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エレキギターのピックアップについて調べていくと必ず出会う、「アルニコ」や「セラミック」といった磁石の名前。今回はこの、ピックアップに使う「磁石」について探求してみましょう。
ピックアップにとって磁石は、コイルと並んで電磁誘導に欠かせない根本的な部品であると同時に、種類の違いによってパワーやキャラクターを変化させる、面白みのある素材でもあります。磁石の種類やキャラクターについて知っておくのは、ギタリストにとって利益しかありません。また、PAFタイプのハムバッカー・ピックアップにおいては「磁石を交換する」という改造が可能で、交換用の磁石も流通しています。これについても見ていきましょう。
Custom, Custom 5 and Custom Custom
アルニコVを使った「Custom 5」を基準として提示し、セラミックの「Custom」、アルニコIIの「Custom Custom」の順に紹介している。磁石しか違わないのに、サウンドの印象はかなり異なる。
磁石の違いでサウンドが大きく変化することの実例として有名なのが、セイモア・ダンカン「Custom (SH-5)」、「Custom Custom (SH-11)」、「Custom 5 (SH-14)」の3機種です。
「Custom」は、定番機種「’59 (SH-1)」のコイルを増強して磁石をセラミックに交換した、モダン系ピックアップです。この「Custom」の磁石をアルニコIIに交換したのが「Custom Custom」、アルニコVに交換したのが「Custom 5」です。3機種の違いは磁石だけなんですが、それぞれのキャラクターがしっかり構築されています。
磁石には電磁誘導に充分な磁力が求められますが、強すぎる磁力は弦振動を邪魔してしまいます。ピックアップに使われる磁石には、アンプに送る電気信号を作るのに十分な、それでいて弦振動を邪魔しない程度の、ちょうど良い磁力が求められるわけです。今のところ地球上で最強の永久磁石は「ネオジム磁石」で、小さな寸法で必要な磁力が得られるのがメリットです。
ネオジム磁石を使用したGibson「P-90 DC」。
強力な磁力を頼りに磁石を小型化できるので、本来なら背の高くなるスタック式ピックアップを標準に近いサイズで作ることができる。
磁石の使われ方には、ピックアップの設計によりいくつかのパターンがあります。磁石の使われ方による磁界の違いが、サウンドに影響します。
フェンダー式のシングルコイルでは、ポールピース自体が磁石です。狭く集中した磁界を展開することで、鋭くまた軽やかなサウンドになりやすい傾向にあります。磁石は力を加えると欠けてしまうことがあるため、ポールピースはネジにできず、高さは固定されます。
ギブソン式のシングルコイル「P-90」では、ポールピースの列を棒状の磁石が両側から挟むように配置されます。PAFタイプのハムバッカーでは、2列のポールピースが棒磁石を挟むように配置されます。いずれのタイプも広い磁界を展開することで、丸く太いサウンドを作りやすくなります。またネジ型のポールピースを使用できるので、高さ調節が可能です。
名手ヌーノ・ベッテンコートさんの代名詞的ギター「N4」は、フロントにSeymour Duncan「’59(アルニコV)」、リアにBill Lawrence「L-500(セラミック)」の組み合わせ。
世の中にはさまざまな材料で作られたいろいろな磁石がありますが、ピックアップに使用されるのは「アルニコ」と「セラミック」の2種類が代表的です。1950年代のテレキャスターやレスポールなど、アルニコにはエレキギターの代表モデルで最初から採用された歴史と説得力があり、ヴィンテージ系のサウンドメイキングに必須の存在です。
セラミック磁石を使ったピックアップが脚光を浴びたのは1970年代からで、特にハード/ヘヴィ志向のジャンルで盛んに使用されています。アルニコ磁石は金属なので電気を通しますが、セラミック磁石は非金属なので電気を通しません。磁石が絶縁されていないとアルニコ磁石は抵抗として働き、サウンド面では高域がわずかに丸くなるといわれます。
アルニコ磁石は、数字によって倍音に違いが出ます。倍音の構成によってアンプから出る音が変わりますから、そこに好き嫌いが生まれます。そのジャンルのギタリストが、その倍音成分が好きなんです。また、アルニコ磁石に対してセラミック磁石には倍音こそありませんが、「音が早い(アタックの終息が早い)」という特徴があります。激しく歪んだドライブサウンドでBPMが早く音数も多いようなジャンルでは非常に有効です。
– 藤野州豊(Euphoreal)
《陶酔できるサウンド》Euphorealピックアップ訪問取材
“Welcome 2 Minneapolis” // Live At Montreux Jazz Festival
現代ファンクギターの名手、コリー・ウォン(Cory Wong)さん。シグネイチャー・ストラトキャスターは、アルニコIV(フロント&ミドル)とアルニコV(リア)の組み合わせ。アルニコは長らくVとIIが主流派だったところ、敢えてIVを採用しているところが新しい。
「アルニコ磁石」はアルミニウム(Al)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)を含む合金でできた永久磁石で、他に鉄と微量の銅を含有しています。ピックアップに採用されるのは主にAlNiCo3、AlNiCo2、AlNiCo4、AlNiCo5、AlNiCo8の5種類で、成分の比率や磁力の強さなどいろいろな違いがあります。磁石の性能を表す指標にはいろいろなものがありますが、ギター用ピックアップの分野では「3」が最弱で、それ以外は番号順に出力が上がっていくとされています。
アメリカ合衆国における工業規格(ASTM規格)では、AlNiCo5-7、AlNiCo6、AlNiCo7など他にもいろいろなアルニコ磁石があり、「アルニコV」のようにギリシア数字で表記されることもあります。長い時間を経過させると磁力が衰える性質があり、ヴィンテージタイプのピックアップでは磁力を低下(減磁)させて擬似的に経年変化させるモデルもあります。
Seymour Duncan「ANTIQUITY Humbucker(AQ-HM)」
オリジナルPAFと同じ素材を使用しエイジド加工を施した、ヴィンテージの再現にことことんこだわったモデル。
「アルニコⅡ」は柔らかく明瞭な低音域、広く豊かな中音域、甘い高音域のサウンド傾向を持つ磁石です。豊かなサステインが得られ、ウォーム、クリーミー、まろやか、歌うようだ、などと表現されます。
もともとアルニコIIは、ギブソン「PAF」の材料として仕入れたアルニコVに1965年までしぶとく混入した、いわば異物という立ち位置でした。しかし良い具合に抑えられた弱すぎない出力と甘いサウンドが評価され、「ヴィンテージ系の定番」という現在の地位を強固に築いています。ヴィンテージサウンドを追求しているギタリストは、アルニコⅡのピックアップを一度試してみはいかがでしょうか。
Guns N’ Roses – Paradise City (Official Music Video)
全世界売上3,000万枚以上という異例のヒットとなったデビュー作「Appetite for Destruction(1987)」。リードギターを務めるスラッシュさんは、アルニコIIを使ったセイモア・ダンカン「Alnico II Pro HB(APH-1)」で全編レコーディングした。
Eric Johnson Signature Stratocaster Pickup Set
「アルニコⅢ」はクリアで温かみのある低域、充実した中域、ソフトな高域のサウンド傾向を持つ磁石です。アルニコIIとの比較ではより高域が立ち、低域が柔らかになります。例外的にコバルトを含まない最も非力な磁石で、フロントポジションでのスパークするクリーンやクランチで特に有用です。
フェンダーは安く大量に入手できた戦争余剰品のアルニコIIIを使い、ピックアップを開発したと伝えられます。磁石が非力だったことから、ポールピースとして弦に対峙させる設計に至ったわけです。1955年からはアルニコVに移行しましたが、それゆえにストラトキャスターのデビューイヤーである1954年を象徴する磁石だと言われています。また50年代のギブソンPAFではIIからVまでのアルニコ磁石がランダムに使われたことから、やはりヴィンテージサウンドを象徴する磁石の一つとして扱われています。
Dimarzio DP261
「アルニコⅣ」はIIよりタイトな低域、均一な中域、IIより明るくVより甘い高域があり、総合的に「フラットな音質特性」を持っている磁石です。IIIと同様に50年代のPAFに使用された歴史こそあれ、今のところ他のアルニコほどの個性は認められておらず、ピックアップでの採用例は限定的です。とはいえIIとVの中間的な、それでいてナチュラルで透明感のあるサウンドとブーミーになりすぎない持ち味に注目する愛用者はいて、無視するにはもったいない磁石です。
SEYMOUR DUNCAN SSL-1
最も多くの現行モデルに採用されているのが「アルニコⅤ」です。タイトな低域、わずかに削られたバランスの良い中域、パワフルでシャープな高域を持ち、充分な出力があってピッキングに良く追従します。
歴史上ありとあらゆるピックアップで使われた実績があり、ヴィンテージ/トラッド系からモダン/ヘヴィ/エクストリーム系まで、すべてのジャンルで使用できます。リアピックアップに最適ですが、セラミック磁石のリアに対するフロントとしても大変に優秀です。
SEYMOUR DUNCAN Alternative8
近年注目度を高めている「アルニコVIII」は、太くタイトな低域、存在感のある中域、太くスムーズな高域を持つ磁石で、アルニコVを凌ぐ出力とアルニコならではの豊かな中域、そしてダイナミックレンジの広さが持ち味です。焼けつくほどに苛烈なリードと重厚なリフに理想的で、モダンロックやメタルなどにおけるハイゲイン設定で特に良好です。クリーンやクランチでもサウンドは強力で、ロックバンドの音の壁をしっかり抜けていきます。
DIMARZIO「DP100」
1971年に初号機完成、1974年に製品化したディマジオの代表機種「Super Distortion(DP100)」は、セラミック磁石を使ったピックアップの代表選手でもある。創業者ラリー・ディマジオさんは、師匠のビル・ローレンスさんからセラミック磁石の可能性を学んだ。
「セラミック磁石(フェライト磁石)」は酸化鉄を主原料とした永久磁石で、割れやすい代わりに時間の経過で磁力を失わないのが特徴です。強い磁力を利用した高出力のピックアップに採用されることが多く、低音から高音までバランス良く鳴る、音抜けの良い硬質なサウンドを持ち味としています。
セラミック磁石もアルニコ磁石と同様、USA規格でC1、C5、C8A、C10など多数の番手があります。しかし番手の違いがサウンドに及ぼす影響は確認されておらず、ほとんどのピックアップで単に「セラミック」と表示されます。
アルニコほどのダイナミックレンジはなく、また原価が安いことも手伝い、低価格なギターでの採用例が多い代わりにトラッドなスタイルの高級ギターに使われる例はかなり限定的です。しかし歪ませてもボヤけることのないクッキリとした音像、また高域の鋭い反応はアルニコで代用できるものではなく、モダン系のサウンドメイキングにおける重要な選択肢になっています。
Montreux「Rough Cast Alnico 2 Magnet for HB」
海外ではいろいろなメーカーによるアルニコVIIIやセラミックなど、他にもさまざまな磁石が流通している。しかし送料を考えると、少量での個人輸入はあまりお勧めできない。
自力でギターをカスタマイズできる人にとってはそれほど大変な改造ではないにせよ、今のところ日本国内でピックアップの磁石交換はマニアックなカスタマイズとみなされており、磁石の選択肢はかなり限定的です。なお、アルニコ磁石同士は見た目の区別がほぼ不可能なので、何種類か試すには注意が必要です。
日本国内で一般ユーザーが入手できる交換用磁石は、今のところモントルー一択になっています。ヴィンテージ同様、表面を研磨していないラフキャスト仕様です。
ラインナップはアルニコII、III、IV、Vの4タイプです。
以上、ピックアップの重要部品「磁石」をテーマに見ていきました。性能と歴史からアルニコに支持が集まっている印象ですが、他にもさまざまな磁石があって、次世代の永久磁石も開発されており、面白味と可能性を感じさせます。
使われている磁石をチェックすることで、ピックアップの方向性をある程度は読み取ることができます。自分のギターのピックアップに使われているのはどんな磁石なのか、検討しているピックアップにはどんな磁石が使われているのか、ぜひチェックしてみてください。
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