ビルローレンス(Bill Lawrence) のピックアップ

[記事公開日]2019/11/28 [最終更新日]2025/5/25
[ライター]森多健司 [編集者]神崎聡

ビルローレンス

Bill Lawrence(ビル・ローレンス)は世界で初めてリプレイスメント用ピックアップを開発、販売したメーカーです。創業者のビル・ローレンスは、ジャズギタリストとしてキャリアを出発させた後、ピックアップ設計のパイオニアとまで呼ばれるに至りました。

バー・ポールピースによる独自の設計、ピッキングに忠実な「粘り気」と「バイト感」、ハイゲインからブルースまでをカバーする幅広い表現力。このページではBill Lawrenceピックアップの核心に迫ります。

Bill Lawrenceとは? – ギターピックアップの革新者

ビル・ローレンス氏は大聖堂で有名なドイツのケルン近郊出身。第二次世界大戦の最中に生まれ、ジャズギタリストの影響を受けたギタープレイヤーでもありました。1950年代には「ビリー・ロレント(Billy Lorento)」の名でジャズギタリストとしてヨーロッパ各地で活躍しています。

ギタリストとして確固たる地位を築きながらピックアップ設計にも積極的に取り組み、他社製のピックアップの内部構造を分析・改良することで、より高品質なピックアップの開発に成功しました。これにより、既存のギターに新たなピックアップを取り付ける「アフターマーケット・リプレイスメント・ピックアップ」という概念を確立しました。

ピックアップ設計への転身

60年代も後期に入ると、ビル氏はニューヨークに移り、交換用ピックアップの製作者として名を挙げていきます。この時期に若かりしラリー・ディマジオ氏やケント・アームストロング氏に、製作法を伝授したという話は有名です。その後、ビル氏はギブソンに招聘され、セス・ラバー氏の後任として開発責任者を務めることになります。

70年代に入るとビル氏は友人でもあったチェット・アトキンス氏の薦めもあり、ナッシュビルに移り、アコースティックギター用のFT-145や、シングルブレードタイプのL-220、伝説的なL-500などを次々生み出します。

ギブソン退社後、ピックアップの製作会社としてBill Lawrence社を設立。上記のL-500などを代表製品としてラインナップに並べ、好評を博します。ビル・ローレンス氏は2013年、惜しまれながら逝去。

家族経営で守られる伝統

ビル・ローレンス氏亡き後も、ブランドは家族の手で受け継がれています。1970年代からの長い歴史の中で培われた技術と理念は、妻であるBecky(ベッキー)氏と娘のShannon(シャノン)氏によって守られてきました。2人は現在もジョージア州マコンの工房でビル氏の設計を忠実に再現しており、家族経営ならではの丁寧な手作業でピックアップを製作しています。

Bill Lawrence・ピックアップの特徴

L500R ZEBRA L500R ZEBRA

Bill Lawrenceピックアップの最大の特徴となっているのが「バー・ポールピース」。チョーキング時にポールピース上を弦が外れることによって、音が切れるのを防止するための設計に基づいたもの。丸い点が並ぶのではなく、一直線に線が引かれたかのような見た目はかなり印象的で、一見するだけでBIll Lawrenceだとわかる個性をも備えています。

70年代中期にナッシュビルで生み出されたピックアップには、すでにバー・ポールピースのL-220やL-500があり、この独自の設計はかなり前から存在したことが分かります。現在、ディマジオ社のツインブレードタイプなど似たような設計のものが存在しますが、いずれもこのBill Lawrence社の製品の模倣と言って差し支えないでしょう。

粘り気とバイト感

サウンドはピッキングに猛烈に追従する独特の粘り気が特徴。特にハムバッカー系のモデルには中域から中高域に掛けてのバイト感と呼ばれる類の要素が豊富に含まれており、これがハードロック、ヘヴィメタル系のアーティストによく好まれる要因にもなっています。シングルコイルは一転してローパワーのものもあり、また当時としては画期的だったシングルサイズハムバッカーもラインナップされています。

ちなみに今現在、本家本元である Bill Lawrence USA と、ビル・ローレンス氏が独立して立ち上げた「WILDE USA by Bill Lawrence」といった2種類のブランドが存在しています。特に WILDE は海外で高い支持を得ており、その人気は本家に勝る勢いです。

Bill Lawrenceピックアップの使用者

初期の使用者としてエアロスミスのジョー・ペリー氏、ブルースギタリストのロイ・ブキャナン氏などが挙げられます。また90年代以降にはエクストリームで有名なヌーノ・ベッテンコート氏、パンテラのダイムバッグ・ダレル氏などがいました。いずれも特徴として挙げられるのは、ピッキングをそのまま写し取るかのような噛みつき感と粘り気、そして強烈なパワーでしょう。テレキャスターでハードなブルースのプレイをするロイ・ブキャナン氏だけが、この中で少しカテゴリ違いのプレイヤーですが、上記の特徴には共通点があります。

元々はジャズのホーンセクションに負けない、パワフルなピックアップを模索したビル・ローレンス氏。製作の方向性はこのようなところに音色として現れているのかもしれませんね。

Bill Lawrenceの定番ピックアップ

L500シリーズ

代表的なモデル「L-500シリーズ」は、1979年に誕生したツインブレード・ハムバッカーです。ステンレス製ブレードコイルによる高い出力と透明感のあるサウンドを両立させたモデル。ハイゲイン系プレイヤーからブルース・ジャズ奏者まで、愛用者は多岐にわたります。

出力の異なるバリエーション(C, R, L, XLなど)が存在し、フロント/リアそれぞれのポジションに合わせて選択できます。

L250シリーズ:ノイズレスなシングルサイズ・ハムバッカー

ストラトキャスター向け「S1,S2,S3」

BillLawrence S2

通常のポールピースを採用したストラト向けのシングルコイル。S1、S2、S3がそれぞれブリッジ、ミドル、ネック用となっています。
低中域を充実させたコシのあるサウンドで、シングルコイルの割に無骨な印象を覚える特徴的な音色です。高域はいわゆるジャキジャキ感こそないものの、それなりに伸びており、シングルコイルらしいレンジの広さを感じさせるための要素となっています。
ビル・ローレンスらしいバイト感はこのピックアップにもしっかり存在し、低ゲインでありながら豊富な低域がそれを感じさせず、特に歪んだ音との相性は良く、音色特性からハムバッカーとの組み合わせも良いでしょう。


本国では多数のラインナップを誇るBill Lawrenceですが、日本で手に入るものは上記の製品に絞られます。それだけに長く愛されてきているロングセラーモデルが多いのもまた事実。少しクセのあるサウンドはそれだけに独特の魅力があり、ハマる人にはこれしかない存在感があります。普通のピックアップに満足できないギタリストの方は、一度試してみてはいかがでしょうか。

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