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現在私たちが「レギュラーチューニング」と呼んでいる普通のチューニングは、ギターがイタリアやスペインで発展していった過程で完成されたものです。それとは違う「イレギュラー(変則)チューニング」と呼ばれるものの中には、他の文化圏や他の楽器で完成されたチューニングをギターに転用したものも数多く存在します。こうしたチューニングを主に使用する人たちにとってはこれが本来のチューニングであって、「イレギュラー」だなんて失礼な話なわけです。ここではそんな、違う文化圏に由来するチューニングを見ていきましょう。
「DADGADチューニング」はその名の通り、6弦から「D、A、D、G、A、D」の順に設定するチューニング法です。「ダドガド」や「ダドガッド」のような呼びかたで親しまれています。オープンDチューニング(DADF#AD)に近い合わせ方ですが、開放弦を鳴らすとDsus4が響き、「アイリッシュ系御用達」と言われるようにアイリッシュ系のサウンドの要となっています。
レギュラーチューニングからかなり遠ざかってしまった印象のあるチューニングですが、
というメリットがあり、慣れてしまえば強力な武器になります。
Degree | I | IIm | IIIm | IV | V | IVm |
Mind | D | Em | F#m | G | A | Bm |
Tab | 0 0 2 0 0 0 |
0 0 0 0 2 2 |
2 2 2 2 4 4 |
0 0 0 0 5 5 |
2 0 0 2 0 × |
0 0 2 0 2 ×(2) |
Sound | D | Em7(11) | F#m7(11) | G(9) | A7 | Bm7 |
3rd | × | ○ | ○ | × | × | ○ |
DADGADチューニングにおける、Dキーのダイアトニックコードの例
表の読み方:「Mind」は「ギタリスト自身の考え方」で、「Sound」は「実際に鳴っているサウンド」です。ギタリストはGだと思って弾くんだけど、実際には9thが含まれている、といったわけです。「3rd」は、それぞれの響きに「3度」が含まれているかどうかを示しています。×なら3度は含まれていません。
BOSS BD-2 vs BD-2W WAZA Craft 【Supernice!エフェクター】
1:01〜1:40、2:17〜2:39のバッキングでDADGADチューニングを採用している。ロック的なアプローチにも使えるチューニングであることがわかる
「DADGADチューニング」は、「主要三和音(I、IV、V)」に3度が入らず、マイナーコードには入るのが特徴です。キーはDが最も演奏しやすく、他のキーで演奏するにはカポタストを使用するなどの対応がベストです。
VとVIm以外は6弦がベース音、5弦が5度(Vimは5弦がベース音、6弦が5度)になっているので、「パワーコード」として使用できるほか、ルートと5度を交互に鳴らす「オルタネイトベース」を演奏することがたやすくできます。IIIm以外は指を開く必要がないシンプルな押さえ方なので、挑戦しやすいチューニングです。
「ダデッド」と呼ばれることもある「DADEADチューニング」はDADGADチューニングから3弦を1音半下げたチューニングで、ケルト風のサウンドを持っています。開放弦を全て鳴らすとD(9)が響きますが、後述するようにマイナーキーでも使用できるのが大きな特徴です。
Degree | I | IIm | IIIm | IV | V | IVm |
Mind | D | Em | F#m | G | A | Bm |
Tab | 0 0 0 0 0 0 |
0 0 0 0 2 2 |
2 0 0 4 4 4 |
0 0 0 0 5 5 |
2 0 0 2 0 × |
0 0 2 0 2 ×(2) |
Sound | D(9) | Em7(11) | F#m7 | G69 | A | Bm7 |
3rd | × | × | × | × | × | ○ |
DADEADチューニングにおける、Dキーのダイアトニックコードの例
()内は5度として使用可能。
表の読み方:「Mind」は「ギタリスト自身の考え方」で、「Chord」は「実際に鳴っているサウンド」です。ギタリストはGだと思って弾くんだけど、実際には6thと9thが含まれているわけです。「3rd」は、それぞれの響きに「3度」が含まれているかどうかを示しています。×なら3度は含まれていません。
「DADEADチューニング」はVIm以外の和音に3度が入らない、透き通ったサウンドを持っているのが特徴です。押さえ方を工夫することで3度が入るようにすることもできます。やはりキーはDが最も演奏しやすいです。
ほとんどのコードが指二本で押さえられる簡単さで、パワーコードやオルタネイトベースについてもDADGADチューニング同様にたやすく演奏することができます。
Degree | Im | bIII | IV | V | bVI | bVII |
Mind | Dm | F | Gm | Am | Bb | C |
Tab | 0 0 1 0 0 0 |
0 0 0 0 3 3 |
0 0 0 0 5 5 |
2 0 0 2 0 x(2) |
0 0 1 0 1 ×(3) |
0 0 0 2 3 ×(5) |
Sound | Dm | FM7(13) | Gm69 | Am | BbM7(9) | C69 |
3rd | ○ | ○ | × | × | ○ | ○ |
DADEADチューニングにおける、Dマイナーキーのダイアトニックコードの例
()内は5度として使用可能。
表の読み方:「Mind」は「ギタリスト自身の考え方」で、「Sound」は「実際に鳴っているサウンド」です。ギタリストはFだと思って弾くんだけど、実際にはM7と13thが含まれているわけです。「3rd」は、それぞれの響きに「3度」が含まれているかどうかを示しています。×なら3度は含まれていません。
「DADEADチューニング」の大きな特徴として、「マイナーキーに対応しやすい」という点が挙げられます。これらマイナーキーのコードをメジャーキーでアクセント的に使用するというアイディアも、アレンジのテクニックとして頻繁に使用されます。コードを押さえるのも簡単で、レギュラーチューニングではかなり押さえるのが難しい「FM7(13)」や「BbM7(9)」が指二本でできてしまいます。
DADGAD/DADEADの練習
アイリッシュ系の代表曲「The Water Is Wide」のコード進行を使って、DADGADチューニングやDADEADチューニングの練習をしてみましょう。レギュラーチューニングで弾くサウンドと比べると、こうしたチューニングには強烈な個性と独特の雰囲気があるということが良く分かりますよ。 Karla Bonoff - The Water Is Wide (audio) 「The Water Is Wide」コード進行の例
ギター博士「DADGAD/DADEADチューニングは、普段からドロップDチューニングに慣れ親しんでいる人なら、すんなり導入できると思うゾ。独特のテンションコードを、まずは楽しんでみて欲しいナ♫」
「DGDGCDチューニング」は、開放弦を鳴らすとGsus4が響く、透明感のあるチューニングです。Dのキー専用のDADGADチューニングをGのキーに転用したイメージになっています。
Degree | I | IIm | IIIm | IV | V | IVm |
Mind | G | Am | Bm | C | D | Em |
Tab | 0 2 0 0 0 x(0) |
0 0 0 2 2 x(2) |
2 2 2 0 4 x(4) |
0 0 0 0 5 x(5) |
0 0 2 0 2 0 |
0 2 0 0 0 2 |
Sound | G | Am7(11) | Bm7(11) | C(9) | D7 | Em7 |
3rd | × | ○ | ○ | × | × | ○ |
DGDGCDチューニングにおける、キーGのダイアトニックコードの例
()内は5度として使用可能。
表の読み方:「Mind」は「ギタリスト自身の考え方」で、「Sound」は「実際に鳴っているサウンド」です。ギタリストはGだと思って弾くんだけど、実際には9thが含まれているわけです。「3rd」は、それぞれの響きに「3度」が含まれているかどうかを示しています。×なら3度は含まれていません。
「DGDGCDチューニング」もGDBGDBチューニングと同様、Gが最も演奏しやすいキーです。主要三和音に3度が含まれない澄んだサウンドを持っているのが特徴です。IからIVまでが5弦をベースとしており、6弦に5度を求めることができます。
「DGDGADチューニング」は、上述したDGDGCDチューニングの2弦を1音半落としたものです。DADGADに対するDADEADのような立ち位置にいるチューニングで、キーはGを基調とし、メジャーキーでもマイナーキーでも使用することができます。
Degree | I | IIm | IIIm | IV | V | IVm |
Mind | G | Am | Bm | C | D | Em |
Tab | 0 0 0 0 0 x(0) |
0 0 0 2 2 x(2) |
0 0 4 4 4 x(4) |
0 0 0 0 5 x(5) |
0 0 0 4 2 0 |
0 0 0 0 0 2 |
Sound | G(9) | Am7(11) | Bm7 | C(69) | D | Em7(11) |
3rd | × | × | ○ | × | ○ | ○ |
DGDGADチューニングにおける、メジャーキーのダイアトニックコードの例
()内は5度として使用可能。
表の読み方:「Mind」は「ギタリスト自身の考え方」で、「Sound」は「実際に鳴っているサウンド」です。ギタリストはGだと思って弾くんだけど、実際には9thが含まれているわけです。「3rd」は、それぞれの響きに「3度」が含まれているかどうかを示しています。×なら3度は含まれていません。
DGDGCDチューニングと比べ、「IIIm」がちょっと押さえやすくなったのが大きなポイントです。3弦と4弦の音が近く、緊張感や浮遊感のある響きが簡単に得られます。こんどはマイナーキーでのコードを見てみましょう。
Degree | I | bIII | IVm | Vm | bVI | bVII |
Mind | Gm | Bb | Cm | Dm | Eb | F |
Tab | 0 1 0 0 0 x(0) |
0 0 3 0 3 x(3) |
0 0 0 0 5 x(5) |
0 0 0 3 2 0 |
0 1 0 0 0 1 |
0 0 0 0 2 3 |
Sound | Gm | BbM7 | Cm69 | Dm(11) | EbM7 | F6 |
3rd | ○ | ○ | × | ○ | ○ | ○ |
DGDGADチューニングにおける、マイナーキーのダイアトニックコードの例
()内は5度として使用可能。
表の読み方:「Mind」は「ギタリスト自身の考え方」で、「Sound」は「実際に鳴っているサウンド」です。ギタリストはBbだと思って弾くんだけど、実際にはM7が含まれているわけです。「3rd」は、それぞれの響きに「3度」が含まれているかどうかを示しています。×なら3度は含まれていません。
マイナーキーでは3度が入ることが多い、豊かなサウンドになります。このように民族系のチューニングにはキーの制約がある半面、比較的カンタンな押さえ方で自動的にテンションが加わります。雰囲気のある響きが容易に手に入るのは大変大きなメリットだと言えるでしょう。
「GBDGBDチューニング」は、三和音をそのまま二つ並べたチューニングで、ラップスチールやドブロで使用されていたものです。開放弦を全部鳴らすとGが響くことから「Gチューニング」とも言われますが、オープンGとは区別されています。オープンGチューニングの5弦と6弦を上げたものに相当するので、オープンGに慣れている人にとっては挑戦しやすいでしょう。
Degree | I | IIm | IIIm | IV | V | IVm |
Mind | G | Am | Bm | C | D | Em |
Tab | 0 0 0 0 0 0 |
0 0 0 0 1 2 |
0 0 2 0 0 3 |
0 0 0 2 1 x(0) |
0 0 2 0 3 ×(2) |
0 0 0 2 x(0) ×(4) |
Sound | G | Am7(9,11) | Bm7 | CM9 | D6 | Em7 |
3rd | ○ | ○ | ○ | ○ | × | ○ |
GBDGBDチューニングにおける、Gキーのダイアトニックコードの例
()内は5度として使用可能。
表の読み方:「Mind」は「ギタリスト自身の考え方」で、「Sound」は「実際に鳴っているサウンド」です。ギタリストはDだと思って弾くんだけど、実際には6thが含まれているわけです。「3rd」は、それぞれの響きに「3度」が含まれているかどうかを示しています。×なら3度は含まれていません。
「GBDGBDチューニング」は、V以外のコードすべてに3度が入る、豊かな響きを持っています。Vにおいても押さえ方を工夫することで3度を含ませることができます。
キーはGがもっとも演奏しやすいでしょう。5弦と6弦のチューニングを上げることになるので、5弦のところに4弦か細めの5弦を、6弦のところに5弦か細めの6弦を張るのがお勧めです。
3~6弦を1オクターブ上げたチューニングを、「ナッシュビルチューニング」と言い、構成音は通常「e、a、d、g、B、E」と表記されます。3弦の「g」は1弦の「E」より高くなります。普通のギターではさすがにここまで上げることはできませんが、
が最も一般的なセッティングです。
変則チューニングとはいえ1オクターブ違うだけなので、「レギュラーチューニングと同じコードの押さえ方が使える」のが大きなメリットです。高い音が多くなるのでキラキラしたサウンドになりますが、特にアルペジオを演奏すると実に面白いことになります。
このような普通のアルペジオをレギュラーチューニングで演奏すると、
このような普通のサウンドになります。いっぽうナッシュビルチューニングで演奏すると6~3弦が1オクターブ上がりますから、
このように高音域に集中した「クローズな配列」になり、近接する音同士がぶつかり合って、ギターとはとても思えないサウンドになります。
ナッシュビルチューニングは12弦ギターの細い方の弦を張ったものに等しいチューニングです。この特性を利用した「疑似12弦ギター」という裏ワザは、レコーディングでよく使われるといいます。レギュラーチューニングの普通のギターと一緒に、全く同じに演奏すると、まるで12弦ギターを弾いているかのように聞こえるわけです。
以上、さまざまなチューニングを紹介しました。目的に合わせてチューニングを使い分けることができるのも、ギターの面白さの一つです。たとえばレッド・ツェッペリンの「Rain Song」はDGCGCDチューニングが使用されていますが、これはジミー・ペイジ氏が自ら編みだしたものだと言われています。ギターにはいろいろなチューニングがありますが、さらに新しいチューニングを作って新しい音楽を作り上げるという試みは今なお行われています。ギターには「チューニングはこうでなければならない」というルールはありません。頭をやわらかくし、いろんなチューニングを試して新しい世界に触れてみてください。
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