ドリアンスケールの使い方

[記事公開日]2025/7/29 [最終更新日]2025/8/6
[編集者]神崎聡

Cドリアンスケールの5線譜


ドリアンスケール(Dorian Scale)は「1, 2, ♭3, 4, 5, 6, ♭7」の7音から構成されている、長音階を2度から並べ直してできるマイナースケールの一種です。

通常のマイナースケール(ナチュラルマイナースケール)の第6音は短6度(m6)であるのに対して、ドリアンスケールでの第6音は長6度(M6)となっています。

この1音の違いがドリアン独特のサウンドを生み出します。

長6度を含むことで、ドリアンではIV度のコードがメジャーになります。

ナチュラルマイナースケールならIm–IV(例:Am7–Dm7)と進行するところ、ドリアンではIm–IV(例:Am7–D7/D9)という進行が可能です。

全半全全全半全 ドリアンスケールの音階

ドリアンスケールの響きと特徴

“モーダル”な響き

ドリアン・スケールはトニック(主和音)に対する導音(7度の音)が♭7であるため、解決感が弱く浮遊感のある響きを持ちます。
いわゆるモーダルな雰囲気を帯びており、コードが一つのトニックに停滞したジャム的な進行でも活躍します。
ジャズやロックで使われるモード曲(後述の「So What」など)はこのドリアン特有の浮遊感を活かした例です。

モード:特定の音階(スケール)の構成音を基に、異なる音をルート(根音)として使用し、異なる音階の雰囲気を生み出す
モーダル:モードを基盤とした演奏スタイル。コード進行よりもモードを重視し、即興演奏や作曲に用いられる

明るさと哀愁の同居

ドリアンは短3度を含むため基本的にはマイナーの哀愁がありますが、長6度のおかげで暗すぎないほろ苦い明るさが加わります。
“ビター・スウィート”なサウンドがドリアンの真骨頂で、ジャズやブルースのソロでしばしば好まれる理由です。
マイナーの切なさに微かな希望を感じさせる独特のムードが、ドリアンを他のスケールと差別化しています。

ドリアンが活きるコード進行と楽曲例

Im–IV(メジャー)のヴァンプ

ドリアンを象徴するコード進行が主和音マイナーから長4度へのヴァンプ(一定のパターンを繰り返して演奏する伴奏)です。

代表例としてラテンロックの「Oye Como Va」(Santana)はAm7–D7の反復でAドリアンの響きを生かしています。

同様に「Breathe」(Pink Floyd)はEm–Aの繰り返しでEドリアンのムードを作っています。

もしナチュラルマイナースケールならIVmになってしまい、この独特の爽やかさは得られません。

「Oye Como Va」「Breathe」いずれも暗すぎないお洒落なマイナーの雰囲気を持っています。

ファンクでの活用

Im7–IV7(9)の進行はファンクの定番で、例としてシックの「Good Times」(Em7–A7)はEドリアンのサウンドでグルーヴしています。

ジャズ・ファンクの名曲「Chameleon」(Herbie Hancock、B♭m7–E♭7)もB♭ドリアンのリフで有名です。

長6度が含まれるドリアンだからこその爽快かつ粘っこいグルーヴが、ファンクには欠かせません。

Im–IIm(全音上行)

もう一つドリアンでよく現れるのが主和音(トニック)マイナーから全音上のマイナーへの進行です。

例えば「Light My Fire」(The Doors)はAm7–Bm7というコード進行を含み、Aドリアンの音使いが効果的に使われています。

IImコード上の5度の音がドリアン固有の長6度にあたり、これが進行に独特のカラフルさを与えます。

ジャズでの活用

ジャズ史ではモード手法の代表としてマイルス・デイヴィスの「So What」(1959年)が挙げられます。
この曲はDm7を中心にしたDドリアンで全編が構成され、従来のコード進行に頼らないモーダルなアプローチを示しました。

ブルースでの活用

ドリアンはマイナーブルースのコード進行にフィットする音選びを可能にします。
理由の一つはブルースのIV7(ドミナント7th)に対応できることです。

例えばAマイナー・ブルースでIV7コードはD7ですが、ドリアン(A, B, C, D, E, F#, G)ならD7の構成音D-F#-A-Cすべてを内包しています。
特にF#(長6度)はD7の3度に当たるため、ソロでF#を使うとコードにピッタリはまり「より正しい響き」に聞こえます。

ペンタトニック/ブルーススケールとのハイブリッド

ペンタトニック中心でプレイしてきたギタリストにとって、一音を変えるだけで新しい音階になるドリアンは習得しやすいスケールです。既存フレーズの延長で使えるため即興でも取り入れやすく、マンネリ化したペンタトニック・フレーズに変化を付ける強力な引き出しになります。

マイナー・ペンタ+長6度=ドリアン的サウンド

ブルースでは基本的にペンタトニックやブルーノートを核にフレーズを作りますが、随所にドリアンの音を織り交ぜることで洗練された響きを得られます。典型的なのはマイナー・ペンタ主体のフレーズで長6度(13th)を狙って当てる手法です。

例えばAマイナー・ペンタ(A, C, D, E, G)を基にGをF#に置き換えると、A, C, D, E, F#という音列になり、Aドリアンになります。

この音使いはペンタトニックの手軽さを保ちつつ、F#の音によって一気にジャジーな雰囲気が加わるため、ブルースに洒落た彩りを与えます。

ブルーススケールとの併用

ドリアンとブルーススケール(ペンタトニック+♭5)も相性が良く、アドリブでは両者を行き来することでブルージーかつモーダルなフレーズが作れます。

例えばAブルースでのソロで、通常のペンタ主体フレーズ(A, C, D, E, Gに♭5のE♭を加えたスケール)にドリアンの音(2度=Bや6度=F#)を織り交ぜると、一瞬でジャズ・ブルースらしい香りが漂います。

ジャズ・フュージョンの名手:ジョン・マクラフリンの活用例

ジョン・マクラフリンはモード理論を駆使したジャズ・フュージョンの名手で、ドリアン・スケールも頻繁に使用しています。
マクラフリンが参加したマイルス・デイヴィスの「In a Silent Way」でも、ドリアンをはじめとするモードが駆使されています。

指板上のポジション

ドリアンはナチュラルマイナーに近い配置なので、既にペンタトニックやナチュラルマイナーのポジションを知っている場合は比較的覚えやすいです。

  • Cドリアン・スケール
  • D
  • E
  • F
  • G
  • A
  • B

Cドリアン・スケールの指板上のポジション

Cドリアン・スケール

Cドリアンスケールを用いた運指例

Cドリアンスケール:Tab譜 Tab譜下の数字:1=人差し指、2=中指、3=薬指、4=小指

Dドリアン・スケールの指板上のポジション

Dドリアン・スケール

Eドリアン・スケールの指板上のポジション

Eドリアン・スケール

Fドリアン・スケールの指板上のポジション

Fドリアン・スケール

Gドリアン・スケールの指板上のポジション

Gドリアン・スケール

Aドリアン・スケールの指板上のポジション

Aドリアン・スケール

Bドリアン・スケールの指板上のポジション

Bドリアン・スケール

ギター博士がCドリアンスケールを弾いてみた!

clear

ギター博士「フッ…アーバンでシャレオツな雰囲気がするのぅ、マドモアゼル♪」

ドリアン・スケールは、構成音を見れば判るように「マイナー・キー」で使うスケールです。試しにコードに合わせて弾いてみるとジャズの要素を感じられるかもしれません。
試してみてください。

このギターソロのポイント

drian-scale-tab クリックして拡大

Cドリアンスケール内の音から構成されるコードを使ったアイデア

ドリアンスケール内にあるBb△7

Cドリアンスケール内にはBbメジャーセブンスコードを内包しています。
7小節目ではBbメジャーセブンス(ルートから全音下のM7)のアルペジオを弾いています。
このBbメジャーセブンスのコードトーンは、キーであるCマイナーに対してそれぞれ【9th, 11th, ♮13, b7】と効果的なテンションになっています。このフレーズによって浮遊感が漂っていますね。

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