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EVH Wolfgang Special
アンプやエフェクターの解説で見かけることのある「ブラウンサウンド」という謎のワード。はて、コレはどういう音なのでしょうか。実は、特にハードロック系のジャンルでは、決して無視することができないサウンドなのです。そんなわけで今回は、知っている人なら憧れの的、知らない人にはぜひ知ってほしい、ブラウンサウンドに注目していきましょう。
Van Halen – Panama (Official Music Video)
いつから「ブラウンサウンド」という言葉が使われだしたのかについては諸説ありますが、サウンド自体は6枚目のアルバム「1984(1984年)」で完成した、という考え方が有力なようです。ごく薄ーくフランジャーがかけっぱなし、というのが隠し味です。
カンタンに言い切ってしまうと「エディの音がブラウンサウンド」、すなわちエドワード・ヴァン・ヘイレン氏の代名詞と言える、「暖かさを感じさせる、伸びが良くキレのあるハイゲインのギターサウンド」こそがブラウンサウンドです。エディ氏は23歳でデビューした時、すでに超絶にウマく、自分でデコったお手製のギターをトレードマークにしていました。さらにアンプの使い方にもひと工夫しており、他のギタリストとはまったく違う新しいギターサウンドを作りだしていました。デビューアルバム「VAN HALEN(炎の導火線。1978年)」は、「ロックミュージックを永遠に変えた作品」とまで言われています。
サウンドメイキングについてエディ氏はさんざん質問攻めを受けるのですが、研究を重ねてようやく手に入れた秘伝を、やすやすと明かすエディ氏ではありませんでした。氏自身はブラウンサウンドについて、「暖かくて、ビッグで、威厳のあるサウンド」だと定義し、兄のアレックス氏が放つスネアの音がそれで、そんな感じの音を出したいのだと語ったことがあります。「電圧を上げてアンプを起動する」という話はそんなエディ氏渾身のブラックジョークで、この一言によって世界各地のマーシャルアンプから煙が出たそうです。
いろいろな工夫がある中で、アンプの使用法としては「バリアック(Variac)変圧器で電圧を90Vに減圧する(米国の電圧は120V)」ことで、エディ氏はハードな歪みを生みだしていました。現在では高級エフェクターやベースのプリアンプなどで、9Vの乾電池を二つ使って18Vに昇圧し、「歪みの起きない広いヘッドルーム」を確保するものがあります。逆に、電圧を下げればヘッドルームが縮小され、歪みが起きやすくなるわけです。なお、減圧して電球を灯すと、本来黄色みを帯びた光が茶色っぽくなります。一説ですが、「ブラウン」の呼び名はコレがヒントなのではないかと言われています。
Van Halen – Jamie’s Cryin’ (Official Music Video)
このモノトーンのストラトこそが、名高い「フランケンシュタイン」初号機です。これがあまりに鮮烈だったためか、80年代のエレキギターでは線を入れる意匠がやたら流行しました。
6枚目「1984(1984年)」で完成の域に達したと言われるブラウンサウンドですが、デビュー当時から現在に至るまで、エディ氏のギターサウンドは少しずつ変化を遂げています。使うギターも使うアンプも変化しています。しかし、茶色に焦げ茶も薄茶もあるように、少しずつ異なるサウンドの全てがブラウンサウンドです。
エディ氏のギターサウンドは太く、存在感があり、がっつり歪んでいます。それでいて低音域の圧迫感や刺さるような高音域は、キレイに整理されています。また、ザクザク感がありながらもカラッカラに乾いた感じではない、ジャリジャリに尖った感じでもない、芳醇なジューシーさを感じさせます。
こうした太くジューシーなサウンドは、まさにロックバンド「VAN HALEN」に見られる小編成のバンドアンサンブルにうってつけです。ギター1本でじゅうぶん音の壁を作ることができ、そしてリードプレイで伴奏がドラムとベースしかいない状況でも決して物足りなくない、こんな絶妙に太いサウンドは、同じような編成のバンドで弾くギタリストならば喉から手が出るほど欲しいものです。
Van Halen – She’s The Woman (Official Video)
この曲のようにバッキングをギター一本で行うならば、やはりここまでぶっといギターサウンドが欲しくなります。この音に対する「レッド」でも「ゴールド」でもない「ブラウン」という表現には、多くのリスナーが納得しました。
Van Halen – Tattoo (Official Video)
いっぽうこの曲では、バッキングにシンセが入ったりサイドギターが入ったりしており、ちょっとだけパート数が多くなっています。さきほどの動画と比べて、ギターのサウンドがわずかに引きしめられているのが分かりますか?パート数が多い場合、ギターの音はちょっと細くした方が全体的なバランスは良くなります。アンサンブルに対して良好な音の太さを見極める、ここにブラウンサウンドを効果的に使用するツボがあるようです。
エディ氏ご本人の使用機材としては、マーシャル「1959スーパーリード100」を使用していた1992年まで、ご自身のシグネイチャー・アンプ「5150」を使いだした1992年以降、この二つに分けられるでしょう。しかし、エディ氏は一貫して歪みをアンプで作り、エフェクトペダルの歪みは使用していません。
この時期のエディ氏は、アンプのツマミは音量からEQまでぜんぶ「10」で、バリアック変圧器で電圧を約90Vに抑えて歪みを作っていました。また、本来ならアンプヘッドからキャビネットへ連結するところ、スピーカーを物理的に振動させる強力な信号を、ダミーロードでエフェクターに適切な出力まで落とし、フェイザーやフランジャー、ディレイをつなげ、そこから改めてパワーアンプ、キャビネットとつなげていきました。現在では常識的な「エフェクトループ」ですが、非搭載のアンプに対して同様の効果を自ら作り上げていたわけです。また、セレッション社製とJBL社製という異なるメーカーのスピーカーを同時に使用していました。
2004年までピーヴィー(Peavey)、それ以降はEVHにて、エディ氏のシグネイチャーアンプ「5150」は作られています。ピーヴィーにて「5150 II」へ進化し、EVHに移行してから発表された第三弾「5150 III」が現行モデルです。これまでさまざまな工夫によってブラウンサウンドを出していたエディ氏でしたが、それがすべて5150アンプ一台でまかなえるようになりました。
エフェクトループを備えた多チャンネルの強力なアンプですが、「LOW」より下の音域をつかさどる「レゾナンス」のツマミを搭載しているのが大きな特徴です。
エディ氏はかねてより、薄めのピックを愛用しています。現在流通しているシグネイチャー・ピックの厚みは一般的な「Medium」より薄く、「Thin」よりはやや厚い0.6mmです。エッジが薄く鋭くなることから独特のアタックと倍音が生まれ、またピックスクラッチを盛大に鳴り響かせることができます。
そして薄いピックはそれ自体がしなりますから、弦に伝達させるエネルギーはある程度以上にはなりません。エディ氏ご愛用のハムバッカー・ピックアップがどちらかといえば低出力の設計であることも手伝い、アンプに送られる信号はそれほど強くない、そこをがっつり歪ませることでブラウンサウンドは完成する、というわけです。
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音楽に詳しい人にとって、ブラウンサウンドはエディ氏というギタリスト個人の印象がたいへん強い音です。しかしまぎれもなく「ロックミュージックを永遠に変えた音」であり、現代における最も模範的なディストーションサウンドです。こうした音にはリスナーに対する強力な説得力があります。そんなわけで、恐れ多くもブラウンサウンドを手に入れる努力をしてみましょう。
もちろんギタリストのサウンドはギタリストが出しますから、エディ氏のタッチ、エディ氏のピッキング、そしてエディ氏のツマミの回し加減があって、初めて正真正銘のブラウンサウンドが出来上がります。とはいえ近い音が出せる機材を確保していれば、あとは持ち主が頑張るだけです。
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