エレキギターの総合情報サイト
オリジナルのギターやベース、サーキットの開発で知られるブランド「Sonic」を30年以上に渡って運営しているラムトリックカンパニー。今回Supernice!スタッフが埼玉県川口市の工房に訪問、代表でありSonicギターのマスタークラフツマンでもある竹田豊さんに、Sonicブランドのエレキギターについてお話を伺うことができました。
Sonicブランドのギターについて
──まずはじめに竹田さんの著書「エレクトリック・ギター・メカニズム完全版」について。プロのクラフトマン必携の書と言われるロングセラーになっていますね。
竹田 豊さん(以下、敬称略) はい、おかげさまで(笑)。最初の電気編と木部編に分かれていたものが出たのが92~93年頃だったんですが、それを98年に完全版という形で1冊にまとめました。それが今でも売れているという大変ありがたい状況となっています。その本のおかげでみなさんに知っていただけて、もちろん今でも修理業務はやっているんですが、気持ちとしてはギターを作ることをメインでやっています。
ラムトリックカンパニー代表、竹田 豊さん
──ブランド創設の経緯をお聞かせいただいてもよろしいでしょうか。
竹田豊 83年の10月に創業しました。その時点でラムトリックカンパニーと、ソニックというギターブランドを立ち上げ、それから32年間やっています。
──ソニックギターの特徴はどういうところにあるんでしょうか
竹田豊 「ギターはトータルでなんぼ、全体のバランスが大切」というスタンスをとっています。例えばどこか一カ所に加工精度の低い、あまり品質のよくないパーツを使うと、ギターは全体としてその品質以上にはならないんです。だから使用するパーツの選び方は慎重になりますし、その取付作業にも手間を惜しまずにベストな仕事を心掛けています。そういった基本があって、例えば高級なピックアップとかを載せたときにそれが実力を発揮できるわけです。いい加減なパーツといい加減な仕事で作られたギターにそれをやっても、宝の持ち腐れですから。
リペアの仕事をしていると、ギター・メーカーの工場のスタッフの作業に疑問を感じるようなこともあります。例えばピックガードの止めネジ穴が全部斜めに開いていたりするんですよ。手持ちの電動ドリルで適当に開けた結果だと思うんですが、そこを妥協せずにボール盤まで持っていって垂直の穴を開ける、というような気の使い方こそ日本人が得意とするところだと思うんですけどね。さらに海外メーカーのギターでは、穴を開けた時に出た木屑をほったらかしにしたまま部品を載せてネジ止めしてしまっているようなケースもあったんです。そういうのを見てくると、世界全体で見るとギター作りってのはそんなレベルなのかなぁと思ったり、もちろんコストの問題はメーカーとして重要だということはわかりますけど、やはりそれじゃいかん、と。少なくともウチではとにかく手間を惜しまずに丁寧な仕事をしていこうと考えてます。
さらに製品として世に出すときに、「俺がベストと思うものを作ったんだから、これを弾いてくれ!」っていうスタンスもあると思うんですが、楽器っていうのは個人の好みや演奏スタイルに合わせて作られるべきプライベートな製品であると思うんですよ。なので基本的にはこっちから押し付けるのではなく、ユーザーさんからこうしたい、こういうものが欲しいという話をできるだけ吸い上げて、その人だけのためのギターを作りたいという気持ちでやってます。
──Sonicギターにはオリジナルシェイプのギターのほかに、ストラトキャスタータイプ、テレキャスタータイプなどスタンダードなラインナップがありますね。
オリジナルシェイプのSonicギター「Sonicboomer Custom」
竹田豊 うちのオリジナル形状のギターやベースも何種類かあるんですが、それをあまり強く推していないのは、やはりユーザーさんのリクエストにできるだけ応えたいというスタンスからなんです。フェンダーやギブソンなどのスタンダードとして定着したものがある中で新たにギターが欲しいとなると、基本的にはストラトが好きだけどこういうところはこうしたいというようなリクエストが実際にはほとんどなわけです。ストラトやレスポールはある意味完成されている形なので、ヘタにいじると悪くなる方向にしか動かないんですね。だったらそういうところに手間をかけるよりは、出来上がっているスタンダードに対して、その人のためにパーツや形状などのアレンジを施したものがいいギターなんじゃないかなと思っています。
──ギターの組み込みでこだわっている部分はありますか?
竹田豊 んー、例えばですね、フェンダー系限定の話になりますが、ネックのジョイントはいわゆるネックポケットがボディにあって、そこにネックをはめ込んでネジ止めするわけです。ネックポケットとネックのフィッティングはできるだけタイトであるほうがいいと言う人もいますが、ウチでは目に見える隙間はないけれど、ネックがスムーズに出し入れできるフィット感であるほうがいいと思っています。木材は外的環境によって伸び縮みするものなので、製作時にタイトすぎると何かの理由で木が膨らんでしまったときにボディのジョイント部が割れてしまうことがある。そういうことがないように、多少木が太ったりやせたりした時に吸収できるだけのサイズ的な余裕が必要だと考えています。
またボディとネックのセンターが合っていることは非常に重要なわけですけど、加工時の誤差や加工後の木材の変化によって、ボディとネックを組み合わせるときにセンターが微妙にずれることもあるんです。それを組み立て時の調節でネックをネックポケットに対して右や左にあえて振ったりして、きっちり合わせる作業をしたりするんですけど、そういったことをするための余裕というものも必要と考えています。
ギターに命を与える仕事っていうのが我々の仕事なんですよ。木工がいかに高い精度で作られて、塗装が綺麗に仕上がっていても、ちゃんとした技術のない人がギターに組み立ててもちゃんとしたものにはならないんですね。部材を組み合わせてギターにするというところにこそ楽器に命を与え、魂を込めるみたいな部分があると思っているので、あえて大きな木工機械や塗装ブースを入れず、そういった部分は信頼できる外注さんにお願いした上で、自分のできることに専念しようという感じでやっています。誤解を恐れずに言うと、材料がある程度以上のレベルに達していれば、我々がきっちりした仕事をすればいい楽器になる、と考えているんです。
──BUMP OF CHICKENのメンバーがSonicギターを使用していますね。
竹田豊 はい。縁があって、ベースの直井君(通称「チャマ」)はほとんどの場合うちのベースを弾いてくれていますし、ギター・ボーカルの藤原君はうちのストラトタイプを2本、レスポールスペシャルタイプを1本持ってくれてて、ライブだとワンステージで2,3曲はうちのギターを弾くというような感じで使ってくれていると思います。彼らの他メーカー製のギターやベースも、8割方はうちでメインテナンスをやっています。
──ワンツアーでギターって変わるものなんでしょうか
竹田豊 そうですね。ツアー中は移動も多いので、温度や湿度の変化は大きいですし、単純に車で揺られるってことも影響はあると思います。しっかりしたツアーケースに入れて移動しているとは思うんですけど、楽器にとってはつらい環境なのかなと思いますね。
佐野元春さんが試奏したストラトタイプのギター。佐野さんに弾いてもらった意見を取り入れて、改良作品をお渡ししたそう。
──Sonicオリジナルのトレモロユニットについて伺いたいと思います。
オリジナルのトレモロユニット:Stable-Tune Tremolo Kit
竹田豊 特にフローティングで使用したときに、アーミングしてもチューニングが狂いにくいトレモロユニットです。
自分もストラトが好きで、トレモロはフローティングで使ってるんですが、トレモロを使うとある程度チューニングが狂うのは物理的に仕方ないんです。それを完全に排除するにはフロイドローズなどへ行くしかないんですが、従来のトレモロでも取付と調整をしっかりやって、演奏上のテクニックも併用すれば、何とか実用レベルにはなってました。でも「もうちょっと何とかなるんじゃないか?」と思って簡単な図面を書いて研究したら、ある部分の設計を変えるとチューニングが安定するっていうポイントに気付いたんで、そういう寸法で作りました。
パッと見た感じ普通のシンクロナイズド・トレモロと同じ形で既製品とどこが違うかわからないと思うんですが、各部寸法が指定されていて数字的には百分の一ミリの精度で設計しています。
──Sonic製サーキット「TURBO BLENDER」はどういう製品ですか?
TURBO BLENDER 4
竹田豊 TURBO BLENDER開発のきっかけは、他社から出ていた「ストラトをパワーアップする」という名目のサーキット商品があったんですけど、見てみたらどう考えてもパワーアップなんかしないよっていうサーキットなんですよ。パワーのあるストラトにしたいんだったら、こっちが正解だぜっていうものを出そうと思って作りました。
TURBO BLENDERは、ストラトの3つあるコントロールが、上からマスター・ボリューム、マスター・トーン、ブレンダーになって、ブレンダー・コントロールを10にしていると普通のストラト、絞っていくとネックピックアップがミドルやブリッジピックアップにシリーズ(直列)でブレンドされていくというものです。普通みなさんストラトはとりあえず全部のコントロールを10にして音を出すので、ブレンダーは10のときにノーマルとして使えるようにしました。スイッチをミドルからブリッジのポジションにして、ブレンダーを絞ると太くウォームなハムバッカー的なトーンが得られるので、ストラトの音の幅が広がります。
95~96年頃に開発した製品ですが、ありがたいことに今でも売れ続けています。はじめはこのストラト用のサーキットだけでしたが、後にジャズベース用とテレキャスター用のサーキットも発売しました。ジャズべとテレキャスターはスイッチ・ポットの切替でターボ・サウンドを出すサーキットです。
──Sonic製のパーツやメンテナンス製品などもリリースしていますね。
竹田豊 ターボブレンダー開発の後に、フルアップポットという10にしたときに完全に信号ロスがなくなるボリュームやトーンを作ってみたり、牛骨のナットに秘密のオイルをしみ込ませたもの、トラスロッドの動きをスムーズにするオイルなど開発しました。詳しくは弊社のサイトやウェブショップを見てください。
──前述にもありましたが、他社製品のリペアも受けているのですか?
竹田豊 はい。でもナット交換だけして欲しいというような部分修理はお受けしていません。弊社で「チューンナップ」と呼んでいる、外せるパーツを全部外して、フレットも抜いて、指板をまっすぐに削り直して、新しいフレットを打って、サーキットを配線しなおして、ネジ穴も全部埋めて正しい位置と角度で開け直して… 正しい位置にすべてのパーツを組み直してお返しするというセットメニューだけになります。実際新品のギターでも、フレットをチェックするとフレットが浮いてることが多いんですよ。特にフレットの中央部が浮いてますね。フレットが真ん中でフカフカになっていて、弦を押さえて弾いたらサステインが全然ない状態になっている、そんなフレットは減ってなくたってそのままにはしておけないですから。他にも無駄に配線が長すぎたり短かすぎたり、あらゆる形での問題がある場合が多いので。
もちろん問題がなければそのままにしておくこともあります。フレットを100%抜くわけじゃないですよ。しかし、問題があるかどうかはこちらの判断に任せてもらってます。世の中にあるギターのコンディションの悪さに辟易しているので、気に入らない部分があるままでお客さんに返すのが嫌なんです。トータルバランスのとれた楽器に生まれ変わらせる、トラブルをできるだけ起こさないようにするというのは、セットアップで非常に大事なことです。
──当サイト「エレキギター博士」は、ギターをはじめたばかりの人も多く見てくれています。普段家にギターを置いておくにあたって気をつけることなど、アドバイスをお願いします。
竹田豊 一概には言えないんですが、基本的には例えばギタースタンドにギターが置いてあって毎日一回は触っているようなら、特に弦を緩める必要はないです。ただ例外として弱いネックというのがあって、まぁハズレなんですけど、なぜかネック材が柔らかいんです。残念ながらそういう場合はこまめに弦を緩めないとどんどん反ってしまいます。アコースティックギターの場合はネックの問題よりもボディトップの変形が怖いので、それを避けるためにちょっと緩めたほうがいいと思います。ネックの木材の気持ちになって考えると、ネックにかかる力が頻繁に強くなったり弱くなったりするよりは、常に一定の力がかかっているほうが木材的には楽なんじゃないかなという気がします。
──ありがとうございました!
竹田さんへのインタビューの後に、工房でお仕事中のスタッフの皆様を撮影させていただきました!当日は本当にありがとうございました!!
取材当日、2名のスタッフがお仕事中でした
Sonic製サーキットを組み込んでいる、ハンダ付け女子!
フレットの浮きを調節している、フレット打ち女子!
気さくにお話をしてくださった竹田さん。Sonicブランドは来る11月14,15日に開催される楽器の祭典「サウンドメッセ2015in大阪」に参加、ギター・ベースの展示や竹田さんのトークショーも行われるということです。
住所:〒332-0012 埼玉県川口市本町4-14-5
TEL:048-224-7915
ラムトリックカンパニー公式サイト
TURBO BLENDER他、Sonicの製品を…
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