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フェンダーの「テレキャスター・シンライン(Telecaster Thinline)」は、ホロウ構造のボディにFホールを持ったテレキャスターです。ボディ内の空洞によって本体は軽量化され、サウンドにエアー感が加わります。その個性あるサウンドとエレガントなルックスが支持され、現在では様々なバリエーションが生まれています。今回は、テレキャスター・シンラインに注目していきましょう。
今やこのテレキャスターの固有名詞となっている「シンライン」ですが、言葉自体葉はギブソンが起源です。
「シンライン」という言葉は
「薄い(=Thin)ボディのラインナップ」
という意味で、ES-175を代表とするボディの厚いフルアコ(=フルアコースティックギター)とは違う、ES-335を代表とするボディが薄く中央は空洞になっていないセミアコ(=セミアコースティックギター)に使われていました。フェンダーはこれを「セミアコのことをシンラインというのだ」と誤解した、というのが有力な説です。シンラインが実際に普通のテレキャスターより薄いボディだというわけではありません。
シンラインには、60’sと70’sの2タイプがあります。まず1968年、エレキギターの軽量化を目指して開発されたシンラインのスタイルが60’sです。ボディに空洞があってピックガードによりルックスがだいぶ変わってはいますが、ピックアップなど主要な部品は通常のテレキャスターと同じです。
その4年後、1972年に発表されたシンラインのスタイルが70’sです。こちらは2基の「ワイドレンジ・ハムバッカー」を備えるなど、多く装いを変えました。二つの特徴を追ってみましょう。
American Original ’60s Telecaster Thinline | American Original | Fender
こちらは60’s。いかにもなテレキャスターサウンドでありながら、ほのかなエアー感が奥行きを感じさせます。ホロウ部分はそれほど大きくないのでハウリングに強く、歪ませても大丈夫です。
Fender Classic 72 Thinline Telecaster Natural – PMT
こちらが70’s。テレキャスター本来のジャキ感がしっかり残っており、2ハムバッカーというピックアップ構成のイメージとは少し違うサウンドです。
テレキャスターのボディを裏側からくりぬき、板を貼って塞いでいます。ピックアップを収めるボディ中心は残し、1弦側と6弦側をくりぬいているのでセミアコと同じ構造だということができます。また6弦側にはFホールが空けられており、ルックス上の大きなポイントになっています。
60’sにはアッシュとマホガニーが、70’sにはアッシュが使用されますが、現代版のシンラインではアルダーなど他の木材が使われる場合もあります。フェンダーの歴史上では、1968年のシンラインが初めてのマホガニーを使ったギターでした。
左から:69年式、72年式、USA AMERICAN DELUXE
60’sは一見普通のテレキャスターと変らないピックアップが搭載されていますが、フロントピックアップのマウント方法に違いがあります。当時のフロントピックアップはボディに直接マウントされましたが、シンラインではハウリングを懸念してピックガードから吊り下げる方式を取っています。ピックガードマウントによって、より甘いニュアンスのサウンドになります。
一方、70’sには「ワイドレンジ・ハムバッカー」と言われるピックアップが二つ搭載されています。これはギブソンから移籍したハムバッカーピックアップの開発者、セス・ラバー氏がフェンダー用に新たに開発したものです。氏は、「フェンダーギターのサウンドはナチュラルでブライトなサウンドが特徴だ」と考えており、通常のハムバッカーよりも高音域が豊かにアウトプットされる、ギブソンとは一線を画すハムバッカーを考案したのだと言われています。
60’sのブリッジは、当時のテレキャスターをそのまま踏襲しています。当時は鉄製の3連サドルが標準仕様でした。現代の流行はブラス製3連ですが、トラッドな60’sにおいてはやはり鉄製サドルがスタンダードです。いっぽう現代版のモデルでは6連サドルが標準仕様です。
70’sでは、ピックアップをピックガードに搭載することからブリッジは大きく変容しました。ピックアップマウント用のプレートを持たない、いわゆるハードテール・ブリッジで、サドルは6連です。
60’s、70’sともに、テレキャスター特有のソリッドなアタックとコシの強い弦振動に、ホロウボディが生み出すエアー感が加わった独特のサウンドになります。複雑な倍音を含んだ、ふくよかで甘いトーンと称されますが、他のセミアコよりもボディが小さい分、得られるエアー感はそれほど際立ったものではありません。若干甘い、また丸いニュアンスが加わるくらいに思っておくのがいいでしょう。
リアで歪ませるとパワフルなドライブ感が得られ、太くても重過ぎない印象、フロントではマウント方法の違いも手伝い、甘く澄んだ印象のサウンドです。楽器本体の音(いわゆる生音)は大きくなりますので、アンプにつながない練習がやりやすくなります。
Fender Select 2013 Telecaster Thinline Demo
では、テレキャスター・シンラインのラインナップを見ていきましょう。発表当時の姿を再現するヴィンテージモデルが中心ですが、細かなアレンジを加えることで現代のギターとして生まれ変わっています。
「アメリカンオリジナル」シリーズで再現された60’sシンラインは、名機の姿を確実に再現しつつ、現代的なアレンジも加えた弾きやすいギターです。ボディはアッシュ、指板は現代的な9.5インチRとなっています。このモデルのために作られた「60s Telecaster Thinline」ピックアップは、60年代後期のシンラインが持っていたトーンを現代によみがえらせます。
American Original ’60s Telecaster Thinline | American Original | Fender
いかにもテレキャスターな、そしてどこかに奥行きを感じさせる、魅力あるサウンドです。
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ブリット・ダニエル氏は、USAインディーズシーンの重鎮として人気を集めるSpoon所属のボーカリストです。氏のシグネイチャーモデルは60’sシンラインをベースに、アルダー製ボディ、カスタムショップ製手巻きピックアップとS-1スイッチを備えています。S-1スイッチでは、両シングルコイルの直列/並列を切り替えられます。
Spoon – Full Performance (Live on KEXP)
シンラインがとても音の良いギターだと分かる一方で、ギターや鍵盤を鳴らしながら効果的なノイズを放つ、アレックス・フィッシェル氏が気になってしょうがない、そんなライブです。
「デラックステレ・シンライン」は、60’sシンラインをしっかりモダン路線へアレンジした、現代版のシンラインとして仕上がっています。アルダー材に変更されたボディは2色が選べ、3トーンサンバーストではパーフェロー指板、キャンディアップル・レッドではメイプル指板となります。素早い弦交換と安定したチューニングを可能とする「ロック式ペグ」、ハイポジションでの演奏性を高める「ヒールカット」、ハムノイズを除去する「ノイズレスピックアップ」、オクターブチューニングとサスティンに優れる「6連ブロックサドル」といった嬉しい性能に加え、4WAYセレクタースイッチの操作で二つのシングルコイルを直列につなぐ「疑似ハムバッカー」のサウンドが得られます。指板Rがやや平たい12インチとなっており、アコギに慣れた人でも持ち替えがスムーズです。
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日本製の60’sシンラインは、フェンダー・カスタムショップのマスタービルダーだったマーク・ケンドリック氏の監修を得てブラッシュアップされています。この年代独特のボディ形状やネックシェイプ、ピックアップ内のワイヤー、ボディカラーなどを徹底的に再現することで、ヴィンテージ・スタイルのギターとはどのようなものかがしっかり分かります。
7.25インチ指板Rにヴィンテージ・スタイルの小さなフレットが打ち込まれる、まさにその時の弾き心地で演奏ができます。
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スクワイアの70’sシンラインは、ボディにソフトメイプルを使用、ネック接続は4点留めというアレンジです。9.5インチRの指板とナロートール・フレットという組み合わせは、コードを押さえるのに有利に働きます。可能な限り名機を再現しており雰囲気充分ですが、何よりフェンダーと同じワイドレンジ・ハムバッカーを搭載しているところが最大のポイントです。ワイドレンジハムバッカーの持つ独特なトーンが、たいへんお求めやすい価格で手に入ります。
「カルボニータ・シンライン」は、セミホロウ構造のボディとジャズマスターのピックアップという、ありそうでなかった珍しい組み合わせです。ジャズマスターのピックアップは、テレキャスターとはまた違った独特のジャキジャキ感が得られます。フェンダー系のシングルコイルとしては珍しく、ポールピースの高さ調節ができるため、弦ごとの音量バランスを整えられます。
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フェンダー・カスタムショップによる「ヴィンテージカスタム1968テレ・シンライン」は、手巻きピックアップを備える究極のシンラインです。ラウンド貼りのメイプル指板は、開放弦の7.25インチRから最終フレットの9.5インチRまで変化する「コンパウンド・ラジアス」仕様です。ちょっと大きめのミディアム・ヴィンテージフレットとのマッチングで、トラッドとモダンの融合した演奏性を味わうことができます。
ちなみに、かつてシンラインのデビューは1969年だったというのが定説だったところ、近年になってそれが1968年に改められました。旧モデルに69年式を名乗るものが多いのは、そのためです。
アッシュ製セミホロウボディの「アメリカン・エリート・テレキャスター・シンライン」はフェンダーUSAの上位シリーズで、現在のフェンダー社が提供しうる究極の「サウンド・クオリティ・スペック」を追求する最新アップグレード版です。3種類のカラーリングがあり、指板はメイプルのみとなっています。
本機には新開発の「サスペンション・ブリッジ」が採用されています。「サスペンション」な「吊り下げる」という意味ですが、ネジを使用せず弦の張力を利用して、ボディに固定されます。弦をボディの裏から通す従来のスタイルではなく、弦はブリッジ自体に固定されます。この方式を採用することによって、かつてない豊かな音響性能とサスティンが得られました。
ローポジションは丸くてコードを押さえやすい、ハイポジションになるにつれて徐々に平らになっていきチョーキングがやりやすくなる、高機能な指板です。フェンダーの伝統的な丸い指板よりも弦高を下げることができます。
ノイズレス・テクノロジーの第3世代を意味する「NEW N3 Noiseless Pickup」を採用。伝統的なトーンを、ノイズに怯えることなくアウトプットできます。
Fender USA CLASSIC SERIES ’69 TELECASTER THINLINE
など、当時のスペックを忠実に再現したモデルが、USA、ジャパンからは「Fender Japan TN70/MAHO」、Squireからは「Squire Classic Vibe Telecaster Thinline」としてそれぞれリリースされています。
Fender USA CLASSIC SERIES ’72 TELECASTER THINLINE
という当時のスペックを再現したモデルはUSAとジャパンからは「Fender Japan TN72」としてリリースされています。USA版のピックアップはワイドレンジ・ピックアップとなっています。
「シンライン・デラックス」は、マホガニーボディのシンラインに、P-90タイプのピックアップを搭載させたテレキャスターです。ボディ構造からすでに個性ができ上っている新ラインですが、ピックアップによってさらに新しいギターへと転生させています。ピックガードのデザインにアレンジが加えられており、通常のシンラインと大きく異なった印象を演出していますね。
ボディにマホガニー材を採用、中域が豊かでウォームなトーンが得られるモデルです。その他ビンテージスタイル・フレット/ビンテージスタイル・シングルコイル・ピックアップ/メイプルネックというスペックです。細かな点ですが、ヘッドのロゴデザインが60年代中期に採用されたトランジションロゴ(通称「トラロゴ」)と呼ばれる大きく太い字体となっているのが、このモデルの特徴となっています。
ボディにアッシュ材を採用、フェンダーオリジナル・ラージハムバッカー2基搭載、ブリッジは6点支持サドルと、70年代テレキャスターのスタイルを基にしながらも個性が光るモデルです。Natural/Surf Green/US Blondeという爽やか系のカラーリングの3本がラインナップされています。
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