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「オームスビー・ギターズ(以下、オームスビー)」は、オーストラリアの家具職人、ペリー・オームスビー氏により設立されたギターブランドです。製品はヴィヴィッドなカラーリングや独特なシルエットが特徴で、全モデルにマルチスケール(ファンフレット)が採用、また6弦/7弦/8弦のバリエーションがあり、レギュラーモデル「GTRシリーズ」の価格が低めに設定されていることもあって、ヘヴィ志向あるいはテクニカル路線のギタリストの有力な選択肢になっています。今回は、このオームスビーに注目していきましょう。
Blade Of Horus – Slain By The Blade Of Horus Music Video
2016年にデビューしているオーストラリアのブルータル・テクニカル・デスメタルバンド「ブレイド・オブ・ホルス」。デスメタルバンドのロゴは基本「読めない」のが普通です。動画はおろかアーティスト写真にもベーシストが一切写っていませんが、デビュー当時からちゃーんと在籍しています。オームスビーのHYPEとLTDのホライゾンによるツインギターは一糸の乱れもありませんが、ここまで揃えるのにどれだけ練習したというのでしょうか。
ブランド立ち上げ前のペリー・オームスビー氏は、家具職人としてすでに一定の成功を収めていました。地元では「その分野の歴史に記録される」ほどであったと自分で言うくらいですからなかなかです。しかし、ビジネスでの成功よりも「作品を作りたい」という思いを強くしていたペリー氏は家具製造から足を洗い、2003年、ギター製造に転身することを決意します。
木材の選定、強度計算、貼り合わせ、セルバインディング巻き、インレイ敷設など、家具職人として仕事をしてきた経験はギター製造に存分に生かされ、しっかりと個性を打ち出した独自の設計も功を奏して、創業1年半の時点で世界中から注文が殺到したと言います(日本でもK・ヤイリの小池健司氏、ヘッドウェイの百瀬恭夫氏ら、家具職人から転身したギター職人は多くいますね)。「マルチスケール」の特許期間が終了した2009年からは積極的にマルチスケールを採り入れており、ラインナップほぼ全てのフレットが傾いています。
現在オームスビーは数名のスタッフで運営されていますが、たとえばペリー・オームスビー氏なら、公式サイトでは出身地や役職などのほかに、
といった使用機材と好きなジャンルまで紹介しており、「オームスビーの男性スタッフは、全員メタル大好き」ということが分かります。まだ若い企業だからなのか、スタッフの地元が全員パース(西オーストラリア州の州都)なのも面白いところです。
Djent 2018
この一本のためにピックアップもちゃんと開発したのだという18弦ギター「Djent2018」。著名ユーチューバーJared Dines氏のために仕上げたもので、ペリー氏が仕上げた「作品」の中でもひときわ異彩を放っています。ここまで弦が多いとチューニングはどうするのか、と不思議に思いますが、順番に低くなるだけでなく途中で上下する特殊なチューニングになっています。
TX GTR7 CAR PGMS AZ
オームスビーのギターはそのほとんどが、特に日本で流通しているモデルは全てが、「マルチスケール(ファンフレット)」を採用しています。近年ギターメーカー各社がマルチスケールを導入し始めていますが、オームスビーではこれをブランドの基軸に据え、弦の本数ごとに
という傾き加減に設定しています。各弦の伸び率がだいたい1.5%というのは、他社製品をはるかにしのぐ高い値です。マルチスケール市場に参入している並みいるギターメーカーの中で、オームスビー製品のフレットはずば抜けて傾いています。また、「ストレートフレット」が共通して9フレットに統一されているのもポイントで、ここに決めるまでにオームスビーではさまざまなプレイヤーの演奏スタイルを独自調査しています。
マルチスケールのフレットは弦と斜めに接しますが、どこかに必ず「弦と直行するフレット」が存在します。これをオームスビーでは「ストレートフレット」と呼んでおり、当サイトでは同じ意味で「ニュートラル・ポイント」という用語を使用しています。マルチスケールについては各社が各様の用語を使用しているのが現状ですが、ここではオームスビー社の呼び方に合わせています。
《特集》ファンフレットのギターって、どんな感じ?
フレットの素材をステンレスに統一しているのも特徴的です。ステンレスフレットはサウンドがブライトで、弦との摩擦が少ないという演奏性のメリットが大きいのですが、究めてさびにくく、また摩耗しにくいという高い耐久性も大きなメリットです。「今あるフレットが長期的にしっかり使用できる」という安心感を得ることができます。
オームスビーでは、「パーツ類は後からでも交換できるけれど、木部だけは変更できない」という考えから、「トーンウッド(音を作る木材)」というコンセプトでさまざまな木材を柔軟に組み合わせてギターを作っています。「このモデルのボディ/ネックはコレとコレ」のような決め方はしておらず、特にカスタムショップでは、ネック材に
ボディ材に
というように、やや聞き慣れない名前の木材も積極的に導入しています。
材料に対する柔軟な姿勢はもはや木材という範囲すら飛び出し、カーボンファイバーや金属までトップ材に使用するほどで、賛美の意味を込めて「節操がない」と言われます。
HYPE GTR7 MSMP TX
カラーリングについてはなかなか個性的で、特に塗りつぶしカラーにおいては周囲に溶け込むことはほぼ無い、目に飛び込んでくるような鮮やかなカラーリングが多く採用されます。見る角度によって2色が切り替わる「カメレオン・カラー」もラインナップされています。
金属の腐食を利用した「カッパー(銅)・トップ」のインパクトは甚大で、銘木の杢のように同じものは二つとしてない、個性的な顔つきをギターに与えます。
Ormsby Guitars HypeMachine 2014 Copper Top Multiscale featuring Psycroptic – Cold
チェンバー加工を施したスワンプアッシュ製ボディに、何と腐食させた銅板をトップ材に採用した、ぶっとんだ一本。ペールムーン・エボニーと呼ばれる模様の大胆な木材を採用した指板、タスマニア産ブラックウッドとエボニーを使用したネックも相まって、伝統的な木材構成にこだわりすぎない、オリジナリティあふれるギターとなっています。
オームスビーはサウンドの心臓部であるピックアップに対しても、豊富な選択肢を用意しています。
というように材料だけでも多岐にわたりますが、その組み合わせでさまざまなモデルのピックアップを開発、しかもピックアップ1モデルに対して2つ以上、マグネットの選択肢があります。ハムバッカーは全て「4芯」構造になっており、アイディア次第でさまざまな配線が可能です。オームスビーのハムバッカー搭載モデルは全て、トーンポットに仕込まれたスイッチでコイルタップができます。
ピックアップの磁石の種類、交換方法について
「awg」について
AWG=「アメリカンワイヤーゲージ(American Wire Gauge)」
導体の太さを表す番手。番手が大きくなるにつれ、線は細くなる。
サウンドイメージ | 使用マグネット | |
Old School(H) | ジャズやブルースに最適な低出力 | アルニコII、アルニコV |
De La Creme(H) | 甘いリード、整ったコードの響き | アルニコII、アルニコV |
PVH(H) | ペリーのビンテージハムバッカー。カリカリであり甘さもある。 | アルニコII、アルニコV |
NUNCHUCKER HUMBUCKER(H) | ブルース、ロック、パンク、メタル用に設計された中程度の出力 | アルニコII、V、IIIV、セラミック |
HYBRID(H) | ブルースおよびロック用に設計された中出力。異なる磁石を使用し、コイルタップに強い。 | アルニコII、V、セラミック |
HOT ROCK(H) | ブルース、ロック、パンク、メタル用に設計された中〜高い出力 | アルニコV、IIIV、セラミック |
MASTER BLASTER(H) | ロック、パンク、メタル用の高出力 | アルニコIIIV、セラミック |
KATANA(H) | Old Schoolの3倍近い超高出力。クリーンは出ない。 | アルニコIIIV、セラミック |
Old School(S) | クリーントーンに最適な低出力シングルコイル。 | アルニコII、V |
ld School+(S) | Old School(S)からちょとパワー増強 | アルニコII、V |
Old School(P90) | クリーンジャズやブルーススタイルに最適な低出力P90。 | アルニコII、V |
Old School+(P90) | ブルースやロックに最適な、中出力のP90。 | アルニコII、V |
表:オームスビーのピックアップ一覧
ハムバッカー、シングルコイル、P-90タイプそれぞれ、下へ移っていくごとに出力が上がっていきます。GTRシリーズに採用例の多い「NUNCHUCKER」の名は「ヌンチャク(Nunchuck)」と「ハムバッカー」を合わせた造語です。最高出力モデルに「KATANA」と名付けるところといい、クールなものに東洋系の名前を付けるのは、いかにも欧米人の感性ですね。
オームスビー本国の公式サイト(英語)では、「オンライン・ギターデザイナー」というアプリでGTRシリーズのカスタマイズを体験できます。完成したギターは3次元的にいろいろな角度から眺めることができるのでなかなか楽しいのですが、これは他のメーカーサイトで見られるような、オーダーメイドを受け付けるためのものではありません。これは純粋にギターのデザインを楽しむためのもので、これでこしらえたデザインを競うコンペティションが毎月開催されています。
オンライン・ギターデザイナーを試しているところ。挙動は少々重いですが、特に木材とカラーリングでいろいろなデザインを模索することができ、またあらゆる角度から出来栄えをチェックできます。
また、SNSを利用して人を集め、参加者にGTRシリーズの製品企画を依頼しています。好きな人がアイディアを出し合って採用された企画が製品化される、という夢のような体制ができているわけです。これまで他のメーカーがなかなか行なわなかったであろうこうした斬新な取り組みによって、オームスビーのファンは世界中に生まれ、また開発費が節約でています。
オームスビーのギターは、
という二つのグレードでラインナップを展開しています。全モデルで6弦から8弦までのバリエーションがあるオームスビーですが、日本で流通しているのは6弦と7弦がメインとなり、8弦モデルは限定的です。ここでは、モデルごとに特徴を見ていきましょう。
オームスビーのギターはおおむねHM/HR(ヘヴィメタル/ハードロック)に方向付けされており、カスタムショップ/GTRシリーズあわせた全モデルで共通して採用されている仕様が多数確認できます。
こうした仕様は、オームスビー全モデルに採用されています。金属パーツはヒップショット社製ですが、オームスビーのカスタマイズを受けた専用のパーツとなっています。
では、モデルごとの特徴を見ていきましょう。
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