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フェンダーの「最強最新鋭」シリーズが、「アメリカンエリート」から「アメリカンウルトラ」へ切り替わりました。このアメリカンウルトラ・シリーズで、テレキャスターは半世紀以上の歴史を受け継ぎながら、その先を見据えたサウンドと演奏性を与えられました。今回は、このアメリカンウルトラ・テレキャスターに注目していきましょう。
Tomoyasu Hotei Plays The American Ultra Telecaster | American Ultra Series | Fender
日本の「ミスター・テレキャスター」布袋寅泰(ほてい・ともやす)氏が語る、フェンダーの魅力。プレイヤーへの優しさがあり、ワイルドかつエレガントであると評する最新のテレキャスター、ぜひ触れてみてください。
ではさっそく、今回の主役、アメリカンウルトラ・テレキャスターをじろじろとチェックしてみましょう。かつてアメリカンエリートでは2モデルがリリースされたテレキャスターですが、アメリカンウルトラでは新たにジャズマスターがリリースされたこともあってか、今回はオーソドックスなスタイルのテレキャスター1モデルのみのリリースです。
モダン系最高モデルのヘッドは、「金属製のブランドロゴとモデル名のみ」というシンプルかつスッキリとした意匠をまとうのがフェンダーの伝統です。「コレは最高級グレードでーす!」なんて表示に頼らず、知っている人なら見ればわかる、奥ゆかしいデザインです。
またヘッドデザインに関しては、先々代のアメリカンデラックス、先代のアメリカンエリート、そしてこのアメリカンウルトラへと連綿と受け継がれる「モダン系最強テレキャスターの伝統」があります。ロゴおよび1弦と2弦を掴むストリングリテイナーの位置が、1950年代の形式を踏襲しているのです。特にストリングリテイナーの位置はナットへの弦角度を左右しますから、演奏性に影響があると見られます(弦角度がきついと弦張力は強くなる)。
アメリカンウルトラ・シリーズでは、フェンダーの歴史上初めてとなる大胆なヒールカットが採用されました。フェンダーがこれまで採用してきたヒールカットは、角(カド)を切るのみに留めた二次元的なものでしたが、「ウルトラ」ではこれに対して、末端に向けて徐々に薄くなる3次元的な加工が追加されています。1弦側カッタウェイの内側にも斜めのカットが入れられ、ハイポジションでの弾きやすさが大きく向上しました。
特にテクニカル志向のギターにおいてヒールカットは必須の仕様でしたが、ヒール部の厚みがサウンドに与える影響もあってか、これまでフェンダーはこの分野に消極的でした。しかし近年では「ヒールを大きくカットしたからこその音」があるという考え方が一定の支持を得ており、テクニックがどんどん進歩していく現代の音楽シーンでは無視できない仕様になっていました。
フェンダー社はジャクソンとシャーベルのブランドを持ち、開発/製造もしています。両ブランドのボルトオン機はかねてからヒールカットをがっつり施していて、弾きやすくてサウンドも剛性も失わないヒールカットのノウハウを蓄積しています。そのノウハウがフェンダーに活かされたわけです。トラッドなスタイルは「American Original Telecaster」に任せ、最強最新鋭モデルは新しい音と演奏性を求めて進化を続けています。
ネックについては、全体の厚みは抑えつつもショルダー部分に厚みを持たせた「モダンD」シェイプで、親指を出して握り込む姿勢での演奏に有利です。指板エッジが滑らかに整えられており(ロールエッジ加工)、永年弾きこんだギターのような握りやすさです。指板Rはナット部の10″から最終フレットの14″まで変化していく「コンパウンド・ラジアス」指板、ネック裏は手触りがスルッスルなウルトラサテン仕上げです。弦高を低くセッティングでき、各ポジションで理想的な弾き心地があり、かつスムーズにポジション移動ができます。右肘部分を滑らかにカットするエルボーカット、脇腹へのフィット感を向上させるコンター加工とあいまって、長く抱えていても疲れにくい、弾きやすいギターに仕上がっています。
テレキャスターの伝統にのっとり、3Wayセレクター、ボリューム、トーン、というシンプルな操作系です。しかしこのボリュームノブには「S-1」スイッチが仕込まれており、これを起動させるとミックス時にピックアップが直列つなぎになり、疑似ハムバッカーの太く力強いサウンドが得られます。長らく親しまれてきたルックスを損なわず、新しい機能が追加されているわけです。
新たに開発された「ウルトラノイズレス・ヴィンテージ・テレ(Ultra Noiseless Vintage Tele)」ピックアップが搭載されます。ドライブさせてもハムノイズに悩まされることが無くなり、それでいてクラシックなテレキャスターの持ち味であるパンチ力、「トゥワンギー」と表現される特有のギャリ感はしっかり健在です。
また、現代のギター弦における「1弦から3弦まで徐々に太く(音量がでかく)なり、4弦からまた改めて徐々に太くなる」というスタンダードに合わせ、ポールピースの高さがきちんと設定されています。ヴィンテージ・スタイルのピックアップでは「3弦が巻弦」という70年代あたりまでの常識に合わせ、3弦の細い芯線の音をしっかりキャッチできるよう3弦を狙うポールピースを高く設定していました。それゆえこれに現代の弦と張ると「3弦の音がやたらでかく、2弦の音が引っ込んでいる」となるのですが、モダン系最強最新鋭のシリーズではこれが解消されているわけです。
肉厚な重量感のある金属パーツが採用され、安定性とサスティン、チューニング精度に信頼感があります。
という完全モダンスタイルです。強固なペグは背面のネジで弦をロックする「サムホイール」タイプで、チューニングの安定度に加えて弦交換の作業が時間短縮できます。
現代テレキャスターの定番「L型ブリッジプレート」は、ピックの進行を妨げないメリットがあります。テレキャスターのサドルは、50年代の形式である「ブラス製3連」がもっとも良い音がすると考えられ、今なお根強い支持があります。しかしこの形式にはオクターブ調整が難しく、ピッチをビシっと決めにくいという弱点があります。それも含めてのテレキャスターではあるんですが、音程にシビアな現場での使いやすさを考えると、やはり6連サドルがベストであると考えられています。
本体を構成する材料にはテレキャスターの伝統に準じたものが選ばれ、ボディカラーでその内容が決定されます。
ボディカラー | ピックガード | ボディ材 | 指板材 |
アークティック・パール | 白黒白3P | アルダー | ローズ |
バタースコッチ・ブロンド | ブラック1P | アッシュ | メイプル |
コブラブルー | クリーム黒クリーム3P | アルダー | メイプル |
ウルトラバースト | ミント黒白3P | アルダー | ローズまたはメイプル |
モカバースト | ミント黒白3P | アルダー | メイプル |
プラズマレッド・バースト | パール黒白3P | アッシュ | メイプル |
テキサス・ティー | アノダイズド・アルミニウム(シルバー) | アルダー | ローズ |
表:アメリカンウルトラ・テレキャスターのボディカラーと材料構成
ボディカラーは新色ぞろいですが、もう一つ注目すべきはピックガードのバリエーションです。コブラブルーの「クリーム黒クリーム3P」、テキサス・ティーの「アノダイズド・アルミニウム(シルバー)」は、これまでになかった新しい色調です。
このアメリカンウルトラ・テレキャスターは、前身のアメリカンエリート・テレキャスターからどのような変化を遂げたのでしょうか?両者の違いを比較してみましょう。
(旧)アメリカンエリート・テレ | (新)アメリカンウルトラ・テレ | |
ボディ仕様 | アルダーもしくはアッシュ。身体にフィットする立体的なコンター加工。厚みはそのままに角を落とした二次元的なヒールカット。 | 木材、コンター加工は継承。ヒールカットは厚みも落とす三次元的な処理。1弦側カッタウェイの裏もがっつりカット。 |
指板仕様 | メイプルもしくはエボニー。9.5”~14”のコンパウンド・ラジアス。 | メイプルもしくはローズ。10”~14”のコンパウンド・ラジアス。ロールエッジ加工。 |
ネック仕様 | CからDへのコンパウンドラジアス・ネックシェイプ。トラスロッドは指板側から挿入、ネックエンド側に開口。ネックを外さずに調整できる。 | モダンDシェイプ。トラスロッドはネック裏から挿入(スカンクストライプあり)、ヘッド側に開口。 |
ヘッドロゴ | シルバー | ゴールド |
ピックアップ | 第4世代ノイズレス | ウルトラノイズレス・ヴィンテージ・テレ |
価格 | 26万円近辺 | 23万円近辺 |
表:新旧の最強最新鋭テレ相違点(2019/12時点)
ヘッドの様式、「S-1」スイッチの機能、L型ブリッジプレートと6連ブラスサドル、という仕様こそ共通ですが、抱え心地、弾き心地、サウンドという楽器の最も大切なポイントに違いがあるということがわかりますね。
「三次元的なヒールカット」はモデルチェンジなんて問題ではなく、とうとうフェンダーがここに手を出した、歴史的な大転換です。指板の「コンパウンド・ラジアス」は共通でも寸法はちょっと違い、「ウルトラ」ではわずかに平滑な、より現代的な指板になっています。
「スカンクストライプ」は、ネック裏を開口してトラスロッドを仕込み、ウォルナット材で塞いだ痕です。これはフェンダーが発明した仕様であり、フェンダーらしさの象徴です。「メイプル1Pネックにはスカンクストライプがあり、ローズ指板には無い」というのが一般的でしたが、近年のフェンダーではローズ指板モデルでもスカンクストライプが多く見られます。
価格はちょっと抑えられましたから、ちょっと手に入れやすくなりました。「アメリカンオリジナル」シリーズと近い価格設定ですから、最新式が欲しい人はアメリカンウルトラ、トラッドな雰囲気が欲しい人はアメリカンオリジナルを選択できます。
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