《極上のトーンを放つ男》Eric Johnson

[記事公開日]2020/3/16 [最終更新日]2023/10/8
[ライター]小林健悟 [編集者]神崎聡

エリック・ジョンソン氏は、美しい楽曲と音色、卓越した演奏技術で世界的に支持されているアーティストです。甘く伸びのあるリードトーンは「ヴァイオリン・トーン」と呼ばれ、米国情報誌では「地球上で最も尊敬されるギタリストの一人」と評されました。今回は、このエリック・ジョンソン氏に注目していきましょう。


Eric Johnson “Waterwheel” Official Music Video
アコギもエレキもピアノも歌もウマい。音だけで「このヒトだ」と分かる個性ある、かつ美しい音色。そしてかつては「王子」とまで云われた甘いマスク。一人の人間が、なぜここまで達することができたのか。

エリック・ジョンソン氏の略歴

エリック・ジョンソン氏は、1954年8月17日に米国テキサス州オースティンで生まれ、5歳からピアノを学び始め、10歳でギターに触れ、15歳でプロのバンドで演奏を始めます。20歳でスタジオミュージシャンとして稼働し、クリストファー・クロス氏、キャロル・キング女史らのレコーディングに参加します。

満を持して発表されたソロデビュー作「Tones(1986年)」はシングル「Zap」がグラミー賞にノミネート、次回作「Ah Via Musicom(1990年)」ではシングル「Cliffs Of Dover」がグラミー賞を獲得するなど、作品が高く評価されます。

https://youtu.be/FkOmA9Q4RIc
Christopher Cross-Minstrel Gigolo-lyric video
デビューアルバムでグラミー5冠を果たしたクリストファー・ロス氏、同名のアルバムを締めくくる楽曲。エリック・ジョンソン氏はギターソロで客演しています。アルバムのリリースに苦労した20代のジョンソン氏ですが、このようなセッションを通じて名声を獲得していきました。

エリック・ジョンソン氏のスタイル

ジョンソン氏のプレイについては、「やたら音が良い」ことを第一に語るべきでしょう。ジョンソン氏の象徴とも言うべき4台のアンプを要する巨大システムは、ガラスのように澄んだクリーン、ブルースど真ん中のドライブ、とろけそうな甘いリードトーンを放ちます。

これほどの機材を運搬するには、スタッフを雇える現在ならともかく、若い頃には相当な気合いが必要だったであろうと想像できます。しかし、これがあったからあの音になった、というわけではありません。音色ごとに別々のアンプを用意するほどの音への追求、そしてサウンドを判別する耳があったればこそなのです。

ジョンソン氏は、

  • 電池とACアダプターでエフェクターの音が違う
  • 電池のメーカーによってエフェクターの音が違う
  • アウトプットジャックの仕様で音が変わる

など、常人ならさっぱり分からないであろう、こうしたかすかな違いを聴き分けられるほど、恐ろしく耳が良いことでも知られます。愛用するピックの材料が変わってしまったことにも気づき、古いピックを削り直して使っていたほどです。クリーントーンで「ディレイ → コーラス」という現代の常識から外れた使い方をするのも、常識よりも自分の耳を信じていればこそだと考えられます。しかし、だからといってご本人は神経質な気難しい人ではなく、温厚で茶目っけもある人物だと伝えられています。

音楽的な特徴

ロック/フュージョンを軸に、さまざまなジャンルに及ぶジョンソン氏の演奏は、「テンションを多く含むコードボイシング」と、「流麗かつスピード感のあるリードプレイ」の二つに集約されます。コードは指の開きが要求される複雑な押さえ方が目立ち、また大きな移動が多く、コピーにはかなりの根性が必要です。ジャズにも造詣が深いと評されますが聴きやすい音づかいで、しかし小編成でも豊かに響くアレンジを得意とします。

ハイブリッド・ピッキング

エリック・ジョンソン氏の演奏で常に見られるのが、ピックと指を織り交ぜて演奏する「ハイブリッド・ピッキング(チキン・ピッキング)」です。近年こそモダンなギタープレイに必須のテクニックですが、もともとはカントリーやブルーグラスにおけるアコギやバンジョー由来の奏法です。ジョンソン氏はコードを弾くにもメロディを奏でるにも、中指だけでなく薬指も使用します。

ハープ奏法

「ハープ奏法」は人工ハーモニクスとフィンガーピッキングを交互に行う弾き方で、ジョンソン氏の得意技のひとつです。右手人差し指でハーモニクスポイントに触れ、ピックで弦をハジく。これが「人工ハーモニクス」です。続いて薬指で他の弦を弾く、これでハープ奏法の完成で、このまま弦移動していくとあたかもハープを奏でているかのような音になります。

指板上でのコードストローク

ジョンソン氏がコードをジャカジャカと鳴らし続けるのは稀で、ストロークするのはリフやフレーズのスパイス的に一発鳴らす時です。この時必ずと言って良いほど、15フレット近辺の指板上にピックを当てます。これはコードストロークの勢いを殺さずに、しかし単音弾きを潰さないところまで音量を抑えるためだと考えられます。


Eric Johnson – Cliffs Of Dover – Live
グラミー受賞のキラーチューン。背後にそびえるアンプの壁、冒頭からディレイのループ、得意技のハープ奏法(28秒)、フリーテンポのアドリブで楽曲に入ります。随所にハイブリッド・ピッキングが見られるほか、指板上でコードストローク(4分35秒)が見られるなど、ジョンソン氏らしさが凝縮されています。

エリック・ジョンソン氏の使用機材

使用ギター①
ERIC JOHNSON “VIRGINIA” STRATOCASTER

エリック・ジョンソン氏はストラトキャスターを中心に様々なギターを使用しています。ここではシグネイチャーモデルをチェックしていきましょう。
2020年、フェンダーは音楽史に寄与した名機を蘇らせる「ストーリーズ・コレクション」を立ち上げ、その第一弾としてジョンソン氏が愛用した54年製ストラトキャスター「ヴァージニア」を発表しました。

Fender USA版「Stories Collection Eric Johnson 1954 “Virginia”」

Stories Collection Eric Johnson 1954 Virginia

2020年限定で生産される「ヴァージニア」は、余程の木材マニアしか知らなかったであろう「サッサフラス」をボディに使用した、1954年式ストラトキャスターです。ご本人が採用したカスタマイズがほぼ再現されており、やや平たい指板、ミディアムジャンボフレットのメイプルネック、54年式よりやや出力の高い50年代後半式のピックアップ(フロント/センター)、ディマジオ社製HS-2(リア)を備えます。HS-2は、内部で2段に積まれているシングルコイルの上側のみ通電させ、ふたつのトーンはフロントとリアに設定されています。1弦サドルのみ、グラフテック社製のブロックサドルに変更されていますが、弦との接点にグラファイトが仕込まれており、カドの取れた丸い音を作ります。

ジョンソン氏はフェンダーから新しい「ヴァージニア」を受け取った時、スムースな音の伸び、やや粒の粗いヴァイオリンのような雰囲気から、「まさにこの音だ」と感じたそうです。

Fender Customshop版Eric Johnson “Virginia” STRAT

Fender Customshop Eric Johnson Virginia

50本限定で生産されるフェンダー・カスタムショップ版は、サッサフラスボディにAAAAフレイムメイプルのネックを挿した、アップグレード版です。フロント/センターに手巻きシングルコイル、リアにディマジオHS-2を備え、アウトプットジャックのワッシャーまで、しっかり再現されています。指板とフレットのエッジが丁寧に丸く処理されるほか、大事に保存された経年変化を再現したエイジド処理が施されます。ジョンソン氏はやや太めのゲージ(10-50)を使用していますが、上記フェンダーUSA版と共に、出荷時にはオーソドックスな10-46のゲージでセットアップされます。

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54年製ストラトキャスター「ヴァージニア」とは?

「ヴァージニア」は、グラミーを受賞した「Cliffs Of Dover」などで若かりしジョンソン氏のキャリアを支えた1954年製ストラトキャスターです。1954年と言えばストラトキャスターが発表された年であり、エリック・ジョンソン氏が生まれた年でもあります。

入手経路

20代前半のある日、アンプ修理のために立ち寄った楽器屋の片隅に、修理待ちのストラトを見つけます。これが気に入ってしまったジョンソン氏は、持ち主に電話をかけます。持ち主は「祖父から譲り受けたものなので手放したくはないが、ギブソンのギターとだったら交換する」と言うので、さっそくギブソンのギター(SGだという説あり)を調達し、食料品店の駐車場で待ち合わせ、見事交換を果たしました。

名前の由来

ある日ピックガードを外すと、内側に何枚かマスキングテープが貼ってありました。このギターは人の手に渡るたびに愛称が付けられ、その歴史が残っていたようでした。そこでジョンソン氏は、最も新しい名前「ヴァージニア」を採用しました。

数々のカスタマイズ

ジョンソン氏は、ヴァージニアにさまざまな改造を施しています。古いフェンダー特有の丸い指板と細いフレットは、リペアマンの提案を受けて指板は平たくリシェイプ、フレットはやや大きめのものに打ち替えられました。ストリングガイドは丸型からカモメ型へ変更、わずかにチューニングの安定度が上がったようです。また、1弦の音が硬いと感じたことから、1弦サドルのみ70年代式のブロックサドルに変更しています。弦との接点に硬質な樹脂が埋められており、2弦のようなマイルドさが得られました。

センターピックアップのトーンはリアへ変更、リアのトーンを若干絞って全体のバランスを取りました。ボリュームポットは標準の250kオームから500kオームに変更しています。抵抗値が高いと、高音域が豊かに響きます。

「ジャックの固定にワッシャーを介する」のは、リペアマンがコレをやってからの音が妙に気に入って以来、他のギターにも施しているというカスタマイズです。ご本人も何故だか理解できなのですが、音は必ずジャックを通るわけだし、必ず何かがあると考えているそうです。

決定的な違いは何か?

ある時、調整に失敗してどうしても元の音に戻せなくなってしまいました。仕方なく手放し、他の54年製を調達したものの、あの音ではない。一体どういうことなのだとリペアマンに訊くと、そこで初めてヴァージニアのボディ材がサッサフラスだったことを知ります。サッサフラスはアメリカ東部に産するクスノキ科の広葉樹で、家具や船舶に使用されます。フェンダーでは53年と54年に、ごく少数ながら使用されていました。

使用ギター②
Eric Johnson Signature Stratocaster Maple / Rosewood / Thinline

Eric Johnson Signature Stratocaster Eric Johnson Signature Stratocaster Maple(Black)
Eric Johnson Signature Stratocaster Rosewood(Tropical Turquoise)
Eric Johnson Signature Stratocaster Thinline(Vintage White)

レギュラー生産されているシグネイチャーモデルは、クラシックな本体にジョンソン氏のこだわりを反映させたアップグレードが施されています。メイプル指板、ローズ指板、シンラインの3機種はいずれもアルダー製ボディに柾目メイプルネックを挿し、「EJ」が刻まれたカスタムプレートでジョイントされます。本体は1957年式を踏まえており、ネックはソフトVシェイプ、ボディはこの年式特有の深いコンター加工が施され、ネック/ボディともにニトロセルロースラッカー塗装が施されます。

Eric Johnson Signature Stratocaster Thinline

12インチRのなだらかな指板にミディアムジャンボフレットを備えるご本人仕様は、動きの多い運指に有利です。ペグポストの高さを段階的に変えていく「スタガード・ペグ」は、ストリングガイドが不要になりチューニングの安定度が高まる設計です。

ピックアップはジョンソン氏監修によるカスタムワウンドが3基、ピックガードに皿穴を空けてマウントされます。

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Eric Johnson Signature Stratocaster® Thinline | Artist Signature Series | Fender
「一番好きな楽器はストラトだが、セミホロウのギターを弾くのはいつでも楽しい。シンラインのストラトは、ギターで好きなことの二つが合わさった感じ。ソリッドボディのようにパンチや中域が出て、でも呼吸をする時にエネルギーが流れ出すような余裕がある」とご本人は評しています。

Amp & Effects

エリック・ジョンソン氏はアンプを何台も並べた巨大システムを使用することでも知られています。クリーン、ドライブ、リードの3音色それぞれにアンプとエフェクターを用意し、ラインセレクターで切り替えていました。電池駆動のエフェクターの電源は全て電池で、しかも銘柄も決まっています。

Clean

クリーンのサウンドは、エレクトロ・ハーモニクス社製「メモリーマン(アナログディレイ)」→BOSS「DD-2(デジタルディレイ)」→TCエレクトロニック社製「ステレオコーラス+」→2台のフェンダーアンプ、という組み合わせで、ループ機能を利用することもあります。

Drive

バッキング用のドライブサウンドは、アイバニーズ社製「チューブスクリーマー」→ジムダンロップ社製「ファズフェイス」→MXR社製デジタルディレイ→マーシャルアンプ、という組み合わせです。ファズフェイスにはシグネイチャーモデルもリリースされました。

Lead

時にバイオリンのようだと表現されるリード用のサウンドは、ワウペダル→マエストロ社製「エコープレックス(テープエコー/プリアンプ)」→BKバトラー社製チューブドライバー→マーシャルアンプという組み合わせです。エコープレックスはプリアンプが優秀で、「つなぐだけで音が太くなる」と評され、ジョンソン氏もプリアンプとして使っているようです。リード用のマーシャルは、トレブルをかなり絞っています。


Eric Johnson “Up Tight (Everything’s Alright)”
3音色の使い分けが比較的分かりやすいライブ動画。3音色それぞれにディレイを追加したりピックアップを変更したりでさまざまなバリエーションが得られています。

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