Gretsch「Falcon(ファルコン)」シリーズのギター

[記事公開日]2018/7/26 [最終更新日]2022/4/5
[編集者]神崎聡

Gretsch Falcon

「ホワイトファルコン」を代表とするグレッチのファルコン・シリーズは、

  • ボディ幅17インチ、弦長5インチの、大型のギター本体
  • ラメの入ったバインディングやゴールドパーツなど、ゴージャスな意匠

を特徴とする同社のフラッグシップモデルです。特にホワイトファルコンは1954年の登場以来「世界一美しいギター」の名を欲しいままにする、アピール度の非常に高いギターです。時代ごとにさまざまな仕様が採用されてきたホワイトファルコンですが、今ではアーティストモデルを中心にさまざまなカラーリングが採り入れられ、私たちの目を楽しませてくれます。今回は、そんなファルコン・シリーズをチェックしてみましょう。


Gretsch G6136-55 Vintage Select Edition ’55 Falcon Hollow Body with Cadillac Tailpiece
ずっと眺めていたくなる、美しいギターですね。この動画からでも、ホワイトファルコンがいかにでっかいギターかがじゅうぶん分かることでしょう。このでかさだからこそ、このハリツヤのある美しい音になるのです。

ファルコン・シリーズの歩み

ホワイトファルコンが発表されたのは1954年7月のNAMMショウで、「ショーモデル」としての出展であり製品化する予定はありませんでした。当時のグレッチはギターに限らずさまざまな楽器を作っていましたが、バンジョーのヘッドや指板を彩るインレイを採り入れ、さらにはドラムのシェルを覆うゴールドの樹脂版をバインディングに使用する、というアイディアを得て、前代未聞の世にも美しいギターが誕生しました。当時の最高級ギターといえばギブソンの「Super 400」で、これに対抗できる大型の、そしてゴージャスなギターを開発しようとしたのです。

ホワイトファルコンの反響は大変多きく、翌1955年にはニューモデル「6136」として発売します。時代と共にホワイトファルコンはマイナーチェンジを繰り返します。

  • ハンプブロック・インレイ→サムネイル・インレイ(1957年)
  • ダイナソニック・ピックアップ→フィルタートロン(1958年)
  • キャデラックテールピース→ビグスビーを標準装備(1962年)

目立つものとしてはこの3つですが、内部構造や製法、その他のパーツなど、細かなところでも試行錯誤が繰り返されます。

70年代と80年代は、グレッチにとってはまさに踏んだり蹴ったりでした。時代を牽引するギターヒーローがフェンダーやギブソンばかり弾くために売り上げが低迷し、さらに工場で壊滅的な火災が生じ、いったん生産が中断されてしまいます。

1989年に復活したグレッチは、往年の名機を再現するだけでなく新しい要素も取り入れていきます。1990年代初頭には白黒反転させた「ブラックファルコン」が登場、そのほかアーティストとのコラボを通し、「ホワイト一択」だったファルコンにも多様性が生まれてきました。現代では、ルックス的にも機能的にもさまざまなファルコンが作られています。

代表機に見る、ファルコンの姿

ではここから、新旧2機のファルコンを見比べながら、グレッチのファルコンとはどういうものなのかをチェックしていきましょう。

比べるのは、以下の2モデルです。

ヴィンテージセレクト・エディション「’59ホワイトファルコン」


Gretsch G6136T-59 Vintage Select Edition ’59 Falcon Hollow Body with Bigsby®
グレッチのギターには、革ジャンが良く似合います。グレッチ愛好家の中には「夏でも革ジャンを欠かさない」という猛者がいたそうです。

プレイヤーズ・エディション「2016ブラックファルコン」


Gretsch 2016 Players Edition G6136T Black Falcon Demo
バッキングリフをひたすら弾くだけで、ここまで意味もなくかっこいい。「憧れのギター」ここに極まれり。

「ヴィンテージセレクト・エディション」は、時代の特徴を可能な限り再現したヴィンテージモデルで、外観から内部構造まで追求した「再現へのこだわり」を見ることができます。対する「プレイヤーズ・エディション」はグレッチ・ギターの現代の姿、すなわち「最終進化形」を提案するモデルで、伝統を尊重しながらも演奏性や利便性に配慮した新しい構造が採用されています。

ブラックファルコンはホワイトファルコンの色違い」という扱いで、同じプレイヤーズ・エディションのホワイトファルコンとは、ボディカラー以外のすべての仕様が共通です。かつてはブラックファルコンのゴールドパーツを全てシルバーに替えた「シルバーファルコン」も作られました。

ルックス

「世界一美しいギター」にとって、ルックスこそ最大のポイントと言って良いでしょう。古き良きアメリカの高級車「キャディラック」から着想したというその姿は、美しさに力強さが加わった、ロックンロールの象徴というべきものです。

ヘッド形状と意匠

G6136T-BLK Players Edition Falcon:ヘッド G6136T-BLK Players Edition Falcon:ヘッド部分

先が二股に分かれた「Vシェイプ・ヘッドストック」は、グレッチ最上位モデルの「ファルコン」と「ペンギン」にのみ許される特別な形状です。

  • ’59ホワイトファルコン:横書きのヘッドロゴ
  • 2016ブラックファルコン:縦書きのヘッドロゴ

ブランドロゴの配置には違いが見受けられます。2016ブラックファルコンに見られる縦書きヘッドロゴは、特別に「バーティカル・ロゴ」と呼ばれます。「ロッドカバーまでギラギラしている」というのもファルコンならではの意匠です。

ピックガード

G6136T-BLK Players Edition Falcon:ピックガード

肉厚なアクリルに、金文字で「GRETSCH」のロゴとファルコン(ハヤブサ)のイラスト。これは両機とも共通したデザインになっており、やはりコレを見ただけで「このギターはファルコンだ」ということが分かります。

バインディング

何枚も重ねる「多層バインディング」の一番外側が、ラメ(スパークル)の入ったゴールドです。ラメが入ったラメラメのバインディングを採用してしまうのが、いかにもアメリカ人の発想ですね。写真ではオレンジ色に見えてしまうことも多いんですが、実物は金ピカです。

金属パーツ

G6136T-BLK Players Edition Falcon:ペグ

金属パーツはネジの一本にいたるまで、全てゴールドで統一されています。ペグはツマミが段々になっている「インペリアル・ペグ」が標準です。’59ホワイトファルコンではクルーソンタイプですが、ブラックファルコンではロトマチックタイプのロック式ペグになっています。

コントロール・ノブは「ジュエルド”G”アロー」が標準で、グレッチの「G」と矢印(アロー)を合わせたデザインに、宝石(ジュエル)を模した赤いワンポイントが入っています。滑り止めのギザギザまで加えられており、道具としても頼りになります。

楽器本体

ルックスを一番にしてしまっていますが、ファルコンはやはり楽器本体でもグレッチの最高グレードにふさわしい仕様になっています。

寸法と木材構成

G6136T-59;ホワイトファルコン G6136T-59 Vintage Select Edition ’59 Falcon

ファルコンの楽器本体は、

  • 弦長5インチのメイプルネック、エボニー指板
  • ボディ幅17インチ、メイプルトップ&サイド&バック
  • 11~0.49ゲージの弦を張って出荷

が基本です。竿が長くてボディはでかくて硬い、弦も太い、だからこそ得られるハリツヤのある音が、ファルコンのサウンドです。最初期のホワイトファルコンでは、トップにスプルースが採用されていました(Vintage Select Edition ’55 Falcon)。

ボディ厚については現代向けに変更が加えられ、

  • ’59ホワイトファルコン:75インチ(約70mm)
  • 2016ブラックファルコン:25インチ(約57mm)

2.75インチを標準としつつも、プレイヤーズ・エディション・シリーズや一部の限定生産モデルでは、演奏性を向上させるべくやや薄型のボディが採用されています。

塗装

’59ホワイトファルコンはヴィンテージモデルなだけに「ニトロセルロース・ラッカー」が使用されますが、それ以外ごく一部のこだわりのモデル以外は「ウレタン塗装」となっています。ラッカーの質感には根強い人気がありますが、キズが付きやすいので大事に扱う必要があります。ウレタン塗装は強固でキズが付きにくく、変質もしにくいので道具としての扱いやすさにメリットがあります。

ボディ内部構造

ボディ内には、ボディの補強と振動伝達という二つの仕事をする「ブレーシング」という柱が貼りつけられます。’59ホワイトファルコンには「1959年式トレッスル・ブレーシング」が採用され、その他のモデルでも標準的に採り入れられています。

「プレイヤーズ・エディション」ではこの「1959年式」を進化させた「MLブレーシング」が採り入れられ、トップの振動がもっと活かされます。

電気系と操作系

ピックアップについては、

  • ’59ホワイトファルコン:TV ジョーンズ社製「TV Classic」
  • 2016ブラックファルコン:フィルタートロン

というように区別されます。TV Classicはヴィンテージ・フィルタートロンの再現を追求するハイエンドモデル、現行のフィルタートロンはその現代版で、正確には「ハイセンシティヴ(敏感)・フィルタートロン」と呼ばれます。

操作系にも違いが出ており、トーン回路の設計により

  • ’59ホワイトファルコン:トーンスイッチ・サーキット
  • 2016ブラックファルコン:トーンポット・サーキット

と分けられます(「サーキット」は「回路」の意味)。

「トーンスイッチ・サーキット」は、3WAYスイッチにより

  • 低域を強調したサウンド
  • ノーマルのサウンド
  • 高域をカットしたサウンド

に切り替えられます。

「トーンポット・サーキット」は、マスタートーンのつまみによって高域を絞っていく、一般的なエレキギターで採用されているものと同様の回路です。現在生産されているファルコン・シリーズには、トーンスイッチ・サーキットもしくはトーンポット・サーキットのいずれかが採用されます。

ただし、こうした電機系/操作系はG6120ナッシュビルG6129シルバージェット、などなどグレッチの多くのギターで採用されているものであり、ファルコンだからこその回路が特別にあるわけではありません。グレッチのギターはギター本体とその意匠によって、各モデルのキャラクターを設定しているわけです。


Ken Yokoyama -Come On,Let’s Do The Pogo(OFFICIAL VIDEO)
カントリーやロックンロールでなく、ハードコアというジャンルのアーティストがでグレッチをトレードマークとするのは、革命的ともいえる出来事でした。グレッチにはオールジャンル対応できるイメージが希薄ですが、だからこそこのような可能性がまだまだあったわけです。

グレッチ・ファルコンシリーズのラインナップ

では、ファルコン・シリーズのラインナップをチェックしていきましょう。新旧のスタイルやアーティストモデルなど、さまざまなファルコンがリリースされています。滅多にお目にかかることのできないUSAカスタムショップ製のファルコンは100万円オーバーの超高級品ですが、一般に流通しているファルコンのお値段は総じて50万円近辺から60万円未満といったところに収まっており、グレードに幅が設けられているわけではありません。どのファルコンもグレッチ最高グレードのギターであって、コンセプトにより設計が分けられ、結果として価格差が出ているようです。

なお、ホワイトファルコンについてはこちらの記事で紹介しています。

ホワイトファルコン

次のページでは「白くないファルコン」のラインナップを見ていきます。

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