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生産完了したBODEN OSシリーズ
「.strandberg*(ストランドバーグ)」は、ギタービルダーのオーラ・ストランドバーグ氏を代表に据える、スウェーデンのブランドです。1984年から10年間ほどギターテックとして働き、またギタープレイヤーとしてバンド活動を行ってきたオーラ氏がブランドを立ち上げたのは2007年で、「エルゴノミック・ギターシステム(ergonomic guitar system)」と銘打たれた「人間工学(=ergonomic)」に準拠したギターが、世界各地で話題となっています。
参考:人間工学とは
人間工学(にんげんこうがく)は、人間が可能な限り自然な動きや状態で使えるように物や環境を設計し、実際のデザインに活かす学問である。 また、人々が正しく効率的に動けるように周囲の人的・物的環境を整えて、事故・ミスを可能な限り少なくするための研究を含む(Wikipediaより引用)。
カンタンに言うと、「物体を人間の都合に合わせて設計する」という考え方です。
オーラ氏は機械技師出身で、CAD/CAM(コンピュータ援用による設計/製造)のスキルを持ち、また製品開発やパーツの試作品を加工する豊富な経験を積んでいます。ソフトウェア業界でのキャリアもあり、そういったさまざまな業種で蓄積されたノウハウがギター開発に活かされています。
現在日本に流通しているストランドバーグのギターの中から「BODEN」シリーズを、その代表機種である7弦ギター「BODEN OS7」から、ストランドバーグのギターが持つ特徴をくまなくチェックしてみましょう。「OS7」は韓国メーカーでOEM生産される比較的手に入れやすいグレード「OS」シリーズの7弦ギターです。
注:BODEN OS7は生産が終了した旧モデルですが、その特徴は後継機「BODEN Original 7」ほか多くのモデルに引き継がれています。
Yvette Young performs Charybdis on .strandberg* headless Boden 7-string
ストランドバーグの多弦モデルには、変態的なタッピングプレイがよく似合います。低音弦に張りがあることからピックを使わないプレイに充分応じることができ、非常識なまでに軽量化が進められていることから、本来相当な重量になるはずの多弦でありながら、女性でもラクラク演奏できます。
ストランドバーグには、「スタインバーガー」の衝撃的なデビューで有名になった、ヘッドを持たない設計が採用されています。人間工学的な考え方をすると、ヘッド部分及びペグの重量が無くなることから、大幅な軽量化が実現でき、長時間に渡ってストレスなく快適な演奏ができるようになります。またネック本体の全長を抑えることができるので、ネック剛性を上げることができます。
ヘッドレスとはいえ僅かにヘッド的な部分は残されており、クリップチューナーをどうにか装着することができる他、開放弦近辺をプレイする際にヘッド裏的な感触でポジションを感じることができます。専用弦は使わず普通の弦をネジで固定しますが、この留め具(ストリング・ロック)が各弦独立しています。ブリッジも各弦独立していますが、これは各弦の響きをくっきりさせるという音響的な意味合いだけでなく、6弦モデルなら6セット、7弦モデルなら7セット、同じパーツを配置するだけで多弦ギターを開発できる、製造上の合理性に大変優れた設計です。
ナットのすぐそばに「ゼロフレット」を配置しています。ナットがあるにも関わらず一本余計にフレットを打つという設計なのですが、
というメリットがあります。
ストランドバーグが特許を取得した「エンデュアー・ネック(EndurNeck)」は、ネック裏に直線的なカットが施され「断面が非対称の台形」という、斬新にも程がある形状になっています。これは「親指を支点にするフォームに対しては、ネック裏は曲面より平面の方がストレスが少ない」という人間工学的な考えを根拠にしています。親指を出してぎゅっと握り込むというスタイルのプレイヤーには嫌がられるようですが、特にクラシカルスタイルでのプレイが多い多弦プレイヤーにはフィットし、「やみつきになる」という人も多くいるようです。また厚みが残されているのもポイントで、「薄いものを掴むよりも、厚いものを掴んだ方が力が出やすい」という人間の手のしくみに従った設計です。
しかもローポジションでは低音弦側が肉厚で、ハイポジションに移行するに従い高音弦側が肉厚になっていくというように、ポジションごとに握り具合を変化させています。このネックグリップは「ギタープレイヤーなら、弾けばすぐ解る」と言われるように、ポジションごとに左手が理想的なフォームになりやすい設計で、左手がどこにいても違和感のない押弦ができる不思議なグリップになっています。
接合部分は滑らかなヒールカットが施されたボルトオンジョイントで、7弦モデルは5本のネジで接合されています。
ネック本体はメイプルとローズウッドの5プライで、さらにカーボンファイバーを仕込んでいます。ネックにプライウッドを採用するのは最高グレードの「スウェーデンカスタム」でも同様で、1ピースネックのプレミアム感よりもプライウッドの剛性という機能を重視しています。「エンデュアー・ネック」の語源である「endure」には「長期間にわたって困難や苦痛に耐える、持ちこたえる」という意味があり、このネック最大の特徴である「台形(=trapezoid)」ではありません。ネーミングからも、ネック剛性に対するなみなみならぬこだわりが伝わってきますね。
Boden OS8のファンフレットの様子
「張りのある弦振動」と「安定したチューニング」を得ようと思ったら、ある程度の弦長を確保しなければなりません。しかしあまりに弦長を増すとフレットの間隔が広がることに加えて弦の張力が増し、演奏性を損なってしまいます。加えて第1弦と第6、7、8弦では「おいしい弦長」に違いがあり、第1弦で充分な弦長でも第7弦では不十分、ということがあります。こうした考えから最近注目を集めている「ファン(扇状)フレット」が、BODENにも採用されています。高音弦の弦長はそのままに、低音弦の弦長を拡大しているため、フレットが徐々に斜めになっていきます。素材にはステンレスが選択され、摩擦の少ない滑らかな弾き心地がいつまでも持続します。
「BODEN7」は5〜7フレットを中心として、両サイドに移行するに従い角度がついていきます。7弦ギターは下からつまむようにして弦を押さえることが多く、ナット部分を握りしめてアコギのオープンコードを弾くという機会がほぼない、ということもあって「すぐ慣れる」と言われます(いっぽう6弦モデルはオープンコードを弾く可能性が高いことから、ナット部分が平行になっています)。
《特集》ファンフレットのギターって、どんな感じ?
Animals As Leaders @ Das Bett Club – Song of Solomon
「アニマルズ・アズ・リーダーズ」は、8弦ギター2本とドラムスという異色な編成のギターインストバンドです。ジャンル的には「ジェント」と分類されており、高度な演奏技法と複雑なリズムを駆使した独特の世界観を表現しています。ベースがいないのに低音の薄さを全く感じさせないのは、8弦ギターがベースの音域までカバーできるからです。
ヘッドレスデザインとのバランスをとるためでもあり、ボディは深く切り込んだコンパクトな設計になっています。フレイムメイプルトップに軽量なスワンプアッシュをバックに採用、しかも内部をくり抜いた「チェンバード構造」となっており、さらなる軽量化とアコースティックな鳴りの両面を実現しています。結果として到達した本体重量は3kgを大きく下回るところまで来ており、エレキギター全体の中でも「極端に軽い」部類に入ります。多弦の愛用者に女性が目立つのも納得がいきます。
またこのボディシェイプは、1弦側に二つのウェストが設けられており、
どちらのスタイルでも快適に演奏できるようになっています。バックのコンター加工が深く施されているため、ストラップを短くして立って構えても快適に演奏できます。
Chris Letchford • “Piedra Falls” • Guitar Play Through
クラシカルスタイルで構えて演奏する例。フィット感は抜群です。また超軽量のストランドバーグだからこそ、こんなトコロまで持ってきて演奏するのもまあまあ大丈夫です。
ストランドバーグのデビューで誰もが驚いた構造の一つに、このコイルを持たない不思議なピックアップ、「アルミトーン」があります。厚さ数ミリの板を曲げただけのようにしか見えない構造で、直流抵抗が非常に低く、アクティブサーキット並みにローノイズでありながらちゃんとパワーがある、ちゃんと音が出るどころかレンジの広いとてもクリアなサウンドが得られる、非常に先進的な設計のピックアップです。コイルを持たないことで、わずかながら軽量化にも一役買っています。
コイルを持たないのになぜちゃんと音が出るのかは「企業秘密」だそうですが、開発した「レース(LACE)」社は、
などで採用されているノイズレス・シングルコイルピックアップ「レースセンサー」シリーズで世界的に名高いピックアップメーカーです。
ストランドバーグのブリッジは、筒状の本体を特徴とする独自設計のものです。ヘッドレスギター必須となる「ペグと一体化した構造」で、シンプルな構造でありながら弦高やオクターブピッチも完全に合わせることができ、また各個が独立しているので並べる数を増やすだけで多弦ギターを開発することができる、合理性に長けた構造になっています。「人間工学をベースにした機能性とデザイン性の両立」をコンセプトとして開発されたギターが、それにとどまらず合理的な生産性まで含めて総合的に緻密な計算に基づいて作られていることがわかりますね。
またストランドバーグで採用されている金属部品は、航空機に使用される軽量で硬質なアルミニウムでできていますが、この軽さと硬さが優れた音響特性を発揮しています。
斬新、不思議、独自、計算ずくといった言葉で表現されるストランドバーグですが、音の良さも大きな特徴です。人間工学や合理性を追求したあらゆる構造が、ほぼ妥協なくクリアなサウンドと豊かなサスティンのために選択された結果でもあります。チェンバードボディの効果で、特にクリーントーンに「エアー感」が加わり、濃いジャズでも充分通用するメロウな甘さを帯びます。
またクリアな響きを持っておりノイズに非常に強いことから、ギッシャギシャに歪ませても美しいサウンドが得られ、ハードロック/ヘヴィメタルのプレイヤーにもフィットします。
The Fine Constant – Inevitable Disconnect (Official Video)
いかに弾きやすいストランドバーグをもってしても、ここまでのプレイを極めようと思ったらかなりの修練を必要とします。
2018年現在の日本国内において、ストランドバーグからは、
という5つのグレードからリリースされています。仕様は多様化されており、使用されるピックアップやその配列、トレモロの有無、各部の木材などにさまざまなバリエーションがあります。その意味で、価格によるグレード差こそつけられていますが、それぞれ異なるフィーリングを持ったギターになっている、ということができるでしょう。
Strandberg 2017 Model Lineup
2017年、ストランドバーグのギターは価格帯、方向性ともにラインナップを大幅に拡充しました。公式サイト(海外)では「ボデン・メタル」や「ボデン・フュージョン」というように特定のジャンルを想定したモデルも紹介されていますが、日本にはまだ入ってきていません。逆に海外の公式サイトやこの動画では日本製モデルの紹介がないことから、日本製ストランドバーグは独自路線でプロデュースされているのだと推察されます。
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