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「寺田楽器製作所(株式会社寺田楽器。以下、寺田楽器)」は、愛知県に工場を持つ楽器メーカーです。前身である「寺田木工所」が1916年(大正5年)に立ち上げられて以来の歴史あるメーカーで、古くからギターのOEM生産を続けています。しっかりとした作りは永年の信頼があり、「寺田楽器製」がひとつのブランド視されることもあります。現在エレキギター/アコースティックギター両面で、国内外の有名ブランドを中心とした多くのOEMを手がけています。今回の訪問インタビューでは、この寺田楽器で営業/生産管理を担当している石塚亮さんにお話をお伺いしました。
OEM(original equipment manufacturer):他社ブランドの製品を製造すること、またはその企業。日本では「相手先ブランド名製造」、「納入先商標による受託製造」とも(ウィキペディア「OEM」より抜粋)。
──今回は宜しくお願い致します。石塚さんは営業・生産管理担当とのことですが、普段はどういった仕事をしていますか?
石塚亮さん(以下、敬称略) OEM生産及び自社ブランド(VG、Rozeo)全般の営業で、OEM生産する楽器を開発するにあたり、クライアント様(発注元)との打ち合わせを行なうのが主な業務です。クライアント様は開発部署を持っている場合、至る所まで細かな仕様を図面に書いてお持ちになることがあります。また音や価格のざっくりとしたイメージのみ頂くこともあります。この場合「こういう楽器を作りたい」というイメージを実際のカタチにすべく仕様や構造などの提案をしたり、予算に合わせてどんなことができるかを提示したり、その場面に応じて柔軟に応対しています。
自身もギターボーカルとして、京都と名古屋で月に数本のライブをこなすバンドマンの石塚さん。メインギターはグレッチのホワイトファルコンだそう
──寺田楽器ではどんな製品を作っているのでしょうか?
石塚亮 セットネックのギターをメインで生産しています。特にアーチトップ(フルアコ/セミアコ)の生産量が最も多く、フラットトップのアコギ、ソリッドのエレキ、ベースと続きます。一言でギターのOEMと言ってもアーチトップの製造にはトップ/サイド/バック共に「曲げ」「貼り合わせ」という工程がありますから、ソリッドギターの工程とは大きな違いがあります。それゆえアーチトップを量産するためには、それに向けた体制を整えていることが求められます。そういったアーチトップの発注に対して「量的にも質的にも応じることができる」のが寺田楽器の強みですね。
箱モノ(フルアコ/セミアコ)のギターはボディを成形する上で、板を曲げるのに使用する「型」の問題があり、どんなデザインでも気軽に作れるというわけではありません。その点、弊社は昔から箱モノをたくさん生産しておりますので、型は数えきれないほどあります。とはいえ大手クライアント様の場合、型から新規でオーダーを頂くこともありますよ。型の先行投資を売り上げで回収できる「ブランド力」を持っているところに限られますけど。
CREW MANIAC SOUNDのレスポール・タイプ:OSL-Light
楽器店さんのサイトでも紹介されていましたが、吉岡社長(クルーズ)は今でも頻繁に弊社を訪れて、自分の目で確認をし、現場の職人たちとコミュニケーションを取りながらいいものを作ろうと取り組んでいらっしゃいます。打ち合わせたところまでこちらでセットアップをし、そこから更に追い込んだ調整がクルーズさんの工房で施されます。その他には現在、通常稼働しているだけで約20社、ブランドを複数お持ちのところもありますから、ブランド数で言ったら数えきれません。
アーティスト本人が使用する楽器もここで生産していますが、ご本人が使用するからと言って特別な作り方をするということはしません。通常の生産ラインで作られたものを送っています。
会社の方針としてネックだけやボディだけ、というオーダーはお断りしていて、基本的にこちらで本体を完成させています。最初から最後までやらないと楽器に対して責任を取れませんからね。また、納品してからの調整もやっています。新品に対しては最低でも1年間の保証期間を設けていますが、それを超えた場合でも取扱上の問題がない場合には無償で修理/調整しています。
──多くのブランドを扱う上で、気をつけているところはありますか?
石塚亮 クライアント様から、いつも明確な指定を頂く訳ではありません。寺田楽器が開発をお手伝いする場合にはそのブランドがどうあるべきかを考えて、コンセプトがブれてしまわないように提案しています。またブランド間で特徴が被ってしまわないように腐心しておりますが、なにしろモデル数が多いため苦労しています。ソリッドボディについてはCNC(コンピュータ数値制御)でデータ通りのボディシェイプに抜きますから、アーチトップのような型は不用です。ボディラインの違いを出しやすいし、クライアント様もそこを求めてきます。
──1万円前後のいわゆる「激安ギター」についてはどうお考えですか?
石塚亮 10万円以下の価格帯は、寺田楽器のビジネスとして手を出せる範囲外です。私たちがどれだけ頑張っても、その価格帯ではギターを作ることが出来ません。あの価格帯でギターを作って利益を挙げるという企業努力は、相当なものだと思います。寺田楽器の場合、1万円では材料すら揃いませんから。
ギターをある程度以上やっている方からすると、1万円のギターってものすごく安く感じるでしょう。でも、例えば大きなショッピングセンターを見渡したとき、1万円という価格は決して安くないんです。5万円を超えてくると、楽器を除いたら余程のブランド時計や宝飾品、バッグなどになると思います。だいたい2〜3千円くらいのものがよく売れる環境において、10万円の楽器は最高級品に相当します。それが楽器を始める前の人の「お金の価値観」ではないでしょうか。
また、どこへ行ってもテレビを見ても、音楽は当たり前に存在しますね。身の回りに当たり前にあるものを奏でるための「道具」として楽器を考えた場合、入門機として安いものが存在することはむしろ良いことです。まずはどんな楽器であれ音楽を楽しむことが大事だと思います。音楽が楽しくなることによって次のステップに進んでいく、そこからが寺田楽器の出番ですw
私自身は、ギターは「道具」だと思っています。音楽に対するギターは、絵画に対する筆と同じだと思っているんです。描きたい線の太さや塗り方のために筆が何本もあるように、出したいサウンドのために何台か楽器を持ち替えるのも必要なことです。また、私も月に何回かステージに立ちますが、エンターテインメントとしての音楽の見せ方を意識しています。その意味で音の違いだけでなく衣装に合わせたルックスのギター、というものも必要だと思っています。私のバンドがオールディーズだということもありますが、グレッチは絵になりますね。
また、クライアント様から知識やノウハウを学ぶことも多いんですが、そういった情報もクライアント様のコストなのですから、それらを他のブランドの製品にそのまま流用する訳にはいきません。学んだことをこちらで深化させ、寺田楽器のノウハウとして製品に反映させたいと思っています。いっぽう楽器業界を盛り上げていこうという考えで、ノウハウを広めるのを認めて下さるクライアント様もいらっしゃるので、助かっています。
弊社では58年や59年のヴィンテージレスポールを分解して、全ての寸法を測ったことがあります。その通りのものを作りましたが、当然それだけでは「あの音」になりません。経年変化で見られる「細胞レベルの変質」を再現することができないからといって、ヴィンテージの木材は別物だと嘆いても仕方のないことです。それでも「コレなら納得ができる」、というものを作らなければならないわけですから、形状やパーツなど物理的なアプローチで、どういったアレンジを加えていけば良いのかを試行錯誤し、弊社独自のノウハウとして蓄積しています。
名古屋にあるRozeo取扱店「Gold Star」にて。日本で三店舗でしか置いていません。
──Rozeo(ロゼオ)はどういうブランドで、何を狙っているんでしょうか?
石塚亮 弊社職人の樋口恭大(ひぐちきょうだい)が「これがやりたいです」と言って企画を持ってきたんですけれど、その企画が通ってセールス的にも成功したので、新たなブランドとして展開することになりました。ココまでボディサイズの小さいフルアコも他にはありませんよね。他所でも作っているようですが、このサイズをメインにしているのはRozeoだけです。Rozeoはこのサイズ一本で展開するブランドで、ボディ形状のバリエーションはカッタウェイの有無と厚みだけです。
Rozeo Ladybug SM-TBC:スプルーストップ/メイプルバックのオール合板ボディ、フロントハムバッカー1基。このサイズでありながら、艶のある本格的なジャズトーンが得られます
ボディの材料には、
がありますが、出したい音や求められる剛性、安定性をトータルとして考えた時に「オール合板」に行き着きました。しかもフロントピックアップ一個のみです。立ち上げからもう2年半となりましたが、全国で三店舗の取扱で宣伝もせずに60本程度という売れ方は成功だと見ています。このジャンルには皆が気付いていなかった「市場」がそれだけあった、ということですね。とはいえ300本以上はないな、という読み方もしていて、そうした狭いところを狙っています。ボディ形状のバリエーションを増やして1,000とか2,000に広げようというマーケティングをしたら、逆にこの狭い所が欲しいお客さんへのアピールが弱くなってしまいます。他のものが作りたかったら別のブランドを作れば良いだけですし、そういうニッチなおもしろさを追求する所は、弊社がメインに据えているOEMの宣伝にもなっています。
Rozeo Ladybug-TBC:オールマホガニー合板ボディ、P-90タイプピックアップという仕様。若干線の細い鋭いトーンは、ジャズだけでなくブルース/ロックンロールでもおいしい印象
──寺田楽器にはどんな特徴があり、企業としてどんなところを目指しているとお考えですか?
石塚亮 「企画/提案力がある」というところを、企業としてのセールスポイントにしようとしています。言われるままに作るだけのOEMでは、常に詳細な設計をクライアント様に求めることになりますが、それではOEM発注のハードルになってしまいます。こちらが「影武者」として製品を企画したり、設計でより良いアイディアを提案したりできるならば、そのハードルを下げることが出来るわけです。有名ブランドの製品でも、弊社が企画したモデルはありますよ。私自身のバンド活動で新商品をテストすることもあります。
私たち事務方も現場の職人たちもみんなギターが好きですし、ビジネスとして割り切りながらも楽しんで仕事ができた方が良いですね。ギターはもともと楽しむためのものですし、音楽にはいろんなパワーがあります。凹んでいる時に元気づけてくれたり、嬉しい場面を更に嬉しくしてくれたり、そのための道具を作るわけですから、楽しく作らなければなりません。
石塚亮 職人の技術力についてですが、弊社の職人は原則的に、ネック成形やセル巻き、塗装などポジションの異動はなく、それぞれに特化させています。例えば「ギターのストラディ・バリ」と謳われた手工家ディ・アンジェリコは、生涯1,200から1,300本のギターを一人で作りました。それは偉業ですし高く評価されてもいますが、逆に言えばネックジョイントや塗装など、各作業に1,300本ぶんの経験値しか積んでいません。一方弊社は月に700本生産していますから、2ヶ月でディ・アンジェリコの生涯ぶんのギターを作っています。私の場合は営業と企画ですから、年間に数十種類のギターを設計しています。楽器の種類もさまざまですから、職人たちは担当している工程について、誰よりも経験を積んだスペシャリストになります。私たち生産管理部が弊社のスペシャリストたちを横一列につなげてしまえば、技術の面ではどんな手工家にも負ける訳がありません。
もちろん「量産」が前提なのでコスト的にここまで、という制限があります。ですから手工家のようにこだわりを突き詰める、ということは苦手な部分です。しかし逆にそれが認められてきて、ここ最近では国内の手工家さんとのコラボレーションでつくる楽器を開発しています。手工家さんが培ってきたものを、ある程度のコストで提供できる訳で、こうしたコラボレーションができるのも弊社の強みだと思います。
──ありがとうございました。
インタビューは、後編(アコースティックギター)へと続きます。
というテーマになっています。後半も面白いですよ!
【寺田楽器訪問インタビュー】「提案するOEM」アコースティックギター編
ちなみにWikipediaでは、下請けを行ったブランドとして、
グレッチ、グレコ、フェンダージャパン(1997年~2008年)、エピフォン、ディアンジェリコ、ベスタクス、ディアンジェリコ・レプリカ、モーリス、ヤイリギター、サドウスキー(Sadowsky Archtop)、Crews Maniac Sound、アイバニーズ(ホローボディシリーズ廉価版。1987年~1997年)、ダキスト、ESP(Infieとの共同作業を行ったことあり)
が紹介されています。手がけたブランド、現在請け負っているブランドはその他にもたくさんありますが、寺田楽器が自らそれを公表する事は契約上できません。「長くギターをやっている人なら、たいがい一本は寺田楽器製のギターを触っている」と言われています。
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