ハイゲイン/モダン系ハムバッカー・ピックアップ特集

[記事公開日]2024/3/5 [最終更新日]2025/4/25
[ライター]森多健司 [編集者]神崎聡

ハイゲイン/モダン系ハムバッカー

ハイパワーなハムバッキング・ピックアップの世界では、2000年代以降に続々登場したデスメタル、プログレッシブ・メタル、ジェント、あるいは複雑かつ機械的なインストを演奏するマスロックなどの隆盛を受け、多彩な商品展開がなされるようになりました。かたや重低音を受け止め、きらめくような高域を再生する、様々に特徴的なピックアップが世に溢れています。今回はそのようなハイゲイン・ハムバッカーに迫ってみましょう。

ハイゲインピックアップの選び方

ピックアップを選ぶ際にはいくつかチェックしていきたい項目があります。まず機能面で最も重要視されるのはその出力、そして次に音質です。特にサウンド面はドンシャリ傾向のものや中域に寄ったもの、レンジが広いものなど、様々な種類のものが市場に溢れています。ピックアップについては試奏も難しく、音色は付けてみるまでわからないため、ある意味でどうしても賭けのようになりやすい製品ですが、現在では動画サイトで傾向程度であればチェックできますし、多くのレビューも見ることができます。

またライブを頻繁に行うギタリストにとっては見た目も重要。色やポールピース部分のデザインなども気になるところです。昨今、アーティストのシグネイチャーモデルピックアップも多くリリースされています。好きなギタリストが使っているものと同じものを選ぶ、というのもまた一つの選択肢でしょう。

モダンメタルと従来のHR/HM系サウンド

多弦ギターやダウンチューニングを用いてのスピーディなリフ、ドラマティックで複雑な構成、レガートを多用した滑らかなギターソロやそれに絡むデスボイスなど、2000年代の中盤ごろから続々と登場したメタルはこれらの要素が組み合わさっていることが多く、従来のHR/HM(ハードロック/ヘヴィメタル)とはまた違った進化を遂げています。このような音楽的特徴から、求められるギターの音も少しずつ変容してきており、昨今の機材では次のような要素が重要視される傾向があります。

  • 1. レンジの広さ、弦ごとの分離感
  • 2. 高音域の粗い成分、低音域のタイトさ
  • 3. 立ち上がりの速さ
  • 4 .人間味を排した無機質感

1、2は低い音域でリフを弾いたときの質感を出すために重要な要素となり、3はスピード感に直結します。4が現在のディストーションギターの特徴の一つで、フレージングも音色も機械的なものが多用される傾向にあります。ハードロックにおいて「泣きのギター」が隆盛を誇った80~90年代を経て、メタル系のギターがそこから脱却してきたことは、2000年代以降のギターを語るうえで一つのポイントとなります。昨今リリースされるハイゲイン系の機材は、ピックアップに限らず、ある意味で人間味を排した冷たさを感じるものが多く、それはこのようなニーズに合わせたものと言えるでしょう。

ただ、好まれるサウンドが変わってきたといっても、あくまでもディストーションギターの「良い音」の基準はそう激変しているというわけではありません。DiMarzioのTone ZoneやSaymour DuncanのJB、Duncan Distortionのように、昔から存在する定番のピックアップが今でも愛されているのもまた事実。ピックアップを選ぶ際には先入観を排し、自分が求める音色を良く理解したうえで臨みたいものです。

出力と音質をチェックする

出力は一般的に音量を表しますが、歪んだエレキギターの世界では高出力なほど楽に深い歪みを作ることができます。十分に歪ませてリフを刻むような音楽では、この点は非常に重要。低出力のピックアップで無理やりハイゲインを作ろうとすると、ハウリングが起こったりして無理が出てくるため、始めから一定以上の出力を持つピックアップを選んでおくことが肝要となります。ただし、ギターとの組み合わせによっては出力が高すぎて扱いづらいと感じるケースもあるため、ギター本体との兼ね合いも重要となります。

音質についてはそのピックアップの狙う質感をチェックします。現代のピックアップではどのモデルもそこそこレンジが広いものが多いですが、製品ごとに狙ったサウンドには少しずつ違いが見られます。低域から高域までバランス良く鳴るものはリフやアルペジオの演奏などに向いており、中域~高域に掛けてピークのあるピックアップではソロの演奏に向いています。音質はコイルの太さや巻数、ギター本体の材質など、出力以上に様々な要素の影響を受けますが、マグネットによって大まかな傾向を知ることができるので、使用マグネットを参考として見ておくのもおすすめです。(後述)

出力を決める要素~直流抵抗

出力はメーカーが公式サイトでもスペックとして明らかにしている”DCR”(直流抵抗)の値がその参考値となります。ハムバッカーの抵抗値はおよそ7~17kΩと言われており、DCRが17kΩ前後のものは明らかに高出力を狙って作られたものが多いです。メーカーがスペックとして載せるのも、これを出力の参考値としてほしいとの思いからでしょう。

ただ、昨今のメタル系に適したハムバッカーのすべてが高い抵抗値を持つわけではなく、例えばSeymour DuncanのNazgulなどはジェントに適したハイゲイン・ピックアップとして知られていますが、抵抗値は13.6kΩと、そこまで高いわけではありません。

ちなみにDiMarzioのサイトでは他社と違い”Output(出力)”という、読んでそのままのスペック値が参考として出されており、より出力ごとに選びやすくなっています。

出力、音質を決める要素~マグネット

コイルが巻かれているマグネットの種類によって出力やサウンドキャラクターがおおまかに決まります。マグネットにはアルニコ2、3、4、5、8、そしてセラミックがあり、それぞれに違ったキャラクターを持っています。

名前 磁力 特徴
アルニコ3 50年代ごろのストラト用PUに使用。リプレイスメント用としてもシングルコイルに多く見られ、サウンドもブライト。
アルニコ2 磁力が弱く、甘いサウンドが特徴。50年代のテレキャスター用PUにつけられた。
アルニコ4 ギター用PUではあまり使われない磁石。磁力も中程度であることからサウンドバランスは良く、低~高音域がまんべんなく再生される。
アルニコ5 磁力が強く、音圧が得られるところから、ハムバッキングピックアップに最もよく使われる磁石。JB、Tone Zoneなど、往年の名器に使用される。
アルニコ8 アルニコで最大の出力を持つ磁石。そのハイパワーが重宝され、モダンメタル系のハイゲインPUには多く使用される。
セラミック アルニコに比べて経年での劣化が起きにくく、安価でハイパワーなため、さまざまな製品に使用される。
安価であることから、廉価価格帯のギターに付属するPUなどに使われるが、反面、その強い磁力やレンジの広さを活かし、ハイゲインPUにも定番の磁石。

関連記事:
ピックアップの磁石の種類について

フロントピックアップとの相性も考える

メタル系のギターはその使用頻度から、リアピックアップのみが重要視されやすいですが、ソロ時やクリーントーンでのアルペジオなどで、フロントピックアップを使う機会があるギタリストは多いでしょう。その際にあまりにも出力や音色が激変すると、切り替えたあとの違和感に繋がります。あまり差が付きすぎないように選んでおきたいものです。リアとフロントの両方がセットになっているものを選ぶとまず安心ですが、そうでない場合は同じものを二つ載せるか、うまく組み合わせを考えるようにしたほうがトータルで良い楽器になります。

ハイゲイン系ハムバッカーのおすすめモデル

それではハイゲイン系ハムバッカーをみていきましょう。まずは昔から存在する定番モデルから。

定番モデル

モダン系モデル

続いてはダウンチューニング、プログレッシブ/モダン・メタル、ジェントといった近年のメタルシーンに対応できるモダン系モデルをみていきましょう。

幅広い展開を見せるハイゲイン・ハムバッカーの世界。選ぶのが難しい反面、どれも少しずつ違う個性を見せているため、かならずスタイルに合ったピックアップが見つかるはずです。アクティブタイプもかつてのようにEMG一択というわけでもなく、多くの選択肢が見られるようになりました。様々なソースを参考に、最適な一つを選びたいものです。

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