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「Suhr(サー)」は、著名ギタービルダー、ジョン・サー氏の名を冠するブランドです。Suhrの製品はハイエンドギターを主軸としながらそれにとどまらず、アンプやエフェクタ、ピックアップなどエレクトロニクスにまで及ぶ幅広さを持っていますが、どれも価格にふさわしい高品質で、「現代の憧れのブランド」のひとつとなっています。今回は、このSuhrのエレキギターをチェックしてみましょう。
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1: ジョン・サーとはどんな人か? 2: サー氏経歴上の重要人物 3: Suhrギターの特徴 3.1: 「神話に終止符を打つ」木工 3.2: 「安定したネック」への追及 3.3: 考え抜かれた電気系 3.4: ミュージシャンとのコラボレーション 4: Suhrのラインナップ 4.1: Suhrラインナップの二つのグレード 5: タイプ別Suhrのギター・ラインナップ 5.1: Standard 5.2: CLASSIC / CLASSIC T / CLASSIC JM 5.3: Modern / Modern T
Mateus Asato | Entrevista
マテウス・アサト氏は、特に右手のテクニックが冴え渡るブラジル人ギタリストです。本国でプロミュージシャンとして活躍していますが、演奏動画がSNSで話題となり、その人気と注目度が世界レベルへと拡大、来日も果たしています。
「マルチな才能を持つ奇才」と言われることもある「Suhr」代表、サー氏とは、どんな人物なのでしょうか。まずは簡単な年表を使って、サー氏の略歴を見てみましょう。
年 | |
1974 | ギタリストとして活動するなか、リペアを依頼したギター職人ロバート・ベネデット氏に学ぶ機会を得る。弟子入りを志願したが、「自分自身で学んでいけ」と断られる。 |
1980 | 大学卒業以来、音楽活動をしながらフリーターをしていた。ピーター・フランプトン氏と同じ「ブラッドショウ・スイッチングシステム」が欲しかったが、コックのバイトではとても買えたものではない。せめて音楽の仕事がしたくてN.Y.の楽器店「ルディーズ・ミュージック」に、リペアマンとして入社する。 |
1985 | ビルダーとしての実力が認められ、店長と連名の自社ブランド「ペンサ・サー」がスタート。この時製作したギターは「Suhr」の原型と言えるスーパーストラトで、SSH配列のFRT装備で低弦高。NYのセッションギタリストに「スーパーカー」と称され大人気となる。マーク・ノップラー氏、エリック・クラプトン氏、ピーター・フランプトン氏、ルー・リード氏、スティーヴ・スティーヴンス氏ら、名だたる名手を顧客とする。 |
1991 | ついに念願の「ブラッドショウ・スイッチングシステム」を買う時が来た。オーダーする電話のやり取りのうちに、ギターアンプを改良するコンセプトでCAE社社長のボブ・ブラッドショウ氏と意気投合、ブラッドショウ氏に求められてカリフォルニアへ引越し、CAE社に入社。同社のエレクトロニクス理論や、現場重視の商品開発、カスタマイズを学びながら、「名機」と称されるプリアンプ3+、OD-100アンプヘッドを開発。スティーヴ・ルカサー氏やマイケル・ランドウ氏ら、ロサンゼルスのミュージシャンと親交を深めていく。 |
1993 | CAE社員として働くかたわら「Suhr」の名前でカスタムギターも作っていたが、結婚して子供もいる生活を支えるには不十分だった。そんな時フェンダー社からのオファーがあり、フェンダー・カスタムショップのエレクトロニクス部門に所属する。R&D(Research and development。研究開発)のさなか、量産のノウハウを学んだり、ノイズレスピックアップを開発したり、有名アーティストのアンプを調整したりしていく。 |
1997 独立 |
ギター製作のオファーが積み上がったことを受け、同僚のCNCエンジニア、スティーヴ・スミス氏と共に独立。共同でJST社(John Suhr Technology)を立ち上げ、ハイエンドギターブランド「Suhr」が満を持してスタート。スコット・ヘンダーソン氏、ガスリー・ゴヴァン氏、レブ・ビーチ氏、マイケル・ランドウ氏ら多くの名手が愛用する。 |
以降 | 2005年:ハムノイズを除去する「SSC」を発表 2006年:比較的リーズナブルな「Pro」シリーズが開始 2007年:オリジナルのトレモロをGOTOH社と共同開発 2008年:ギターアンプ開発 2012年:サテンシリーズ開始 2013年:GOTOH社と共同で「サー・ロックペグ」を開発。ギア比は18:1。 など、ギター製造でも電気系においても研究開発を積極的に続ける。2017年でブランド立ち上げ20周年となった。 |
年表:サー氏の歩み
もちろんご本人には行く先々で様々な苦労が山のようにあったものと思われますが、それでも羨ましく感じられる、大河ドラマのようなストーリーになっていますね。ギターでもアンプでも大きな実績を上げることができたのは、このサー氏以前にはレオ・フェンダー氏しかいませんでした。
生粋のエンジニアだったレオ・フェンダー氏と違って、サー氏はギタープレイヤーでした。それも、バイトで生計を立てる身でありながら1954年製のフェンダー・ストラトキャスターを持っているほど、ヴィンテージサウンドに対して強い探究心があったそうです。理想的なサウンドや感触に到達するのにいつも苦労していて、楽器や機材を調整する時間の方が自分の演奏時間より長いことをいつも不満に思っていたそうですが、こうしたフラストレーションが、ギターやアンプの品質を追求する「Suhr」のモチベーションとなっているのですね。
サー氏にとっては、「研究によって問題を解決するのが一つの楽しみにまでなっている」と言われます。その甲斐もあって、ヴィンテージギターの魔法のようなサウンドは、サー氏にとっては数値化することができ、だからこそ最新の製造法で再現することができるのです。
80s SHRED FEATURING STEVE STEVENS & PETE THORN
二人の名手による共演。Suhrはオーダーメイド、少数生産を基本としていることもあって、このような限定モデルが積極的にリリースされます。80年代のハードロックギターをイメージした2本ですが、「キルスイッチ」を追加しており現代的な使い方もできるようになっています。スティーヴ・スティーヴンス氏は、早いうちからサー氏の仕事を認めており、「ルディーズ」時代からのお得意様だったとか。
サー氏が実績を上げられたのは、自身の頑張りはもちろんですが、いろいろな人との関わりがあったからこそだったと言えるでしょう。その重要人物を、3人ピックアップしてみましょう。
ロバート・ベネデット氏は半世紀近く、高品位なアーチトップギターを作り続けているクラフトマンです。1999年から2006年にかけては、フェンダー・カスタムショップに在籍したこともあります。氏のギターはアーチトップの分野では「世界最高」と呼ばれ、ジャズギタリストのあこがれです。
ロバート・ベネデット氏の工房は、サー氏の近所でした。氏はリペアや調整を依頼されつつ、若きサー青年に多くのことを教えていきます。がらくたの中から拾ってきたレスポール・Jr.を渡し、ライブで使用できるまでに修理させたこともありましたが、これをきっかけに、若きサー氏は所有するギターを全部、自力でモディファイできるまでに腕を上げます。
ルディ・ペンサ氏はニューヨークに店舗を構えるギターショップ「Rudy’s Music Shop」のオーナーです。1978年に開店、NYのミュージシャンが集まる店となり、1980年から自社ブランド「Pensa」をスタートさせました。同年にリペアマンとして入社したサー氏は、たちまち業界の評判となります。
ルディ氏は1985年、ブランド名を「Pensa Suhr」に改めますが、自身の名前を使ったブランド名に社員の名前を併記させるほど、サー氏の評判と腕前を認めていたのだと考えられます。「Pensa Suhr」はサー氏が「Suhr」を立ち上げる1997年まで続きましたが、現在のブランド名は「Pensa」に戻っています。
ルディ氏は人を見る目が相当あったようで、サー氏が在籍していた時には、同僚にステファン・マルキオーネ氏(現:マルキオーネ・ギターズ)、日野雅信氏(現:Mas Hino NYC)がいたそうです。
「ロバート」を「ボブ」と読み替えるのは、英語圏ならではの文化ですね。現在CAE社(カスタム・オーディオ・エレクトロニクス)を率いるボブ・ブラッドショウ氏は、1980年代初頭から独自のスイッチングシステムで業界に革命を起こした人物で、マイケル・ランドウ氏、スティーヴ・ルカサー氏など、ロサンゼルスのギタリストを語る上で欠かすことのできない存在です。
世界に名高い「ブラッドショウ・スイッチングシステム」は、いくつものアンプやエフェクタを連携させ、一台のマルチエフェクターのように機能させるものです。MIDIもまだ生まれていない時代でしたから、「スイッチを一回踏むだけで、必要な組み合わせになる」という便利さは画期的でした。
「ギタリストをエフェクタや機材の操作にわずらわせず、音楽に集中させる」ことを目指したブラッドショウ氏は、1981年にバジー・フェイトン氏を最初の顧客にします。そこから瞬く間に評判となり、翌1982年にはマイケル・ランドウ氏のツアーに同行、1985年から1991年まではスティーヴ・ルカサー氏のスタッフとして活躍するなど、スタジオミュージシャンからロックアーティストまで、幅広く支持されていきます。
アンプの開発もしなければならない状況が差し迫っているのに、ブラッドショウ氏自身はスイッチングシステムにかかりきりになってしまっている、というタイミングで、サー氏が注文の電話をかけます。サー氏とブラッドショウ氏はアンプ改良のコンセプトで見解が一致、ブラッドショウ氏はサー氏をロスに招き、アンプの開発を依頼します。サー氏は名機と呼ばれる「3+」と「OD-100」を設計します。プリアンプ「3+」は、異なる3台ぶんのプリアンプを一台の筺体に集約したものです。これにパワーアンプをつけ、ギターアンプとして完成させたものが「OD-100」です。
SUHR CHERRY MODERN SATIN™ – FEATURING OD-100 SE PLUS
眉間にしわを寄せて弾いているような楽曲でありながら、ギターは笑っているかのような明るさのあるサウンドですね。この動画で使用しているアンプが、サー氏が設計したという「OD-100」です。
多くのアーティストを虜にする「Suhr」、その特徴を追ってみましょう。一見するとスマートなスタイルのシンプルなエレキギターですが、どんな秘密が隠されているのでしょうか。
Suhrのギターは、
と評価されますが、これはしっかりとした木工のなせる業です。
Suhrの工場は熟練工による高水準の技術や感性に、最新の工作機械による精密さと作業効率を加えた生産体制を敷いています。「ボディとネックの周波数応答を測定するノウハウ」まであるといわれ、科学をしっかり利用することで、神頼みではなくしっかり狙ったうえで高品位なギターを作っているわけです。
木工においては、サー氏と一緒にフェンダーを退社したスティーヴ・スミス氏がキーパーソンです。氏はCNC(コンピュータ数値制御)のエンジニアで、CNCルータを自在に操り、製造を完璧にコントロールできるスキルを持っています。CNCルータやレーザー加工機などの設備を駆使することで、超高精度の加工が実現されます。
精密な加工が前提なこともあって、Suhrは木材への厳しさが尋常ではありません。希少な銘木であっても、基準に満たないものは容赦なく外していきます。サー氏の木材へのこだわりは徹底していて、木材の個性と特徴を把握した上で、
がベストチョイスだ、というように、「ボディ材とネック材の組み合わせ」に関する自分の明確な答えを持っていて、オーダー時の打ち合わせなどではさまざまな組み合わせを提案してくれます。
ちなみにご本人は「キルト/フレイムメイプルトップ、バスウッドバック」が一番のお気に入りで、メイプルの明るさと重厚感にバスウッドの太さが加わる「Holy Grail of Tone(音の聖杯)」だとまで表現しています。これにワンピースメイプルネックの組み合わせが最高のものだとしており、「Standard Pro」や「Modern Pro」など製品にも反映されています。
Suhrではネックを製造する際、周到な「狂い出し」を行います。
指板やネック材の加工は、
というように工程ごとにしっかりインターバルを置いて、狂いを出し切った状態で次の工程へ行くので、完成したネックはたいへんに安定度の高いものになります。「新品から数年はネックがよく動く」というのがギターの常識ですが、それに抗い「新品の状態からネックが安定している」というのがSuhrのセールスポイントの一つです。
また、
という、現代のハイエンドモデルに求められる仕様をしっかり押さえています。また、ネックのジョイントにもポイントがあり、Suhrの基準では「きつすぎても、緩すぎてもいけない」絶妙さが求められます。このためすべてのネックポケットはここ専門の熟練工による手作業で正確に仕上げられます。ジョイントがよくできていると、ネック自他の安定性が良好なばかりか、チューニングがきちんと決まりやすいと云われています。
Suhrはアンプやエフェクタもリリースするメーカーですから、ギターの電気系にもそうとうなこだわりを発揮しています。Suhrギターの回路をチェックすると、ピックアップごとにトーンのコンデンサが切り替わるようになっていたり、ボリュームとトーンのポットの抵抗値が意図的に変えてあったりするなど、操作系のシンプルさが守られながら、内部ではいろいろなことが起きていると云われます。
シングルコイル・ピックアップをメインに据えているモデルには、「SSC(サイレント・シングル・コイル)回路」が搭載されます。これは60サイクル(60Hzと同義)のハムノイズのみをカットする回路で、電源を要しないのに大変クリアなシングルコイルサウンドを得ることができます。現在この回路は第二世代の「SSCII」となっていますが、SSCは本来サー氏の発明ではなく、Ilitch Electronics社が発明し、特許を保有しています。サー氏は、自分がこの回路を思いつかなかったことを大変に悔しがったと伝えられています。
全てカリフォルニアの自社工場で生産しているというピックアップに対しても、Suhrは尋常ではないこだわりを見せます。第一に、1960年代にフェンダーが使っていたものとまったく同一のマグネットを使用しています。これが具体的に何なのかは企業秘密ですが、他にはない、Suhrだけのマグネットだと伝えらています。このマグネットだからこそオールドギターの速いレスポンス、高速なアタック感が再現できるのですが、第二に、ヴィンテージのサウンドをリスペクトしながらも、50~60年代には存在しなかった
など、現代の音楽環境を考慮したうえで、「いま必要とされているもの」というコンセプトで設計されています。各ポールピースは各弦をしっかり狙っており、コイルタップした音も美しく響きます。
サー氏は、常にミュージシャンとともに仕事をしてきました。いちプレイヤーとして悩まされていた問題や、ミュージシャンたちの悩みを解消し、また希望をかなえていく間に、さまざまな設計が生まれていきました。
ピーター・ソーン氏シグネイチャー・ハムバッカー。最も探求された50年代製「PAF」の本質をすべて備えた、繊細なニュアンスが表現できるハムバッカー。ヴィンテージ志向だがコイルタップ対応。専用のニッケル製カバーはカバードの弱点である「甘さ」を抑える。
ダグ・アルドリッチ氏シグネイチャー・ハムバッカー。Suhrでは最大出力を持つが、中音域にパンチがあり、低域はタイトに引き締まっていて、がっつり歪ませてもきれいに聞こえる。ピッキングニュアンスもしっかり拾う。
マイケル・ランドウ氏シグネイチャシングルコイル。中域をフォーカスし、滑らかさのある高域と締まった低域でバランスをとったサウンド。ブライトでパンチのある「クラシック」、出力を上げ、かつゆるいRの指板にポールピースをフィットさせた「スタンダード」の2タイプ。
このように製品化されたものもあれば、
レブ・ビーチモデル(廃盤)のネックグリップで、ヴィンテージフェンダーの「C」シェイプとモダンなシェイプのミックスで、全ポジション一貫して快適に感じられる。
というように「仕様」として蓄積されるものもあります。Suhrのサイトでは、自分自身をSuhrアーティストとして推薦できるようになっています。世界的にものすごく狭い門ですが、ここを通過することができれば、Suhrアーティストとしてさまざまなサポートを受けることができるそうです。夢がありますね。
それでは、Suhrのラインナップをチェックしてみましょう。Suhrのギターには「自分が感じていた不満をミュージシャンが感じる必要はない」というサー氏の信念がしっかり反映され、非常に高い基本性能と馴染みやすいシンプルさを兼ね備えています。シンプルであるがゆえにオールラウンドのギターであり、プロミュージシャンが現場に持っていく「作業用の道具」としてたいへん理想的な設計です。全モデルに左用がある、というのも大きなポイントです。
Suhrのラインナップは「カスタム」と「プロ」シリーズの二つにグレード分けされ、別枠でアーティストモデルがリリースされます。「プロ」シリーズからは、派生シリーズも出ています。
シリーズ | 内容 |
Custom | その名の通りの「カスタム(特別仕様)」で、一台一台オーダーメイドで作られる、Suhr本来の作り方。だれしもが憧れる一本物のハイエンドギターだが、ショップオーダーという形で販売店に並ぶことも。 |
Pro | 仕様をまとめ、工程を合理化し、一定数のロット生産をすることで価格を抑えたもの。 |
Satin | 塗装の研磨を控え、サラサラ仕上げにすることで、Proからもう一歩価格を下げたもの。ピックガードのないものもあるが、多くのモデルで指板Rが一律(円筒指板)になる。 |
Antique | ボディ&ネックともに、エイジド加工を施したニトロセルロースラッカー塗装を採用し、ヴィンテージライクな雰囲気を帯びる。Proより一歩グレードが上がる。 |
J-Select | 正規ディーラーであるオカダインターナショナルが企画し、Suhrにオーダーしている。 |
表:Suhrのシリーズ一覧
一本物の「カスタム」に対し、ロット生産の「プロ」があり、プロには一歩価格を下げた「サテン」、アップチャージした「アンティーク」が含まれる、という構成です。「Jセレクト」はプロをアップグレードしたものという扱いなので、プロより一歩だけ、グレードが上がります。しかし、グレードの違いは仕様上のものであって、すべてが同じ工場で同じ工程で、同じようにていねいに作られます。
では、今度はギターのタイプ別に見ていきましょう。
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