ギブソン・レスポール・トラディショナル徹底分析!

[記事公開日]2017/12/30 [最終更新日]2024/8/22
[編集者]神崎聡

ギブソン・レスポール・トラディショナル

2008年に生産が始まった「ギブソン・レスポール・トラディショナル」は、年々モダン/最先端路線へと傾倒していくレスポール・スタンダードと違い、「伝統的(トラディショナル)なスタイルの固持」をコンセプトに据えています。レスポールに限らず、歴史の長いギターではトラディショナルなスタイルのモデルが根強い人気を博しており、このレスポール・トラディショナルも「古き良きレスポール・スタンダードの正統継承者」として支持を集めています。今回は、誕生から10年を経たレスポール・トラディショナルに注目していきましょう。

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1: 2008年、レスポール・トラディショナル誕生 1.1: Gibson Les Paul Traditional 2018 1.1.1: 1) ボディ構造 1.1.2: 2) ネック 1.1.3: 3) パーツ/電気系 1.1.4: 4) レスポール・スタンダードとの比較 2: 年代別レスポール・トラディショナルの歩み 2.1: 2008~2012 2.1.1: ギター博士が弾いてみた!レスポール・トラディッショナル2012 2.2: 2013年モデル 2.3: 2014年モデル 2.4: 2015年モデル 2.5: 2016年モデル 2.6: 2017年モデル

2008年、レスポール・トラディショナル誕生

2008年は、レスポール・スタンダードが現代の楽器としてモダン路線へ突っ走る年でした。同社の看板商品に、新しい価値を提案し続けるギブソン社のアイデンティティを誇示する「象徴」としての役割を担わせたわけです。

  • 非対称ネックグリップ
  • チェンバード・ボディ(ボディの空洞が大きい)
  • グローヴァー製ロッキングチューナー
  • 基盤化したアッセンブリ(回路)と半透明のバックパネル
  • ノイトリック社製のロッキングジャック(シールドが簡単には抜けない)
  • トーンプロス社製ロッキングストップバー(弦交換でテールピースが外れない)

といった数々のアップデートを受けた「レスポール・スタンダード2008」は、毎年ニューモデルを発表するギブソンにあって2012年まで仕様を維持した、ギブソンの自信作でした。

事実、軽量で弾きやすく、扱いに便利な機能が多い「スタンダード2008」は完成度の高いギターでした。しかし、古き良きスタイルを愛するファンには納得のいきにくいものだったことも否定できません。そんなことからギブソン社は、2008年以前のレスポール・スタンダードの仕様を残し、古き良きレスポールを体現する「レスポール・トラディショナル」も併せてリリースすることにしました。こうして誕生したレスポール・トラディショナルは、トップのメイプルこそレスポール・スタンダードより控え目なグレードですが、昔ながらの武骨なイメージを守っていることが市場に受け入れられ、レスポール・スタンダードに負けない人気機種となって、こんにちまで生産が続けられています。

Gibson Les Paul Traditional 2018

Gibson Les Paul Traditional 2018 Gibson Les Paul Traditional 2018

ではさっそく、現在のレスポール・トラディショナルをチェックしてみましょう。レスポール・トラディショナルは「古き良きレスポールのスタイルを大切に守る」ことをコンセプトに据えていますが、決して過去の復刻版ではなくあくまでも「現代の楽器」として開発されています。なお、ヴィンテージギターを再現するモデルは、「ギブソン・カスタムショップ」からリリースされています。


Gibson Les Paul Traditional 2018 Electric Guitar
ギブソンの看板機種「レスポール・スタンダード」からは多くの派生モデルがリリースされており、レスポール・トラディショナルもそのひとつです。モデル名はヘッドに取り付けられたロッドカバーに記されていますが、それ以外ではよほど造詣の深い人でないと見分けが付きにくいでしょう。しかし演奏者にとっては、音と共に手から伝わってくる感触に重要な意味があります。余計なものが何一つない武骨なレスポールと現代的で多機能なレスポールでは、おのずと演奏内容が違ってくるものです。

1) ボディ構造

レスポール・トラディショナル最大の特徴とも言うべきポイントが、重量調整をしない「完全にソリッド」なボディ構造です。ボディ材に孔を空けないことから引き締まったサウンドになると言われていますが、それなりに重い、ということは心得ておきましょう。重量調整を排したのは、現在最も人気のある1958年から1960年までのレスポール・スタンダード(通称「バースト」)を意識しているのだと考えられています。

2018年モデルのボディ重量について、ギブソン公式サイトでは表示されていませんが、過去モデルの表示はある程度参考になるでしょう。

モデル名 ボディ重量 重量調整の名称
LP Standard 2017 T 4lbs. 6.7oz=ほぼ2kg ウルトラ・モダン
LP Traditional 2017 T 6lbs=ほぼ2.7kg 重量調整なし
LP Standard 2016 T 5lbs. 6.3oz=ほぼ2.4kg モダン
LP Traditional 2016 T 5 lbs. 14.4 oz=ほぼ2.67kg 9ホール

表:歴代レスポールのボディ平均重量(ギブソン公式サイトより)

この表からすると、レスポール・トラディショナル2017Tはレスポール・スタンダード2017Tより700グラム重いことになります(週刊少年ジャンプ(集英社)一冊がだいたい700グラムということです)。「トラディショナル2016」の「9ホール」は、9つも孔を空けておきながら「トラディショナル2017」と比べて30グラムしか違わないという数値ですが、これはギブソンの仕入れるマホガニー材自身の重量に年々ばらつきがある、という意味だと察することができます。

重量を心配する人は多いかもしれませんが、たとえば「軽い木材を使いつくしてしまい、重い木材しか使えなかった」と言われる1970年代のレスポール(軒並み総重量4Kgオーバー)でも、当時のミュージシャンは元気に演奏していましたから、慣れてしまえば大丈夫です。

2) ネック

Les Paul Traditional 2018のネック

マホガニー製のネックは「ラウンド」プロフィールを採用した、厚みのある握り心地が特徴です(2017年までは公式サイトにて仔細な寸法を明示していたギブソンですが、この年から方針を改めたようで、正確な寸法は公表されていません)。高い演奏性のためには細身のネックが必要とする考え方が主流ですが、ある程度の太さがあったほうがよい、という考えも根強く残っています。音響特性としても、ネックの木材料が多い方が芯のある弦振動が得られます。特にアコースティックギターのネックに慣れている人は、ある程度厚みのあるネックの方が馴染みやすいでしょう。ローズウッド指板はギブソンの伝統的な12インチRとなっています。

2018年モデル共通の特徴として、低温処理されたフレットを使用しています。これによって金属の強度がアップし、フレットの寿命が4倍の長さになったと言われています。ナットは「テクトイド」と名付けられた物質でできています。これはグラファイトを原料としており、頑丈で摩擦が少ないためチューニングが安定しやすく、また長期的に使用できます。

3) パーツ/電気系

レスポール・トラディショナル2018は、基本的に旧式でシンプルなパーツと回路が採用されています。ペグにはクルーソンタイプが採用されていますが、2018年版のレスポールでは採用例が少なく、レギュラー生産されている上位モデルではこのレスポール・トラディショナル2018のみ、低価格のモデルではレスポール・トリビュート2018、レスポール・フェイデッド2018、レスポール・ジュニア2018のみとなっています。軽量なクルーソンタイプは重く頑丈なロトマチックタイプに比べてサスティンこそ控え目ですが、木材の特性を活かした倍音豊かな鳴りが得られるとして根強い支持があります。

ピックアップにはギブソン定番の「バーストバッカー」が採用されています。フロントに出力の控えめな「Type1」、リアには標準的な「Type2」を配置しており、トーンコンデンサにはこのモデルでは必須と言われる「オレンジドロップ」が採用されています。配線は「ハンド・ワイアード」されていますが、これは基盤でユニット化した現代的な回路を使わず、人の手でハンダ付けする伝統的な配線法を採用しているという意味です。

ピックガードは同梱されていますが、レスポール・スタンダードなどのようにエスカッションを利用して着脱するタイプのものではなく、ボディにネジで固定する旧式のものです。これを装着しようと思ったらボディにネジ穴を空ける必要があります。

4) レスポール・スタンダードとの比較

レスポールスタンダード2018とレスポール・トラディッショナル2018 左:レスポールスタンダード2018、右:レスポール・トラディッショナル2018

レスポール・スタンダード2018と比較してみましょう。レスポール・スタンダードはギブソンの看板でありグレードも機能もレスポール・トラディショナルを上回っているイメージですが、楽器として比較した場合、好みが分かれるようなポイントがいくつかあるようです。おもな相違点を並べてみましょう。

モデル名 LPスタンダード2018 LPトラディショナル2018
価格 $3,189 $2,639
ボディ AAAメイプル+マホガニー AAメイプル+マホガニー
ネックシェイプ 非対称コンパウンド ラウンド
指板R コンパウンド 12インチ
ペグ ロトマチックタイプ クルーソンタイプ
カラー Blood Orange Burst
Cobalt Burst
Heritage Cherry Sunburst
Mojave Burst
の4色
Heritage Cherry Sunburst
Honey Burst
Tobacco Sunburst Perimeter
の3色
ブリッジ アルミ製TOM ABR
ピックガード 着脱自在式 一般的なネジ留め式
電気系 バーストバッカー・プロピックアップ、4つのコントロールノブに仕込んだスイッチを利用する特殊配線 バーストバッカーピックアップ、オレンジドロップトーンコンデンサー

表:レスポール・スタンダード2018とレスポール・トラディショナル2018の主な相違点

ボディの重量調整について、公式サイトでは明示されていません。サウンドには影響がないんだから、そんなことは気にせずメーカーを信用してくれ、と訴えているかのようです。2018年モデルから、公式サイトで明かされるデータが一気に縮小されています。

現代的なレスポール・スタンダード、伝統を守るレスポール・トラディッショナル

こうして比較してみると、現代的な弾き心地、ルックス、サウンドバリエーションを有するレスポール・スタンダード2018、古き良きスタイルを守るレスポール・トラディショナル2018という構図がより鮮明に把握できますね。

レスポール・スタンダード2018は「現代における弾きやすいギター」を研究しつくした結果できあがったものであり、サウンドバリエーションも豊富なことから、これ一本でどんなセッションにも対応できる柔軟性を兼ね備えています。対するレスポール・トラディショナルはかたくなに旧式のスタイルを守り、歴史的な名演を支えてきた武骨なギターです。これは多くのギタリストが歴史上のレスポールに思い描くイメージに近く、「レスポールって、こういうものだよね」と強く実感できるギターに仕上がっています。

たとえばストラトキャスターなどと持ち替えてレスポールを弾くという人にとっては、レスポール一本で全てができる必要はなく、守備範囲が狭くても楽器としての方向性が定まっている方が好都合です。レスポールのハムバッカーサウンドこそが好き、という人にとっても同様でしょう。また、多少ハイポジションに指が届きにくくてもネックが太くても本体が重くても、それがレスポールというものなんだ、自分は今レスポールを弾いているんだ、と感じることで、他のギターではなくレスポールだからこそのプレイが生み出されることも多いようです。


年代別レスポール・トラディショナルの歩み

ではここから、レスポール・トラディショナルの旧モデルを見ていきましょう。2013年から毎年モデルチェンジしているレスポール・トラディショナルですが、基本的にシンプルな設計で重量感があり、ネックは太めでトップのメイプルのグレードはレスポール・スタンダードに譲っている、というスタイルでだいたい一貫しています。

2008~2012

デビューから数年までのレスポール・トラディショナルは、それ以前のレスポール・スタンダードの仕様をそのまま受け継いでいます。初期のものはトップのグレードが高いという話もありますから、レスポール・スタンダードとして作られたものが2008年以降ロッドカバーだけ「Traditional」と書かれたものに交換され、新たにレスポール・トラディショナルとして出荷された、ということもあったかもしれません。現代では「9ホール」と呼ばれている重量調整がボディに施され、ピックアップにはL-5CESなど主にフルアコに使用される「57クラシック」という音の太いハムバッカーが採用されていました。

ギター博士が弾いてみた!レスポール・トラディッショナル2012


博士の演奏するレスポール・トラディショナルは2012年製で、楽器としての感触もさることながら、メイプルトップの美しさになみなみならぬこだわりを持って選び抜いた一本です。一般にハイポジションが弾きにくいと言われるレスポールですが、博士はそんなこと構わずにハイポジションでスウィープをバシバシ放っていますね。多少のことは、練習すればどうってことないのです。

使用機材

  • Gibson Les Paul Traditional 2012

    エレキギター

    Gibson Les Paul Traditional 2012

  • Ditto LooperMad Professor Golden CelloLandgraff Distortion BoxTC Electronic Flashback Mini DelayKEELEY Compressor C4 Z VEX Box of Rock MORLEY Maverick

    エフェクター

    上から:TC Electronic Ditto Looper, Mad Professor Golden Cello , Landgraff Distortion Box , TC Electronic Flashback Mini Delay , KEELEY Compressor C4 , Z VEX Box of Rock , MORLEY Maverick

  • BlackStar HT-5R

    アンプ

    BlackStar HT-5R

サウンド解説

0:32〜:歪みに Landgraff Distortion Box、1:04からはディレイ TC Electronic Flashback Mini Delay をオンにしています

1:29〜:コンプレッサー KEELEY Compressor C4 、ディレイ TC Electronic Flashback Mini Delay を使用。アンプのリバーブを使っています。

2:50〜:ディストーション/ディレイ Mad Professor Golden Cello を使用。

4:06〜:バッキングをルーパー TC Electronic Ditto Looper を使って作成、ワウ MORLEY Maverick も使っています。ギターソロの歪みは Z.VEX Box of Rock、ディレイ Flashback Mini Delay を使用。

  • Gibson Les Paul Traditional 2012
  • ボディ:メイプルトップ/マホガニーバック
  • ネック:マホガニー
  • 指板:ローズウッド
  • フレット数:22
  • ピックアップ:’57 Classic , ’57 Classic+
  • ピクアップスイッチ:3way トグルスイッチ
  • コントロール:2ボリューム、2トーン
  • ケース:ハードケース
clear

六弦かなで「迫力のある太い音!これぞロック!って感じのギターだね、博士♪♪」

Gibson Les Paul Traditional 2012

サムネイルをクリックして拡大
  • Gibson Les Paul Traditional 2012:全体
  • Gibson Les Paul Traditional 2012:ボディ
  • Gibson Les Paul Traditional 2012:ボディその2
  • Gibson Les Paul Traditional 2012 のヘッド部分
  • Gibson Les Paul Traditional 2012:ペグ
  • Gibson Les Paul Traditional 2012 のピックアップ
  • Gibson Les Paul Traditional 2012 のネック
  • Gibson Les Paul Traditional 2012 のブリッジ
  • Gibson Les Paul Traditional 2012:コントロール・ノブ
ギター博士

ギター博士から一言

実はギブソンのレスポールを弾くのはかなりご無沙汰で、久しぶりに弾いてみたんじゃが、その進化に驚いたゾ。

まずはウェイト、というか持ったときのバランスがとてもいい。またチューニングがとても安定しているのも特徴じゃ。これはプレック(Plek)マシーンという最新機器の恩恵じゃろう。

音はクリアで太い。王道のドライブサウンドから太いクリーントーンまで出せる、堂々たる風格のギターぢゃ!!

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