ストラト用ヴィンテージ系シングルコイル・ピックアップ特集

[記事公開日]2025/4/7 [最終更新日]2025/4/26
[ライター]森多健司 [編集者]神崎聡

ストラト用シングルコイル

フェンダーが開発したピックアップと言えばシングルコイル・ピックアップ。ハムバッカーに比べ出力が低く、ノイズに悩まされやすいといった、一見すると難しい存在でありながら、そのナチュラルな出音、煌めきのある高域、豊かなダイナミックレンジなど、サウンド面では多くの魅力を持ち、現在でもハムバッカーと人気を二分する存在です。ストラト、テレキャスなどに付けられているものが特によく知られていますが、今回はストラト用シングルコイル、中でも50~60年代に製造された”ヴィンテージ”のピックアップや、再現モデルを取り上げます。


  1. ストラト用ピックアップの推移
  2. ヴィンテージシングルコイルを理解する要素
  3. Fender純正のヴィンテージ系シングルコイル
  4. 他社製のヴィンテージ系シングルコイル
    1. SEYMOUR DUNCAN
    2. DIMARZIO
    3. SUHR
    4. VAN ZANDT

ストラト用ピックアップの推移

1954年~1959年

レオ・フェンダーがストラトキャスターを生み出したのは1954年。この際に登場した最初期のストラト用ピックアップは、底面の土台となるボビンが黒色の「ブラックボビン」(後述)を採用し、磁力が極めて弱いアルニコ3マグネットが使用されています。当時ボディにはアッシュ材が使用されており、ピックアップ自体はその磁力の弱さから低出力でした。この時期のモデルは販売された数も少なく、仕様以前に個体差が大きいため、サウンドの傾向を一言に述べることは難しくなっています。

ヴィンテージ系シングルコイル雛形の完成

翌年55年以降ストラトの仕様は徐々に定着化していき、ピックアップにもドラスティックな変更がおこなわれています。まず、アルニコ3に代わりハイパワーなアルニコ5マグネットの使用、ポールピースにはそれまでの「トールD」から、G(3弦)部分が高い「トールG」を採用、そしてコイルのターン数もより多くなり、およそ8,000回転となりました。よりハイパワーとなったこの仕様こそ、現在も続くヴィンテージ系シングルコイルピックアップの雛形となりました。

アルダー材の採用、よりふくよかな音へ

56年はボディ材が硬めの音を得意とするアッシュから、より中域にピークを持つアルダーへと変わりゆく時期にあたります。今まで以上に高出力に振ったピックアップの仕様変更と相まって、ストラトはよりふくよかな音色を獲得しました。その結果、それまで以上に多様なジャンルに適合させせることが可能となり、ストラト特有の守備範囲の広さがこの時点ですでに生まれつつあったことを窺わせます。

1959年~1964年

54年に登場したブラックボビンピックアップは60年代に入ってもそのまま使用されています。この時期は64年半ばのCBSによるフェンダー買収前夜という意味を込めて「Pre CBS」と言われます。この時期のストラトはより太く粘り気がある音になったと言われていますが、その変化の原因はピックアップによるものではなく、指板にローズウッドが使われだしたことであるという見解が一般的です。

ローズウッド指板は58年に誕生したジャズマスターに初めて使用され、それが好評だったためストラトにも使われるようになったという経緯があり、それまでストラトはメイプルの指板とネック(1ピースメイプルの削り出し)が通常仕様だったのです。

1964年後半~1968年前半

64年半ばにCBS(当時の正式名称は”Columbia Broadcasting System”)にフェンダーが買収されます。買収に伴い、ストラトも様々な仕様変更が行われますが、ピックアップについても例外ではなく、それまでのブラックボビンから「グレイ・ボビン」への変更が見られます。グレイボビンにおいては、線材がそれまでのフォームバーワイヤーからプレーンエナメルワイヤーに変更されました。

この変更の影響は少なくなく、フォームバーに比べてプレーンエナメルの被膜はより薄いためコイル自体の体積が減少、そのためにこの時期からのピックアップはハイが以前よりもはっきり出るようになっています。50年代のものに比べると、パワー感があまり変わらないままに高域部のレンジはさらに広くなり、当時登場していた貼りメイプル指板との組み合わせもあり、この時期のストラトはブライトなサウンドが特徴です。

68年製はジミ・ヘンドリックスがウッドストックで演奏したことにより、世界で最も有名なストラトの一つとなりましたが、この時期のサウンドの傾向もこの音を想起することで容易にイメージすることができます。

1968年後半~

70年代に入る直前、すでに現在と変わらないほどにアンプの大型化、大出力化が完了していました。ストラトには抵抗値、コイルの巻数などを減らしたピックアップが搭載されるようになっていきます。ロックの隆盛によるアンプ音量の肥大化に伴い、ギター側を少し非力に調整したためですが、結果としてより低出力でかつ高域に寄ったサウンドを得ることになりました。ネックには硬質なポリエステル塗装が施されるようになり、徐々に現代風なスペックが見えるようになってきます。

70年代も半ばに差し掛かると、CBS社で顧問をしていたレオ・フェンダーが一線を退き、それとともにフェンダーブランドのギターは著しくクオリティが低下していきます。故にヴィンテージと純粋に呼べるのはこの時期のものまでであり、76年あたりを境にして品質に疑問の付くものが市場に出回るようになりました。当時は他にも様々な要因があれど、中でもこの品質低下は経営に直接影響を及ぼした大きな要因の一つでした。売上が大きく低迷し、CBSはとうとうフェンダーを手放すに至ります。レオ・フェンダーの意思を受け継いだ優れたギターをフェンダー社が再度開発し始めるのには、日本のフジゲンなどの手助けで社が再興される、1985年を待たねばなりませんでした。

ヴィンテージ・シングルコイルを理解する要素

ヴィンテージ・シングルコイルはどのようなものだったのか、当時の素材構成を見て理解していきましょう。

マグネットはアルニコ「2」「5」どちらか

すべてのモデルでアルニコ・マグネットが使用されています。アルニコの磁力は3→2→5の順で強くなり、磁力が強いほどパワーも強くなる傾向にありますが、ストラトの場合、54年の最初期ではアルニコ3、その後5へと変更されたのは既述の通りです。現在市販されているヴィンテージ系ピックアップでも、この時期のモデルを踏襲しているため、アルニコ2、5のどちらかが使用されています。

アルニコは経年により磁力が低下する

アルニコマグネットは経年により磁力が低下する「減磁」という現象が起きます。50年代に作られたピックアップなどはすでに70年近くが経過しているため、磁力は大なり小なり減衰しています。そのため、当時のピックアップのサウンドを、文字通り現在そのままに味わうことはすでに不可能と言ってよく、そのため当時の製法をもって再現を試みている数々の製品は大きな存在意義を持ちます。

ボビンの色

ボビンはピックアップの土台と天井部分に装着されコイルを挟んでいる部品のことで、特に底ボビンについてはピックガードを外すことで容易に確認できるため、ブラックボビン、グレイボビン等といった色についての言及はおもに底面のボビンについて行われます。現代においてほとんどのシングルコイルはブラックボビンなので、これについては見慣れている人も多いでしょう。

ボビン

グレイボビンは現在では非常に希少となっていますが、82年にフジゲンのOEMで制作されたAmerican Vintageシリーズの初期ロットには「レッドボビン」のものが存在し、こちらもこの時期の同モデル特有の希少な存在として知られています。

ワイヤーコーティング剤

現行モデル「American vintage Stratocaster」のピックガードをひっくり返した様子

巻線のコーティング剤には、フォームバー(Heavy Formver)、プレーンエナメル(Plane Enamel)の二種類が使われており、前述の通り60年代なかばにフォームバーからプレーンエナメルへ移行しています。現在の主流はそのどちらでもないウレタン系で、フォームバーはかなり少数派になりつつありますが、50年代以前のサウンドを得るため、あえてフォームバーを使用するといったケースは現在でも往々にして見られます。

ちなみにワイヤーは他にも巻数によって出力やサウンドの傾向をコントロールするなど、ピックアップの根幹となる設計思想を反映する部分です。当時のフェンダーはほぼ手作業でワイヤリングをしていたため、製品によって巻数や巻き方などに差が生まれることとなり、それが個体ごとの音色の差に直結しています。

スタッガード・ポールピース

各弦ごとの出力バランスを考慮し、ポールピースに高さの差を設けたスタッガード設計(Staggered)も特徴の一つです。54年最初期のものは4弦(D)部分が高い「トールD」だったものが、後に3弦(G)が高い「トールG」となりました。当時はアコースティックギターと同じく、3弦には巻き弦が使用され、振動が最も緩やかだったことに起因します。

ストラトキャスターのピックアップは、74年にフラット・ポールピースが採用されるまで一貫してトールG仕様が続けられ、現在でもヴィンテージ系のシングルコイルといえばトールG仕様が一般的です。ダンカン社の製品には同じ仕様ながらポールピース部だけが違う、スタッガード設計、フラット設計の両方をラインナップしているものもあります。

Fender純正のヴィンテージ系シングルコイル・ピックアップ

ここからはメーカーがリリースするヴィンテージ系シングルコイルを紹介していきます。本家フェンダーでは、カスタムショップとレギュラーラインナップからそれぞれヴィンテージを意識したモデルが登場しています。

Custom Shop「Fat ’50s / Custom ’54 / Fat ’60s / Custom ’69 / Texas Special」

Fender Custom Shopピックアップ Fat ’50s

フェンダー・カスタムショップの名を冠するヴィンテージ系ピックアップのシリーズは多彩なラインナップを誇ります。それぞれ名前に入っている年代をイメージして作られていますが、純然たる再現ではなく、うまく現代的なニーズを拾う形で音色が整えられ、新たに作られた”ネオ・ヴィンテージ”とも呼べるピックアップです。

50年代が意識された「Fat ’50」、「Custom ’54」については、当時と同じフォームバーコーティングのワイヤーを使用し、レンジの広さとベルのような鳴り、繊細な響きを特徴としています。また「’60」と名が付くモデルについてはプレーンエナメルのワイヤーが使用され、よりパンチの効いた中域、タイトな低域、高い出力が特徴となっており、ジミ・ヘンドリックス、リッチー・ブラックモアのようなサウンドがイメージされています。

それぞれ「Fat」と付くモデルは名前の通り中低域により厚みが持たされており、「Custom」についてはもう少し繊細かつレンジの広い低~中程度の出力を持つシリーズ、さらにそのどちらでもない名称を持つ「Texas Special」はSRVサウンドを狙った設計がなされており、ヴィンテージタイプからさらに巻数を増やすことで、中域と出力がより強くなり、粘り気のあるサウンドが得られます。

これらのピックアップはFender純正である上に、新品がすべてリーズナブルな価格でのセット販売となっていることもあり、非常に高い人気を誇っています。

詳しく見る:
Fender Custom Shopモデル – 《シングルコイルの絶対基準》フェンダーのピックアップ

Pure Vintage ’59 / ’65

Pure Vintage Pure Vintage ’59

上に挙げたCustom Shopのシリーズに比べると、より純粋なヴィンテージ傾向にあるシリーズがこちらのPure Vintage。50年代後半から60年代前半に使われたものを再現した’59、そして60年代後半に使用されていたものを再現した’65の二種がラインナップされています。いずれも出力が大人しめである分、微細なピッキングをそのまま伝達するような繊細さを持っており、幅広いダイナミックレンジも相まって、多彩な表現ができるピックアップとなっています。’59は’65に比べより高域の再生が強く、ドシッとした印象の’65、明瞭な’59といったサウンドの違いがあり、いずれも魅力的です。

Pure Vintageを…
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他社製のヴィンテージ系シングルコイル

SEYMOUR DUNCAN

DIMARZIO

SUHR

VAN ZANDT

未だに根強い人気を誇るヴィンテージ系シングルコイル。本当にヴィンテージそのままのサウンドのものから、昨今のプレイスタイルに適応できるようマイナーチェンジを施したものまで、一口に語り切れない多彩なラインナップがあります。ピックアップの世界では特に「ヴィンテージ系」の勢いは強く、現在では一つの大きなカテゴリとして確立されるに至っています。

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