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ヤマハ「パシフィカ(Pacifica)」は、馴染みやすいスタイルに高い演奏性と豊かなサウンドバリエーション、そして高いコストパフォーマンスを両立させたギターです。「600」シリーズは、プロミュージシャンの要求に応えられるポテンシャルがありながら、10万円を大幅に下回る価格を実現しています。今回は、新たなラインナップも気になる「パシフィカ600シリーズ」に注目していきましょう。
「パシフィカ」は30年の歴史を持つ、ヤマハの主力モデルです。カリフォルニアにあるヤマハのカスタムショップで設計され1990年にデビュー、様々なバリエーションが模索されて現在のラインナップに落ち着いています。「パシフィカ」の名は、「平和(Peace)」の形容詞系(Pacific)、また日米の間をつなぐ太平洋(Pacific Ocean)を意味するラテン語(Pacifica)が由来です。
現在のパシフィカは、トラッドなスタイルを出発点としながら、一見してパシフィカだと分かる高いデザイン性が持ち味で、最も低価格なモデルですらきっちりていねいに仕上げられています。取り回しの良い小ぶりなボディサイズ、あらゆるジャンルや奏法ができるクセのないネックグリップ、シングルコイルの音もハムバッカーの音も出せるサウンドバリエーション、という高い基本性能も特徴です。全グレードの共通仕様「メイプルネック、ローズ指板、アルダーボディ」は、このタイプのギターならば王道と呼べる木材構成です。
PACIFICA 112V/112VM
トラッドなスタイルよりやや小さめのボディは、ウェストがキュっと引き締められたグラマラスなデザインが持ち味です。両側のウェスト位置をずらした「オフセット・ウェスト」なので、立って弾いても座って弾いても良好な演奏性が得られます。
スリムなネックは、手の大きい人も小さい人も弾きやすく感じることのできる、ちょうどよいところを狙っています。やや丸みが残されているのは、人体工学に基づいた設計です。ほどほどの厚みがあるほうが手の筋力を使いやすく、長時間の演奏でも疲れやストレスを感じにくいわけです。
リアのハムバッカーにはコイルタップ機能が備わっており、キレのある音から太く力強い音まで、パシフィカ一台で出すことができます。
世界中で愛されるYAMAHA「PACIFICA」シリーズの魅力
「600シリーズ」は、基本性能の高いパシフィカ本体にハイエンドギターにも採用されているような世界的に評価の高いパーツを載せ、また個性的なカラーリングでドレスアップしています。最新式のギターでありながら、歴史への敬意も忘れていない設計によりサウンドも弾き心地も受け入れやすく、多くのプロミュージシャンにも愛用されているシリーズです。
PACIFICA 612 VIIX MSB
では、「PACIFICA 612 VIIX / VIIFMX」の各部を観察し、パシフィカ600シリーズの特徴をチェックしていきましょう。
第一にパシフィカは、独特のヘッド形状や小さ目のピックガードなど特徴的なデザインによって、ほかのギターとは違う個性的なルックスを持っています。
特に両機は、「VIIX」のポップなカラーリング、「VII FMX」の真紅のフレイムメイプルトップ共に、ステージ映えする存在感があります。ボディカラーとピックガードの対比など、ルックスのファッション性は深く考えられています。
3つの音叉が交差するヤマハのエンブレムが輝くヘッドストックには、グローヴァー社製ロック式ペグ、グラフテック社製ナット及びストリング・リテイナー(ストリングガイド)が備わります。グローヴァーは頑丈な本体を持つペグ「ロトマチック(Rotomatics)」の開発で名高く、このタイプのペグが今なおロトマチック・タイプもしくはグローヴァー・タイプと呼ばれるほどです。ロック式ペグは軸で弦を固定して巻き数を減らせることから、弦交換の時短に大きく寄与するほか、チューニングの安定度を飛躍的に向上させます。
ナットとストリング・リテイナーはブラック・タスク(TUSQ)という素材でできています。TUSQはグラフテック社の登録商標で、象牙と同じ硬度と音響特性を持つ人工素材です。天然素材の宿命である個体差と無縁であるほか、滑りが良いためチューニングの狂いを生じさせにくいのがメリットです。
パシフィカには「ナット幅41.0ミリ」という、現代的なギターでは珍しい細身のネックが採用されています。スリムなネックは、チョーキングや握り込むコードの押さえ方など、エレキギターで多用される指遣いに特に有利です。
左:サテン仕上げ
右:グロス仕上げ
ネック裏はほのかな飴色に染められ、塗装面をピカピカに磨きあげた「グロス仕上げ」です。弦楽器におけるネック塗装の伝統に準拠した塗装で、適度なグリップ感が得られます。現代でも多くのギターに採用されているほか、ヴィンテージギターの全てがこの仕様です。
同じく「PAC612VIIX」のマットシルクブルー及びイエローナチュラルサテンのネック裏は、サラサラな感触を持つ「サテン仕上げ」で、光を鈍く反射します。ボルトオン・ジョイントのギターでこのごろ特に流行している仕様で、素早いポジション移動に有利です。
SSH配列のピックアップは、
という構成です。
セイモア・ダンカン社は交換用ピックアップの第一人者で、数多くの名機/定番機で知られます。シングルコイル「SSL-1」はヴィンテージ・ストラトキャスターに搭載されていたピックアップの完全再現を果たした名機で、ブライトで力強いヴィンテージトーンを持っています。「グラッシー(ガラスのような)」と表現される甘く透き通った、澄んだ音が特徴です。センターの「SSL-1 RwRp」は、逆巻き/逆磁極のリバース仕様です。単体では通常のSSL-1と変わりませんが、ハーフトーン時にハムノイズを除去する効果が発揮されます。
リアの「TB-14」は、歴史的な名ハムバッカー「P.A.F.」の設計を出発点にしたリッチで豊かな倍音を備え、かつしっかり歪む出力を持っています。重厚な低域、程よく押さえられた中域、豊かな倍音と共にしっかり抜けてくる高域を持ち、全ジャンルに対応できる素直なサウンドです。トレモロ式ブリッジの寸法に合わせた「トレムバッカー」仕様となっているため、リア・ハムバッカーの各ポールピースが各弦の直下にキチンと並んでいます。
TONEツマミを引き上げるとリア・ハムバッカーがコイルタップされ、シングルコイルのサウンドが得られる
またこのリアピックアップは、センターとのミックス時に自動的にコイルタップされます。5WAYセレクタースイッチを1段階動かすだけで、コード演奏に特に有用なシングルコイル同士のハーフトーン、リアハムバッカーのパワフルなサウンド、この二つを切り替えられる実践的な設計です。また、トーンポットに仕込まれたスイッチにより、リア単体をコイルタップすることも可能です。
ブリッジに採用されているウィルキンソン「VS-50」は、硬化スチール製のベースプレートに高精度加工されたブロックサドルを組み合わせたトレモロユニットです。伝統的な6点留めが採用されていますが、支点の高精度加工によりスムーズかつ安定的なアーミングか可能です。比較的軽い力加減で操作できるのもウィルキンソンの特徴です。ウィルキンソン社はこの独自構造のトレモロユニットで名高く、この分野に革命を起こしました。
内部の弦の通り方が考え抜かれていることで、チューニングの安定性も確保されています。アームのトルクをネジの締め加減で調整でき、緩めれば軽く、締めれば重くできます。なお出荷時のセッティングは、通常時にユニットがボディトップに接する「ベタ付け」です。アームアップが封じられた設定ですが、ブリッジとボディとの接地面が確保されることで、弦振動の伝達効率に有利です。お好みで、フローティング設定に調整することもできます。
600シリーズは、高品位なパーツセレクトが性能面でのポイントです。しかもそのどれもが、各分野の第一人者がリリースしている製品です。新しければ良い、スペックが高ければ良い、というものではなくて、各分野の歴史を牽引してきた実績のあるトップブランドの製品を選んでいるのです。こういうセレクトにも、600シリーズに対するヤマハの気合の入り方を感じることができます。
では「600シリーズ」のラインナップを見ていきましょう。ボディ、ネック、指板材などの基本木材と構造は全て共通で、2種類のピックアップ構成(612/611)、2種類のブリッジ仕様(V/H)が性能面でのバリエーションを作っています。ここにさまざまなカラーリングを施すことで、豊かな製品群を構成しています。
「PAC612VⅡX/VⅡFMX」は定番機種「PAC612VIIFM」の基本構造やパーツ類はそのままに、晴れやかな明るいファッションにドレスアップしたモデルです。ステージに立つにしても動画や写真を撮影するにしても、しっかり存在感を発揮してくれます。ギターには音や弾きやすさだけでなく、高いファッション性も求めたい人にお勧めです。
上から順に
マットシルクブルー(MSB)
ティールグリーンメタリック(TGM)
イエローナチュラルサテン(YNS)
「VⅡX」の中で、MSB,YNSカラーは600シリーズでは初めてネック裏の仕上げにサテンタイプを採用、TGMカラーはVⅡFMと同じくグロス仕上げのモデル。銘木の模様に頼らず塗装で個性を演出しています。それぞれが異なる質感を持っていますがそれにとどまらず、ステージで浴びる光の当て方で見え方も変わります。またTGMカラーはグロス仕上げのボディにグロス仕上げのネック裏、MSB、YNSカラーなどのマットなボディのモデルにはサテン仕上げのネック裏、というルックスと感触のマッチングもポイントです。「単なる色違いでは終わらない」という塗装のこだわりに、ファッション性に注目するPAC612VⅡX/VⅡFMXの矜持を見ることができます。
MSBとYNSのボディは、光を浴びると鈍く反射します。定番機種「PAC612VIIFM」らに見られるグロス仕上げと違った雰囲気を帯びていますが、ボディのサテン仕上げ自体が600シリーズでは初採用で、パシフィカの中でも新しさを感じさせます。
PACIFICA 612VIIXを…
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従来モデル「PAC612VⅡFM」と同じくフレイムメイプルトップで、こちらは真紅のフレイムメイプルトップが印象的なモデル。フレイムメイプルは見る角度によって模様の見え方が変化する、面白い特徴を持っています。グロス仕上げのボディにはグロス仕上げのネック。クリーム色のピックガードとの組み合わせは、ポップな可愛らしさとも、上品な高級感の演出とも見ることができます。
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ギター博士「612VIIX、612VIIFMXの4機種ぢゃが、サウンドに関するパーツ類は全て同じ(従来モデル 612VIIFM とも同じ)なんぢゃよ。異なるのはルックスと仕上げで、サラサラなサテン仕上げを求めるなら 612VIIX MSB / 612VIIX YNS、グロッシーで安定感のあるグリップを求めるなら 612VIIX TGM / 612VIIFMX FRD かな。」
上から PAC612VIIFM IDB/TBL/RTB
本体の美しさと道具としての多様性が評価され、今や定番機種の地位にある「PAC612VIIFM」は、メイプルの杢を楽しむことができる高級感あるギターです。インディゴブルー(IDB)、トランスルーセントブラック(TBL)、ルートビア(RTB)という3色は、共通する黒いピックガードと相まって、落ち着いたカラーリングです。
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「611シリーズ」は、フロントにP-90タイプのピックアップを採用したモデルです。P-90タイプはシングルコイル特有の澄んだ高域に加えて豊かな中域を持つ、太く力強いサウンドを持っています。サウンドキャラクターとしては「太ったシングルコイル」もしくは「スッキリしたハムバッカー」と見るのが妥当で、クリーン、クランチ、オーバードライブあたりの設定で特に良好です。また、シングルコイルながらポールピースの高さ調節ができますから、シビアなセッティングで弾きたい人も安心です。
ここに使われているセイモア・ダンカン「SP90-1(通称Vintage)」は、1950年代に作られていたオリジナルのP-90と同じ作り方をしており、まろやかな太さと甘さの中にキレがある、バンドアンサンブルでしっかり抜けてくるサウンドを持っています。
上からPAC611VFM TBS/TBL/DRB
PAC611「V」FMは、ウィルキンソン「VS-50」トレモロユニットを搭載したモデルです。上記PAC612VIIFMとの性能面の違いはピックアップ構成のみですが、ベッコウ柄のピックガードに加え、タバコブラウンサンバースト(TBS)、ダークレッドバースト(DRB)という二つのバーストカラーが異彩を放っています。バーストカラーの採用は、600シリーズではこの611VFMのみです。
上からPAC611HFM TBL/RTB/TPP
PAC611「H」FMはトレモロを排したハードテール仕様機で、肉厚なベースプレートにグラフテック社製の「ストリングセイバー」サドルが採用されています。このサドルはテフロンの塊で出来ています。テフロンは0.04というほかの物質を圧倒的に凌駕する低い摩擦係数を持っており、氷よりもツルッツルに滑ります。これによって弦との接点に生じる摩擦は大幅に軽減し、サドル部分で弦が切れてしまう悲しい事故が未然に防がれます。「String Saver(弦の救い主)」という名前は伊達ではありません。また硬質/軽量で響きも良く、立ち上がりとサスティンに優れます。
カラーリングにはルートビア(RTB)、トランスルーセントブラック(TBL)の定番色があるほか、個性的なトランスルーセントパープル(TPP)もあります。
ギター博士「リアのハムバッカーは600シリーズ全て共通、フロントピックアップにP-90タイプが搭載されたモデルぢゃ。P-90のニュアンスが欲しいならこのモデル!その上でアームありの611VFM/アームなしのハードテイル611HFMが用意されているので、求めるプレイスタイルに応じて選んだらいいかなと思うゾ!!」
以上、ヤマハ「パシフィカ」のフラッグシップ、600シリーズに注目していきました。ヤマハは海外にも自社工場を持っており、厳しい出荷基準を設けたギター製造を続けています。もっとも低価格のモデルであってもそこを外すことはなく、どのモデルにおいても美しい仕上げ、良好な演奏性、そして正確なピッチが得られます。600シリーズは、このヤマハが作るしっかりとしたギター本体に、各界のトップブランドの部品が乗っかる、いわゆる「コンポーネントギター」の作り方で製造されます。自社工場によるクオリティコントロールと総合楽器メーカーである故の知見の蓄積による効率化が可能であるからこそ、高性能でありながら手に入れやすい価格を達成することができているのです。
また、一般的なギターより1ミリほど細いネックも、ぜひ体験してみてください。わずか1ミリとはいえ、ギター経験者ならばその違いを実感できるでしょう。「細いネックの弾き易いギターが欲しい」というお知り合いがいたら、ぜひ教えてあげてください。
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