アイバニーズのホロウボディ・ギターについて

[記事公開日]2019/3/12 [最終更新日]2021/6/28
[ライター]小林健悟 [編集者]神崎聡

アイバニーズのホロウボディ AS73FM Green Valley Gradation

アイバニーズは「RG」や「AZ」、「S」など現代的なソリッドギターだけでなく、ホロウボディの分野でも老舗です。個性を発揮しにくいこの分野で、アイバニーズは、コピーではなくオリジナルモデルで存在感を発揮しています。今回は、アイバニーズのホロウボディに注目していきましょう。

ソリッドギター/フルアコ/セミアコの違いについて


George Benson “On broadway” (live officiel) | Archive INA
スーパーギタリスト、ジョージ・ベンソン氏は抜群の歌唱力を持つヴォーカリストでもあり、「歌で自分のギターと高速ユニゾンする」という必殺技を持っています。多くのジャンルにまたがった幅広い活動のほか、年と共に容貌が変わっていく様子から「故マイケル・ジャクソン氏と勝負できる整形回数」ともささやかれています。

アイバニーズ・ホロウボディモデルの特徴

アイバニーズのホロウボディは

  • ヘッドデザインを統一しているほか、
  • ボディラインやFホールの形状などでオリジナリティを演出し、
  • 全モデルがセットネックで、
  • 弦長は628mm(24.7″)に統一、
  • 基本的にスリムで指を運びやすいネック形状

になっています。いろいろな特徴に注目してみましょう。

伝統のハムバッカー「Super’58」

「ARTSTAR」、「Artcore Expressionist」に搭載される「Super’58」は、いわゆるPAF系といわれる「ギブソンのイイ時代」を意識したピックアップです。クリアな音抜けと十分なパワーを両立させており、オーバードライブさせても気持ち良く響きます。なお「Artcore」シリーズには、太い低域と上質なサウンドを両立させている「Classic Elite」が搭載されます。

守備範囲の広い「トライ・サウンド・システム」

Ibanez AS200のコントロールAS200の操作系統

「ASF180」と「AS200」には「トライ・サウンド・システム(Tri-Sound System)」が備わっています。これはスイッチの操作でフロントピックアップから

  • シリーズ:通常のハムバッカー
  • タップ:シングルコイルの片方だけ活かす(コイルタップ)
  • パラレル:二つのシングルコイルを並列につなぐ

という3つの音色が得られます。これは現代でも便利な機能ですが、ASシリーズの前身モデル「2630(1978年式。77年式はタップのみ)」から連綿と受け継がれている、伝統的なシステムでもあります。

こだわりのパーツ類

「ART-1」ブリッジ Artcore Expressionist「AM93QM」に搭載される ART-1 ブリッジ

パーツ類にはゴトー(GOTOH)社製が多く使用されます。やはりゴトー製品には他では得難い安心感がありますが、アイバニーズも負けてはいません。Artcore およびArtcore Expressionistでは、

  • ART-1:一般的なTOMブリッジよりオクターブ調整の可変幅を広く取った、大きめかつ頑丈なブリッジ
  • Quik Change III:斜めに切ったスリットを利用して、弦を素早く交換することができるテールピース

と、ブリッジ関連で二つのオリジナルパーツが採用されます。また全モデルに共通して、「シュアグリップIII・コントロールノブ」が採用されます。ゴムパーツによる滑り止め効果で、狙ったところへ的確にノブを回すことができます。

狙いを定めたグレード展開

グレードは国産最上位機種「ARTSTAR(30万円近辺)」、海外製標準機「Artcore(10万円未満)」に、Artcoreをアップグレードさせた「Artcore Expressionist(10万円近辺)」の3段階です。20万円近辺の価格帯が抜けていますが、

  • グレードの高いものが欲しい人 → ARTSTAR
  • ハコモノに気軽さが欲しい人 → Artcore Expressionist、Artcore

というように、ギターを届けたい相手をしっかり狙っているわけです。

ARTSTARシリーズ

最上位機種「アートスター」は、アーティストと積み上げたたノウハウをおしみなく傾注した、本格派プレイヤーのためのギターです。「アイバニーズ日本製上位機種」を意味する「Prestige」ロゴがロッドカバーに記され、モデルによっては想定されるジャンルに合わせ、太いゲージの弦でセットアップされます。

全モデル共通して指板はエボニーで、くっきりとした音の立ち上がりと見た目の高級感を併せ持っています。このほか上質な木材を使った丁寧な木工、ボーンナット、ゴトー製金属部品、Super’58ハムバッカーピックアップ、フレット両端の球面加工を特徴としながら、価格はキュっと圧縮しています。

Artcore Expressionistシリーズ

「アートコア(後述)」をワンランク上にアップグレードたのが、「アートコア・エクスプレッショニスト」です。ナトー+メイプル+ナトーの3層構造ネックが共通仕様で、サウンドの豊かさと力強さのバランスを狙っています。意外性のある木材構成やカラーリングによる「ちょっと攻めてる面白み」が最大の持ち味ですが、エボニー指板、Supae’58ピックアップ採用、ゴールドパーツ採用といった要所はしっかり押さえており、低価格でも上位機種に引けを取らない製品群を構成しています。

Artcoreシリーズ

「アートコア」シリーズは、価格的なハードル感が否めないホロウボディを、もっと身近に感じるためのシリーズで、木材構成やパーツ選択などの工夫で驚異的なコストパフォーマンスを達成しています。それでいて抜群の演奏性とサウンドがあり、これからギターを始める人ばかりでなく、中上級者のサブギターとしても有力です。また自社製のブリッジ/テールピースや個性的なカラーリングなど、アイバニーズの「攻め」の姿勢は健在です。

アイバニーズ・ホロウボディのラインナップ

スタンダードなセミアコ「AS」「ASF」

AS200 / ASF180(ARTSTAR)

Ibanez AS200 / ASF180

ARTSTARのセミアコには、40年の歴史を誇る名機「AS200」、同じスタイルでセンターブロックを持たない「ASF180」があります。両機ともアフリカンマホガニー製ネック、エボニー(ASFはマカッサルエボニー)製指板、全面メイプル(ASはフレイムメイプル)製ボディ、Super’58ハムバッカーピックアップ、ゴトー製ペグ&ブリッジといった仕様で、「センターブロックの有無」以外、かなり近いギターだと言えるでしょう。この違いにより、AS200は模範的なセミアコのサウンドを持ち、ASF180はもう一歩ふくよかなサウンドを持ちます。またフロントピックアップに「トライ・サウンド・システム」が組み込まれ、サウンドバリエーションがかなり増強されています。

AS200を…
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AS93FM / AS93ZW / AS83(Artcore Expressionist)

Ibanez AS93FM / AS93ZW / AS83

Artcore Expressionist版ASは3タイプのボディでサウンドのキャラクターが作られています。AS93FMは最高位機種「AS200」を意識したフレイムメイプルで、AS93ZWは有機的なタテシマが美しいゼブラウッドを、青いメタリック塗装のAS83は、軽量でクセのないリンデン材でボディを構築しています。

AS93を…
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AS73/ AS73FM (Artcore)

Ibanez AS73 上:AS73 Olive Metallic
下:AS73FM Azure Blue Gradation

「73」は圧倒的な価格圧縮に成功したスタンダードモデルです。他のブランドと比べても図抜けた低価格を実現していますが、アートコア専用ピックアップ「Classic Elite」搭載、ブリッジとテールピースはアイバニーズオリジナル、AS73FMはフレイムトップにグラデーションカラー、AS73は定番のチェリーに加えメタリックなカラーリングのバリエーションがあり、決して低価格なだけではない、性能の良さと顔つきの良さを持っています。

AS73を…
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Ibanez 2019 Artcore AS73 Semi-Hollow Electric Guitar
近年ではメタルでもセミアコが使われることがあります。オッサンくさくない、新しさを感じさせるカラーリングは、これからのセミアコに重要な要素になっていくことでしょう。

小ぶりのセミアコ「AM」

「AM」は、ボディサイズを縮小することで抱えやすくしたまま、セミアコのサウンドや感触を味わえるようにしたモデルです。二つのグレードからリリースされていますが、ルックスの近さとは裏腹の、まったく異なるアプローチのギターになっています。

AM200(ARTSTAR)

Ibanez AM200

国産上位モデルの「AM200」は、ネック/ボディ共にアフリカンマホガニーで組み上げ、「0.13~」の太いゲージでセットアップした、コンパクトなセミアコです。マホガニーのホットな響きと太いゲージとのマッチングによって、体格からの予想を裏切る本格的なジャズトーンが得られます。

AM200を…
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AM93ME / AM93QM(Artcore Expressionist)

Ibanez AM93ME / AM93QM

いっぽうこちらのグレードでは、マカッサルエボニーでボディで全面を構成した「AM93ME」、同じく全面をキルテッドメイプルで構成した「AM93QM」がリリースされています。エボニーでボディを作ってしまうというありそうでなかった発想は、さすがアイバニーズだと言うべきでしょう。AM93QMは、上位機種AM200に近い仕様ではありますが、一般的な「0.10~」のゲージでセットアップされており、ジャズ/フュージョンからロック/ポップスまでを想定しています。

AS93を…
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Ibanez 2019 Artcore AM93 Expressionist Macassar Ebony Semi Hollow Guitar
さすがに硬質な縞黒檀(マカッサルエボニー)だけあり、ハコモノのふくよかさを持ちながらも芯のあるクッキリしたサウンドです。

大型のフルアコ「AF」

「AF」はボディにたっぷりの容積を持たせ、ジャズ、カントリー、ブルースなどを想定した、大型のフルアコです。見た目に鮮やかなセミアコのラインナップと違い、こちらは落ち着いた雰囲気のものが中心です。

AF200(ARTSTAR)

Ibanez AF200

フルアコの最高グレード「AF200」は、トップにスプルース、サイド&バックにフレイムメイプルを使用する定番仕様でありながら、ネックはマホガニー+メイプル+マホガニーの3層構造になっているところがポイントです。敢えてのエボニー製ブリッジ採用で、より柔らかなサウンドが手に入ります。また、定番フルアコの設計に準拠し、低音側にセレクタースイッチがついています。

AF200を…
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AF95FM(Artcore Expressionist)/ AF75 / AF75FM(Artcore)

Ibanez AF95FM / AF75 / AF75FM

こちらのフルアコは硬質なメイプルトップがにより、比較的ハウリングに強くなっています。「0.10~」のゲージでセットアップされているためソリッドギターに慣れた人にも受け入れやすく、ほかのホロウボディ同様にAR-1ブリッジを使用することで、シビアなオクターブチューニングにも対応しています。機能性重視のテールピースが多数派のなかで、「75」ではデザイン性の高いテールピースが採用されています。なおこちらのモデルでは、セレクタースイッチがコントロールポット付近に移設されています。

AF75/AF95を…
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ちいさめサイズのフルアコ「AG」

ひとまわり小さめ、ジョージ・ベンソン氏の「GB10」に通じるボディを持つ「AG」は、抱えやすい演奏性とそのサイズ感だからこそのサウンドがポイントです。

AG95QA(Artcore Expressionist) / AG75G / AG75(Artcore)

Ibanez AG95QA / AG75G / AG75

上位モデルの「AG95QA」はキルテッドアッシュをボディに使用し、独特の雰囲気を帯びています。アートコアの2本はリンデン製ボディです。全体的に落ち着いた色調の多いアイバニーズのフルアコラインナップにおいて、赤いグラデーションを採用した「AG75」が個性を主張しています。

AG95/AG75を…
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変わり種のフルアコ「AKJ」「AFS」

AKJV95(Artcore Expressionist)

Ibanez AKJV95

「AKJ95」は、アイバニーズのホロウボディで唯一、先端の尖った「フローレンス・カッタウェイ(先が丸いのはベネチアン・カッタウェイ)」モデルです。塗装面や金属パーツをややくすませたエイジド加工が施され、新品の状態から歴戦の風格を漂わせます。またトップにスプルースがセレクトされ、本格的な鳴りが得られます。

AFS75T(Artcore)

Ibanez AFS75T

「AFS」はAFのボディにビグスビータイプのテールピースを取り付け、アーミングを可能にしたモデルです。このパーツを他社に頼らないのはさすがアイバニーズと言うほかはない感じですが、ブリッジもアーミングに対応しており、ローラーサドルとなっています。

アーティストモデル

アイバニーズの製品開発は、世界で活躍するトップクラスのアーティストとのコラボレーションを重ねていることに最大の強みがあります。これらアーティストモデルの開発で積み上げたノウハウが、レギュラーモデルの設計に寄与するわけです。

EKM100 (Eric Krasno) / JSM100 (John Scofield)

Ibanez EKM100 / JSM100

エリック・クラズノ、ジョン・スコフィールド両氏のシグネイチャーモデルは、全面アニグレ(シルバーハート、サテンシカモアとも)のボディおよびジャンボフレットの採用を共通の特徴とし、

  • EKM100:通常より3mmほど厚いアフリカンマホガニーネック、ディマジオ製「PAF」ピックアップ
  • JSM100:コンパウンド・ラジアス指板、牛骨とブラスを貼り合わせた「ハーフ&ハーフ・ナット」、「13~」のゲージに合わせたセットアップ

といったこだわりのポイントに個性が発揮されています。

JSM100を…
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John Scofield and Eric Krasno Talk Ibanez Guitars, Miles Davis, and More…
楽しそうにギター談議を展開する二人。と言いつつもクラズノ氏は伝説的なギタリストを前に、すっごくキンチョーしているようにも見えます。

LGB300 / GB10 (George Benson)

Ibanez LGB300 / GB10

永らくアイバニーズとのコラボレーションを続けている名手、ジョージ・ベンソン氏のシグネイチャーモデルは、

  • LGB300:大型のフルアコ。ブリッジ、テールピース共に木製。
  • GB10:小ぶりなフルアコ。二基のミニハムバッカーが二つともボディに接しないマウント方法(フローティング)

という、異なった個性を放つ二本です。両機とも伝統的なフルアコを踏まえたメイプル製ネック、スプルーストップ、メイプルサイド&バックを採用しているほか、「22フレット」仕様となっています。

LGB300を…
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Ibanez GB10 George Benson Hollowbody Electric Guitar
フローティングピックアップは、ボディの振動を阻害しにくいという大きな利点があります。 普通ならフロントに一個だけなんですが、GB10ではリアにも設置しています。

PM200 (Pat Metheny)

Ibanez PM200

「自分が寝るときに聞く音楽が無かったから」という理由でアルバムを作ったこともある、という並々ならぬ個性的な活動を続けているパット・メセニー氏のシグネイチャーモデルは、初めに愛用していたギブソンES-175の仕様に準拠したマホガニーネック、全面メイプルボディで、フロントのみの1ハムバッカー仕様で、フレット数を22に拡大し、プレイの可能性を伸ばしています。

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