ロビー・クリーガー:ドアーズのギタースタイルと魅力

[記事公開日]2024/9/1 [最終更新日]2025/5/13
[編集者]神崎聡

1960年代後半のロックシーンでひときわ異彩を放ったバンド、The Doors(ドアーズ)。その独特の音楽性はボーカルのジム・モリソンのカリスマ性ばかりに注目が集まりがちですが、バンドのサウンドの要であるギタリスト、ロビー・クリーガー(Robby Krieger)の存在抜きには語れません。

本記事ではドアーズのギターサウンドの立役者ロビー・クリーガーのプレイスタイルや機材、代表曲でのギターワークについて詳しく解説します。中級ギタリストの視点から、彼の奏法や音作りの秘密、さらには本人の発言も交え、その魅力に迫ってみましょう。


The Doors – moonlight drive


  1. Biography
  2. クリーガーの独特なギタープレイのスタイル
  3. 代表曲で聴くクリーガーのギターワーク
  4. 使用ギターと機材
  5. クリーガーの遺伝子は今も生きている──クリーガーの影響を公言するギタリスト

Biography

1946年1月8日 生 米マサチューセッツ州ローレンス
伝説的なジャズ・ギタリストのウェス・モンゴメリーに影響を受けフラメンコ・ギターを手にする。

知人のジョン・デンズモアに誘われドアーズへ加入。ドアーズのデビュー・アルバム『ハートに火をつけて』は、1967年1月にリリース。アルバムは数日間で収録され、ほとんどの曲は第一テイクが採用されました。

ボーカル、ジム・モリソンの死

セカンド・アルバム『まぼろしの世界』・3作目『太陽を待ちながら』などヒットを連発し、ドアーズはトップの座へ駆け上がりますが、1971年7月3日にボーカルのジム・モリソンがヘロインのオーバードーズで死亡。

神秘的なサウンドと幻想的な詩・劇の手法を取り入れたステージ演出、端正な容姿とステージでの破天荒な振る舞い・ロック界の反逆児、セックス・シンボル…規格外のスケールだった彼の死によりバンドは存続の危機に陥ります。残されたメンバー達はジム・モリソン抜きでドアーズとして2枚のアルバムをリリースし、その後も活動を続けますが商業的に成功することなく解散します。

ソロ活動以降

ソロ活動に転じてからのクリーガーは、ジャズ・ギタリストとして成功を収め、70年代から80年代にかけてロビー・クリーガー・バンドを率い、アルバムを数枚レコーディングしました。
2010年6月には、10年ぶりのソロ・アルバムとなる「Singularity」をリリース。「ギター・プレイは年を取るにつれ、円熟味を増す」と本人は語っています。

クリーガーの独特なギタープレイのスタイル

ロビー・クリーガーのギタースタイルは、当時のロックギタリストの常識を打ち破るものでした。ドアーズ加入前はフラメンコやフォークのアコースティックギターに親しんでおり、エレキギター歴はわずか数年だったにもかかわらず、そのバックグラウンドによって奏でる音色は多彩でした。

フラメンコやジャズ、インド音楽からの影響

クリーガーのプレイにはフラメンコやジャズ、インド音楽からの影響も色濃く現れています。彼自身「メンバー全員ジャズが好きだったけど、自分は特にインド音楽とフラメンコに夢中で、それをバンド仲間に聴かせていた」と振り返っています。実際、インド音楽に傾倒したクリーガーはラヴィ・シャンカールの音楽学校で学んだ知識を活かし、ギターでシタールのような響きを再現するためオープン・チューニングを採用しました。

指弾き

また、指弾き(フィンガースタイル)でプレイするのもクリーガー流でした。「ライト・マイ・ファイア」録音時、クリーガーのギターは控えめなオーバードライブによるウォームなトーンで、当時主流のエリック・クラプトンやマイク・ブルームフィールドとは一線を画し、むしろウェス・モンゴメリーやケニー・バレルといったジャズギタリストに近い響きを持っていました。これはフラメンコ出身という背景のおかげで、ロックで多用されるペンタトニック・スケールのクリシェを避けることができたためとも分析されています。

古い弦を使う

さらにトーン面では「弦は決して替えない。古くなって音がくすんでいる方が好きなんだ。汚い音ほど良い」というほど、使い古した弦のデッドなサウンドを好んだこともユニークな逸話です。これらすべてが相まって、クリーガーならではの深みとまろやかさを持つギターサウンドが作り上げられていました。

代表曲で聴くクリーガーのギターワーク

ドアーズの楽曲の中でも、クリーガーのギターがひときわ光る代表曲をいくつか取り上げ、そのギターワークを見てみましょう。

「Light My Fire(ハートに火をつけて)」におけるジャズとフラメンコの融合


Light My Fire(ハートに火をつけて)ライブ映像。奇妙としかいいようがない楽曲展開、長尺のオルガンソロ&ギターソロの最後にカタルシスが訪れる

ドアーズ最大のヒット曲「Light My Fire」(1967年)の魅力の一つが、クリーガーによる約2分半にも及ぶギターソロです。彼はこの曲を10代で作曲し、バロック調のオルガンリフに続くソロでジャズ的な即興を披露しました。ミドルテンポのボサノバ風リズムに乗せ、ブルースの常套句を避けた旋律的なフレーズを紡ぐ様子は、ロックというよりジャズクラブの演奏にも通じる洗練があります。フラメンコ出身らしくスケールの動きにも独特の哀愁が漂い、中音域中心のまろやかな音色と相まって唯一無二のソロとなっています。

録音は1964年製ギブソンSGスペシャル(P90ピックアップ搭載)を使用し、Fender Twin Reverbアンプに直結というシンプルなセッティング。ピックなしの指弾きと古びた弦によって生まれるウォームなトーンは、「Light My Fire」のオルガンやボーカルとも絶妙にマッチし、サイケデリックな楽曲に柔らかな深みを与えています。

「The End」での東洋的アプローチと即興

アルバム『The Doors』(1967年)のラストを飾る大作「The End」は、12分近い演奏時間の中でクリーガーのギターが静寂と狂騒を行き来する名演です。Dミクソリディアン・モードによる不思議な響きと、開放弦を活かしたフレーズは、当時流行し始めていたインド音楽の影響を色濃く感じさせます。オープン・チューニングを用いたことでシタールさながらの不協和音混じりのフレーズを生み出しています。

曲の冒頭から繰り返される印象的なアルペジオはまるで夜明けの静寂を思わせ、中盤以降のギターソロでは徐々に狂気じみた音階へと発展していきます。ライブではこの部分で大胆な即興が展開され、時に曲全体が20分近くに及ぶこともありました。この曲のギター表現は当時として革新的で、ロックに東洋のスピリチュアルな要素を持ち込んだ先駆けと言えるでしょう。

「Spanish Caravan」でのフラメンコ・ギター

アルバム『Waiting for the Sun』(1968年)収録の「Spanish Caravan」は、クリーガーのフラメンコ志向が存分に発揮された異色の楽曲です。冒頭、スペインの伝統曲を思わせるクラシカルなソロギターで始まるこの曲は、実際にアルベニス作曲の名曲「アストゥリアス」のフレーズを引用しています。クリーガーは録音で1963年製のホセ・ラミレス製フラメンコ・ギター(ナイロン弦のスペインギター)を使用し、本格的なフラメンコ奏法によるアルペジオやラスゲアードを披露しました。

ドアーズの他のエレクトリック色濃い曲とは一線を画すアコースティックサウンドで、曲が進むにつれてレイ・マンザレクのオルガンやジョン・デンスモアのパーカッションと絡み合い、フラメンコとロックの融合を生み出しています。

使用ギターと機材

Gibson SG Robby Krieger Signature Gibson SG Robby Krieger Signature 2011 Heritage Cherry 50th Anniversary

彼の代名詞となったのは赤いギブソンSGでした。高校時代にチャック・ベリーに憧れて手に入れた中古のSGスタンダード(180ドルだったそうです)を皮切りに、ドアーズ在籍中は一貫してSG系のモデルをメインに使用しています。特に初期には1960年代半ば製のギブソンSGスペシャル(P-90シングルコイルピックアップ搭載)を愛用し、先述した「Light My Fire」をはじめ多くの曲でこのギターを活かしました。

一時はセミアコのES-335やES-355も試したものの、結局「自分に一番しっくりくる」のはSGだったと語っており、現在に至るまでステージでもスタジオでもSGを相棒としています。

アンプ

アンプについては、初期のライブではマグナトーン製2×12インチ・コンボアンプを使用していました。その後紆余曲折を経て行き着いたのがフェンダー・ツインリバーブで、友人の技術者ヴィンス・トレイナーが改造した2台のツインリバーブ(JBL製スピーカー搭載)をスタック的に用いることで、太く張りのあるクリーントーンから図太いオーバードライブまで自在に表現できるようになりました。1969年以降のステージや『Morrison Hotel』『L.A. Woman』期のレコーディングでは主にこの改造ツインリバーブがクリーガーのメインアンプだったと伝えられています。

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エフェクター

エフェクターに関して、ドアーズ全盛期のクリーガーは驚くほどシンプルなセットアップでした。基本的に足元のエフェクトは使わず、アンプ直結で得られるナチュラルな歪みとギターのボリューム調整でクリーントーンを作るスタイルです。流行の効果音に頼ることなく、指先のニュアンスとアンプの設定のみで多彩な音色を生み出していた点は特筆すべきでしょう。結果としてドアーズの楽曲ではギターエフェクトが前面に出ることは少なく、代わりにクリーガー独自のフィンガリングやピッキングがサウンドの表情を決定づけています。

クリーガーの遺伝子は今も生きている──クリーガーの影響を公言するギタリスト

  • Henrytennis(奥村祥人):日本のジャズ・ロック・バンドhenrytennisのギタリスト兼作曲家。インタビューで「ギタリストとして一番影響を受けたのはドアーズのロビー・クリーガー」と語っている。自身もフィンガー奏法を用い、クリーガーのようにピックを使わないスタイルで演奏している。
  • Carlos Santana(カルロス・サンタナ):ラテンロック界の巨匠。サンタナはDoorsの熱烈なファンで、「ギターを弾くときはいつもザ・ドアーズ(特に『Light My Fire』)を思い浮かべる」と語り、クリーガーの演奏を絶賛している。実際にクリーガー作曲の曲も収録したサンタナのアルバムでは、ドアーズの「Riders On The Storm」をレイ・マンザレクと共演でカバーしている。
  • Paul Kowalski:イギリスのシンガーソングライター。インタビューで自身の楽曲「Galicia」について、スペイン的要素やジプシー音楽を挙げつつも「むしろドアーズの影響が濃い」と語っている。

ロビー・クリーガーは派手さこそないものの、ドアーズのサウンドを陰で支え磨き上げた職人肌のギタリストです。スライド奏法にジャズやフラメンコのエッセンスを融合させたそのプレイスタイルは、当時のロック界では異彩を放ち、現在でも色褪せることなく高く評価されています。

中級ギタリストの皆さんにとっても、クリーガーのアプローチから学べることは多いでしょう。例えば、定石に捉われず様々な音楽ジャンルに触れてみること、指弾きやスライドなどテクニックの幅を広げてみること、アンプ直のシンプルなセッティングで自らのタッチを研ぎ澄ますこと——いずれもクリーガーが体現した哲学です。ぜひ参考にしてみてください。

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