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ギブソンの開発したシングルコイル「P-90」とハムバッカー「PAF」はしっかりとした出力と太く力強い音色が持ち味で、フェンダーのシングルコイルと双璧を成す「現代のスタンダード」として完全に定着しています。特にハムバッカーは早すぎたデビュー時の苦労こそあれ、現在では懐かしめのジャズから最新のメタルシーンまで、幅広いジャンルで絶対的に必要不可欠なツールになっています。そんなわけで今回は、ギブソンのピックアップについていろいろなことを見ていきましょう。
The Gibson Pickup Shop
ギブソンのピックアップ製造部門「ピックアップ・ショップ」では、昔ながらの製法から現代的な手法まで駆使してピックアップを作っている。自動化の難しい工程が多いらしく、随所に手作業が見られる。
引用元:http://forum.gibson.com/index.php?/topic/105629-1950s-era-paf-pickups/
「Patent Aplied For(特許出願中)」のステッカーが貼られたことで、PAFの愛称が生まれた。
ギブソンのピックアップを語る上で、「P.A.F」は欠かすことができません。温かみのある低域、明瞭な中域、鮮明な高域を持つPAFの音は、ライバルのフェンダーと一線を画す個性を持っています。またハイゲインでの使用に耐える性能があり、PAFの使い手によってロックの名演が数えきれないほど生まれました。このため現存のヴィンテージP.A.Fは非常に高値で取引されており、ギターマニアの憧れとなっています。
現代では様々なピックアップメーカーがヴィンテージP.A.Fを再現した「クローンP.A.F系」の製品を販売しています。中でも本家ギブソンのクローンP.A.F系ピックアップは完成度が非常に高く、多くのプロギタリストが好んで使用しています。では、PAFから始まるギブソン製ハムバッカーの歴史を見ていきましょう。
1950年代、ギブソン社はフェンダーに対抗し、シングルコイルの泣き所「60サイクルのハムノイズ(ヴヴーという低い持続音)」を解決した高品位なギターの開発を目指します。
当時の従業員セス・ラバー氏は2基のシングルコイルによるハムキャンセル(ハムバッキング)効果に着目、1955年にハムバッカー・ピックアップの設計を完成させ、同年にギブソン社との共同特許を申請します。これが認められて「米国特許2896491」が発行されたのは1959年でした。
PAFの生みの親として知られるセス・ラバー氏(Seth Lover。1910ー1997)は、幼いころから電気に興味を持っていたようです。20代を米軍のエレクトリニクス研究員として過ごし、1941年にギブソン社に入社、第二次世界大戦を経て復職、1967年にはフェンダー社からヘッドハントされます。フェンダー社での功績としては、ワイドレンジ・ハムバッカーの開発が有名です。
1975年にフェンダーを定年退職してからはセイモア・ダンカン氏と親交を深め、1994年にはオリジナルPAFの精巧なクローン「SH-55(Seth Lover)」をセイモア・ダンカンからリリースしています。
特許取得を待たずして、ギブソンは新しいピックアップを市場に投入します。まず1956年、8弦のラップスチールギターに採用します。6弦のエレキギターとしてはES-175への採用が初めてで、次いでレスポールに採用、1957年のNAMMショーに出展して世界へのデビューを飾りました。この頃はまだPAFの名はなく、新しいピックアップには「P-490」の品番が付けられていました。
最初期のPAFに「Patent Applied For(特許出願中)」のステッカーはありませんでした。ステッカーが使用されたのは1957年の後半から1962年あたりまでで、デビューからこの頃までのPAFは「オリジナルPAF」と呼ばれます。
定番機「’57Classic」の背面。60年代中盤までのPAFをイメージしたモデルには、現在でもこのように特許出願中ステッカーが貼り付けられている。
この年にPAFの生産体制が見直され、個体差が抑えられます。アルニコIIが混在したこともありこそすれ、磁石は全長2.25インチのアルニコVに一応は統一され、コイルの巻き数のバラツキは抑えられ、直流抵抗は7.5kオーム近辺にまとまるようになりました。
それ以前のPAFでは、アルニコ2から5までがランダムに使用され、磁石自体の強さにもバラつきがありました。コイルを巻く作業は自動化されておらず、機械の回転を手動で停止させる必要から巻き数もまちまちでした。「ハムバッカーを構成する2つのコイルの巻き数がバラバラ」なんてことも普通だったんですが、むしろこの状態がきらめくマジックットーンを生みだす秘密だったと解明されたのは、後になってからでした。
この年の規格改定によって工業製品としてのPAFの品質は向上しましたが、オリジナルPAFの音への支持は根強く残ったわけです。なお現在では、コイルの出力が不ぞろいなハムバッカーを「アンバランスドコイル」、出力の揃ったコイルを「バランスドコイル」と呼んでいます。
1962年に「特許2737842」のステッカーが採用されます。特許番号が付けられたことから「ナンバードPAF」または「ステッカー・ナンバードPAF」と呼ばれるようになりますが、個体差が抑えられた以外はオリジナルPAFと同様です。なお、これはPAFの特許番号ではなく、レス・ポール氏が1956年に取得したトラピーズ・テールピースのものです。なぜこの番号が使われたのかは、ギター史におけるミステリーとなっています。
コスト圧縮と作業の効率化を目指し、1965年には工程と仕様が見直されます。エナメルコーティングされたワイヤーは、ポリウレタンコーティングされたワイヤーに切り替えられました。またコイルのワインディングが完全に自動化され、直流抵抗のばらつきがなくなります。磁石は今度こそアルニコVに統一されました。
この年以降のPAFでもパテントナンバーのステッカーは引き続き使用されましたが、ボビンの上面に正しい向きの目安として「T」が記されたことから「Tトップ」あるいは「Tバッカー」とも呼ばれました。サウンドはオリジナルPAFより明るく、タイトで、アグレッシブになっています。
Tトップは1979年まで生産されましたが、1975年にはステッカーの代わりにパテントナンバーが刻印されるようになり、この期間のTトップは「刻印ナンバードPAF」とも呼ばれます。なお、番号は相変わらず2737842です。
1981年、ヴィンテージ・リイシューモデルの開発に併せ、オリジナルPAFの仕様に合わせたハムバッカーが再構築されました。復刻されたPAFは「ニューPAF」あるいは担当者ティム・ショウ氏から「ティム・ショウPAF」と呼ばれます。予算の都合で巻き線はポリウレタンワイヤーのままでしたが再現度は極めて高く、1980年代のリイシューモデルに採用されたほか、1990年代のカスタムショップ・モデルにも採用されました。
ここまでの歴史でPAFにはいろいろなことが起きましたが、品番は一貫して「P-490」でした。ライバルのフェンダーが次々と新しいピックアップを考案していた一方で、ギブソンは一途にPAFを作り続けたわけです。
ポッティング(Wax Potting、またロウ漬け)は組み立てたピックアップを溶かしたワックスに浸す工程のことで、浸透させたワックスが部品を効果的に固定します。これにより各部品が保護されるほか共振しにくくなり、レスポンスが安定しやすくなります。エレクトロニクスの分野では伝統的な工程で、現代のピックアップ製造でも常識的に施されます。
ポッティングしないと、部品の共振によりハウリングが起きやすかったり、ギター本体をたたいたりスイッチを操作したりするときの音を拾ってしまったりします。この状態を「マイクロフォニック」と言い、本来なら弦の振動しか拾わないはずのピックアップが普通のマイクのように機能してしまいます。大音量での演奏やガッツリ歪ませた設定では特にひどい症状になり、演奏に支障をきたすこともあります。
しかしだいたい1970年代中盤くらいまで、PAFはポッティングされませんでした。これについてはPAF開発時、わざわざポッティングしなくてよいと判断されたものと考えられます。1950年代当時にはまだディストーションサウンドが認知されておらず、ちょっとくらいマイクロフォニックでも問題ない、とみなされていたようです。
ただし、ポッティングすると高域がちょっとだけ削られてしまいます。ポッティングされていないハムバッカーには、大音量やハイゲインでの使いにくさと引き換えに、豊かな高域というメリットがあるわけです。また部品が動揺することで不安定になるレスポンスは、響きの複雑さと豊かさだと好意的に解釈されます。
Joe Bonamassa | Black Beauty Les Paul Custom
ポッティングなしのPAFクローン「Custombucker」。ドライブサウンドが使いにくいと言われつつも、これくらいの歪ませ方ならむしろ大変美しいサウンドを奏でる。
現在のギブソンでは、「The Historic Collection」「The Original Collection」「The Modern Collection」の3つのカテゴリーでピックアップをリリースしています。ポジション名はギブソンの伝統にのっとり、フロント用は「R(リズム)」、リア用は「T(トレブル)」と表示されます。では、それぞれのラインナップを部門ごとに見ていきましょう。
品名 | Type | 芯 | 磁石 | ポッティング | 直流抵抗 |
---|---|---|---|---|---|
Custombucker | 2 | III | × | 8.0k | |
’57 Classic | 2(4) | II | × | 8.0k | |
’57 Classic Plus | 2 | II | × | 8.3k | |
Burstbucker | Type1 | 2 | II | × | 7.8k |
Type2 | 2 | II | × | 8.4k | |
Type3 | 2 | II | × | 8.7k | |
60’s Burstbucker | R | 2 | V | ○ | 8.0k |
Burstbucker Pro | R | 2 | V | ○ | 7.8k |
T | 2 | V | ○ | 8.3k | |
T-Type | R | 2 | V | × | 7.3k |
T | 2 | V | × | 7.6k | |
Dirty Fingers | 4 | Ceramic | ○ | 15k | |
70’s Tribute | R | 2 | V | ○ | 16.2k |
T | 2 | V | ○ | 15k | |
490R | R | 4 | II | ○ | 8.0k |
490T | T | 4 | II | ○ | 8.2k |
498T | T | 4 | V | ○ | 14.2k |
498R | R | 4 | Ceramic | ○ | 8.4k |
500T | T | 4 | Ceramic | ○ | 15.2k |
ハムバッカー各モデルの仕様を並べてみた。これだけラインナップがある中で、仕様が一致するものはなく、うまく住み分けされている。
The Gibson Pickup Shop Demo
こちらの動画では、いろいろなピックアップのいろいろなサウンドを一気に観ることができる。
カスタムショップ製モデルに採用される「ヒストリック・コレクション(The Historic Collection)」のピックアップは、オリジナル・PAFを再現した「カスタムバッカー(Custombucker)」の1モデルがリリースされています。ギブソンのハムバッカーでは唯一アルニコIII磁石を使用しているところがポイントで、ポッティングなし、直流抵抗8.0kオームという仕様です。また、そもそも各ポジション向けに作り分けることがなかったという歴史にのっとり、特定のポジション向けには作られていません。バリエーションはカバードにニッケルとゴールドの2種、オープンタイプにブラックとゼブラの2種があります。
Slash | The Slash Collection
本来ならカスタムショップのギターにのみ搭載されるカスタムバッカーだが、シグネイチャーモデルには特別に採用されることがある。
「オリジナル・コレクション(The Original Collection)」からは、1950年代から1970年代までに使用されたモデルを復刻したピックアップがリリースされています。PAFクローンを中心としたハムバッカーの豊かなラインナップに加え、P-90とミニハムバッカーもリリースされています。
「モダン・コレクション(The Modern Collection)」はギブソンの伝統と革新をコンセプトに据え、次世代のサウンド・メイキングを支えるピックアップをリリースしています。コイルタップなど特殊配線を想定して全て4芯仕様で、サウンドとしてはクラシカルなテイストのモデルも悪魔のように歪むモデルもあります。ポールピースの間隔をポジションごとに最適化しているのは、他シリーズにはない現代仕様ならではの大きなアドバンテージです。
背面には「Gibson USA」のロゴが刻印される。
以上、ギブソンのピックアップについていろいろ見てきました。現代では’57ClassicやBurstbuckerなどPAFクローンが厚く支持されているような情勢ですが、それぞれの時代を彩ってきた後継機種や現代的な高出力機も注目に値します。実際にギブソンのギターに搭載されているピックアップも多くありますから、興味のある人は実物をチェックしてみてください。
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