エレキギターの総合情報サイト
「Sugi Guitars」は、長野県松本市に工場を構えるハイエンドギターブランドです。仕上がりの美しさ、演奏性の良さ、サウンドの良さなどが内外で高く評価されており、現代における「あこがれの楽器」の一つになっています。今回このSugi Guitarsを取材する機会をいただきまして、代表取締役の杉本眞さん、国内販売マネージャーの丸野内哲平さんのお二人からお話を伺いました。
──宜しくお願い致します。聞いてはいましたが、本当に販売可能な在庫が無いんですね!
Sugi Guitars 代表取締役 : 杉本 眞
杉本 ここ数年、在庫がなくお客様に待ってもらっている状態です。かれこれ2年ほど「在庫を持たなきゃ」ということでやってきたんですが、今なお在庫はほとんどありません。新規でお声をいただいた時にすぐお出しできない、海外からわざわざ来てくれたのにお渡しできるものがない、応接室にサンプルがぶら下がっていない、というのは寂しく感じています。現在のモデルを作るまさに最初の試作品は残していますが、それ以外はプロトタイプやデッドストックなども残っていません。
──現物に触れない「幻のギターブランド」というのもすごいですね!
丸野内 今ではこの在庫の無さによって、販売の機会を損なっていることが悩みの種になっています。今まさにとある販売店さんから問い合わせがあったんですが、在庫が無いからすぐには出せない、というお返事しかできませんでした。お店としては、すぐに入荷できないなら代わりに別の商品を仕入れたいと思うものです。それだけお客さんを失っているわけですし、メーカーとしての責任も果たさなければなりません。
──一台一台堅実に生産していった結果、「Sugi」ブランドの価値がしっかり上がったというわけですね。
杉本 将来的に「ヴィンテージ」になるギターを作りたいんですよ。目指すのはこれしかありません。いろいろな判断に迫られるときには、それに向かっているのかどうかを踏まえて決断をしています。それを達成するためにも最初に作ったモデルをいまだに生産しており、さほど新しいものはやっていませんし、ベースに至っては殆ど仕様の変更が加えられていません。時流にあった音作りの処置だけはしますが、シェイプは一切いじらず、ピックアップなどの位置も基本的にいじりません。
──「ヴィンテージ」を作るというのは、年月により経年変化して完成するところまで、というお考えですか?
杉本 いや、そういう意味ではなく、「ブランドが続いている」ということがヴィンテージの条件です。たとえばストラトにしても、フェンダーが今なお同じものを作り続けているからこそ、当時のものがヴィンテージになるんです。しかも「工場発信で、プロが考えた最良のものが作り続けられている」ことが必要なんです。フェンダーもギブソンも、マーチンも工場発信です。単なる古いギターかヴィンテージかは、ここが違うんです。オーダーメイドや一点ものは、たとえ時が経ってもヴィンテージとは呼ばれないんじゃないかと考えています。だから私も工場発信にこだわって、48歳まで量産工場に在籍していたんです。
──ヴィンテージ(と呼ばれるようなギターを作りたい)という思いは、いつからお持ちだったんですか?
杉本 ギター製造の仕事についた時から、自分が作ったギターが将来ビンテージと呼ばれるようになる事を目標としてきました。自分が生きてきた証を「足跡」と表現されますが、レオ・フェンダーが亡くなってもフェンダーは残っています。それは継続しているからで、継続こそ命です。自社ブランドのギターが年間300本生産されて流通する、ブランドが生きている状態を続けていけば、Sugi Guitarsのギターはヴィンテージになれる、と考えています。そのためには月に30本程度生産できる会社にしなければならないし、職人を育てるのにはどれほどの時間が必要かも考えなければなりません。そうするとこれだけの人数が必要だろうということが分かったんですが、その人数を限界まで増やした結果が現在の体勢です。
──いわゆるヴィンテージギターやベースの設計からの影響はどれくらいでしょうか。
杉本 現在のヴィンテージからはピックアップの位置など、たくさんの影響を受けています。また心地よい音というのは、音楽を聴き始めた時から今に至るまでカラダに染み込んでいるので、音的にも影響は大いに受けています。
杉本 いま以上増産するのなら、売り込むために営業スタッフが今以上必要になります。そうしたらその増員した一人ぶんの人件費を増収しなければならないから、生産台数を増やさなければなりません。自社ブランドを拡大すると、営業スタッフの人数と生産台数のせめぎ合いに悩まされるんです。だから弊社も他の多くのメーカーがおこなっている、OEM生産を請けています。
自社ブランドだけで勝負するには、今の工房の規模をどんどん拡大していくか、規模を固定してOEMを請けるか、関連事業に手を広げるかの三択かと考えています。拡大路線の先には壁があって、限界まで拡大した後には多角化を模索しているメーカーもあります。純粋に自社ブランドの生産だけで切り盛りしようと思ったら、かなり大変です。やるならスタッフ数名の小規模な体勢でも可能かと思いますが、一人でも欠けてしまったらその組織は存続できず、ブランドが死んでいってしまいます。そうなると、製品はヴィンテージになることができないと考えています。仮に私が辞めてしまっても、ブランドが生き残ってSugiブランドのギターが作り続けられる、そんな会社を作るためにはどうすれば良いのか、ということを考えて頑張っています。
私が量産工場を退社するときには、「工場出身者がブランドを起こして成功した例はない」、「手工家として成功した職人はいても、エレキギターの分野ではいなかった」と言われました。普通のエレキギターが10万円くらいという時代でしたから、当時の上司からは「30万円や40万円のギターが毎月売れるわけがない。やめとけやめとけ」なんて言われましたよ。
丸野内 現在あるヴィンテージギター本体を作りたいのではなく、製品がヴィンテージギターになるブランドを作り上げたい、ということです。ヴィンテージギターのコピーモデルを作りたいというわけではなくて、ブランド自体がヴィンテージになっていくような、ブランドの存在意義を深めていきたいと考えているんです。だいたいの日本メーカーは、模倣からスタートした歴史があります。弊社のように「オリジナルで勝負して、確固たるブランドにしていきたい」という考えを最初から持ってスタートしたところは、創業当時大変少なかったと思います。
杉本 コピーは「勉強」には良いんです。若い頃にはアメリカのNAMMショウにノギスを持っていって、ギターの寸法を片っ端から測ったこともあります。評価の高いギターは何が良いのかを見つけるため、ギターを買ってきては指板もネックも外して、ロジック(理論)を探しました。歯医者さんにお願いしてレントゲン撮影をしたこともありますよ。いろいろなものを分析していった結果、いろいろなロジックやそれぞれの個性というものが分かってくるんです。こうした取り組みで蓄積させたロジックが、オリジナルギターの開発に活かされています。
──Sugi Guitarsの製品は「バランスが良い」という評価が多くされていますが、ボディバランスはどうやってとるんでしょうか。木材の個体差に影響されないものなのでしょうか。
杉本 ボディバランスはとても大事だと思っています。例えばホーンのサイズは重量バランスだけでなく、音にも直接影響を及ぼします。シングルカッタウェイのハイエンドベースを最近ではよく見かけますが、ネックを保持するのが狙いだと思われるシェイプもあります。どのブランドも、形状や寸法は狙って決めているんです。ボディバランスというものは、抱えた時の重量バランスだけでなく、鳴りを作る上でも重要です。たとえばジャズベースが良いからといってピックアップを同じにしたところで、ボディの形が変わったら違う音になりますよ。
相手は木ですから、ネック材やボディ材の重さには多少なりとも個体差があります。しかし持った時の「根本的なバランス」というものがあり、設計の段階でそういった重さの違いに影響されにくくしています。特にボディ材の重さがまちまちだというのは大前提にしており、よっぽど極端に重たい木材でもなければボディの構造を変えなくても済むように考えて設計しています。
丸野内 Sugi Guitarsの製品はどの機種でも、ストラップで吊って両手を離してもヘッド落ちしません。
──そのバランスを実現させるためには、やはり何度も試作を重ねていったんでしょうか。
杉本 いえ、そうでもありませんでしたね。このバランスならイイな、というのが自分の中に感覚的にあったせいかもしれません。これから流通させていくモデルでは、製法やネックの仕込み、ピックアップなどのパーツ類などで仕様を変更していくことがあるかもしれませんが、こうしたボディ構造について変更を加える事は考えていません。
──現在メインのDS(デタッチャブルネック)とSH(セットネック)の二つに今後も絞っていくというお考えですか?
杉本 いいえ、最初にできたのはSH485でしたが、一日遅れてDSも出荷しました。それ以来この2モデルがSugi Guitarsの看板ですが、その時々の音楽シーンにあわせて色んなモデルを製作して行きたいです。これ以外にも「Too Good To Be…」シリーズではいろいろなことをやろうと思っています。このシリーズはヴィンテージを目指すというよりは、好奇心でやってみたいという遊び心を優先しています。
──Sugi Guitarsはコウモリをモチーフにしていますが、なぜコウモリだったのでしょうか。
杉本 Sugi Guitarsを私とスコットの二人で始めた時、間借りした事務所にコウモリの白骨が2〜3体ころがっていたんです。真っ白で、とてもきれいでしたよ。事務所を立ち上げてからもコウモリが入り込んでくることがあったんですが、中国においてコウモリは「幸福を運んでくる」縁起のいい動物だということを知らされました。そんなことがあったんで、弊社製品のモチーフにひとまずコウモリを選んだんです。楽器作りにおいては、ビジュアル的にテーマがあった方がやりやすいんですよ。
コウモリのインレイは、主にベースのジョイント部分に配置しています。深く考えることもあるんですが、「モノさえ良ければ良い」と思うものですから「ノリ」で決めてしまうこともあります。コウモリなんかはその最たる例ですが、メイプル指板に杢が入っていたり、ピックアップカバーに事務所の柱(パドック材)を使ったり、といったこともたまたま手近にあったものを「合格」と判断して使用しているだけだったりします。もちろん条件はあるんですが、その条件に合致するものであればどれを選択しても良いものができるように思います。
──Sugi Guitarsのギターはまた「タッチに対して柔軟に反応する」と評価されています。このような敏感な楽器を作るためには、どんなことに気をつけていますか?
杉本 これは木工加工から影響する問題で、ネックとボディが精度良く加工されていないと敏感に反応しません。例えば木工での加工が最初からしっかりしていないと、組み立てた時に弦高を下げたセッティングができないものになってしまいます。高い弦高が好きな人はどれだけでも上げることができますが、弦高を下げたセッティングは容易にはできません。
あとはネックの仕込みですが、ネックを起こしてジョイントした楽器に弦を張ると、さらに起きるように力がかかります。これに対してネックと平行に弦を張ったら、ネックを起こす力が少なくなります。このようなことも考えて作っていかないと弦振動が計算通りのものにならず、セットアップで「NG」と言われてしまうこともあります。ひとつひとつの加工精度をきちっと上げていくことの積み重ねが大事です。
そうはいっても、量産とハンドメイドの比率で言ったら、圧倒的に量産のギターの台数の方が多いわけです。世の中の音楽は、ほとんどが量産の音楽で作られていると言っていいでしょう。それが「良し」ならば、その音もアリなんですよ。だから、レゾナンスの作り方なんかもそうですが、量産機のツボをキチッと押さえた「敢えて量産機の音を出すギター」なんてのも、「Too Good To Be…」で企画できるわけです。
丸野内 Sugi Guitarsは、杉本社長以下社員全員、量産機を否定するつもりはまったくありません。確かに私たちは「ハイエンド」とカテゴライズされるギターを作ってきましたが、量産機には量産機の良さがあるということも十分理解しているつもりです。ですから量産機の音を出すギターを作りたくなることもありますが、そんなときはそうなるように狙って作ります。しかしハンドメイドの工場なので、実際に量産するということにはなりません。
杉本 弊社の工場でできる仕事量は決まっているので、量産しようと思ったら残業しなければなりません。残業ありきの量産はできないという考えと矛盾するようですが、「スクールギター(スチューデントモデル)」を作りたい、という思いも持っています。実現するなら、価格は15万円までに抑えたいんですが、それでは当社規模では商売にならないからできないんです(笑)。
弊社のDSシリーズのフラットトップモデル(DS499)は、スタート後3番目に設計されたモデルです。フラットトップで回路をパネルにマウントするなどの工夫で価格を抑えたモデルですが廉価板とは考えていません。上位機種のDS496とは用途も音も違う楽器なので、生き残れるモデルだと考えています。
丸野内 杉本社長はギター作りのこだわりを持ちながらも、「良いものは良い」と認めることができる柔軟な考え方を持っています。ですからSugi Guitarsのギターにはさまざまなこだわりが込められていますが、そのこだわりに固執しているわけではなく、違ったコンセプトのギターを作ってしまうこともあります。
──そのこだわりの一つに「パッシブサーキット(電池を使わない回路)」がありますね。アクティブサーキット(電池を使用する回路)を使用するのが一般的な5弦ベースですらパッシブですが、ここまでパッシブにこだわる理由は何でしょうか?
杉本 4弦も5弦も同様に弦振動がウマく伝達できるような設計にしておけば、楽器本体は大丈夫なんです。
アクティブというものは、ノイズを少なくできるし手元で音色をいじることができるので便利ですね。しかし例えば80年代にアクティブが大流行しましたが、当時のものが今なお使われている例は大変少ないです。それは音楽が変わっていった証拠だと思っています。例えば80年代に可調範囲の広いロッキングトレモロを採用したモデルが登場し市民権を得ていったのも同様で、当時の音楽的なニーズに合致したため、多くのユーザーに支持されたからだと思います。
「音楽」というものは行ったり来たりも含めてどんどん変わっていきますから、音楽をやるために何が必要かも移り変わっていきます。我々は音楽の流れにはどうあっても逆らえませんが、私たちはそういった時代の流れを経験している者として、では自分たちはこの時代に何を提示してゆくか、また変えてはならないのはどこか、という事を考え製品作りをしています。その中でアクティブサーキット内蔵の楽器をリリースしたら、回路の評価によって楽器本体の評価も引きずられてしまいます。しかも時代ごとに音楽のニーズに合わせたアクティブサーキットの開発に力を注いでいる人は、たくさんいます。そういった人たちと勝負できる回路の開発をし、ビジネスベースに持ってゆく事までは、片手間ではできません。
そういった背景から、専門メーカーが良いものを作ってくれるんだから、回路の分野はむしろその専門家にお任せして、我々はその中から我々の望む製品を使用させて頂こうと考えています。楽器がちゃんとした音の出るキチっとした「容れ物」になっていれれば、選択肢は山ほどあるんです。どうしても手元で音色を調整したいというユーザーさんに向けてアクティブサーキットの搭載モデルも製作しますよ。
アマチュアバンドをやっていた時に、自分のギターの音が聞こえにくいので音量を上げたら、ベースも自分の音量を上げて、収拾がつかなくなってしまったということがありました。その時からずっと、音量を抑えていても自分の音がアンサンブルの中から抜け出してくるようなギターを作りたいと思っていました。だから「粒立ちの良い音」を重要視したモデルとして、DSモデルを設計しました。
丸野内 Sugi Guitarsのベースは、パッシブで5弦なのに抜けが良くて、音程感がしっかりしています。アクティブのベースはバスドラムの帯域と混ざってしまいがちですが、Sugi Guitarsのベースはバスドラとは違うところで響きますから、ヘヴィなバンドの中でもちゃんと音階がきれいに聞こえるんです。
杉本社長の蓄積したものを楽器にして世の中に出したら、似たような物が以外と無かった、というところがSugi Guitarsのオリジナリティになっていると思います。オリジナルの楽器だからこそ、他とは違う音になっているのが強みです。
──オーダーでは、どんな仕様変更が選べるのでしょうか?
丸野内 フルオーダーではなく弊社製品を出発点とした「セミオーダー」として、Sugi Guitars取扱店さんを通して承っております。オーダーでは木材の組み合わせや搭載するパーツの組み合わせ、またボディカラーなどを変更することができます。ボディシェイプやヘッドなど木部の基本仕様は変更できませんが、弦長についてはこちらが用意できる範囲で選択できます。
選択できる木材やパーツ、寸法などはオーダー用のチャートにすべて記載されています。ここに書いてあるものはすべて弊社での検証が済んでおり、それぞれを選択したときにどんな楽器ができるのかをしっかり把握しています。逆にここに記載のないパーツや木材、寸法などチャートから逸脱した仕様については、完成品に対して責任を取ることができませんので、お断りしております。
杉本 もしお客様が満足しないようなギターができてしまったとしても、「弊社も初めてのパーツですから」なんて言い訳は利きませんからね。だからこちらでテストして評価したもの、過去に経験して問題がないと考えているもののみお受けしています。どうしてもというなら、後からご自分でパーツ交換なり改造なりして頂く、という姿勢でおります。
丸野内 そうは言うものの、杉本社長はじめ我々一同、「やってみたい」という気持ちもありまして、チャートを外れた仕様のオーダーがいつもNGとは限りません。チャートになくても過去に経験したものならお受けできますし、オーダー内容の基準には巾を設けてあります。
──色やインレイについては自由度が高いですね。
杉本 楽器としての機能にはあまり影響の無いところや物は、やはり自由度は高いですね。しかし、インレイについては持ち込まれたデザインそのまま、という注文はお受けしておりません。イメージやコンセプト、またはテーマなど大まかなところををお伝えいただいて、楽器として我々目線でその製品が一番良く見えるようにこちらでデザインさせて頂いております。そこは弊社としても重視しているところです。
丸野内 オリジナルインレイは新規にデザインして施工するため、かなり高額になるということはご理解ください。
──調整/セットアップのポイントは何でしょうか?
杉本 「可調範囲(調整可能範囲)」を目指しています。弦高が高いままで出荷してしまったら、オーナーさんが下げたいと思っても無理が生じる場合があります。ところが極力下げて出荷すれば、低いのが好みだと言う人にはそのまま弾いてもらえますし、逆に高いのが好みであったら上げる事は容易と考えています。
特に海外では、ジャズでもロックでも弦高はかなり高く設定しているプレイヤーが多いです。弊社出荷基準の倍以上という人も珍しくありません。弦高が高い方が音に張りが有り、弾かれた音が全然ちがいます。スウィープを多用するようなスタイルのプレイヤーは低くセッティングする方が多いように思いますが、まず限界まで下げて出荷していれば、そういう人にも対応できます。
──塗装などで、ほかの業者に手伝ってもらうこともあるようですね。
杉本 この工場の2階が塗装屋さんで、Sugi Guitars創業以来いっしょにやっています。広い工場に引っ越ししたいと考えたこともありますが、上階の塗装屋さんとはコミュニケーションを密に取ることができるので、違う会社ではあるけれど同じ工場のように機能しています。
特殊な塗装やワンオフものなど、特別なものは自社の別工場にある塗装ブースで行なっています。また特別な木地着(木地に直接着色する)は私がここでやっています。木地着は特別な設備を必要としない反面、木材の違いに合わせて微調整が可能だからです。
「極薄ラッカー」に関しては、日本中どこを探しても他にはいないレベルの職人が弊社におります(山崎智久氏。塗装職歴 66年)。私の家から2件隣に住んでいるおじさんだったんですが、前職を退職した時にこちらへの再就職をお願いしました。
彼の塗装は、組み立てている段階で杢目がうっすらと浮き出してくらい薄いです。一週間もすれば導管が塗装面に浮き出てきます。ラッカーは特別な機械を使わないし1液(使用する液体が1種類)ですから配合しなくても良いし、手間がやたらかかるけれども「ラク」な塗装ではあります。しかしここまで薄いものは研磨もできないため、奇麗に仕上げるにはそうとうな技術を要します。
「Stargazer」は全てこの極薄ラッカーです。
ラメを使った塗装は、また別の外注さんにお願いしています。ラメの粉が他の塗料に一つでも混入してしまったら二級品になってしまいますから、ラメ塗装はどこの塗装屋さんも嫌がるので、請けてくれるところは限られてしまいます。このように、塗装に関してはケースバイケースでお願いする先を決めています。
──塗装ではどんなことが重要でしょうか。
杉本 「色」に一番苦労します。モニターで表示している色、白い紙に印刷した色、写真に撮った色、ギターに塗った色、それぞれ「発色」が違います。スマホの小さなモニターで表示しても、ギターのサイズになると印象が違うものです。ですから「この色が良い」とお持ち寄りになられても、ギター用の塗料で完全に再現することはできません。
カラーオーダーをお請けする際には、プリントアウトした現物でやりとりをします。特にシースルーカラーは木によって色の出方が違いますし、ベタ塗りでもまったく同じ色を出すのは至難の業です。海外の製品と同じ色をご希望のお客様もいらっしゃいますが、国内で入手できる塗料とはもともとの原料が違うので同じ発色をさせるのは難しいです。
もちろん極力近い色になるように努力しますし、Sugi Guitarsとして格好よく仕上げていきますが、そういう事情ですから「似た色」で勘弁していただいております。Sugi Guitarsに限らずほかのメーカーでも、オーダーメイドでもっとも苦労するのが「色」ではないかと思います。人によっては深くこだわるところだし、分かりやすくもあるからです。しかし「ピッタリはあり得ない」ということをご理解いただいた上でオーダーしていただきたいな、と思います。
──良材を手に入れるために工夫していることはありますか?
杉本 前職在籍時に当時の上司から、「銘木の仕入れは製作者がするべきだ」と言われたんですが、その言葉に従って、出張に行くたびに必ず一件は新規の木材屋さんを廻っていたんです。もちろん楽器として使用できる木材を扱っているところですが、そこの品揃えを見て、各材木のグレードをチェックして、その材木屋さんがどんな材木を得意としているかを見極めるんです。その結果、現在ではこの樹種ならこの会社、フレイムはこの会社、キルトならこの会社、南方系はここ、中米はここ、北米はここ、カナダはここ、というように目星がついています。
今はメールで写真のやり取りができるから、便利ですよね。30年も付き合いがあるから、木の表裏と木口の写真を送ってもらえればかなりの判断ができます。気になったら全く新しい木材業者もチェックするんですが、初回は必ず出向きます。またトップ材につかうバックアイバールなどは、ボディに模様がどうやって収まるか確認する必要があるので、テンプレートを持って出向きます。木材に関しては、常にアンテナを立てている状態です。銘木には入手が困難なものもありますから、一社に依存するのはリスクを伴います。
定番の樹種に人気が集まりますが、「こういう音の楽器を作りたい」という理想に合っている木材ならば、たとえこれまでギター/ベースで使われてこなかった木材だろうと試してみる価値はあります。モノさえ良ければ、これまで世の中に無かった、何の実績もない木材でもいいんです。楽器として使えればオッケーですね。
──アーティストの意向が設計に反映されることはあるんでしょうか。
杉本 あります。アーティストさんとのコラボで、ご本人の楽器を製作することは多く、
など、その人の目的に合わせたカスタマイズをしています。その人のために、ということだけではなくさまざまな仕様に対する興味もありますし、一緒に何かできれば面白いな、と思っています。またこういった仕様変更に対する評価を持っていれば、一般のお客様からのオーダーにも応用できます。
丸野内 アーティストさんの場合、完成に至るまでのコミュニケーションや意見交換、また出荷してからのフィードバックが、自社の製品開発にまで反映しやすいです。
杉本 「評価が取れている人の意見」というのは大変貴重なんです。構造に関してのアーティストさんからの意見はしっかり聞きます。それがアーティストリレーションの意義です。
丸野内 ここ数年、苦労しているというか意識していることは、「ブランドの価値を担保しながら多くのユーザーさんに製品を届ける」ということです。より多くのユーザーさんに弊社製品を届けたいけれど、だからといって大量生産によってブランドの価値を下げることもできません。ではどうやって届けるのか、その届け方をいつも考えています。
杉本 弊社の生産力は現状で目一杯ですから、外注さんにもお手伝いしていただいています。塗装は先ほどもお話しした上階の塗装屋さんに手伝ってもらっていますが、ほかの業者さんにもボディを抜いたりネックを粗加工したりというような、高い技術を持っていれば手でやっても機械でやっても、弊社がやっても他社がやっても誰がやっても同等の結果を出すことができる工程を手伝ってもらっています。そこから仕上げまで持っていく「肝(きも)」としている工程は、すべて自社で責任を持って行なっています。
いろいろお手伝いいただくことで、自社の限られた生産力や作業時間を当社ならではという部分により傾注することができます。自社ブランド製品は、ほぼ自社内生産です。
加えて、日本に仕事を呼び込んでいきたいと思って頑張っています。海外からOEMのオファーをいただくこともあるんですが、そういうときには他のメーカーさんを紹介しており、技術的に不安なことがあれば当社が技術指導をしています。そのかわりこちらが忙しい時には手伝ってもらうこともありますから、ギブ&テイクです。こうした業者間の関係は、ピックアップ屋さんなど多くの分野で構築しています。ロールスロイスを一人で作ろうったって、無理な話です。素晴らしい職人がたくさん集まって、スーパーカーが作られるんです。
丸野内 杉本社長はSugi Guitarsに対しては「経営者であり職人」なんですが、海外時代のお仲間から来る依頼を請けて国内メーカーに仕事を振り分ける「プロデューサー」でもあります。
楽器業界を俯瞰すると、巨大メーカーが何百本もドンって出荷するビジネスモデルは近年難しくなってきています。現在では、小回りの利くメーカーさん同士が連携を取って、チームで生産しているところの方が強いと感じますね。ブランドやメーカー同士のコラボが多いですし、ユーザーさんからの要求がすごく細分化しています。分野によってはユーザーさんの方が詳しいということも、めずらしくありません。だからある程度メーカーも販売店さんと協力して、細かく対応していく必要があります。
例えば現在Sugi Guitars製品を収集している世界一のコレクターはアジアの富裕層ですし、マカオにはSugi Guitarsのショールームがあります。現在日本国内では、20代中盤の方が購買層の中心です。コレクターではなく、このギターでプロになりたいという人や、音楽活動を展開していきたいという人です。国内において、音楽に対するモチベーションが高い人に支持されているという現状は、大変ありがたく感じています。
杉本 確かにアジア圏での売れ行きが上がっていますし、現地で大規模な展示会が開催されています。しかしまず自国での評価が有るという事が大切、そもそも日本での業界に勢いがある事。それなくしては続きません。そのため「G.E.N.(GAKKI ENGINE OF NIPPON。国産メーカーによる団体)」に賛同しており、何かやる時には一緒になって盛り上げていこうとしています。
1970年代や1980年代は、日本のギターは欧米と台頭にビジネスを展開していました。しかし現在では、欧米のオファーは日本を飛び越して中国や東南アジアに行ってしまいます。そうなると、日本はただ仕入れるだけになってしまいます。かつて東京の楽器フェアといえば、世界中から人が集まりました。しかし現在では上海のほうが盛り上がっています。こうした状況に対してG.E.N.は、日本のギター製造に活況を取り戻そうとしています。私は海外時代の仲間とつながりがありますから、彼らから「メイドインジャパンが欲しい」と言われたら「よし、面倒見てやる」と言って楽器製造を請け負っています。
──現在Sugi Guiarsに求人が無いことは承知していますが、仮に求人を出すとしたらどんな人材が欲しいでしょうか。
杉本 先輩の教えに耳を傾ける人です。先輩の仕事ぶりを目で学ぶか教わるしかないんです。だから、聞く耳があるかどうか、これが一番ですね。技術は、そこから覚えていけば良いんです。
NCルータを使うならコンピュータを使いこなさなければなりませんが、弊社ではほぼ手作業だというように、各社各様で技術には色々あります。他社で腕を磨いたとしても、ここに来たらここのやり方を理解しなくてはいけません。そのときに先輩のアドバイスをちゃんと聞いてくれるかどうかです。大きな会社ならともかく弊社は小さな会社なので、一人が違うことをやっているだけで雰囲気が悪くなってしまいます。
──休日はどのように過ごしていますか?
杉本 多趣味ですよ。高校のときにバスケットボールをやっていて、国体もインターハイも3年間出ていました。そんなことから数年前まで長いことバスケットボールの指導をしていましたね。小学校のスポーツ少年団で指導して、県大会準優勝までは行きました。その次は中学生の指導を始めたんですが、中学生は体がもっと動くのでやり甲斐がもっとありました。北信越大会まで進みましたが北信越地区はレベルが高く、当時も全国ベスト4に2校入っていましたから、全国ベスト4に入る実力が無ければ全国大会には進めないんです。次に高校の指導もしたんですが、全国大会出場は狙えそうもないことを痛感して辞めました。しかし教え子の中にはプロになった子もいますよ。
──何と。ギターの技術指導だけでなく、バスケットボールの指導もしていたんですね!
杉本 あとは洋画を観たり、バイクに乗ったり、クルマに乗ったりですね。洋画は刑事ものが好きです。シリーズものは新作が出るのをいつも楽しみにしています。英語の勉強にもいいんですよ。
丸野内 刑事ものだなんて、初めて聞きましたよ(笑)。
以上、Sugi Guitarsのお二人から、製品について、楽器業界のことについてなど、さまざまなお話を聞きました。次はいよいよ工場見学です。
Sugi Guitarsを…
Aアマゾンで探す
R楽天で探す
YYahoo!ショッピングで探す
※当サイトではアフィリエイトプログラムを利用して商品を紹介しています。
guitar-hakase.com
guitar-hakase.com
guitar-hakase.com
guitar-hakase.com
guitar-hakase.com
guitar-hakase.com
guitar-hakase.com
guitar-hakase.com
guitar-hakase.com
guitar-hakase.com
guitar-hakase.com
guitar-hakase.com
guitar-hakase.com
guitar-hakase.com
guitar-hakase.com
guitar-hakase.com