P-90ピックアップの構造・音の特徴、厳選おすすめ13モデル

[記事公開日]2025/4/5 [最終更新日]2025/4/25
[ライター]小林健悟 [編集者]神崎聡

P-90ピックアップ Magneto GuitarsのP-90″タイプ”のピックアップ

ギブソンの名シングルコイル「P-90」はフェンダー「ブロードキャスター(1950)に先立つ1946年に開発され、PAF(ハムバッカー)が開発される1957年まで同社の主軸ピックアップとして君臨し、それ以降もさまざまなギターに採用されてきた、歴史あるピックアップです。

他社製品でも「P-90タイプ」という呼び方が通用する、製品名が一般化した珍しいピックアップでもあります。現在ではPAF型ハムバッカーやフェンダー型シングルコイルに次ぐ第3の定番ピックアップとみなされており、ギブソン以外にもいろいろなギターに採用されています。
第3の定番ピックアップ「P-90」とはどんなピックアップなのか、その特徴や他との違いについてじっくり見ていきましょう。


MAGNETO Guitars T-WAVEをギター博士が弾いてみた! 0:31〜3:00
P-90タイプをフロントに搭載したギターのサウンド。シングルコイルが持つタッチニュアンスを持ちながら、歪ませたドライブサウンドではジューシーで迫力があり、かき鳴らした時のジャランとした感触は独特だ。リードトーンもシングルコイルよりふくよかで存在感がある。


  1. P-90ピックアップの特徴
  2. P-90を搭載したエレキギター
  3. 今ついているピックアップをP-90に交換するには
  4. おすすめのP-90ピックアップ

P-90ピックアップの特徴

P-90を一言で表現すると。「大型で高出力のシングルコイル・ピックアップ」です。事実、ギブソンのハムバッカーは「改良型P-90」を目指して開発されており、P-90と同じ出力になるよう設計されました。逆に言えばP-90は、クラシックなPAF型ハムバッカーと同等の出力を持っているわけです。

「ソープバー」と「ドッグイヤー」

P-90 ドッグイヤー
P-90 ソープバー 上;ドッグイヤー型
下:ソープバー型

P-90にはピックアップ本体にネジを通す「ソープバー」と、左右に「耳」が出ている「ドッグイヤー」の2種類があります。二つの違いはマウント方法のみで、サウンドに違いはありません。

ソープバーはソリッドボディとセミアコに設置でき、ピックアップ本体の高さを調節できます。ドッグイヤーはフルアコにも設置できますが本体の高さ調節はできず、ポールピースの調整で対応します。

他のピックアップとの違いは?

ピックアップ比較 左から:ストラト、ジャズマスター、レスポール・スタンダード、P-90

P-90でよく語られるのが、「フェンダーのシングルコイルとはどこが違うか」です。P-90はジャズマスターに搭載される大型シングルコイルと同じに見えますが、両者は構造上の違いから異なるサウンドのキャラクターを持っています。それでは、P-90、PAF型ハムバッカー、フェンダー型シングルコイルの大まかな違いを見てみましょう。

3種のピックアップ、大まかな構造

ピックアップ模式図
P-90、PAF型ハムバッカー、フェンダー型シングルコイルの大まかな構造。磁界(Mag. FIELD)はあくまでもイメージで、実際にはこんなキレイなマルにはならない。

P-90は底面に配置した磁石からポールピースを立てる設計で、ハムバッカーの構造もこれにならっています。この設計では弦に対して磁石が遠くなる代わりに、広い磁界を展開できます。これに対してフェンダーのピックアップはポールピース自体が磁石となっており、磁力が強い反面、磁界は狭くなります。

磁界が狭いとサウンドは鋭く、反対に広いと太くなる傾向にあることから、P-90はフェンダー型より太いサウンドが得られます。またP-90はネジ式のポールピースが使用できるので高さ調節が可能で、弦ごとの出力を調節可能です。磁石は欠けてしまう恐れがありネジとしては使えないため、フェンダー型のシングルコイルではポールピースの高さ調節ができません。

P-90とハムバッカーの違い

Seymour Duncan P90
Seymour Duncan「P90 Stack(STK-P1b / STK-P1n)」
P-90のサウンドはそのままに、ハムノイズの克服に成功したモデル。

P-90の「シングルコイル」という基本構造には、60サイクルのハムノイズが宿命的につきまといます。これを克服するために発明されたのがギブソンのハムバッカー、通称「PAF」です。「P-90のハムノイズ除去」が開発の目的だったため、PAFは基本構造の多くをP-90から踏襲し、出力/サウンドともにP-90を目指しています。その甲斐あって誕生したPAFは見事にハムノイズを克服しましたが、その構造から「インダクタンスが上がる」という電気的な特性によって高域がやや削られ、また相反するコイルによって特定の波形がキャンセルされる宿命を背負ってもいます。

これに対してP-90はハムノイズこそあれ、高域の特性が低下することも特定の波形がキャンセルされることもない、「素直で明るいサウンド」が得られます。

特徴項目 シングルコイル P-90 ハムバッカー
構造 単一コイル、狭い磁束エリア 幅広・短めのコイル+バー磁石 二重コイル(逆巻き・逆磁極)
出力 低~中出力(5~8kΩ) 中出力(8~10kΩ) 高出力(10kΩ以上)
サウンド特性 明るくシャープ、抜けが良い 太くパンチのあるミッド、ざらつき感 太くウォーム、滑らか
ノイズ耐性 弱い(ハムノイズが出やすい) 弱め(シングルよりやや強い) 非常に強い(ハムキャンセル構造)
ダイナミクス 非常に広い やや広い、反応も良い やや狭いがサステインが長い
高域の出方 明るくスパーキー 丸みがありつつも歯切れが良い 控えめでスムーズ
中域の出方 控えめ〜フラット 豊かで前に出る 太く、粘りのある中域
低域の出方 タイトで控えめ しっかりしているが暴れすぎない 深く厚い
向いているジャンル カントリー、ファンク、ブルース、ポップ ブルースロック、パンク、オルタナ ロック、メタル、ジャズ、フュージョン
代表的搭載ギター Fender Stratocaster、Telecaster Gibson Les Paul Junior、SG Special Gibson Les Paul、ES-335、PRS など

シングルコイル、P-90、ハムバッカー:3機種の比較表

名手が語る、P-90のサウンド


「与える男②」~カンタンカンタビレ#22~

P-90は、シングルコイル特有の「明瞭で、歯切れよくハッキリとした抜ける音」、またコイルサイズや磁界などの設計に由来する「太くて丸い音」のバランスが絶妙に取れている優秀なピックアップです。現代ではロックやパンク、あるいはジャズやネオソウルで多く使用されるイメージが定着していますが、その一方でメタルやハードロックといったエクストリームなジャンルでは、あまり使用されません。

奥田民生さんは、「中音域がおいしい」として、それゆえ分厚いバンドサウンドを作ってもハムバッカーほど「こもらない」ところが魅力だと、また楽器のボリューム操作や右手のタッチなどでサウンドのキャラクターを操作しやすいため、歪みやダイナミクスの切り替えをエフェクターに頼らなくても済むことがメリットだとも述べています。

佐藤タイジさん(THEATRE BROOK)は、自身のシグネイチャーモデルとしてP-90とビグスビーを搭載したYAMAHAのSGを使用しています。氏はP-90を搭載した自身のモデルに対して「音がザクッとしてクランチサウンドがすごく気持ちいい」、「歪んだ時にジャラっとした感じが出る」というコメントを残しています。

P-90を搭載したエレキギター

P-90は「リアに1基搭載」「2基搭載」「フロントにP-90、リアに他タイプのピックアップを搭載」「セミアコ/フルアコ」など、いろいろなギターに採用されています。次のページでチェックしてみましょう。

今ついているピックアップをP-90に交換するには

多くの場合、既存のピックアップをP-90に載せ替えようとすると、ピックアップキャビティやピックガードなどを加工したり隙間を埋めたりする必要があります。また既存のネジ穴を利用するのも難しく、新たにネジ穴を開ける必要があります。大掛かりな施工が必要になるケースが多いので、改造はショップに依頼するのがお勧めです。

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ボリューム&トーンの抵抗値にも留意する

ボリューム/トーン・ポット
Montreux「Custom CTS A300K Split」
ポットの抵抗値は底面に刻まれる。なお300kオーム・ポットではインチサイズが基本仕様。

ボリューム&トーン両ポットの抵抗値は、高域と低域の響き方に影響する重要なパラメータです。抵抗値が低ければ高域が丸くなって低域が膨らみ、逆に高ければ高域が鋭くなり低域が絞られます。
ピックアップごとに標準的な抵抗値は定まっており、ストラトタイプのシングルコイルならば250kオーム、PAFタイプのハムバッカーなら500kオームが適正です。我らがP-90に適正な抵抗値は300kオームと言われていますが、ギターによってはピックアップ組み合わせの都合で250kオームや500kオームのポットが使われることもあります。ピックアップ交換には、ポットをどうするかも併せて検討するといいでしょう。

《取り付け簡単!》「ハムバッカーサイズPー90」

今あるギターでP-90を試そうと思ったら、サイズの違いからギター本体を加工しなければならなくなるかもしれません。これに対し、「ハムバッカーサイズのP-90」は、標準的なPAFスタイルの寸法にキチンと収まり、かつハムバッカー・ピックアップと同じ方法でギターに取り付けることができます。もし気に入らなければ元に戻すことも比較的容易です。

おすすめのP-90ピックアップ

モデル名 磁石 DC抵抗(Ω) SoapBar DogEar 特徴
Gibson
P-90 Alnico 5 8.0k 標準機
P-90 Underwound Alnico 3 7.2k ヴィンテージ系低出力
Seymour Duncan
Antiquity P90 Alnico 2 n:7.80k/b:8.60k エイジド処理
Vintage P90 Alnico 5 n:8k/b:9.7k × 1946年製を再現
Hot P90 Ceramic n:12k/b:15k × 中域が強い
Custom P90 Ceramic n:12k/b:14.6k × 最強の出力
P90 Stack Alnico 5 n:21.4k/b:31.6k × ハムノイズ除去
DiMarzio
Dimarzio Soapbar Ceramic 8.6k 基本モデル
Vintage P90 Alnico 5 8.12k ヴィンテージ仕様
Virtual P90 Ceramic 9.14k × ハムノイズ除去
P90 Super Distortiontm Ceramic 13.50k × 4 Conductor
Kent Armstrong
Stealth 90 Ceramic n:17.2k/n:19.6k × ノイズレス。出力は普通。
Dual Tone Tapped P-90 Alnico 5 8.5k / TAP 時5.65k × タップ機能実装

ではここから、標準サイズP-90のお勧めモデルを見ていきましょう。この分野ではさまざまなブランドがしのぎを削っていますが、P-90の本家ギブソン、ピックアップの2大巨頭セイモア・ダンカンとディマジオ、老舗ケント・アームストロングがお勧めです。

GIBSON

Seymour Duncan

セイモア・ダンカンは、これら5モデルからチェックしてみてください。同社はネック用(n)とブリッジ用(b)で出力を分けており、セットで利用することで適切な音量バランスが得られます。また多くのモデルでネック用がリバース(RW/RP)仕様になっており、ミックス時にはハムキャンセル効果が得られます。

DiMarzio

ディマジオ(DiMarzio)のP-90は元祖のギブソンと同様、ネック用とブリッジ用の区別がありません。ポジションごとの出力差は、ピックアップ本体やポールピースの高さ調節などで行います。同社からは王道のサウンドを目指したモデルばかりでなく、そこから逸脱した野心的なモデルもリリースされています。

Kent Armstrong

老舗ブランドKent Armstrongは、トラッドな外観を維持しながらも中身で独自路線を突っ走る、斬新な設計に積極的です。メイドインUSAの名のあるブランドでありながら低価格を維持する姿勢が、多くの支持を得ています。


以上、ギブソンの名シングルコイル「P-90」の特徴や構造をチェックしていきました。今でこそPAF型ハムバッカーやフェンダー式シングルコイルに次ぐ「第3の定番ピックアップ」という扱いですが、この3つの中では最も古い歴史を持っています。テレキャスターもレスポールもまだ生まれていない時代から、P-90は音楽を奏でてきたのです。ストレートで素直に響く、どこか懐かしいサウンド、ぜひ実際にチェックしてみてください。

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