
小型化、それは技術革新の象徴。
ギタープロセッサーやDAWのプラグインが支持を集める中、その流れに対抗するかのように小型のアンプヘッドが支持を集めています。小型ながら必要な機能や性能をしっかりとカバーし、場所を取らず持ち運びにも有利です。プロフェッショナルの道具としてライブやレコーディングに使用される例もあり、小型アンプはアマチュアが使うものだという考えも、過去のものになってきました。
そんなわけでここでは小型アンプヘッドに注目し、その特徴やラインナップをチェックしていきましょう。
- ギター教室「The Guitar Road」 主宰
- 小林 健悟
名古屋大学法学部政治学科卒業、YAMAHAポピュラーミュージックスクール「PROコース」修了。平成9年からギター講師を始め、現在では7会場に展開、在籍生は百名を超える。エレキギターとアコースティックギターを赤川力(BANANA、冬野ユミ)に、クラシックギターを山口莉奈に師事。児童文学作家、浅川かよ子の孫。
- エレキギター博士
- コンテンツ制作チーム
webサイト「エレキギター博士」を2006年より運営。現役のミュージシャンやバンドマンを中心に、自社検証と専門家の声を取り入れながら、プレイヤーのための情報提供を念頭に日々コンテンツを制作中。
- 小型アンプヘッドのメリット
- 小型アンプヘッドの注意点
- おすすめの小型アンプヘッド
- 小型アンプヘッドに適したキャビネット
小型アンプヘッドのメリット
場所を取らず、持ち出しがラクチン
小型アンプヘッド最大のメリットがコレです。練習用や録音用として自宅に設置するもよし、ライブ会場に持ち出すもよし、自宅でも出先でも自分のサウンドで演奏できます。適合するキャビネットが会場にあればアンプヘッドだけで搬出が完了し、コンボアンプよりも荷物を軽減できます。エフェクターボードに収まる極小サイズのアンプヘッドもあり、従来では考えられないほどフットワークが軽くなります
バンドで余裕で使える
ドラムやボーカルなど他のパートの音量にもよりますが、30Wの出力があれば一般的なロックバンドで演奏するには充分です。自分の音が聞こえにくい、メンバーの耳に届かない、といった場合でもキャビネットを置く位置の工夫でたいがいどうにかなります。PA環境が整っているライブハウスに出演する場合、あるいはDI OUTやLINE OUTなどPAに出力できる端子を備えるアンプヘッドを使用するなら、もっと低出力のモデルでもバンド演奏できます。
また真空管アンプの場合、マスターボリュームをしっかり上げることでパワーアンプでも歪みを追加させられます。100Wのアンプをフルアップさせるのはなかなかハードルの高いチャレンジですが、小型アンプヘッドだとしっかり音量を上げられますから、バンドで真空管アンプのポテンシャルを充分に引き出すことができます。
自宅での練習が快適
真空管の小型アンプヘッドは、自宅での使用を想定してアッテネーターを実装するモデルがほとんどです。定格出力をぐっと抑えることができますから、自宅で気兼ねなく演奏できます。
ただし、小音量化させるパワースケーリング回路の仕様にもよりますが、パワーダウンさせた状態の音はアンプの性能を引き出した音にはなりにくいのが実情です。小音量化させた状態では高域や低域のバランスが変化したり、ダイナミクスやコンプ感が低下したりといった変化が多少なりとも発生します。せっかくの20Wを永久に小音量設定で使用するくらいなら、5Wや1Wのアンプをしっかり駆動させるほうがお勧めです。あるいはリアクティブ・ロードボックスなど音質にこだわったデバイスを追加しましょう。
ソリッドステート、あるいはパワーアンプがソリッドステートのハイブリッドアンプはマスターボリュームの上下が音色にほぼ影響しませんから、アッテネーターは不要です。
ライン録りに対応できる
従来アンプの録音には、「アンプ→キャビネット(スピーカー)→マイク」という段階を踏むのが普通でした。アンプ部だけでは音作りこそ可能ですが、それを外に発信する能力を持たないため、スピーカーを通して外に発信、その上でそれを外部からマイクで集音するという流れが必要だったのです。しかしこれは制約が大きく、アンプを大音量で鳴らすための場所、高価なマイクを適切な場所に設置する技術など、演奏とは別の様々な要素が必要です。
そこで、マイクを使わずに直接シールドケーブルだけでレコーダーに送ることができないか、ライン録りできないか、という発想から生まれたのが「キャビネット・シミュレーター」です。スピーカーとマイクを通さずに、アンプ部で作った音色を、あたかもスピーカーにマイクを向けて集音したような音色にしてしまうための技術で、小型アンプヘッドのほとんどのモデルが実装しています。
一般的には「LINE OUT」「D.I. Out」「Emulated Out」などの出力端子を使うことで、無音でのレコーディングが可能です。
小型アンプヘッドの注意点
小さい
利点は、それ自体が弱点にもなりえます。「ギタリストの背後に、でっかいアンプがでーんと座っている」という構図は、今なおロックの様式美です。迫力あるデカいギターアンプの姿は、ロックの強烈なサウンドやデカい音のイメージと、密接に結びついているわけです。小型アンプヘッドでステージに上がるギタリストはデカいアンプの迫力を借りられないので、そんなものに頼らなくてもよいくらいクールな演奏をする必要があります。
フラッグシップモデルと比べると性能が限定的
100Wや50Wのアンプヘッドをダウンサイジングさせた小型アンプの場合、チャンネル数やツマミの数などいろいろな機能が減らされるのが普通です。これはシンプルで使いやすいという利点でもありますが、フラッグシップモデルの充実した操作系が必要な人には、物足りなく感じるかもしれません。
大音量のクリーンが欲しい場合には不向き
真空管アンプはマスターボリュームを上げるとパワーアンプでも歪みが生じ、大迫力のディストーションサウンドが得られます。小型アンプヘッドでは比較的現実的な音量で同様のディストーションが得られるのがメリットではありますが、反対に真空管のセクシーなクリーンを大音量で欲しいギタリストには不向きだと言わざるをえません。真空管の小型アンプヘッドで大音量のクリーンを得るには、PAの助けが必須となります。
一方、ソリッドステート・アンプのサウンドはマスターボリュームで変化することがほぼ無いので、クリーンを爆音で鳴らしても大丈夫です。
おすすめの小型アンプヘッド
ではここから、おすすめの小型アンプを見ていきましょう。そのラインナップは設計や仕様で分類しており、
- オールチューブ:プリアンプもパワーアンプも真空管
- ハイブリッド:プリアンプが真空管、パワーアンプはソリッドステート
- ソリッドステート:プリアンプもパワーアンプもソリッドステート
- フロア型:エフェクトボードに収まる、エフェクター型
以上の順番で紹介しています。
ギターアンプの王道、オールチューブ
プリアンプもパワーアンプも真空管を使っている「オールチューブアンプ」。フルチューブやオールバルブなどとも呼ばれる定番スタイルであり、今なお良い音のお手本です。
小型化しても重い、衝撃に弱い、キャビネットをつないで使わないと故障する、定期的に真空管の交換が必要といった注意点もあります。しかしデジタルモデリングではどうしても届かない本物の音が、世話の焼ける真空管アンプなら出すことができるのです(小型アンプヘッドの分野では、キャビネットをつながなくても故障させない回路を実装するモデルが多くリリースされています)。
真空管プリ&ソリッドステート・パワーアンプのハイブリッド型アンプヘッド
ハイブリッド型は、プリアンプに真空管、パワーアンプにトランジスタを使用する構成が一般的です。真空管によるつややかなトーンを手に入れることができる上に、パワーアンプ部を小型軽量化できること、またキャビネットをつながなくても故障の心配がないというところが大きなメリットです。
壊れにくく扱いやすい、ソリッドステートアンプ
プリアンプ/パワーアンプ共にトランジスタを使用している「ソリッドステートアンプ」には、真空管アンプでは考えられないほどの軽量な本体、定期的な部品交換を要しないメンテナンスフリー性、また音量でサウンドが変化しない高度な安定性、キャビネットをつながなくてもぶっ壊れることの無い安心感など、さまざまなメリットがあります。
LINE OUT端子を持たないモデルでのライン録りは、エフェクトループがあればSEND端子を使用します。SENDからはプリアンプの音がラインレベルで送られますが、キャビネットシミュレータなどの音質補正は基本的にありません。
エフェクターボードに組み込む、フロア型アンプヘッド
デジタルに頼らずアナログの分野で、アンプヘッドをいかに小さく収めるか、そんなチャレンジも繰り広げられています。極小サイズのアンプヘッドはそのサイズゆえ操作系はかなり限定的ですが、そのぶん基本性能に妥協はありません。自宅においては場所を取らず、エフェクターボードに収めることも可能。ギターとエフェクトボードを持参するだけで、いつでも自分の音でライブができます。
小型アンプヘッドに適したキャビネット
各メーカーから「小型アンプヘッドに適したキャビネット」が販売されています。アンプヘッド同様にキャビネットもコンパクトなモデルが多く、スペースを取らないので、自宅練習用にオススメです。値段も比較的リーズナブルで、小型アンプヘッドとセットで購入するギタリストが多いです。
コンパクトなキャビネットとはいえ、積載しているスピーカーは「Celestion」や「Eminence」の「10インチスピーカー」あるいは「12インチスピーカー」なので、本格的なサウンドを楽しむことができます。
関連記事:Supernice!ギターアンプ
キャビネット一覧
以上、小型アンプヘッドをテーマに特徴やおすすめモデルをチェックしていきました。いろいろなアンプの音を出すことのできるデジタル機器が隆盛を極める中でこうしたデバイスが支持を集めるのは、一台のアンプとしてアイデンティティを持った本物の音に、深い深い魅力があるからにほかなりません。自宅に100Wを置くのはかなり非現実的ですが、20Wや15W、5Wや1Wならかなり現実味があります。ぜひ実際にチェックしてみて、本物のアンプの挙動を体験してみてください。
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