Fender American Vintage II Stratrocaster徹底分析

[記事公開日]2016/5/1 [最終更新日]2024/8/24
[編集者]神崎聡

Fender American Vintage Stratrocaster

「フェンダー・アメリカン・ヴィンテージ・ストラトキャスター(以下、ヴィンスト)」は、ヴィンテージ市場で人気のある年代のモデルを復刻した、フェンダー・レギュラーライン(USA)におけるトップグレードのギターです。上位ブランドのフェンダー・カスタムショップと比べても遜色のない「ヴィンテージへのこだわり」と「高いクオリティ」が共存した現在の楽器として支持を集めています。

高額なため「憧れのギター」にカウントされることも多いモデルですが、今回はこのヴィンストに注目していきましょう

※2018年に登場したAmerican Original Stratocasterを受けて、American Vintage Stratrocasterは生産完了となっています。
《新発想のヴィンテージ・スタイル》Fender American Original Stratocaster


Ana Popovic – Can You See Me [OFFICIAL MUSIC VIDEO]
セルビア(旧ユーゴスラビア)出身のAna Popovic(アナ・ポポビッチ)氏は、セクシーなルックスとパワフルなプレイにより知る人ぞ知るブルース系ギタリストです。ジミ・ヘンドリックス氏、スティーヴィー・レイ・ヴォーン氏らを代表とするブルースロックをベースに、ファンク要素も取り入れた幅広い楽曲は、伝統的なブルースというジャンルでありながら新しさを感じさせます。こうした演奏スタイルには、やはりヴィンテージスタイルのギターがしっくりきますね。

アメリカン・ヴィンテージ・ストラトキャスターとは

ヴィンストがデビューした1982年には、「フェンダー・ジャパン株式会社(1982〜1997年)」が設立されまそた。「ヴィンテージシリーズ」の名で各年代の特徴をとらえた公式のコピーモデルが次々と生産されていきますが、アメリカン・ヴィンテージはその最上位にあるモデルとして誕生しました。

その後1985年には「フェンダー・カスタムショップ」が設立、ヴィンテージギターを極限まで再現することを目指す上位グレードが誕生しましたが、アメリカン・ヴィンテージはそのまま存続、以来30年以上にわたって多くのプレイヤーに愛用され、「ヴィンスト」の愛称で親しまれています。

American Vintage の大まかな特徴

ヴィンストは、「完全かつ包括的に」、しかも「新品の状態で」ヴィンテージギターを復刻することをコンセプトに据えています。実際のヴィンテージギターを分析することで、ギター本体の寸法や形状を再現し、またサウンドを再現するためにピックアップを新たに開発しています。では、ヴィンストに共通してみられる大まかな特徴をみてみましょう。


Fender American Vintage 1965 Stratocaster Demo

時代への深いこだわり

ヴィンストは、パーツそれぞれ、スイッチノブ、ネジの一本に至るまで、各時代の仕様を追求してそれぞれ専用に再開発するこだわりを見せています。「FENDER PATTENTED」と記されたブリッジサドル、時代ごとにパテントの表記を変えているヘッドのロゴ、ややエッジの効いたチューニングキー、ジャックプレートを留めるネジをピックガードのネジより若干太くするなど、マニアも納得の深いこだわりを堪能できます。

レギュラーライン最高グレード

American Vintage 56 Stratocaster:ヘッド American Vintage ’56 Stratocasterのヘッド部分

アメリカンヴィンテージシリーズは、現代版ストラトのトップグレード「American Elite Stratocaster」を一歩上回る、フェンダーレギュラーラインのトップグレードという扱いになっています。そのためフェンダーのギターの中で唯一牛骨ナットが採用され(他のモデルは合成された骨)、ブリッジとトレモロスプリングをつなぐトレモロブロックにカスタムショップ製のものを使用するなど、パーツのグレードも追求しています。

ウッドマテリアル

本体に使用される木材のグレードは高く、ネック材とボディ材との相性まで考慮されていると言われています。軽量な木材が選ばれているようで、指板まで鳴るほどに鳴りが良く、生の音だけでなくアンプからの出音も美しく響きます。
もともとストラトキャスターは合理的な工程による大量生産を目的として設計されていましたが、現在ヴィンテージギターとして扱われている音の良い個体には、このようなボディとネックが巧く響き合っているものが多いそうです。

ネックグリップとボディシェイプ

American Vintage 65 Stratocaster:バック American Vintage ’65 Stratocasterのボディ裏側

年代の特徴が最もよく現れるネックグリップは、VやD、Cシェイプといった各年代の特徴をしっかり再現しています。ヴィンテージスタイルのギターは、総じて現代版のギターよりグリップが太めになります。それでもヴィンテージギターにはそれによる違和感やストレスを感じさせない謎のフィット感があり、ヴィンテージファンの心をとらえるポイントになっています。ヴィンストはこの絶妙な太さを追求しており、太めでありながら握りやすいネックグリップにたどり着いています。

またボディシェイプにおいても、ボディ外周部の「面取り」が現代ほど丸くないエッジの立った感じや、50年代は深く、60年代に若干浅くなるコンター加工やエルボーカットの深さまで追求しています。

極薄のラッカー塗装

American Vintage 56 Stratocaster:ラッカー塗装 AMERICAN VINTAGE ’56 STRATOCASTER:透き通った柔肌のようなボディ

ヴィンストではネック、ボディ共に下地までラッカーを使用することで実現した極薄のラッカー塗装が施されますが、ヴィンテージ感を出すべくネック材を染めたり、また使い込んだ感じを出したりすることなく、色合いの美しい新品の状態で出荷されます。ラッカーは木製楽器の音響特性には最良の塗装と言われていますが、使い込んでいくうちに割れたりはがれてしまったりするのが難点でもあります。そこを逆手にとり、長年の愛用で少しずつルックスが変化していくのもヴィンストの楽しみ方になっています。

年代ごとの特徴を追求したピックアップ

かつてのヴィンストはピックアップの個性からヴィンテージトーンを再現しようとしており、それが高じて「わざとらしい」と感じられてしまうこともありました。現在のヴィンストでは実際のヴィンテージピックアップを解析し、各年代専用のピックアップを開発していますが、どれも比較的素直なフェンダーらしいサウンドキャラクターになり、年代ごとの違いを感じやすくなっています。

50年代の黒い台紙を使用した「ブラックボビン(中低域が豊か)」、60年代から灰色の台紙を使用した「グレーボビン(低域から高域まで均一)」もしっかり再現していますが、こうしたところから生まれる音の違いも分かりやすくなっています。

「ヴィンテージサウンド」ってどんなもの?


Eric Johnson Tests Out the American Vintage ’56 Strat
自身の50年代のストラトを鳴らしてからの、’56ヴィンストのデモ演奏。これほど贅沢なデモ演にはなかなかお目にかかれません。エリック・ジョンソン氏はしきりに「アメイジング(驚くべき)」という言葉を使っていますが、新品のヴィンストが半世紀前に作られたヴィンテージとなかなかいい勝負をしているのは、まさにアメイジングですね。

50年代ストラトのサウンド

59年にはじめてローズ指板のモデルが登場しますが、それ以前のストラトキャスターは

  • 1ピース・メイプルネック
  • ブラックボビン・ピックアップ

という仕様で生産されています。50年代のストラトは「枯れた音」と良く表現されますが、そこまで言うほど枯れていない、

  • ネック構造に由来する立ち上がりとアタック感
  • ブラックボビンに由来する、豊かな中低域

というサウンドを持っています。

56年前半まではアッシュボディ、それ以降はアルダーボディへとボディ材は変更されました。立ち上がりのアッシュ、粘りのアルダーと良く言われますが、この時代のストラトキャスターはボディ材の違いよりも1本ごとの個体差が大きく、ボディ材の違いを感じるのはかなり難しいと言われます。

50年代ストラトが聴ける名盤

このストラトのトーンが聴ける名盤としては、エリック・クラプトン氏が渡米して初めて組んだバンド「デレク・アンド・ザ・ドミノス(Derek and the Dominos)」の「イン・コンサート(1973年)」がお勧めです。

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60年代ストラトのサウンド

それまでカントリー/ウェスタン向きの伴奏楽器としてとらえられてきたストラトキャスターですが、60年代中ごろにロックンロールが誕生し、その主役であるエレキギターによる「リードプレイ(ギターソロ)」が一般化します。このムーブメントを受けて64年に開発された「グレーボビン」ピックアップは、出力を保ちつつ低域から高域までしっかりと表現できるレンジの広さを持っていました。クリーンでもドライブでも、パワー感とレンジの広さを感じられる「骨太なロックサウンド」が得られ、ブルースやクラシック・ロックにベストマッチします。

60年代ストラトが聴ける名盤

このストラトのトーンが聴ける名盤としては、近年初公開された、ジミ・ヘンドリックス氏の「マイアミ・ポップ・フェスティヴァル」がお勧めです。

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アメリカン・ヴィンテージ・ストラトキャスターのラインナップ

60年以上に及ぶストラトキャスターの歴史の中から、ヴィンストでは1956年、1959年、そして1965年のモデルがピックアップされています。これはフェンダー・カスタムショップの「タイムマシーン」シリーズでピックアップされている1957年、1963年、1970年を絶妙に外しており、それぞれキャラクターの立ったラインナップになっています。

AMERICAN VINTAGE ’56 STRATOCASTER

american-vintage-strato56

ヴィンストの56年モデルは、丸型だったストリングガイドは羽型に変更、アッシュだったボディ材がブロンド(白)カラー以外はアルダーになった1956年のストラトキャスターの仕様を再現しています。1957年に正式に「Vシェイプ」へと仕様変更されたネックシェイプは、その過渡期をあらわす厚みのあるソフトなVシェイプになっており、またボディを身体にフィットさせるコンター加工、エルボーカットは深く、この時代の特徴となっています。

一枚板の白いピックガードは6弦側3本、1弦側5本のネジで固定され、シンプルなすっきりとした印象です。内部のボビン上下に黒のファイバー紙を使用した通称「ブラック・ボビン」ピックアップは中低域に主張のある特有のトーンです。

エリック・クラプトン氏の「ブラッキー」で名高いブラック、渋い2カラーサンバースト、やわらかな印象のシェルピンクがアルダーボディ、透けて見える木目が美しいエイジドホワイトがアッシュボディです。

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AMERICAN VINTAGE ’59 STRATOCASTER

american-vintage-strato59

ヴィンストの59年モデルは、いわゆる50年代型と60年代型の過渡期にあるギターで、

  • 1ピース・メイプルネック、単層ピックガードは8本のネジで固定、サンバーストのみ
  • ローズ指板(スラブ貼り)、10本のネジで固定される3層のピックガード、カラーは4色

の2機種がリリースされています。「Dシェイプ」となったネックグリップは細めで握りやすく、手の大きさに自信がないという人にやさしくフィットします。

カラーには、定番の3カラーサンバーストとブラックに加え、

  • シャーウッド・グリーンメタリック
  • フェイデッド・シニックブルー

があります。


Fender American Vintage 1959 Stratocaster Demo

この時代から採用されたローズ指板ですが、「スラブボード(スラブ貼り)」と呼ばれる工法で、ネックと指板がフラットな面で接着されます。このスラブボードは1962年までの時代を象徴する仕様で、生産時期の短さからヴィンテージファンにとって人気の設計です。

開発者レオ・フェンダー氏はローズ指板を開発する際、最初は指板のRに沿った曲面で接着する「ラウンドボード(ラウンド貼り)」を提唱しました。しかしぴったり接する曲面を成形することの大変さが現場に嫌がられ、やむなくこのスタイルが採用されたのだと伝えられています。とはいえスラブボードの場合、内部に仕込むトラスロッドが指板に当たるため、ロッドを仕込むためにネック側も指板側も加工しなければならず、それほど生産性のメリットはなかったようです。

後述する’65のヴィンストでは、ラウンドボードが採用されています。指板Rに合わせた接着面の加工は高い精度が求められて大変な作業ですが、熱膨張率が異なる木材同士を張り合わせたときの変形を抑える効果があると言われています。

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AMERICAN VINTAGE ’65 STRATOCASTER

american-vintage-strato65

ヴィンストの65年モデルは、厚みのあるグリップに回帰した「Cシェイプ」のネック、太い金文字に黒い縁取りを持つ「トランジション・ロゴ」、6弦側4本、1弦側7本のネジで留められる3層のピックガードを大きな特徴としています。

この他、ピックガードのエッジ処理を時代に合わせ、3層の断面が良く見えるようになっている、ストリングガイドのスペーサーをナイロンに変更している、ボディのコンター加工をエルボーカットを浅くする、弦間を若干狭めることで、1弦が指板から外れてしまう「弦落ち」を防ぐなど、当時の仕様を深く追求しています。


Aerosmith’s Brad Whitford on his American Vintage ’65 Strat

グレーボビン・ピックアップ

ピックアップは台紙をグレーにした「グレーボビン」となっていますが、本機が再現している65年はブラックからグレーに切り替わる過渡期であり、裏側のみグレー、表側はブラックのまま、というマニアックな仕様になっています。グレーボビンは低域から高域までまんべんなく響くレンジの広さがあり、そのためエフェクターの乗りがよくジャンルを選ばない柔軟性があり、弾いてもバラしても深く楽しめる楽器になっています。

カラーリングもこの時代の特徴をよく反映しており、3カラーサンバーストは’59よりも赤みを増した主張のあるものに、またオリンピックホワイトはうっすらとした青みがかかっています。ショーライン(砂浜)ゴールドは、日の光を受けて輝く砂浜のをイメージした落ち着いたメタリックで、マッチングヘッド仕様になっています。

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付属するアクセサリー

アメリカン・ビンテージ・シリーズのハードケース含めた付属品

ヴィンストには、

  • 各モデル専用のストラップ、10フィートのシールド
  • クリーニング・クロス、サドル調節用レンチ
  • 年代解説書と説明書
  • ブリッジカバー、3WAYセレクタスイッチ

が付属します。このうちブリッジカバーと3WAYセレクタスイッチは、もともとこれらの時代のストラトキャスターに備わっていたものです。しかし現代的なプレイにはフィットしないため、「おまけ」という扱いになっています。

American Vintageそれぞれの比較検証

以上、3機のヴィンストをチェックしていきましたが、ここまでのまとめとして、それぞれを比較して共通点や相違点をチェックしてみましょう。

ネック周り

共通点

  • ナット幅1.650インチ(42 mm)、指板R7.25インチ(184.1 mm)、弦長25.5″インチ(648 mm)、21フレット仕様といったおおまかな寸法。
  • 現代の標準から見ると細めで低めのヴィンテージスタイルのフレットを使用。フレット数は21。
  • 下地からラッカーを使用した、極薄の「フェンダー・フラッシュコート・ラッカー」塗装。

相違点

ネックグリップと指板の仕様が主な違いになっています。

American Vintage ’56 American Vintage ’59 American Vintage ’65
グリップ 厚みのある「Vシェイプ」。親指を出して演奏するのに有利。 厚みがあり「カマボコ」とも呼ばれる「Dシェイプ」。ボディと同様のラッカー塗装。 60年代中盤のグリップを再現した「Cシェイプ」。’59のDシェイプよりやや肉厚。弦間を若干狭めているため1弦側に余裕がある。
指板 1ピース・メイプルネック。ネック材と指板材が一体化している。 ローズ指板は「スラブ貼り」される。メイプル指板は1ピースネック。 ローズ指板が「ラウンド貼り」される。
調整法 トラスロッドがネックのボディ側にあるため、調整のときにはネックを外す。 ’59同様、トラスロッドがネックのボディ側にある。 トラスロッドはジョイント部に開口しているが、ネックを外さずに調整できるよう、ピックガードに切り込みが入れられている。
ロッドの挿入法 ネック裏から挿入するため、グリップ中央に「スカンクストライプ」が入る。 メイプル指板はネック裏から、ローズ指板は指板側から挿入。 指板側から挿入し、指板で溝を塞ぐ。

ネックの材質・形状について

金属パーツ

主な金属パーツについては、

  • カスタムショップ製のトレモロブロックを採用した、ヴィンテージスタイルのシンクロナイズド・トレモロユニット
  • 「FENDER PATTENTED」と刻まれた、ヴィンテージスタイルのサドル
  • チューニングキーのサイズや裏面の意匠など、当時の仕様を再現したクルーソンペグ
  • パーツを固定するネジのサイズまで、オリジナルのヴィンテージを再現

といった仕様が全て共通しています。

電気系

電気系は、ヴィンストでも唯一現代的な仕様に変更されているところです。

ブラックボビン
American Vintage ’56 Single-Coil Strat
American Vintage ’59 Single-Coil Strat

グレーボビン
American Vintage ’65 Gray-Bottom Single-Coil Strat

というオリジナルを分析して開発したピックアップがそれぞれに対して使用、またノイズ処理やコンデンサも各年代にあわせて設計されていますが、

1ヴォリューム、フロントトーン、センター+リアトーンというコントロールポット
ハーフトーンを出すことができる5WAYセレクタスイッチ

という操作系はAmerican Standard Stratocasterなど現代版のストラトを踏襲しています。本来の3WAYスイッチも同梱されているので、比較的簡単な配線変更で、

1ヴォリューム、フロントトーン、センタートーン(リアトーンなし)
ハーフトーンを想定していない3WAYセレクタスイッチ

という当時の仕様に戻すこともできます。

若かりしころのジミ・ヘンドリックス氏やエリック・クラプトン氏は、3WAYセレクタを「途中で留める」ことでハーフトーンを作っていました。現在ふつうに扱われる5WAYセレクタはハーフトーンを簡単に手に入れることができますが、ギターレジェンドたちと同じフィーリングでプレイしたいという人にとって、ハーフトーンを「裏ワザ」として使用する3WAYセレクタは是非体験して欲しいお勧めのアイテムです。

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