェックしてみましょう。仕様の違いはありこそすれ、同一シリーズのギターで、また同じギタリストが演奏しているので比較しやすい印象です。


Iron Label S
固定式ブリッジ、7弦、ディマジオピックアップ搭載のS。


Iron Label RG
エッジ・トレモロ搭載、バスウッドボディのRG。

「RGの音はやや鋭く、Sの音は丸い」と感じる人が多いようです。あなたはどう感じますか?

アイバニーズ・Sシリーズのラインナップ

では、シリーズ(=グレード)ごとにSのラインナップを見ていきましょう。

Premium Series

海外生産の上位機種「プレミアム・シリーズ」は、銘木を惜しみなく投入する木材構成と、フレットの両端をキレイに球面加工する「プレミアム・フレットエッジ・トリートメント」を共通仕様としています。セットアップにも妥協しない、クラフトマンシップが宿る高品位なギターです。

S1070PBZ(6弦) / S1027PBF(7弦)

S1070PBZ / S1027PBF

6弦と7弦は共通して「セルリアンブルー・バースト」カラーの奥に見えるポプラ・バールのボコボコ感が、あたかも岩礁をのぞき込んでいるかのような錯覚を覚えさせます。ボディトップはセンター部分にカーリーメイプルなど銘木を組み合わせたラインが通っているので、正面から見たらまるでスルーネック仕様機のように見えますね。ボディには希少性の高いアフリカンマホガニーが使用されています。

ネックはパンガパンガをメインに、メイプル、ウォルナット、パープルハートの11層でできています。ウェンジに近い特徴を持つパンガパンガは非常に硬質、その他の木材も硬質ですから、0フレット地点で18ミリという薄いネックシェイプながらほぼ動じることのない、硬い硬いカッチカチのネックになっています。指板もパンガパンガで、ジャンボフレットはステンレス製ですから、ネック周りはすべてカッチカチです。

6弦と7弦ではカラーリングと木材構成が共通ですが、ピックアップ構成とブリッジ、弦に違いが確認できます。

S1070PBZ(6弦) S1027PBF(7弦)
ピックアップ HSH(ディマジオ製Air Norton、True Velvet、The Tone Zone) HH(ディマジオ製PAF7)
ブリッジ Edge-Zero II w/ZPS3Fe(アイバニーズ伝統のフロイドローズタイプ&ゼロポイントシステム) Gibraltar Standard II-7(アイバニーズ伝統の固定式ブリッジ)
弦のゲージ 0.09~0.42 0.10~0.59

表:プレミアム・シリーズの相違点

ピックアップついては、両機ともまさに「王道」ともいうべきものがセレクトされています。6弦の「Air Norton、True Velvet、The Tone Zone」はクッキリとした、かつ熱いモダンサウンドのための定番、7弦の「PAF7」はヴィンテージ・レスポールのピックアップを再現し、7弦用にアレンジしたものです。

多くのギターメーカーが主要金属部品を他社に依存する中、アイバニーズはブリッジの設計にこだわり抜いています。FRTタイプの「エッジ」、固定式の「ジブラルタル」ともに、アイバニーズが長年にわたって育ててきたオリジナルブリッジです。

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AXION LABEL

2019年に発表された「AXION LABEL(アクシオン・レーベル)」は、特に「Djent(ジェント)」に代表される新しいメタルシーンへの挑戦をテーマにしています。新しいカラーリング、第一線を走るピックアップ、エキゾチックな木材構成、低音処理で強化したフレット、シャーラー製ロックピン装備、12フレットを境に配置の異なるポジションマーク、怪しく光るヘッドロゴなどがシリーズ内共通仕様です。

S61AL / S71AL

Ibanez S61AL/S71AL

アクシオン・レーベルのSは6弦と7弦で、弦の本数以外は同一仕様となっています。モノトーンでまとめたたたずまいは、美しくもありクールでもあります。ボディ材にはマホガニーに代わってナトーが採用されています。ネックはパンガパンガとウォルナットの5層構造、指板はマカッサル・エボニー製で、かなり硬質です。

ピックアップには、近年おおいに注目されているフィッシュマン社製の「フルーエンス」をセレクトしています。ミニスイッチによるコイルタップに加え、このピックアップ最大の特徴である「ピックアップそのもののキャラクター切り替え」をボリュームポットのプッシュ/プルで操作します。

ブリッジには強固な「ジブラルタル・スタンダードII」、ペグにはチューニングの安定性と弦交換の時間短縮を特徴とするゴトー社製ロック式ペグが採用されています。

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IRON LABEL

「ただメタルミュージックのために」を合言葉としてラインナップを展開する「アイアン・レーベル」は、メイプル+パープルハート+メイプルの「ナイトロウィザード」ネック、トーン回路および指板インレイなし、といった仕様をシリーズ内の共通としています。近頃では、猟奇的なメタルで特に定番視されている「ツヤッツヤの黒ずくめ仕様」は影を潜め、見た目に新しい個性的な色調のものが目立ってきています。

SIX6FDFM

Ibanez SIX6FDFM

6弦のみリリースのアイアン・レーベル版Sは、ナトー製ボディにフレイムメイプルトップというボディ構造、ならびにリバースヘッド仕様という点が上記アクシオン・レーベル版と共通ながら、本体色とパーツカラーの違いによって全く異なった雰囲気を帯びています。

ピックアップはアイバニーズと共同開発したディマジオ製「フュージョン」のHH配列で、タップスイッチの操作でハムバッカー2基、あるいはシングルコイル2基として使用できます。ブリッジには固定式の「ジブラルタル・スタンダードII」、ペグにはゴトー製のロック式ペグが採用され、抜かりはありません。

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Standard Series

「スタンダード・シリーズ」は、標準的なスペックでまとめたスタンダードモデルです。上位機種と比べると低価格ですが、中上級者が本番で使用するに足る性能とサウンドを持っています。

S670QM / S621QM

Ibanez S670QM / S621QM

スタンダード・シリーズのSは、主な特徴が共通する6弦仕様のトレモロ装備モデルとトレモロレスモデルがリリースされています。ボディトップはキルテッドメイプル、バックはメランチが使用され、上質な演奏性に定評があるメイプル製ウィザードIIIネック、「エボニーより硬い」と言われる、硬いにもほどがあるジャトバ製指板、アイバニーズオリジナルの「クォンタム」ピックアップを備えています。

「エッジ」トレモロを備えるS670QMのハムバッカーピックアップはエスカッション(枠)マウント、固定式ブリッジのS621QMではボディに直接設置するダイレクトマウントとなっており、ピックアップ設置法による音の違いを確認することができます。

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派生モデルSAシリーズ

Sの派生モデル「SA」は、リムなボディにトラッドな要素を盛り込んだギターで、スタンダード・シリーズから2タイプがリリースされています。Sに雰囲気の似たボディ形状ですが、バック面が平らになり、ネックが少しだけ厚くなっています。ゴージャスなバインディングなど共通仕様の多い2本ですが、木材やピックアップに違いがあり、興味深い対比となっています。

SA560MB / SA460QM

SA560MB / SA460QM

メイプルバールをトップにあしらった「MB」、キルテッドメイプルの「QM」はいずれもオクメ(マホガニーに近い特性)製ボディ、ミディアムサイズ22フレット、305mmR指板、SSHピックアップ配列、2点支持シンクロタイプトレモロといった共通仕様でまとめられています。

モデル名 SA560MB SA460QM
ボディトップ メイプルバール キルテッドメイプル
指板 エボニー ジャトバ
ピックアップ ディマジオ製、アルニコ磁石を使用するSSH 自社製、セラミック磁石を使用するSSH

表:SA2モデルの違い

指板の違いは性能というより見た目の色調によるセレクトですが、ここでピックアップの磁石に違いを出してくるあたり、かなり渋いアプローチです。

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SおよびSAから生まれたアーティストモデル

SおよびSAからは何本かのアーティストモデルがリリースされています。ネック形状に各個アーティストのこだわりが込められるほかは木材やピックアップの仕様変更にとどまるものが多く、SおよびSAの完成度の高さがうかがえます。これらアーティストの声がレギュラーモデルにフィードバックされることもあります。

JIVA10(Nita Strauss)

Ibanez JIVA10

「ワルツ王」として知られる作曲家ヨハン・シュトラウス氏の子孫、ニタ・シュトラウス女史のシグネイチャーSは、心電図のような波形を描く「ビーテンパス・インレイ」を外観上の特徴とし、ディマジオ製のご本人モデル「パンデモニウム」ピックアップをダイレクトマウントしています。

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EGEG18 / EGEN8(Herman Li)

Ibanez EGEG18 / EGEN8

ヘヴィメタルバンド「ドラゴンフォース」の一翼を担うハーマン・リー氏のシグネイチャーSは、高音側ホーンに刻まれた「カンフー・グリップ」を外観上の特徴とし、日本製上位機種「18」、スタンダード機「8」の2タイプがリリースされています。両機ともアフリカンマホガニーをボディ材に使用、ピックアップはエスカッションマウントされています。

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PWM100(Paul Waggoner)

Ibanez PWM100

「Between The Burieb And Me」所属のポール・ワゴナー氏のシグネイチャーSは、木目を活かしたアッシュボディ、モジョトーン社製ご本人仕様ピックアップをエスカッションマウントしたHH仕様です。極太の弦を張って6弦「C#」からの「全弦1音半下げチューニング」でセットアップされます。

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KIKO10BP(Kiko Loureiro)

Ibanez KIKO10BP

達人キコ・ルーレイロ氏のシグネイチャーモデルはSAをベースに、アルダーボディ、ネックにチタン製ロッドを仕込み、ご本人仕様ピックアップをダイレクトマウントしています。ボリュームポットがタップスイッチとなっていますが、ハムバッカーの状態でもハーフトーンはシングルコイル同士になります。上位機種KIKO200はRGAをベースにした日本製です。

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