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「ホワイトファルコン」を代表とするグレッチのファルコン・シリーズは、
を特徴とする同社のフラッグシップモデルです。特にホワイトファルコンは1954年の登場以来「世界一美しいギター」の名を欲しいままにする、アピール度の非常に高いギターです。時代ごとにさまざまな仕様が採用されてきたホワイトファルコンですが、今ではアーティストモデルを中心にさまざまなカラーリングが採り入れられ、私たちの目を楽しませてくれます。今回は、そんなファルコン・シリーズをチェックしてみましょう。
Gretsch G6136-55 Vintage Select Edition ’55 Falcon Hollow Body with Cadillac Tailpiece
ずっと眺めていたくなる、美しいギターですね。この動画からでも、ホワイトファルコンがいかにでっかいギターかがじゅうぶん分かることでしょう。このでかさだからこそ、このハリツヤのある美しい音になるのです。
ホワイトファルコンが発表されたのは1954年7月のNAMMショウで、「ショーモデル」としての出展であり製品化する予定はありませんでした。当時のグレッチはギターに限らずさまざまな楽器を作っていましたが、バンジョーのヘッドや指板を彩るインレイを採り入れ、さらにはドラムのシェルを覆うゴールドの樹脂版をバインディングに使用する、というアイディアを得て、前代未聞の世にも美しいギターが誕生しました。
当時の最高級ギターといえばギブソンの「Super 400」で、これに対抗できる大型の、そしてゴージャスなギターを開発しようとしたのです。ホワイトファルコンの反響は大変多きく、翌1955年にはニューモデル「6136」として発売します。時代と共にホワイトファルコンはマイナーチェンジを繰り返します。
目立つものとしてはこの3つですが、内部構造や製法、その他のパーツなど、細かなところでも試行錯誤が繰り返されます。
70年代と80年代は、グレッチにとってはまさに踏んだり蹴ったりでした。時代を牽引するギターヒーローがフェンダーやギブソンばかり弾くために売り上げが低迷し、さらに工場で壊滅的な火災が生じ、いったん生産が中断されてしまいます。
1989年に復活したグレッチは、往年の名機を再現するだけでなく新しい要素も取り入れていきます。1990年代初頭には白黒反転させた「ブラックファルコン」が登場、そのほかアーティストとのコラボを通し、「ホワイト一択」だったファルコンにも多様性が生まれてきました。現代では、ルックス的にも機能的にもさまざまなファルコンが作られています。
ではここから、新旧2機のファルコンを見比べながら、グレッチのファルコンとはどういうものなのかをチェックしていきましょう。
比べるのは、以下の2モデルです。
Gretsch G6136T-59 Vintage Select Edition ’59 Falcon Hollow Body with Bigsby®
グレッチのギターには、革ジャンが良く似合います。グレッチ愛好家の中には「夏でも革ジャンを欠かさない」という猛者がいたそうです。
Gretsch 2016 Players Edition G6136T Black Falcon Demo
バッキングリフをひたすら弾くだけで、ここまで意味もなくかっこいい。「憧れのギター」ここに極まれり。
「ヴィンテージセレクト・エディション」は、時代の特徴を可能な限り再現したヴィンテージモデルで、外観から内部構造まで追求した「再現へのこだわり」を見ることができます。対する「プレイヤーズ・エディション」はグレッチ・ギターの現代の姿、すなわち「最終進化形」を提案するモデルで、伝統を尊重しながらも演奏性や利便性に配慮した新しい構造が採用されています。
「ブラックファルコンはホワイトファルコンの色違い」という扱いで、同じプレイヤーズ・エディションのホワイトファルコンとは、ボディカラー以外のすべての仕様が共通です。かつてはブラックファルコンのゴールドパーツを全てシルバーに替えた「シルバーファルコン」も作られました。
「世界一美しいギター」にとって、ルックスこそ最大のポイントと言って良いでしょう。古き良きアメリカの高級車「キャディラック」から着想したというその姿は、美しさに力強さが加わった、ロックンロールの象徴というべきものです。
G6136T-BLK Players Edition Falcon:ヘッド部分
先が二股に分かれた「Vシェイプ・ヘッドストック」は、グレッチ最上位モデルの「ファルコン」と「ペンギン」にのみ許される特別な形状です。
ブランドロゴの配置には違いが見受けられます。2016ブラックファルコンに見られる縦書きヘッドロゴは、特別に「バーティカル・ロゴ」と呼ばれます。「ロッドカバーまでギラギラしている」というのもファルコンならではの意匠です。
肉厚なアクリルに、金文字で「GRETSCH」のロゴとファルコン(ハヤブサ)のイラスト。これは両機とも共通したデザインになっており、やはりコレを見ただけで「このギターはファルコンだ」ということが分かります。
何枚も重ねる「多層バインディング」の一番外側が、ラメ(スパークル)の入ったゴールドです。ラメが入ったラメラメのバインディングを採用してしまうのが、いかにもアメリカ人の発想ですね。写真ではオレンジ色に見えてしまうことも多いんですが、実物は金ピカです。
金属パーツはネジの一本にいたるまで、全てゴールドで統一されています。ペグはツマミが段々になっている「インペリアル・ペグ」が標準です。’59ホワイトファルコンではクルーソンタイプですが、ブラックファルコンではロトマチックタイプのロック式ペグになっています。
コントロール・ノブは「ジュエルド”G”アロー」が標準で、グレッチの「G」と矢印(アロー)を合わせたデザインに、宝石(ジュエル)を模した赤いワンポイントが入っています。滑り止めのギザギザまで加えられており、道具としても頼りになります。
ルックスを一番にしてしまっていますが、ファルコンはやはり楽器本体でもグレッチの最高グレードにふさわしい仕様になっています。
G6136T-59 Vintage Select Edition ’59 Falcon
ファルコンの楽器本体は、
が基本です。竿が長くてボディはでかくて硬い、弦も太い、だからこそ得られるハリツヤのある音が、ファルコンのサウンドです。最初期のホワイトファルコンでは、トップにスプルースが採用されていました(Vintage Select Edition ’55 Falcon)。
ボディ厚については現代向けに変更が加えられ、
2.75インチを標準としつつも、プレイヤーズ・エディション・シリーズや一部の限定生産モデルでは、演奏性を向上させるべくやや薄型のボディが採用されています。
’59ホワイトファルコンはヴィンテージモデルなだけに「ニトロセルロース・ラッカー」が使用されますが、それ以外ごく一部のこだわりのモデル以外は「ウレタン塗装」となっています。ラッカーの質感には根強い人気がありますが、キズが付きやすいので大事に扱う必要があります。ウレタン塗装は強固でキズが付きにくく、変質もしにくいので道具としての扱いやすさにメリットがあります。
ボディ内には、ボディの補強と振動伝達という二つの仕事をする「ブレーシング」という柱が貼りつけられます。’59ホワイトファルコンには「1959年式トレッスル・ブレーシング」が採用され、その他のモデルでも標準的に採り入れられています。
「プレイヤーズ・エディション」ではこの「1959年式」を進化させた「MLブレーシング」が採り入れられ、トップの振動がもっと活かされます。
ピックアップについては、
というように区別されます。TV Classicはヴィンテージ・フィルタートロンの再現を追求するハイエンドモデル、現行のフィルタートロンはその現代版で、正確には「ハイセンシティヴ(敏感)・フィルタートロン」と呼ばれます。
操作系にも違いが出ており、トーン回路の設計により
と分けられます(「サーキット」は「回路」の意味)。
「トーンスイッチ・サーキット」は、3WAYスイッチにより
に切り替えられます。
「トーンポット・サーキット」は、マスタートーンのつまみによって高域を絞っていく、一般的なエレキギターで採用されているものと同様の回路です。現在生産されているファルコン・シリーズには、トーンスイッチ・サーキットもしくはトーンポット・サーキットのいずれかが採用されます。
ただし、こうした電機系/操作系はG6120ナッシュビルやG6129シルバージェット、などなどグレッチの多くのギターで採用されているものであり、ファルコンだからこその回路が特別にあるわけではありません。グレッチのギターはギター本体とその意匠によって、各モデルのキャラクターを設定しているわけです。
Ken Yokoyama -Come On,Let’s Do The Pogo(OFFICIAL VIDEO)
カントリーやロックンロールでなく、ハードコアというジャンルのアーティストがでグレッチをトレードマークとするのは、革命的ともいえる出来事でした。グレッチにはオールジャンル対応できるイメージが希薄ですが、だからこそこのような可能性がまだまだあったわけです。
では、ファルコン・シリーズのラインナップをチェックしていきましょう。新旧のスタイルやアーティストモデルなど、さまざまなファルコンがリリースされています。滅多にお目にかかることのできないUSAカスタムショップ製のファルコンは100万円オーバーの超高級品ですが、一般に流通しているファルコンのお値段は総じて50万円近辺から60万円未満といったところに収まっており、グレードに幅が設けられているわけではありません。どのファルコンもグレッチ最高グレードのギターであって、コンセプトにより設計が分けられ、結果として価格差が出ているようです。
伝統を尊重しつつ、現代の音楽に求められる仕様を盛り込んだ最終進化形「プレイヤーズ・エディション」からは、ホワイトファルコンと同じ仕様のブラックファルコンがリリースされています。ホワイトファルコンに左用があるのに対し、こちらは右用のみです。
こちらはさきほど「’59ホワイトファルコン」と比較したモデルですが、ちょっと薄くして弾きやすくしたボディ厚に加え、
によって弦交換の手間を軽減したうえ、チューニングの安定度を向上させ、
によって電気的に抜けの良さを向上させています。
G6136T-BLKを…
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G6136T-AZM-LTD17
G6136T-DCHFL-LTD16
カスタムカラーを採用した限定モデルも順次リリースされています。これらは通し番号で管理されており、現在では15、16、17番目が流通しています。ベースとなっているホワイトファルコンに様々な姿があることを踏まえ、カラーだけでなくいろいろなところにちょっとした違いが設けられています。
AZM-LTD17 | DCHFL-LTD16 | LTD15 | |
カラーリング | アズール・メタリック | ディープチェリー・サテン | ローズ・メタリック |
ヘッド意匠 | バーティカル・ロゴ | 横書きロゴ+メタルプレート | バーティカル・ロゴ |
バインディング | ゴールド・スパークル | ゴールド・スパークル | シルバー・スパークル |
ピックアップ | TVジョーンズ社製「TV Classic」 | TVジョーンズ社製「TV Classic」 | フィルタートロン |
トーン回路 | トーンポット | トーンスイッチ | トーンスイッチ |
その他特徴 | 弦交換が容易な「ストリングスルー・ビグスビー」、トーン全開でバイパスになる「ノーロード・ポット」 | フレイムメイプルトップ/サイド/バック | ビグスビーと相性の良い「ロッキング・バー・ブリッジ」 |
表:限定ファルコンの仕様比較
なお、ボディ厚、弦長、指板Rなどの寸法はすべて、標準的なファルコンに準じています。
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「ビリー・ダフィー・ファルコン」は、英国のロック・レジェンドと呼び声高い「THE CULT(ザ・カルト)」所属、ビリー・ダフィー氏のシグネイチャーモデルで、随所にこだわったカスタマイズが施されています。
ここまでやり込んでいるため、ヘッド形状を見なかったらファルコンをベースとしているとは思えないくらいです。
The Cult – Honey From A Knife
ギター担当のビリー・ダフィー氏は、メンバーチェンジの激しい「ザ・カルト」において、ボーカリストのイアン・アストベリー氏とともに1983年の結成時から活動を続けています。骨太のロックンロールサウンドには、グレッチが良く似合います。
G7593Tを…
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世界でもっともグレッチの似合う男、ブライアン・セッツアー氏のシグネイチャーモデルは、ブラックカラーにシルバー・スパークルのバインディングがまぶしい「ブラック・フェニックス」と命名されています。各種の意匠に加えてFホールが大きめに空けられており、ステージで独特の存在感を放ちます。楽器的にはファルコン属ですが、ピックガードのイラストがファルコンからフェニックスに変更されているので、厳密にはファルコン・シリーズではないかもしれません。
という仕様は古風な様式を感じさせますが、
という設計は、セッツアー氏がステージでガンガン演奏するためのこだわりの仕様です。
結成以来いちども人事異動がなく、またロックバンド史上最多となる22回のグラミー受賞記録を持つことから「奇跡のバンド」と称されるロックバンド「U2」所属、ボノ氏のシグネイチャーモデルは、鮮やかなカラーリング「ソウル・グリーン」に彩られ「アイリッシュ・ファルコン」と名付けられています。「The Goal Is Soul」と記されたピックガードデザインが象徴的ですが、
といった仕様はデビュー当時のホワイトファルコンを踏まえた、ヴィンテージライクな設計です。
「ケニーファルコン」と名付けられた横山健氏シグネイチャーモデルは、1959年式ホワイトファルコンの仕様の多くを受け継ぎながら、
により、横山氏のステージをしっかりサポートする頼れるギターに仕上がっています。またボディカラーにあわせた特別仕様のハードケースも付属します「Anti-Dull」回路は、ボリュームを絞っても高域のブライト感を維持させる機能があります。なお、こちらは左用もリリースされています。
G6136TTV-FSR
G6136T-KFJR FSR
「ファルコンJr.」はファルコンのルックスを受け継ぎながら、寸法をやや小さめにしたモデルです。普通のファルコンがでかすぎて弾きにくい、という人にぴったりです。
ホワイトファルコン | ファルコンJr. | ナッシュビル | |
弦長 | 25.5インチ | 24.6インチ | 24.6インチ |
ボディ幅 | 17インチ | 15.75インチ | 16インチ |
ボディ厚 | 2.75インチ | 2.5インチ | 2.75インチ |
表:ファルコン、ファルコンJr.、ナッシュビルの寸法比較(数値は伝統的な標準値)
「ちょっと小さくなったからといって、やっぱりでっかいんじゃないの?」という疑問にお答えすべく、ナッシュビルとも比較しています。ファルコンJr.はナッシュビルよりも、もう一息小さめであることが分かりますね。
ファルコンJr.をベースとした横山健氏モデル「ケニーファルコンJr.」もリリースされています。両機とも
という仕様は共通です。現行のファルコンが月型の「サムネイル・インレイ」を標準にしているのに対し、ファルコンJr.は「ハンプブロック・インレイ」が標準です。ケニー・ファルコンJr.は「Anti-Dull回路(先述)」を搭載、カラーを合わせた専用のハードケース付属、ご本人愛用のアーニーボール弦を張って出荷されます。
以上、グレッチが誇る最高グレード、ファルコン・シリーズに注目していきました。レスポールやストラトキャスターなど有名なギターは廉価版やコピーモデルが一般化しています。高級ブランドPRSでも、比較的手に入れやすい価格帯の「SEシリーズ」が人気を博しています。
そんな中で、ホワイトファルコンを筆頭とするファルコン・シリーズはかたくなに廉価版を出さず、最高グレードの証である「Vシェイプ・ヘッド形状」は下位ブランド「エレクトロマチック」シリーズにも譲っていません。グレッチのファルコンこそ、同じ形のものを安く手に入れることができない、最後に残った「憧れのギター」なのです。
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