《Fホールを持ったエレガントなテレ》テレキャスター・シンラインの特徴とおすすめモデル

[記事公開日]2025/1/7 [最終更新日]2025/4/26
[ライター]小林健悟 [編集者]神崎聡

テレキャスターシンライン

「テレキャスター・シンライン(Telecaster Thinline)」は、ホロウ構造のボディにFホールを持ったテレキャスターです。ボディ内の空洞によって本体は軽量化され、エアー感を帯びたサウンドはセミアコに近いキャラクターだと解釈されています。その個性あるサウンドとエレガントなルックスが支持され、現在では様々なバリエーションが生まれています。今回は、テレキャスター・シンラインに注目していきましょう。

小林健悟

ライター
ギター教室「The Guitar Road」 主宰
小林 健悟

名古屋大学法学部政治学科卒業、YAMAHAポピュラーミュージックスクール「PROコース」修了。平成9年からギター講師を始め、現在では7会場に展開、在籍生は百名を超える。エレキギターとアコースティックギターを赤川力(BANANA、冬野ユミ)に、クラシックギターを山口莉奈に師事。児童文学作家、浅川かよ子の孫。

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webサイト「エレキギター博士」を2006年より運営。現役のミュージシャンやバンドマンを中心に、自社検証と専門家の声を取り入れながら、プレイヤーのための情報提供を念頭に日々コンテンツを制作中。


  1. 「シンライン」とは?
  2. 《60's & 70's》二つのテレキャスター・シンライン
  3. 《歴史》テレキャスター・シンラインの歩み
  4. テレキャスター・シンラインのおすすめラインナップ

「シンライン」とは?

今やこのテレキャスターの固有名詞となっている「シンライン」ですが、言葉自体葉はギブソンが起源です。

「シンライン」という言葉は

「薄い(=Thin)ボディのラインナップ」

という意味で、ES-175を代表とするボディの厚いフルアコ(=フルアコースティックギター)とは違う、ES-335を代表とするボディが薄く中央は空洞になっていないセミアコ(=セミアコースティックギター)に使われていました。フェンダーはこれを「セミアコのことをシンラインというのだ」と誤解した、というのが有力な説です。
シンラインが実際に普通のテレキャスターより薄いボディだというわけではありません。

《60’s & 70’s》二つのテレキャスター・シンライン

まずは本家、フェンダーのテレキャスター・シンラインをチェックしてみましょう。シンラインには大きく分けて、60’s(1960年代型)と70’s(1970年代型)の2タイプがあります。まず1968年、エレキギターの軽量化を目指して開発されたシンラインが60’sです。ルックスがだいぶ変わってはいますが、ピックアップなど主要な部品は通常のテレキャスターと同じです。

その4年後、1972年に発表されたシンラインが70’sです。こちらは2基の「ワイドレンジ・ハムバッカー」を備えるなど、大いに装いを変えました。二つの特徴を追ってみましょう。


American Original ’60s Telecaster Thinline | American Original | Fender
こちらは60’s。いかにもなテレキャスターサウンドでありながら、ほのかなエアー感が奥行きを感じさせます。ホロウ部分はそれほど大きくないのでハウリングに強く、歪ませても大丈夫です。


Fender Classic 72 Thinline Telecaster Natural – PMT
こちらが70’s。サウンドには太さと力強さを感じさせますがテレキャスター本来のジャキ感もしっかり残っており、一般的な2ハムバッカーイメージとは少し違う個性的なサウンドです。

ボディ構造は、ほぼ共通

テレキャスターシンラインのボディ構造

フェンダーの場合、ボディの1弦側と6弦側を裏側からくりぬき、板を貼って塞いでいます。ボディ中心は残しているので、セミアコに非常に近い構造だと言えます。また6弦側のFホールがルックス上の大きなポイントになっています。

60’sにはアッシュとマホガニーが、70’sにはアッシュが使用されますが、現代版のシンラインではアルダーなど他の木材が使われる場合もあります。フェンダーの歴史上では、1968年のシンラインが初めてのマホガニーを使ったギターでした。

まったく異なるピックアップ構成

テレキャスター・シンラインのピックアップ
左:Fender Made in Japan Heritage 60s Telecaster Thinline
右:Fender Made in Japan Traditional 70s Telecaster Thinline

60年代当時のフロントピックアップはボディ・マウントが基本でしたが、シンラインではハウリングを懸念してピックガードから吊り下げる方式を取っています。ピックガードマウントによって、より甘いニュアンスのサウンドになります。

一方、70’sには「ワイドレンジ・ハムバッカー」が二つ搭載されます。これはギブソンのPAF型ハムバッカーよりも高音域が豊かにアウトプットされる、一味違うキャラクターを持っています。

ブリッジにも違いが

60’sのブリッジは、当時のテレキャスターをそのまま踏襲しています。当時は鉄製の3連サドルが標準仕様でした。現代の流行はブラス製3連ですが、トラッドな60’sにおいてはやはり鉄製サドルがスタンダードです。いっぽう現代版のモデルでは6連サドルが標準仕様です。

70’sでは、ピックアップをピックガードに搭載することからブリッジは大きく変容しました。ピックアップマウント用のプレートを持たない、いわゆるハードテール・ブリッジで、サドルは6連です。

サウンドはテレキャスターにプラスα

thinline-head

60’s、70’sともに、テレキャスター特有のソリッドなアタックとコシの強い弦振動に、ホロウボディが生み出すエアー感が加わった独特のサウンドになります。複雑な倍音を含んだ、ふくよかで甘いトーンと称されますが、他のセミアコよりもボディが小さい分、得られるエアー感はそれほど際立ったものではありません。若干甘い、また丸いニュアンスが加わるくらいに思っておくのがいいでしょう。セミアコ的ではありありますが、あくまでもテレキャスターのバリエーションととらえるのが一般的です。

リアで歪ませるとパワフルなドライブ感が得られ、太くても重過ぎない印象、フロントではマウント方法の違いも手伝い、甘く澄んだ印象のサウンドです。楽器本体の音(いわゆる生音)は大きくなりますので、アンプにつながない練習がやりやすくなります。


Fender Select 2013 Telecaster Thinline Demo

各社の参入により、バリエーションが増える

Freedom C.G.R. Green Pepper
Freedom C.G.R. TE Pepper Semi Hollow(Green Pepper)
Freedom社はこの分野で随一の個性を発揮している。

フェンダーでは60年代型と70年代型という2タイプを軸とするシンラインですが、後に続くさまざまなブランドからはコピーモデルのほか各社のオリジナリティを反映する多様なモデルが展開されています。特に60年代型を出発点にしたモデルが目立ちますが、フロントピックアップやボディ材に個性が発揮される情勢です。

《歴史》テレキャスター・シンラインの歩み


ポルカドットスティングレイ「アウト」ライブ映像_2024教祖爆誕ワンマン

1965年にCBS社に売却されていわゆる「CBS期」に入ったフェンダーは、60年代型テレキャスター・シンライン(1968)、70年代型テレキャスター・シンライン(1971)、テレキャスター・カスタム(1972)、テレキャスター・デラックス (1973) と相次いで新型のテレキャスターを発表しています。後に続くいろいろなテレキャスターの呼び水となった、シンラインの歩みを見ていきましょう。

60年代型シンライン


Stone Junkie (Live at The Bitter End, NYC)
特にソウル/ファンク、カントリーの分野で使用された。

1960年代後半から軽量なアッシュ材が手に入れにくくなる半面、重いアッシュ材は潤沢に調達できるようになってきました。ここでフェンダーは、軽いアッシュ材のテレキャスターを値上げするより重いアッシュ材で軽いテレキャスターを作ることを選び、ニューモデルの開発に乗り出します。

1968年に完成したテレキャスター・シンラインはボディ材を大胆にくり抜くことで、同じ木材で作った普通のテレキャスターから50%減という軽量化を達成しました。大きなピックガードでフロントピックアップと操作系をまとめる設計で、製造の効率化も前進しています。

70年代型でHH配列に

1970年に開発されたワイドレンジ・ハムバッカーを採用する形で、1971年にテレキャスター・シンラインはモデルチェンジを果たしました。大型のピックガードに両ハムバッカーを含む電気系の一切がマウントされる設計で、製造の効率化ももう一段進歩しています。ワイドレンジ・ハムバッカーはギブソン社のPAF型ハムバッカーと異なる鋭くキレのある力強いサウンドが持ち味で、強化したテレキャスターのイメージにぴったりでした。
この70年代型シンラインは、1979年まで製造されています。

80年代以降、復刻と再評価


Coldplay – A Sky Full Of Stars (Live at River Plate)

1985年にフェンダー社が再興して、CBS期は幕を閉じます。コロナ工場の設立(1985)、メキシコ工場の設立(1987)、フェンダー・カスタムショップの設立(1987)と現在に通ずる生産体制を築く間に、日本製ヴィンテージモデルとしてシンライン・テレキャスター ’69 とシンライン・テレキャスター ’72が復刻され、1998年まで生産されました。

多くの名手の手に渡りながらもビジネス面では成功したと言えなかったシンラインですが、1990年代に入ると従来の王道とは異なる新しい選択肢として注目を集め、ブリット・ダニエル氏(Spoon)やジム・アドキンス氏(Jimmy Eat World)ら、新世代のプレイヤーが愛用するようになります。

テレキャスター・シンラインのおすすめラインナップ

では、テレキャスター・シンラインのラインナップを見ていきましょう。発表当時の姿を再現するヴィンテージモデルが中心ですが、細かなアレンジを加えることで現代のギターとして生まれ変わっています。その一方で高級なモデルでは、容赦ないアレンジで個性や性能を主張するモデルが多く見られます。

画像 製品名 指板
フレット数
ピックアップ 特徴
Fender
Made in Japan Limited Kusumi Color Telecaster Thinline
Rosewood 9.5″ (241 mm)R
Narrow Tall 22F
Hybrid II Custom Voiced Single Coil Telecaster® 基本仕様はHybrid II
Fender
Made in Japan Traditional 70s Telecaster Thinline
Maple 9.5″ (241 mm)R
Vintage 21F
Fender Wide-Range Humbucking (Bridge & Neck) 日本製70年代モデル
Fender
Made in Japan Heritage 60 Telecaster Thinline
Maple 7.25″ (184.1 mm)R
Vintage 21R
Premium Vintage-Style 60s Single-Coil Tele 細部に至るまでヴィンテージを追及う
Fender
American Vintage II 1972 Telecaster Thinline
Maple 7.25″ (184.1 mm)R
Vintage Tall 21F
Authentic CuNiFe Wide-Range Humbucking (Neck & Bridge) 量産機で最高水準の再現性
Fender Custom Shop
Vintage Custom 1968 Tele Thinline
Round-Lam Maple 7.25″ to 9.5″
Vintage Compound Radius (184 mm to 241 mm)
Medium Vintage 21F
Custom Shop Hand-Wound ’67 Single-Coil Tele (Neck & Bridge) 新旧スペックの高次元な融合
LEGEND
LTE-69TL-TT
Maple
22
CS-1 Single Coil, OS-1 Single Coil 驚異的な価格圧縮
SX
STL/H
セレクテッド・カナディアンメイプル (305mmR) W/ ABS Binding
ミディアム 21F
シングルコイルx2 エレガントな装い
Squier by Fender
Classic Vibe ’70s Telecaster Thinline
Maple 9.5″ (241 mm)R
Narrow Tall 21R
Fender Designed Wide-Range Humbucking X2 ワイドレンジ・ハムバッカー
Squier by Fender
Classic Vibe ’60s Telecaster Thinline
Maple 9.5″ (241 mm)R
Narrow Tall 21R
Fender Designed Alnico Single-Coil (Neck & Bridge) フェンダーの設計
SCHECTER
OL-PT-TH
ROSE WOOD
22F
TL Style Single Coil
w/ Direct Mount Front PU
「S」ホールが個性的
FUJIGEN(FGN)
NTE100MAHT
Maple w/ Compound Radius
22F Medium C.F.S.
FGN 52T-HOT-F, FGN 52T-HOT-R フジゲン流現代仕様
FUJIGEN(FGN)
NTE110MMHT
Maple w/ Compound Radius
22F Medium C.F.S.
FGN Alnico 5(Neck), FGN 52T-HOT-R(Bridge) マホガニーボディ&フロントハム
G&L
ASAT CLASSIC BLUESBOY SEMI-HOLLOW
Maple or Rosewood 9-1/2R
22 medium jumbo, nickel
G&L AS4255C Alnico neck humbucker,
Leo Fender-designed G&L MFD single coil bridge pickup
made in Fullerton, California
フェンダーの遺伝子
Suhr
ALT T
Tinted Maple or Indian Rosewood (9″–12″ Compound)
22F Medium Stainless Steel (.055″ × .090″)
SSV (Raw Nickel) Neck & Bridge HH配列シンライン
Freedom Custom Guitar Research
TE Pepper HollowⅡ(Brown Pepper)
Rosewood 280R
Eternal Fret / EI-W-016WARM / 22F
Hybrid HB TypeⅠ & Pepper SPTE 表側からくりぬくホロウ構造
DEVISER
ROSETTEE AKAMATSU WSE’24/E
Ebony 310R
Jescar 9662NS 22F
MIRAGE-H + MIRAGE-T 和材の魅力

全てはここから始まった。本家フェンダーのテレキャスター・シンライン

本家フェンダーでは、ヴィンテージ・スタイルを基本としたモデルを中心にラインナップを展開しています。ヴィンテージ・モデルゆえ、ネック裏をグロス仕上げにする21フレットのモデルが大多数です。左利きに手厚いことでも知られるフェンダーには珍しく、左用のラインナップはありません。

コスパ良好!手に入れやすい価格帯のテレキャスター・シンライン

手に入れやすい価格帯のシンラインは、コピーモデルが主体です。ボディをくりぬく工程が必須なため他のエントリーモデルと比べると価格はちょっと高めになりますが、ホロウボディならではの感触はしっかり味わう事ができます。

音や性能に安心できる、ミドルクラスのテレキャスター・シンライン

高すぎない価格帯のモデルでは、各社の個性を発揮したオリジナルが見られます。最初の一本でいきなり買う事も無理ではない価格ながら機能性能共に充実しており、中級以上のプレイヤーがライブやレコーディングで使用することもできます。

本家を凌駕する勢いの高級モデル

この分野に高級モデルを投入するブランドは多くありませんが、それだけに開発陣の気合いが伝わってくる、ひと癖もふた癖もある強力なモデルがリリースされています。また高級ブランドではカスタムオーダーを受けることが多く、左用を手に入れることも可能です。


以上、テレキャスター・シンラインについて特徴やおすすめのラインナップをチェックしていきました。テレキャスター・スタイル&Fホールを伴うホロウボディという特徴、それ自体に強力な個性を持つギターです。それゆえフェンダー以外の各ブランドは自社の個性をどうやって発揮するか難しいところですが、各社のモデルはこの難題を見事にクリアしています。ぜひ実際にチェックしてみてください。

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