ゼマイティス(Zemaitis)のギターについて

[記事公開日]2020/7/10 [最終更新日]2022/4/5
[ライター]小林健悟 [編集者]神崎聡

CS24PF WHITE PEARL 宝石のように美しい:CUSTOM SHOP製PEARL FRONT「CS24PF WHITE PEARL」

「ゼマイティス(=ゼマティス)」は、トニー・ゼマイティス氏がギター本体を一人で作ってきた高級ギターブランドです。彫金は友人のダニー・オブライエン氏が担当していました。上質なサウンドと彫金やインレイによる美しい装飾から「ギターのロールスロイス」とも「ロックンロールの歴史に刻んだ英国の栄光」とも言われています。

ゼマイティスの歴史は1950年代、家具職人だったトニー・ゼマイティス氏(Tony Zemaitis,1935-2002)が、見よう見まねで自作したフォークギターを友人に売る事から始まります。独学で始めたギター製作でしたが、一本、また一本と作っていくうちに独自のデザイン性と製作技術の水準は上がっていき、やがてロンドンの音楽シーンで注目されるまでに成長します。ロン・ウッド氏(ザ・ローリングストーンズ所属)が「ディスクフロント」を愛用したことで人気と認知が決定的となり、世界のコレクター垂涎の的になりました。

ボディ裏プレート DISC FRONTシリーズのギターのボディ裏プレート

トニー氏自らが製作したギターは「ヴィンテージ・ゼマイティス」と呼ばれ、アーティストやコレクターの愛用する楽器や家宝となっています。これらはヴィンテージ市場に登場することがほとんどない「幻の楽器」です。トニー氏の亡き後は、神田商会がブランドを受け継ぎました。神田商会のプロデュースで復活した新たなゼマイティスは「トニー氏の遺志を受け継ぐ」ことを至上命題とし、ゼマイティスの持つ雰囲気をしっかり守ったギターを生産しています。

《伝統を、ただ守るのではなくて》神田商会ゼマイティス訪問インタビュー


HOTEI – RUSSIAN ROULETTE
日本を代表するロックギタリストの一人、布袋寅泰氏は自身のシグネイチャー・テレキャスター(Fernandes)以外にもたくさんのギターを使い分けています。中でもゼマイティスを多く愛用していることが知られており、トニー・ゼマイティス氏本人が作成したものも多数所有しています。そのコレクションはメタルフロント、パールフロント、スペリオールにとどまらず、アコギやベースまでという入れ込み具合です。
この布袋氏が終始バリバリとゼマイティスを演奏する楽曲「RUSSIAN ROULETTE」は、いまどき珍しい伝統的な「ブルース進行」を全面に押し出したロックンロールに仕上がっています。半世紀以上も昔の手法を採用していながら、氏の楽曲は時代の一歩先を行く新鮮さを感じさせますね。

ゼマイティス・ギターの特徴

ゼマイティスのギターは主にレスポールタイプのギターをベースにしながらも、知っている者ならだれしもがそれと分かるだけの特徴を多く持っています。目が慣れてきた人なら、シルエットだけでも判別が付くでしょう。では、ゼマイティスのギターにどんな特徴があるのでしょうか。カスタムショップ製のギターをピックアップして、ゼマイティスの「唯一無二」と呼ばれる個性をチェックしてみましょう。

一幅の絵画を見ているかのような高いデザイン性

PEARL FRONT「CS24PF RING CHESS」 CUSTOM SHOP製PEARL FRONT「CS24PF RING CHESS」:フォトジェニック(写真写りが良い)とはまさにこのこと

Zemaitis Metal Font MFG22

伝統的なエレキギターの形状を踏襲しながらも、ゼマイティスのギターはボディシェイプ、ヘッド形状、ブリッジやテイルピースなど金属パーツにいたるまで、オリジナルのデザインで作られています。また貝や彫金の装飾で覆われるギターはゼマイティス以前にはなく、独特の存在感と美しさを帯びています。
代表機種である「METAL FRONT(メタルフロント)」は一枚の金属板をボディトップに配し、また「PEARL FRONT(パールフロント)」はボディトップに貝の装飾を敷き詰めることで、ベースとなっているレスポ−ルの無骨なイメージから離れた「気品」の漂うスタイルを演出しています。

DISC FRONT「S24DT」 CUSTOM SHOP製DISC FRONT「S24DT」

またもうひとつの代表機種DISC FRONT(ディスクフロント)は3基のハムバッカーと独特な配置のコントロールのオリジナルシェイプです。これらの形状はオリジナルの楽器デザインとして完成の域に達しており、見るものの心を捕らえる強力な魅力になっています。
下地からニトロセルロースラッカーが使用されるという大変ぜいたくな塗装ですが、きれいに施した塗装にスクラッチ加工を施すことによってわざわざ細かな傷を付け、トニー氏が刷毛(はけ)で塗っていたオリジナルの雰囲気を再現するとともに、ヴィンテージ風の渋い貫禄を演出しています。

METAL FRONTのボディ メタルフロントのボディトップのメタルプレートには彫金が施されている

メタルフロントやディスクフロントで使用される金属プレートには彫金が施され、シックかつロック的でありながらゴージャスな雰囲気を醸し出しています。パールフロントなどではアバロン貝、白蝶貝、黄蝶貝といった天然の貝が組み合わされ、輝きに満ちています。それに加えて各金属パーツにも彫金が施されており、隙がありません。これらのデザインはゼマイティス独特のもので、工芸品のような美しさは私たちの目を楽しませてくれます。

以上、ゼマイティスの外観は豪奢な装飾による美しさを最大の特徴としていますが、全機種に共通して緩やかなカーブを描くボディトップが採用されています。パールフロントはその曲面に沿って天然の貝を敷き詰め、メタルフロントやディスクフロントは曲面に金属板をフィットさせています。このような立体的な作りにすることで、トップ面の存在感や美しさが、より一層感じられるようになります。

また、ホーンやヘッドの先、指板のエンドなどを斜めに削るのも、他のギターではほぼ見られない特徴です。音や演奏性にほとんど関係のない部分ですが、こういうところにまで手を加えたデザイン性の高さが、ゼマイティスの魅力を演出しています。

パールフロントのボディ パールフロント「CS24PF WHITE PEARL」のボディに貼り合わせられた貝。眩い光を放っている

楽器としての高い基本性能

CUSTOM SHOPシリーズの指板 CUSTOM SHOPシリーズの指板。インレイの美しさもさることながら、黒々としたエボニー材が惜しみなく採用されている

ヴィンテージ・ゼマイティスは「ボディ、ネックともに3ピース構造」という設計でした。「木材を敢えて貼り合わせることで、剛性と安定性が確保されている」ともいえる設計ですが、実際には「工具や工法上の制限で、3ピースでしか作ることができなかった」というのが正解だったようです。そのため現在のカスタムショップでは、ボディは2ピース、ネックは1ピースという設計が採用されています。

全モデルでセットネック構造が採用されていますが、オリジナル同様に、接合する面積を広くとってしっかり接着する「ブロックジョイント」が採用されています。またヒールの出っ張りは少なく、24フレットまでキッチリ使えるように設計されています。これらの設計から、美観や音だけにとどまらず剛性とプレイヤビリティのバランスまで追求した、ゼマイティス氏の深いこだわりをかうかがう事ができます。

ジュラルミンのブリッジ&テイルピース

パールフロント「CS24PF LITTLE RING」 パールフロント「CS24PF LITTLE RING」のブリッジ部分。細部まで徹底したこだわりで、見ていて飽きがこない

メタルフロントのブリッジ部分

完璧なピッチ、よく伸びるサスティン、倍音豊かなサウンドを追求した結果に行き着いたのが、手作業で削りだされるジュラルミン製のブリッジ&テイルピースです。ジュラルミン(A2017)は銅を含んだアルミ合金で、鉄鋼材料に匹敵する硬度を持ちながら軽量で響きやすいという特性を持っています。テイルピースには彫金も施され、豪華な外観を演出するポイントになっています。

ブリッジの高さを操作する「サムナット」は、大型の「フラワーナット」にアレンジされています。パーツ単体としての美しさもさることながら、大型化によって操作しやすくなっているのが特徴です。

金属製のヘッドプレート&ロッドカバー

ゼマイティス・ギターのヘッド部分

ゼマイティスでは彫金の施されたヘッドプレートとロッドカバーを採用していますが、デザイン性だけでなくサウンドにも影響する設計です。ギターの弦振動とヘッドの重量との間に密接な関係がある事は知られています。ヘッドが重いと弦の振動の分離感が得られ、低音が引き締まった感じになりますが、ゼマイティスではそれを狙い、メタルプレートによってヘッドを大型化することなくヘッド重量を稼いでいます。

ゼマイティス・ギターのサウンド

ゼマイティスのギターは、マホガニーの特性が発揮された「豊かな中域の響く、柔らかいサウンド」を特徴としています。これに硬質かつ軽量で反応の良いジュラルミン製ブリッジ&テールピースを採用することで、立ち上がりの良いアタック感が追加されます。またヘッドの重量を稼いでいる事で低音が引き締まり、輪郭のはっきりとした分離の良い響きが得られることから、エフェクターとの相性も良好になっています。さらにここからボディトップをどうデコるか、ここがサウンドキャラクターの要です。

  • パールフロント(PF):貝殻を敷き詰める。貝はメイプルと同じ生物由来だが、はるかに硬い。ここが活きて、鋭さや明瞭さのある、あらゆるジャンルにマッチする音になる。
  • メタルフロント(MF):ジュラルミンを貼りつける。金属的な響きが付加された音はクリーンよりもドライブサウンドに良好で、ロック系の愛用者が多い
  • スーペリア(SU):トップ材は無いが、パールなどによる装飾が施される。木材の個性を活かした、ストレートな音音が得られる。

といった個性が、モデルごとに現れます。


ZEMAITIS CUSTOM SHOP PEARL FRONT CS24PF LITTLE RINGを弾いてみた!


ZEMAITIS CUSTOM SHOP METAL FRONT CS24MF FR4Cを弾いてみた!

ゼマイティス・カスタムショップ「パール・フロント」と「メタル・フロント」の違いは?

主な使用ギタリスト

ヴィンテージ・ゼマイティスのオーナーは、日本にも多くいます。生前のトニー・ゼマイティス氏は気に入った相手のためにしか作らなかったそうですが、気に入ったクライアントのために真心をこめて一本一本ていねいに作っていました。ゼマイティスのギターは「ギタリストを刺激する楽器」として、神田商会によって引き継がれた今なお多くのアーティストに愛用されています。
DOMESTIC PLAYERS | ZEMAITIS® Official Web Site

ZEMAITISのシリーズ展開

現在のゼマイティスでは、5つのシリーズがグレードを構成しています。

  • C(カスタムショップ):岐阜県可児市に新設したゼマイティス専門工房で、一本一本ていねいに作られる最高グレード。材木や貝殻の選定がことのほか厳しく行なわれるほか、最新の加工技術が積極的に導入される。世界に向けて月産30本はかなりの希少性で、手に入れるにはおカネだけではなく運も必要。
  • G:2020年に発表された新シリーズ。ゼマイティスUSAのプロデュースを受けて日本で作る。カスタムショップに迫るクオリティの本体に、トレブル・ブリード回路やロック式ペグを採用するなど、実用性も考慮した即戦力。
  • A(アンタナス):日本の提携工場で作られる。ゼマイティスの中ではミドルクラスだが、アフリカンマホガニーが使用されるなど、ギター全体では高級品。
  • C(カシミア):伝統の継承と低価格化を両立させた韓国製。ゼマイティスの中ではかなりお買い得だが、上位機種と同様にジュラルミン製ブリッジ&テールピースを備えるなど、決して安いギターではない。
  • Z:自由な発想をテーマにする「新しいゼマイティス」。日本その他、アジア諸国で作られる。

CS、G、A、Cは、ゼマイティスのイメージを守ったギター本体を作り、ジュラルミン製ブリッジ&テールピースを取り付ける、という二つで伝統を守っています。しかし、かのトニー・ゼマイティス氏は常に新しさを探求していました。現在のゼマイティスはその精神をも受け継ぎ、これまでのイメージを覆す新しい意匠、また現代の音楽で要求される仕様を取り入れた、新しいギターもリリースしています。

いっぽう「Z」はいわば挑戦者で、最初から新しい、しかしゼマイティスだとわかるギターを企画しています。ジュラルミン製ブリッジ&テールピースは今のところ非採用ですが、サムホイールの代わりにフラワーナットを備えることで、ゼマイティスらしさが演出されています。

ゼマイティスのラインナップ

現在のゼマイティスのラインナップは、ヴィンテージ・ゼマイティスを現代の技術で再現/アップデートするモデルと、まったく新しい意匠や仕様を世に訴えるモデルとで構成されています。

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