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ジョニー・グリーンウッド(Jonny Greenwood)氏は、英国のオルタナティブ・ロックバンド「レディオヘッド(Radiohead)」においてバンド・サウンドの中核を担うギタリストです。センスやアイディアに溢れたギタープレイは後続のギタリストに多大な影響を及ぼしましたが、PCやサンプラー、ピアノやシンセ、パーカッションなどギター以外の楽器も演奏できるマルチプレイヤーでもあり、また映画の音楽やオーケストラの楽曲を作ることのできる一流のコンポーザーでもあります。近年では、相棒のトム・ヨーク氏と新しいプロジェクトを始動しています。
今回はこの多才なアーティスト、ジョニー・グリーンウッド氏に注目していきましょう。
The Smile – We Don’t Know What Tomorrow Brings (Live at Primavera, June 2022)
Radioheadのボーカリスト、トム・ヨーク氏と組んだ新バンド「The Smile」。バンド名には「朗らかな笑顔ではなく、嘘吐きの笑顔」という意味があるとか。ギター主体のロックに回帰したかのようなサウンド。
ジョニー・グリーンウッド(Jonathan Richard Guy Greenwood)氏は1971年、英国はオックスフォードに生まれました。父親は英国陸軍に勤務する、爆弾処理の専門家です。小さいころから音楽が好きで、10代のころにはリコーダーのグループでバロック音楽を演奏していました。また学生オーケストラに参加し、ヴィオラにも取り組みました。一方でコンピュータにも熱中し、マシン語のプログラムが打てるほど深くのめり込んでいます。
1985年、私立名門アビンドン・スクール(オックスフォードシャー州アビンドン。1256年設立)に通う仲間で金曜日に集まって練習するバンド「On A Friday」を結成します。当時14歳のグリーンウッド氏はハーモニカで参加しますが、やがてギタリスト/キーボーディスト/アレンジャーとしてバンドに貢献していきます。
グリーンウッド氏はクビになったキーボーディストの後任に就いたものの、自分のパートが巧く弾けるようになるまでは、あえて音量を切ったまま弾くフリを続けました。これについてはメンバー全員が爆音を轟かせていたせいで、キーボードの音が出ていないのに気付かれなかったばかりか「よく聞こえないけどバンドの音に貢献している」と思われていたようです。このエピソードにはいろいろな意味が含まれていますが、それほどグリーンウッド氏の弾いている姿がかっこよかった、ということでもあります。
On A Fridayは1987年に初ライブを行いましたが、グリーンウッド氏以外のメンバーが大学進学で地元を離れたこともあり、練習は続けながらも4年の間ライブはありませんでした。1991年からライブ活動を本格的に開始、さっそく複数のレコード会社に注目され、同年12月にEMIと契約、EMIの要請でバンド名を「Radiohead」に改めます。
このときグリーンウッド氏は英国の名門オックスフォード工科大学で音楽と心理学の学位を取得したばかりでしたが、契約を機に中退してバンドに専念します。
デビュー・アルバム「パブロ・ハニー(1993)」は全英チャート22位に達しましたが、注目の大型新人としては不満の残る成績だったようです。しかしデビューシングル「Creep」がイスラエルで支持されたことから、テルアビブで初の海外公演を敢行します。同じころこの「Creep」はアメリカでも人気を博し、米国モダンロックチャートで2位を記録します。このほかビルボードやUKシングルチャートで好成績を収めていきます。
Radiohead – Creep
サビ前の「ガガッ!」で心のスイッチが入る、オルタナ界の名曲。
ギターをアグレッシブにかき鳴らす演奏スタイルが注目されがちですが、グリーンウッド氏は常に「音楽への貢献」を目指し、最善の選択をするように心がけています。氏がギターを弾くのは必要だからであり、他の音が必要ならば無理にギターに固執せず他の楽器を演奏します。プレイ内容についても同様で、どうすれば楽曲を悪化させず、より良くすることができるかを考えています。
Radiohead – My Iron Lung
エフェクターを効果的に使用した印象的なアルペジオからの、爆音のリフ。なおこの頃は、攻撃的な演奏で右腕にダメージを蓄積させてしまっており、サポーターの使用を余儀なくされています。
演奏を聴かせるところではサウンドとプレイの両面で印象的な音を出しつつ、歌を聴かせるところでは思いきり引っ込む、リードギターという役割をしっかり果たしています。リフやアルペジオはクールに演奏する一方、爆音の演奏では感情を爆発させたかのように荒々しく演奏します。
Radiohead – Live at the Astoria (May 1994)
Live at the Astoriaより、グリーンウッド氏のリードプレイが冴える名曲「Just」。静と動を切り替えるバンドアレンジの中で、オクターブ奏法で猛烈にかき鳴らす激情プレイが印象的。ソロでもこのまま行くと思わせて、キッチリと裏切ってくれるところがお茶目。
Radiohead – Street Spirit (Fade Out)
こちらは、一貫して素朴なアルペジオに徹する演目。
アコースティック系の素朴なサウンドやジャズ寄りのアダルトなサウンドなど、楽曲ごとにいろいろな奏法やサウンドを切り替える、懐の深い音楽性もグリーンウッド氏の持ち味です。
Radiohead – Karma Police (Glastonbury 1997)
こちらでは、一貫してエレピ(エレクトリックピアノ)の演奏。
「ギターの音が欲しいからギターを弾いてるだけで、それ以外の音が欲しかったらギターは弾かない」といった発言もありましたがまさにその通りで、グリーンウッド氏にとって楽器の選択は楽曲次第です。氏はピアノやシンセなど鍵盤楽器のほかさまざまな楽器を演奏でき、打ち込みやサンプリングなど電子楽器も駆使します。
Jonny Greenwood – 25 Years – The Power of the Dog (Music From The Netflix Film) – Single
映画「The Power of the Dog(2021)」より。
Radioheadのかたわら、「Bodysong(2003)」、「There Will Be Blood(2007)」、「ノルウェイの森(2010。邦画)」、「We Need to Talk About Kevin(2011)」、「The Master(2012)」、「Inherent Vice(2014)」など、次々と映画音楽を手掛けています。
Jonny Greenwood & LCO Boiler Room Manchester Live Performance
冒頭で使用している楽器が「オンド・マルトノ(Ondes Martenot)」です。キーボードとしても使用できますが、手の移動によってピッチをコントロールするテルミンのような弾き方もできます。グリーンウッド氏は、ギターとオンド・マルトノの違いは「ツアーではギターを弾くことが多い」ことのみだとコメントしています。
グリーンウッド氏は、バンドを始める前はクラシックを本格的に学んでいました。音楽のルーツがこちらだったこともあり、音楽の要求に応じて楽器を持ち替えることに何の抵抗感もないわけです。2017年の映画「Thread」では、オーケストラの作曲も手がけました。
グリーンウッド氏はピアノやシンセも演奏し、打ち込みやサンプリングも駆使しますが、ここではエレキギター関連機材に注目していきます。
Radiohead – Paranoid Android (Later Archive 1997)
名盤「OK Computer(1997)」の演目。怪しいアルペジオを奏でるグリーンウッド氏は2:00ころから電子ピアノに切り替えます。2:40ころギターの爆音を響かせ、キルスイッチを駆使するキレッキレの間奏へと突入。間奏が明けたら今度はシンセに切り替え、最後はまたギターでキッチリと爆音。
メインギターとしては、フェンダー「テレキャスター・プラス」が最も有名です。現在のメイン機は1995年に導入され、タバコバーストの本体にご自身も搭乗するHONDAの、ピックガードには日本のスポーツ漫画「アタックNo.1」のステッカーが貼られているのが目印です。セレクタースイッチのノブは外され、代わりにビニールテープが巻かれています。またボリュームノブも外されています。コイルタップのスイッチは、モーメンタリ式(押している間だけ効く)のキルスイッチに交換されています。
また大変個性的なことに、ピックガードの1弦側、22フレット付近に弦のボールエンドが留められています。感極まった時、ココに1弦を引っ掛けて凄く高い音を出すことができるようになっています。
ACO Underground ft.Jonny Greenwood (Radiohead) – Electric Counterpoint (Steve Reich) | Live
アメリカの作曲家、スティーヴ・ライヒ氏による「エレクトリック・カウンターポイント」の演奏。オリジナルの録音はパット・メセニー氏。
控えのテレキャスターにもキルスイッチとボールエンドが取り付けられています。ボディエンド側に貼りつけられているKORG「カオスパッド」が、なかなかのインパクトをかもし出しています。
Radiohead – Live from Coachella Valley Music and Arts Festival (April 2017)
Starcasterを縦に構え、なんと弓での演奏です。
ソフトなサウンドの演目やバラードでは、1975年製フェンダー「スターキャスター」が登板します。非対称デザインのボディは中央部を残して大きな空洞を持つセミホロウ構造、メイプル製ネックをボルトオンジョイント、ここにフェンダー独自のワイドレンジ・ハムバッカーが2基マウントされたモデルで、ご本人は特別な改造を施さずにそのまま使用しているようです。
ご愛用の弦はDean Markley「Signature Series(10-46)」です。手巻きの製法により、クラシカルなロックンロールに特にフィットする熱感を帯びた豊かなサウンドが得られます。また巻弦の独自のレシピによりベンドしやすく、ピックスクラッチが鳴り響きます。
愛用のピックはJim Dunlop「Nylon Standard」シリーズのティアドロップです。オーガニックなアタック感があり、隆起したロゴがちょうど良い滑り止めになります。厚みは0.60mmと0.38 mmを使い分けていますが、これくらいの薄いピックだとハードに演奏しても弦を切りにくいメリットがあります。
クリーントーンには英国の名機VOX「AC-30」を、Marshall「ShredMaster」やBOSS「SD-1」などで歪ませる時にはFender「Eighty-Five」をというように、エフェクターに応じてアンプを切り替えています。Fender「Eighty-Five」は1988年から1992年の短い間だけ生産された65Wのソリッドステートアンプで、クリーン/ドライブの2チャンネル構成、12インチのスピーカを1基備えています。
広大なエフェクターボードを使用することでも、グリーンウッド氏は知られています。
ドライブサウンドの要となっているのはMarshallのディストーション「ShredMaster(シュレッドマスター)」で、デビューシングル「Creep」で確認できる轟音はコレです。ご本人はShredMasterの前段にBOSS「FV-300H(ボリュームペダル)」を配置し、ペダル操作でゲインをコントロールしています。
このほかelectro-harmonix「Small Stone(フェイザー)」、同「POLY CHORUS(コーラス/フランジャー)」、BOSS「RV-3(ディレイ/リヴァーブ)」といった比較的オーソドックスなものから、DigiTech「Whammy」、DOD「440(エンベロープ フィルター)」といったこだわりのデバイスまで、幅広く並べています。愛用していたテープエコーの名機Roland「RE-201」は、その子孫にあたるBOSS「RE-20 Space Echo」に置き換わっています。
ジョニー・グリーンウッドの使用エフェクター – Supernice!エフェクター
テクノロジー中毒に侵される未来社会で浮き彫りになる、精神のマイナス要素をテーマにした初期の傑作。心に訴える繊細さと幅広さのあるサウンドには、Radioheadの最高傑作という評価もあります。人間の演奏とサンプリングやプログラミングの融合、という当時の最先端のサウンドには資料的な価値も高く、ギターがサウンドの中核を担っているという点でギタリストなら最も注目するべきアルバムです。
グリーンウッド氏が敬愛してやまないポーランドの作曲家、クシシュトフ・ペンデレツキ氏ご本人との夢のコラボレーション。ペンデレツキ氏の代表作「Threnody for the Victims of Hiroshima」「Polymorphia」それぞれに対し、グリーンウッド氏が触発されて作曲した、いわばアンサーソングが続きます。レコーディングはロンドンのバービカン・センターで、演奏はAUKSO室内管弦楽団、ペンデレツキ作品はご本人が指揮し、グリーンウッド作品は同楽団所属指揮者、マレク・モス氏が指揮しています。
Wikipedia:ジョニー・グリーンウッド、Jonny Greenwood、Radiohead
BARKS、rockinon.com、
Guitar.com、FAR OUT、THE NEW YORKER、EQUIP BOARD、Uber Pro Audio、The King of Gear
The Guardian
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